スマホ決済や調理サービス、惣菜ロッカーなど中国の最先端スーパーがすごい




食品産地と売り場の落差



「流通」や「冷凍倉庫」にも事業を拡大


冷蔵倉庫やスケート場など、コールドチェーンに収まらない新たな事業も好調


QRコードで決済可能、充実した宅配サービスや調理サービスなど、中国食流通の最先端
中国・北京のビジネス街の地下にある巨大なスーパーには店員の姿がほとんどない。広い店内には、新鮮なフルーツや野菜、焼きたてのパンやケーキ、さらには生きた魚が泳ぐ生け簀まで用意されている。
21時近くと時間が遅いこともあって、人影もまばらなこの店は、中国国内のネット通販最大手、アリババが経営する新形態のスーパー「フーマー」だ。都市部を中心に国内33店舗を展開するこの店は様々な新しい仕組みを取り入れている。
フーマーでの支払いは、アリババが展開する電子マネー「アリペイ」が基本。食材を選んだら、セルフレジで決済する。
オープン当初、現金での決済を不可としていたが行政指導が入り、現在は各店舗1箇所は現金決済が可能なレジが導入されるようになったという。
最大の特徴が調理サービスだ。客はアプリで好みの食材と、調理法を指定。ピックアップする時間を選択する。
各店舗には、オーダーした料理を入れるための専用ロッカーがあり、客は熱々の料理を自宅に持ち帰ることができる。
上海や北京などの都市部では、電子マネー決済が主流で、紙幣での支払いはお断りというところも少なくない。スマホがなければスーパーでの買い物もままならないくらい、この国のIoT化は進んでいる。
しかし、一方で食品ロスは先進国の約5倍、毎日多くの食品が廃棄されているというのもまた事実だ。産地から倉庫、倉庫から小売店への輸送で使われるはずの冷凍倉庫や冷凍トラックがこの国ではまだ整備されていない。
作る技術はもちろんあるが、普通のトラックより高いお金を出して、冷凍トラックでものを運ぼうという発想がないという。
中国でコールドチェーン事業が好調なパナソニックに話を聞いた。
「一言でいえば(食流通の)市場が成熟していないということ」(コールドチェーン事業部長を兼務するパナソニック中国・北東アジア社 副社長の横尾氏)
「我々が納入した冷凍機を搭載したトラックをトラッキングしていたところ、途中でどんどん温度が上がってきた。冷凍機をつけているとガソリンを食うからと、運転手がスイッチを切ってしまったのが原因。食品輸送にお金をかけようという発想自体が欠如している」(横尾氏)
コールドチェーンとは食品流通業の顧客に向けた機器、施工、サービスの提供を総称したもので、日本ではコンビニやスーパーなどに納入するショーケースや冷蔵庫を納入する事業を指す。しかし、中国では独自の戦略を進める。
フーマーの惣菜ロッカーも中国のニーズに合わせてパナソニックが開発したものだ。
食に関する事業を進める中で、問題点も明らかになってきた。
「日本では農協などが野菜を一括管理しており、収穫後の野菜はすぐに冷蔵倉庫で保管されるが、中国にはそのような仕組みがない。収穫した野菜を常温でおいておくので、すぐにダメになってしまう。」(パナソニック 中国冷凍物流事業部 和田安弘氏)
パナソニックは従来、小売りや加工など食流通の「下流」で活用される製品のみを扱ってきたが、中国国内の現状を受け、流通や冷凍倉庫への事業拡大を決めた。
コンテナを活用した冷蔵倉庫や蓄冷剤を入れたコンテナなど、様々な提案を行っている。
同社の高い技術力を活かして、従来のコールドチェーンの枠に収まらない新しい事業もスタートしている。中国国営企業の大型冷凍倉庫の工事元請けや、北京オリンピックのカーリング会場の冷凍機の受注も決まった。
中国・大連には冷凍機製造の工場もあり、大型の受注案件への体制も整っている。
パナソニックでは2030年に1000億円の販売目標を掲げる。
「産地から食卓まで。最終的に食流通のプロセスを一気通貫で提案できるような状態を目指す」(横尾氏)