「一刻一秒を争う話」パナソニック新社長が環境問題を最重要課題に上げる理由

2021年4月にパナソニックCEOに就任した楠見雄規氏が今最も重要な問題として考えているのは地球環境問題だと言います。2030年までに全ての事業会社でCO2排出量を実質ゼロ化することを目標に掲げます。

パナソニック新社長が掲げる「最重要課題」とは

Natsuko Abe/BuzzFeed

「一刻一秒を争う事態」。

2021年4月にパナソニックCEOに就任した楠見雄規氏がそう話すのは同社の事業内容についてではなく、地球環境問題だ。

「私たちが子供の頃とは明らかに状況が違っており、毎年のように自然災害が多発している。私たちは地球温暖化の問題に目を背けるべきではない」

パナソニックでは従来より地球環境問題に注力しており、2017年には2050年までに実現するビジョンとして「環境ビジョン2050」を発信している。同ビジョンではパナソニックの工場、オフィスだけではなく、パナソニックの商品、サービスが使用するエネルギーを減らし、その使用量を超えるクリーンなエネルギーを創出、活用することで「エネルギーの自給自足」を目指すというもの。

しかし楠見新社長は「2050年では遅い」として、「2030年までに自社での生産に使うエネルギーのCO2排出量について、全ての事業会社で実質ゼロ化する」という新たな目標を掲げる。

会社としての利益はお金儲けだけではない

パナソニック

決して簡単なことではない。

「例えばパナソニックが持っているデバイス工場などは、一般的な組み立ての工場に比べたら、10倍ぐらいのエネルギーを使ってる事業だってある。そんな中、全社で環境問題に取り組むというのは、事業会社によって難易度も変わってくる。

しかし、一旦は皆でそこを目指すということを目標にしていく。今は10月1日以降に変更になる各事業会社体制の中で、具体的に2030年までに向けてどんなスペックを実現するのかというところの検討を進めている」 

一方で、会社として環境問題に注力することは、事業の高収益化と相反するのではないかという疑問も湧く。

「それについては、事業が多種多様であるが故に、両方の側面がある。例えば事業によっては、環境問題と直結しない事業もある。ただし、やはり社会全体としてはカーボンニュートラル（脱炭素社会）を目指さなければならない。

私たちが利益を上げるための目的は、何もお金儲けだけではない。社会に還元していくというのも目的のひとつ。そのためには、地球環境への投資というのはやっていかなければならない」

家電製品は「マスカスタマイゼーション」へ

Natsuko Abe/BuzzFeed

家電製品などに代表されるBtoC商品については「マスカスタマイゼーション」が重要になってくるという。

「現在、人々の暮らしがある程度は豊かになって、そして人々の要求というのを十把一絡げで捉えるということはできないわけだから、例えばマスカスタマイゼーションいう言葉で商品を作っていかなきゃいけない」

ユーザーのニーズによって機能をカスタマイズできる炊飯器とオーブンレンジを「マイスペック」シリーズとして、すでに商品化している。

「お客様の商品に対するニーズは、ライフステージなど時間と共に変化していく。たからといって、その度に物を買い替えていただくのかというと、それは資源の有効活用ということにおいて、必ずしも良いことではない。

であれば、マスカスタマイゼーションの中身というのも変えていかないといけない」    

松下が強かった時代に失ったものを取り戻す

Natsuko Abe/BuzzFeed

前任の津賀一宏社長は全社的なコンセプトとして「くらしアップデート」を掲げていたが、新体制では基本に立ち戻ることを重視するという。

「懐古主義的なことはあまり好きではないが、かつてパナソニックが強かった時代の経営と今の経営が何が違うのかということを社長就任が決まって以来、少し勉強をしてきた。

1950年代、60年代の松下電器が強かった時代には『社員稼業』という言葉があった。社員一人一人が独立した経営体の経営者として、一段高い意識をもって自らの仕事に当たるという考え方で、それができていた時代というのは、松下がずっと成長していた。 

これは一朝一夕にできることではないけれども、そういうふうに全ての事業会社で変わっていこうということを目標としている」