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急増する梅毒 温泉でもうつるの?

答えは、「はい、可能性はあります」。ただし……

私は感染症の対策を仕事にしているため、テレビやネットで感染症がニュースになると、「○○するとうつりますか?」という質問をよく受けます。

「そういえば……」と思い付きでたずねる人もいますが、「過去の『あること』が心配で心配で眠れないほど悩んでます」という相談もいただきます。

感染症の中でも特にセックスや"性的接触"でうつる性感染症は大変です。日常的な行為なのに、不安になったときに安心できるための、スッキリハッキリ書いてある情報や、相談先を探すのが難しいお題だよなあ、と情報提供する側も思っています(努力が足りないですね。反省)。

先日、インターネットで「梅毒は性行為以外でもうつるのか?」ということが話題になっていました。病院を受診した人が、いつ誰から感染したかよくわからない時に、「セックス以外でも感染しますか?」と医師に質問することは珍しいことではありません。

感染から症状が出るまでの期間(潜伏期間)が長いものでは、このような疑問が生じるのも当然です。

また、自分自身がなったわけではなくても、ニュースを見て「こんなに増えているんだから、もっと違う感染ルートがあるんじゃないか」と思う方がいても不思議ではありません。「いい点に気がついているな!」とさえ思います。

国立感染症研究所の統計によると、今年は7月末までに梅毒の新規感染は3123人となり、昨年同期を上回る勢いで感染者が増えています。

今回、話題になっていたのは「サウナや温泉など皆が使う施設で『も』うつる可能性があるのでしょうか?」ということです。

答えは、「感染する可能性はある」です。

梅毒はどのようにうつるのか

梅毒はトレポネーマという種類の菌が粘膜や傷口から入り込んで感染し、体内のあちこちに症状が出るタイプの感染症です。つまり「接触」がキーワードです。

主な感染ルートは、バリア(コンドーム)なしの「膣ーペニス」「肛門ーペニス」「口ー性器・肛門」の性的接触。もうこれは、モロ感染する行為です。

セックス以外では母子感染や医療行為(血液がついた注射の針を刺すなどの血液曝露)もありますが、全体からみるととても小さい数です。

心配されているお風呂やサウナなどで感染する条件としては、

他の人にうつる状況の状態の人が椅子やタオルの上に座る

→時間を置かずすぐそこに誰かが座って粘膜と病原体が出会う

→運悪く感染する

というパターンですね。

お湯の中につかってうつることはほぼあり得ません。

温度や湿度や時間、体液の量、粘膜の状態など細かく検討が必要ですが、可能性で考えれば「ゼロじゃない」ですね。もっとも、感染するかどうかヒトで実験もできないので、想像と妄想の世界ですが。

確実なことが言えないときに「絶対大丈夫」とも言えませんし、「おそらく○%」と適当なことも言えません。

「うつる可能性はゼロではない」ということの意味

悩んでいる人の場合、「そんなことはないですよ」と言ってほしいのかもしれませんが、可能性でいうとゼロと断定できないものは、限りなく小さいリスクでも「ゼロじゃない」という答えになります。

私は、こういう答えを引き出す問いを、あえて「残念な質問」と説明しています。時間やエネルギーを使う割に得るものがない、少ないからもっと実りの多い方にシフトしようよ!という提案をこめてです。

「なに!不安で不安で否定してほしかったのに!聞いたら余計不安になったじゃないか!プンスカ!」とお怒りだったり、涙したりする方もいるかもしれまん。

このようなときに私が提案をしているのは、「それは現実の問題として起こりうるとしたらどのような状況なのか」を考え、それがわかっているなら(不安なら)避けようよ、ということです。

「健康的に悩み、健康的に解決!」の提案です。

現実的に考える 健康的な悩み方とは?

例えば、梅毒に感染していて性器周辺に生々しい症状があって、その人が座った椅子やタオルの上に洗わず、自分のタオルも敷かずに自分が座ること。

確かに感染リスクは生じます。でも、そんなことをしなければいい。

他人が使った(らしい)椅子にそのまま座らないで洗うということは、日常の中で私たちが普通にしていることです。

「おや、洋式トイレの便座に血液や液体がついているようだ。心配だな」となった時にそのまま座らなければいい。便座シートでふいてもいいし、気になるなら隣のトイレや和式トイレにいけばいい。

昔々とても昔。エイズが大きな話題だったころのやりとりをご紹介します。

「他人の歯ブラシをつかったらうつりますか?」→「自分だけの歯ブラシを買いましょう」

「歯医者で感染しますか?」→「そもそも感染対策ができてない歯医者はエイズ以外でも危険なのでいかないようにしましょう」

「つり革でも感染しますか?」→「つり革が血でべとべとだったらさわらないように」「手にぱっくり傷があるときは絆創膏などで覆いましょう」

といった感じです。

「可能性」がとても低い行為で感染はそんな簡単にはおきません。
しかし、可能性にこだわってストーキングすると、「感染症で病まなくても心が病む」という別の健康リスクが生じます。

問題設定を変えて、より安全な生活・健康的な悩み方をしていきましょう。


掘成美(ほり・なるみ) 感染症対策専門職(看護師)

神奈川大学法学部、東京女子医科大学看護短期大学卒業。民間病院、公立病院の感染症科勤務を経て、2007〜2009年国立感染症研究所 実地疫学専門家コース(FETP)修了、2009〜2012年 聖路加国際大学・助教(看護教育学/感染症看護)、2013年より国立国際医療研究センター国際感染症センターに勤務(感染症対策専門職)。2015年4月より国際診療部・医療コーディネーター併任。

東京学芸大学大学院 博士課程満期退学(教育学修士)、国立保健医療科学院 (健康危機管理、Master of Public Health)修了。