「聞こえない人」の世界を体験しよう。クラブ並みの大音量が鳴り響く「爆音コンビニ」に行ってきた

    ここで学んだことを忘れないようにしたい。

    コロナ禍における聴覚障害者の悩みをきっかけに生まれた、「爆音コンビニ」という変なコンビニが東京・板橋区にオープンした。

    ここはその名の通り、店内にものすごい爆音が鳴り響き、お客さん同士やお客さんと店員さんの間での会話がほぼ不可能なコンビニ。

    みんながマスクを着⽤しているいま、⼝の動きや顔の表情を⾒ながら相⼿の⾔いたいことを読みとる聴覚障害者はとても困っているそうです。

    なかでも特に困るシーンとして挙げられるのが「コンビニ」。とても⾝近な場所なのに、「話していることがわからない」どころか、「話しかけられていることすらわからない」という不安に悩まされています。

    そこにはいったいどんな困難が待ち受けているのか、実際に体験できるのが爆音コンビニ「DEAF-MART」(デフマート)なのです。

    というわけで、記者も参加(取材)してきました。

    デフマートは12月4日に1日限定でオープン。事前に応募して当選した人が参加できます。

    「爆音鳴り響くコンビニの中を撮影しながら歩いてみて、あとで主催者の話も聞こう」なんて考えていたら、、、

    手渡される「ミッションカード」。

    そうです。爆音コンビニはいわゆる「脱出ゲーム」のようなミッションクリア型のゲームとして設計されていました。

    与えられた任務(買い物)は以下のようなものでした。

    ・焼きそば弁当

    (フォークを1本もらう)

    (温めてもらう)

    ・カシマシコーヒー

    (ストローを1本もらう)

    ・84円切手3枚

    ・肉まん

    (からしを2つもらう)

    これらのミッションをすべてクリアするとレジで「金のレシート」がもらえるらしい。

    なんだか楽しそうです。

    さっそく他の記者と一緒に入店。

    入った瞬間、音がすごい。

    耳にズシンズシンと響きます。

    店の四隅にある大きなスピーカーから重低音をともなう爆音がずっと流れています。

    これは本当にすごい。

    「おいおい、完全にクラブじゃん」と思いました(行ったことない)。

    他の参加者の奮闘ぶりを見てみましょう。

    声は聞こえないですし、店員さんの表情もよくわかりません。

    こうやって大げさなアクションで自分の意志を伝える必要があります。

    棚からコーヒーを持ってきたり、肉まんを指差したりするのはできますが、一番難しかったのが「84円切手」です。

    切手はレジの中にしまってあるので店員さんに伝えなければいけません。

    でも切手をどうやって説明すればいいのか…。

    手のひらに文字を書くような動作をして、手紙を出したいという気持ちを伝えてみました。

    そして指で8と4をアピール。

    なんとか最難関の84円切手3枚を買うことができました。

    普段なにげなく利用しているコンビニが、「聞こえない空間」になるだけでこんなに苦労するなんて、ここに来る前は考えもしませんでした。

    30分くらいかけてなんとか手に入れたアイテムたち。

    これで無事にデフマートをクリアです。

    レジで「金のレシート」がもらえました。

    うれしい…。

    コンビニで買物をしただけなのに達成感があります。

    でも、それだけ聴覚障害者の方は大変な思いをしているということですね。

    終わったら、参加者で「振り返り」をしました。

    参加してみて感じた、「困ったこと」と「助かったこと、大切だったこと」を書き出してみます。

    いろんな意見があつまりました。

    困ったこと

    「細かいことが伝わらない」

    「キョトンとされると諦めの気持ちになる」

    「(切手などの)名詞を説明できない」

    「人に話しかける気持ちがなくなる」

    「ほしいものがあっても我慢しようってなる」

    助かったこと、大切だったこと

    「上手な身振り手振りに助けられた」

    「筆談はあるととても便利」

    「目をじっと見てくれると心強い」

    「店員さんの推察に助けられた」

    「見えるところに物があるとホッとする」

    短い時間でこんなにたくさん出ました。

    この「困ったこと」って聴覚障害者の方が「毎日困っていること」なんですよね。

    それを身をもって実感できました。

    そして「助かったこと、大切だったこと」は聴覚障害者の方が私たちに、「こうしてくれたら嬉しい」ということなんです。

    もし困っている人がいたら、こんなふうに助けてあげればいいんだ、と気づくことができました。

    最後に、今回のコンビニの主宰であるNPO法人Silent Voiceの代表・尾中友哉さんはこう語ります。

    「いままで聞こえない人が、『わかってくれ…!わかってくれ…!』と思っていたことを、聞こえる人は当事者的な感覚としてはやはり持ててこなかった。でも聞こえる人が『こうしたらいいね』『これが大切だね』と言えることで、新たな会話が生まれるだろうと思います」

    「こういう目線合わせができる場を、私たちの会社とか学校で、どういう方法で実現できるか。私たちがわかりあえるような試みを他にもやっていきたいと思います」

    Silent Voiceは1万枚の"透明マスク”を無償配布するプロジェクト「Clear Mask Project」を11月に開始しました。

    口の動きや顔の表情を見えやすくするマスクを普及させることで聴覚障害者の生活を助けようという試みです。

    そして今回の爆音コンビニ「デフマート」。

    実際に体験しないとわからないことはたくさんあります。

    想像力を働かせても、もしかしたら限界があるかもしれません。

    この日、ポストイットに書いたメモを、忘れないように生きていこう。

    そして困っている人を見かけたら、できることから助けていこう。

    そう強く思いました。