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HPVワクチンで子宮頸がん撲滅も視野に 国内外で明らかになる効果

産婦人科医の上田豊さん講演詳報第2弾は、国内外で積み重なっているHPVワクチンの効果と安全性についての研究を紹介します。

子宮頸がんの原因となるウイルス感染を防ぐHPVワクチンが実質、中止状態になって6年以上が経ちました。

年間1万1000人が子宮頸がんになり、3000人が死亡するこのがんは、30〜40代の子育て世代が多くかかるため「マザーキラー」とも呼ばれます。

婦人科がんを専門とする産婦人科医の大阪大学産科婦人科学講師、上田豊さんの講演詳報2回目は、HPVワクチンの効果を検証した研究を中心にお伝えします。

オーストラリアでは子宮頸がん撲滅も視野に

では、ここからは予防接種による子宮頸がん対策として、まずHPVワクチンの有効性を明らかにしたデータをご紹介したいと思います。

オーストラリアでは、12歳と13歳の男女両方に接種が行われていて、その接種率も75%ぐらいという画期的な国です。

そういう国では、「集団免疫」というものができています。

「集団免疫」とは、ワクチンを接種した個人だけでなく、その人が所属する集団もウイルスから守られる状態になっていることを指します。

ワクチンの接種プログラムが導入される前の若い女性でのHPV感染率を1として、導入後に3回接種した方で感染の率が下がるのは当たり前です。

ところが、ワクチン接種率が高いオーストラリアのような集団だと、非接種者、つまりワクチンをうっていない人まで感染の率が減っているのです。

すなわち、国全体からこのウイルスがなくなりつつあるというわけです。

フィンランドでは、HPVワクチンによってHPV感染を原因とする子宮頸がんなどの浸潤がんが実際に減っているというデータがすでに発表されています。

ワクチンを接種していない人では、これまで通り子宮頸がんや咽頭がんを発症しているわけですが、接種した人では、この研究期間内には一人も起こっていません。見事にがんが予防されているというわけです。

がんが予防できるというのはすごいインパクトだと思います。

国内でも効果を証明する研究が続々 ウイルスへの感染予防も

では国内ではどうかということですが、まず、HPVの感染の予防効果からお話しします。

大阪で私たちが行っている「OCEAN STUDY」という研究でデータが出始めています。

どういうスタディかというと、ワクチンを接種した人に登録してもらい、20歳、25歳の検診の時に、がんになる可能性の高いハイリスクなウイルスの感染を調べる検査も追加で行なっています。また、ワクチンを接種せずに20歳・25歳の検診に来られた人も研究への参加を呼びかけ、同様の検査を行います。

その中間解析の結果をご紹介します。

20歳時点での検診で、HPVワクチンを接種していない人ではHPVの16、18型という一番悪いタイプのHPVに4.9%の人が感染していました。ところが、接種している人では誰一人感染していないことがわかりました。ワクチンで完全に感染が予防できているという結果です。

細胞診や組織検査の異常もワクチン接種世代では減少

では続いて細胞診の結果を見てみましょう。子宮頸がん検診での異常の率がどうなったかという研究です。

これは、厚労省の研究班として行っている研究(2017年度〜「生まれ年度の頸癌罹患リスク評価とワクチンの有効性検証」)です。

2013年度までに20歳検診を受ける人は、93年度以前の生まれの人ですから、まだワクチンがなかった世代です。

ところが、2014年度以降に20歳検診を受ける人は、1994年度以降の生まれの人ですから、ワクチン接種世代になります。

ここで大きな差が出るだろうと予測ができるわけです。

ワクチン接種世代は細胞診の異常率が明らかに減少

多くの自治体からデータをいただいたのですが、1990年度から93年度生まれは、ワクチン接種率が0%の世代です。

その人たちの20歳検診を見てみましょう。2010年度から13年度の検診で、細胞診異常は順に、3.7%、3.7%、4.3%、4.3%です。

ワクチン接種世代である94年度〜95年度生まれの世代では、64%、75%と高い接種率ですが、検診での異常の率がともに3.0%に減っていました。

ワクチン導入前世代に比べて、導入世代はごく軽度の細胞診の異常が24%減少しています。1ランク上の細胞診の異常となると、なんと73 %も減っているのです。日本でも明らかな効果が示されていることになります。

前がん病変もワクチン接種者で減少

では、精密検査での異常を見てみましょう。

CIN(前がん病変、異形成)の予防効果がどうかというデータをご紹介します。

宮城県の20〜24歳の子宮頸がん検診において、CIN1(軽度異形成)以上、CIN2(中等度異形成)以上で見ると、接種者と非接種者では接種者の方が明らかに少ないというものです。予防効果が証明できているということになります。

ただ、この調査ではCIN3(高度異形成、上皮内がん)では統計的に意味のある差がついていませんでした。それを、先ほどの厚労省の研究班として行っている生まれ年度の調査で、松山市のデータを使って解析しました。

そうすると、ワクチン導入前世代ではCIN3が0.9%あったわけですが、ワクチン接種世代になると1例もいませんでした(0%)。日本でもやはりCIN3が完全に予防できているというのがわかるわけです。

ここまでをまとめますと、海外では浸潤がんの予防効果や集団免疫の獲得効果が見られてきています。日本でもワクチンによって、HPV感染や前がん病変がしっかり予防できていることが示されてきています。

2000年度生まれから03年度生まれは既に対象年齢を超えてしまった......

ではここからは、ワクチンが今、停止状態であることの弊害をご紹介します。

今ワクチンを接種していない人たちが今後どうなっていくかということなんですが、生まれ年度別に、20歳の時点で特にハイリスクの16、18型にどのぐらい感染するか予測してみました。

1993年度生まれまでは、まだワクチンがなかった世代で、94年度から99年度はだいたい接種率は70%ぐらいと仮定しておきます。

93年度生まれの20歳における16、18型のHPV感染率を1とすると、ワクチン接種率が高かった94年度生まれ以降の人たちは0.3に向かって減少していくわけです。

ところが、2000年度生まれ以降の人たちがどうかというと、この人たちは積極的勧奨の中止でほとんどワクチンを受けていない人たちです。

2019年度までにまだ積極的勧奨は再開されていませんが、仮に2020年度に再開されたとして、70%が接種したと仮定しても、残念ながら2000年度から2003年度生まれはすでに接種の対象年齢を超えています。積極的勧奨が再開されても、もうこの人たちは公費では接種できないのです。

ですから、ワクチンがなかった世代と同じぐらい感染率は戻るというわけです。

ただ、2004年度以降生まれの人たちはまだ接種することができますので、ここからは下がっていきます。

既に対象年齢を超えてしまった人をどうするか?

では、対象年齢を超えてしまった、2000年度から2003年度生まれの人は来年度以降に17歳以上になるわけですが、この人たちのリスクを少しでも減らすにはどうしたらいいかということです。

この年齢でも接種できるようにすると、先ほど、ワクチンがなかった世代と同じレベルまで感染率が戻っていた感染率をいくらか下げることができます。

ですから、ワクチンの積極的勧奨が再開されるときには、勧奨中止によって接種を見送った女子にもぜひ接種の機会を与えてあげてほしいと思うわけです。

子宮頸がんにかかるリスクも接種を逃した世代では高くなる

今までのは感染のリスクですが、子宮頸がんの罹患リスクも同様に生まれ年度によって予測することができます。

接種を逃した2000年度から2003年度生まれは、もし来年、勧奨が再開されたとしても、対象年齢を超えています。

ワクチンがなかった1993年度生まれまでの人の生涯にかかるリスクを1とした場合、2000年度から2003年度生まれは同様に高くなります。先ほどと同じく、この人たちにも接種の機会を与えると、頸がんにかかるリスクも少し下げることができます。

その上で、今、日本で使える2価、4価ワクチンよりも感染を防げるウイルス型の範囲が広くなる「9価ワクチン」を導入したらどうなるかというと、さらにリスクを下げることができます。ですからワクチンの積極的勧奨が再開された場合は、9価ワクチンを速やかに導入していただきたいと思っています。

こまでをまとめますと、積極的勧奨の中止が長引いているために、生まれ年度によって子宮頸がんにかかるリスクが異なる事態になっています。

この負の影響を軽減するには、速やかな勧奨再開とともに、接種を見送って対象年齢を超えてしまった女子への接種機会の提供や、9価ワクチンの速やかな導入が求められます。

(続く)

【上田豊(うえだ・ゆたか)】大阪大学医学部産科婦人科学講師

1996年大阪大学医学部卒業。2005年National Cancer Institute(NIH)でPostdoctoral fellow、日本学術振興会海外特別研究員、大阪大学産科婦人科学助教を経て、2018年4月より同大学産科婦人科学講師。