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新宿二丁目のスポットガイドとHIV情報をこれ1冊で! 「ヤローページ」が刷新

新宿二丁目で遊べる場所も、HIV検査ができる場所もこれ一冊で全部わかる! 『ヤローページ』が3年ぶりにリニューアルされ、世界エイズデー(12月1日)を前に、新宿二丁目の街に大きな広告も登場しました。

世界最大規模のゲイタウン・新宿二丁目のスポットガイドとHIV検査の情報が一冊にまとめられた「ハローページ」ならぬ「ヤローページ」が3年ぶりにリニューアルされました。

HIVをはじめとしたセクシュアルヘルスの発信拠点として活動するコミュニティセンター「akta」が、「MSM(Men who have Sex with Menの略。男性とセックスする男性)に届く形で情報を発信したい」と2011年に第1号を発行した「ヤローページ」。

毎年、首都圏版、上野・浅草版など新しいバージョンを作っていましたが、2016年を最後に発行がストップし、今回、3年ぶりにニューバージョンが作られたのです。

新宿二丁目や首都圏のゲイバーや保健所などに無料で置かれています。

akta理事長の岩橋恒太さんに新しいヤローページの狙いを伺いました。

なぜ遊び場の紹介とHIV検査情報を一緒に発信?

今回リニューアルされた「ヤローページ」は全40ページ。初版は1万部作りました。

ゲイバー134軒や、出会いの場である「ハッテン場」やショップなどもマップ付きで紹介し、人気ゴーゴーボーイのEIGHTさんが新宿二丁目を歩きながら魅力を語るインタビューも掲載されています。

その遊びの情報に加わるのが、HIV/エイズの情報です。

HIV検査の結果を伝えてきた医師が最新の流行状況を語るインタビューや、検査のメリットや受けないリスクをわかりやすく伝えるページ、検査の体験取材、ゲイ・バイセクシュアルのセクシュアリティにも理解があって検査が受けられる保健所の場所の情報、そして不安な時に頼ることできる相談機関の情報など、かゆいところに手が届く内容となっています。

ーー遊びの情報とHIVの情報を一体にした『ヤローページ』の狙いは何なのでしょうか?

新宿二丁目でゲイライフを楽しむには、もちろん街の情報や遊びの情報も必要ですが、セックスもつきものですよね。一緒に自分の健康のことも考えることは大事なので、パッケージで情報が届くようにできたらいいなと考えました。

ーーゲイバーや保健所だけでなく、ハッテン場にも置いているんですってね。また、ネット発信でなく、冊子という形で作り続けるのも意味があるのですか?

はい。あるハッテン場では祭壇のようにヤローページが積まれています(笑)。最近ではゲイバーやハッテン場だけでなく出会い系アプリで出会う人の方がリスクが高いのではないかと言われますが、両方利用している人が一番性的にアクティブであることがわかっています。

バーやハッテン場を起点とした啓発活動は今もなお大事なんです。

外国人向けの情報も充実 表紙は多様性に配慮

ーー今回、新しくしたところはあるんですか?

新宿二丁目も外国籍のお客さんが増えてきたので、ゲイバーの紹介欄には、外国語対応はどうかということも情報として入れました。

「不可」のところも多いですが、数ヶ国語対応できるところもありますし、アプリやポケトークを使って対応しているところもありますね。老舗の「九州男」さんなんかだと、「ノリで」と書いたりしています(笑)。

外国籍の方が増えたことで、海外とは違う料金体系のことで会計時にトラブルになることも増えているそうですので、地元のバーの振興会の方たちの要望で、料金体系の説明も入れるようにしました。

ーーMSM向けの冊子ですが、表紙はそれを全面に打ち出してはいませんね。

デザイナーやイラストレーターの方に「二丁目の今の空気を反映して」と伝えています。今の空気というのは「多様性の尊重」。女性とも女装ともわからない人も描いてもらい、多様性を反映しています。

ーーヤローページの看板やフラッグで新宿二丁目の街をジャックしたのも話題になりました。

街とのコラボはとても大事なんです。今回、派手に宣伝活動を展開したのも、いつもHIV啓発に協力してくれている二丁目を盛り上げたいという気持ちからです。

ーー評判はいかがですか?

上々です! 置いてもらっているゲイバーからは、「もうなくなっちゃったからもっとちょうだい」とか、「うちも次回載せて」という声をたくさん頂いています。

検査受診がまだ不十分な日本

ーー3年ぶりのリニューアルということですが、逆になぜ3年間は作っていなかったのですか?

2017年に実施した厚労省の研究班の首都圏885人のMSMから回答を得た調査では、生涯に1度でもHIV検査を受けた人は84.2%いました。1年以内だと54.5%です。

ところが、検査を受けようとしたのに、保健所の予約がいっぱいで受けられなかった経験が過去1年間である人も29.1%いたのです。

保健所の対応能力がいっぱいで受けられないなら、他の方法も検討する必要があるということで、aktaでもHIV検査キットを渡して郵送検査を受けてもらう「HIVチェック」という活動に最近は力を注いできました。

2018年2月から今年11月までに約1800人の人が検査キットを受け取ってくれて、その8割が検査を受けてくれたことがわかっています。

しかし、HIV検査の普及はNGOだけで継続できることではありません。やはり行政との連携が重要です。改めて保健所の情報を発信する必要があると考えて、ヤローページを作りました。

ーー「国際連合エイズ合同計画」は2030年までに「エイズの終結」を目指すとしていますね。日本での達成状況はどうなのでしょうか?

UNAIDSは来年2020年までの目標として「90-90-90」を掲げています。これは、「HIVに感染している人の90%が検査で自分の感染を知ること」「そのうちの90%以上が抗ウイルス薬を使った治療につながること」「治療を行なっている陽性者の90%以上がウイルス検出限界値以下になること」をそれぞれ指しています。

日本では後者2つの目標は達成できていますが、最初の検査の目標は80%強に留まっています。つまり、HIV陽性であってもまだ検査を受けていない人がたくさんいるのです。この残りの10%をどう上げるかが課題です。

HIV対策のこれまでとこれから スティグマを減らすために

ーーそうしたリスクが高い人にアプローチするために、ヤローページも作っているのですね。

そうですねaktaでは2003年の開設から、ボランティアがお揃いのつなぎを着て、コンドームをゲイバーに配る「デリバリーボーイズ」という活動を続けていますが、コンドームとヤローページを一緒に持っていっています。

HIV検査キットを配るHIVチェックは今年で終わりますが、新規感染者の数を大幅に減らしたロンドンでも医療者を介する検査だけではなく、検査キットを導入したことで検査受診を増やしているので、これも継続することが必要だと思います。

ーー検査を受ける心のハードルを下げるのですね。HIVの治療は非常に進んでいるにも関わらず、イメージが更新されず、差別や偏見も残っているのも問題ですね。

厚労省研究班が検査を受けない理由をアンケートで尋ねたところ、どの年齢でも「結果を知るのが怖い」を理由に上げる人が多かったのです。

「怖い」理由は、陽性となった後の生活が見えないことも大きい。どんな治療を受けるのか、学業や仕事はどうなるのか、家族や人間関係がどう変わるのか、HIV陽性者の生活が一般の人には全くイメージがわかない。

今は1日1回1錠飲めば普通に生活できることも、薬を飲み続けてウイルスが検出されないレベルになっていれば、コンドームなしのセックスでも感染しない「U=U(Undetectable/検出できない = Untransmittable/感染しない)」の情報も一般には知られていません。

先日、HIV陽性者が病院の採用で差別された裁判がありましたが、医療機関でさえ陽性者にあんな態度なのだから、一般社会ならどうなるんだろうと不安を覚えるのは当たり前です。

そのため、検査を受けるメリットとわからないままでいるメリットを天秤にかけて、健康を犠牲にしてでも知らないでいることを選んでしまいます。このHIVに対するスティグマ(負の烙印)を減らすことにも力をいれなければいけません。

HIV陽性者と一緒に生きている

ーースティグマの払拭のために何ができるのでしょうか?

「U=U」のメッセージも少しずつ広がっています。最近、私たちのところにも、「HIV陽性の人から告白されたのだけど、U=Uについても説明された。それは本当なのですか?」と問い合わせがちょくちょくあるようになりました。

HIV陽性者自身が「U=U」を周りに説明して、恋愛やセックスも楽しむ空気が徐々に広がっているのを感じます。

新宿二丁目では陽性者支援団体のぷれいす東京都共に「Living Together(一緒に生きている)」という、HIV陽性者の体験を分かち合う活動が続いています。

老舗ゲイバーの「九州男」さんでは、「Living Togetherのど自慢」も毎年行なっていて、陽性者が自分で語ったり、自分で語れない人は街の人気者に代読してもらったりして、のど自慢大会で楽しみながら陽性者の生活を実感してもらう啓発イベントも行われています。

こうした様々な活動を通じて、「早期に検査を受けると、今はメリットがあるよ。普通に生活できるんだよ」ということが伝わって、検査を定期的に受けて元気に生きていく人が増えたらと願います。

ヤローページもそのきっかけになれば。見かけたら、ぜひどこかで手にとってみてください。