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自分たちらしくいられる衣装で二人の門出を祝った日 Xジェンダーカップルのウェディングフォト

男らしさを求められるのが苦手でMtX(男性として生まれ、性自認は男性ではない人)と感じているサキさんが、女性であることに違和感があるFtX(女性として生まれ、性自認は女性ではない人)のパートナーと結婚。互いが自分らしくいられる衣装で、ウェディングフォトを撮ってもらいました。

自分たちの望む衣装で、二人の人生の門出を記録しておきたい。

そんな願いを持ちながら、いったんは戸籍上の性別での衣装で結婚式を挙げたXジェンダー(性自認が女性/男性ではない人)のカップルが、互いの衣装を交換し、ウェディングフォトを撮った。

友人の写真家、齋藤陽道さんが女装して、「陽子ちゃん」として撮影に臨んだ。

このフォトセッションにはどんな思いが込められていたのだろうか?

結婚式で着たお互いの衣装を交換

撮影は都内のフォトスタジオで行われた。

戸籍上の性別は男性、女性を恋愛対象としているが、最近の性自認は「男性ではない」に傾いている看護師のサキさん(仮名、51歳)がウェディングドレスを着る。

グレーのフロックコートを着るのは、戸籍上の性別は女性だが、幼い頃から女性の体であることに違和感を感じ続けてきたひかるさん(仮名)だ。

アラフィフ同士の結婚。1月に親戚を前に開いた結婚式では、お互い戸籍上の性別に合わせた衣装を着ていたが、背格好もほとんど同じ二人はそれぞれの衣装を交換した。

ひかるさんは普段、メンズの服を着ている。結婚式も男性の衣装を着たかった。メンズの服を着ると初めて、成人女性でも成人男性でもない自分の理想に近づけるのだという。

齋藤さんには、サキさんが化粧を施す。

徐々に男性らしさから抜け出し、「陽子」に近づくにつれ、鏡を見る目つきも変わってくる。なぜ女装して撮影するのだろうか?

「そのほうが楽しいからですね。撮り方は変わるのかな? 変わらない気もするけれど、物理的に歩幅が小さくなって、そこから影響されているところはありますね」

二人もそれぞれの衣装を着る。サキさんが化粧直しに時間をかけている。齋藤さんとサキさん自身のメイク、ドレスを着る準備まで約2時間かかった。

「私は着るだけだから、すぐ終わっちゃう」とほとんどメイクはしないひかるさんが、サキさんがベールやティアラを身につけるのを手伝う。

さあ、撮影の始まりだ。

一緒に生活する人が欲しい 出会って5ヶ月で婚約

二人の出会いは昨年2月。セクシュアルマイノリティの交流会で、たまたま隣の席に座ったのが会話を交わすきっかけだった。

男らしさを求められることが嫌で女装しているサキさんと、女性の体に違和感を持ちながら男性にもなりたくないひかるさん。

なんとなく話が合うと感じ、会が終了後に二人で食事をしたことから、時々、二人で会うようになった。

街中よりも自然の多い場所で過ごすことが好きなこと、食事の好みが合うこと、海外で暮らした経験があること、職業は別だが専門職として働いていることーー。共通点が多いことが次々にわかり、会話が途切れない。

何度か会ううちに、「ただの友達としてではなく、もっと親しい関係になりたい」と考え始めていたが相手に言い出せずにいたサキさんに、ひかるさんの方から「Xジェンダーの私でもいいのか」と問いかけられた。

サキさんは「もちろん、全然構わない」と答え、交際がスタートした。

翌週、再び会うと、サキさんはまたひかるさんから、結婚についてどう考えているのかを問いかけられた。

「結婚せず一緒に生活を続ける人たちもいるし、それもひとつの生き方だと思うけれど、私は一緒に生活をするのであれば、きちんと結婚をして、一緒に生きていきたい」と答え、交際を決めた翌週には婚約した。

「これまでの恋愛対象は女性だったと聞いていたから、一応、男である私は、男性ゆえに断られるのが怖くてこちらからは言いだせなかったんです。考えや生き方や趣味など様々な違いがあるはずなのに、なぜかそれらのギザギザの多くがピタッと合うように重なった。奇跡的な出会いだと感じました」

2ヶ月後には婚約者として親に紹介もした。ひかるさんは亡き実母から受け継いだダイヤモンドのリングをサキさんに婚約指輪として贈った。

サキさんに「写真を撮りたい」とアプローチした齋藤さん

サキさん達が結婚式や今回のウェディングフォトの撮影を依頼した写真家の齋藤陽道さんとサキさんの出会いは、BuzzFeedの記事がきっかけだ。

サキさんの半生を取材した「時には風通しがいいスカートで歩こう 男性看護師が女装でたどり着いた場所」を読んだ齋藤さんが、写真を撮りたいから紹介してほしいと筆者に連絡があり、サキさんにつないだ。

「ぼく自身、男性的なマッチョさに辟易していて…。『男らしさ』とか、『女らしさ』とかそういう単純なくくりから離れたいと思いつつ、どういう方法があるのかわからずにいました。そんなとき、サキさんのあり方を知って、おお、これだ、と直感したんです」と齋藤さん。

サキさんはこう振り返る。

「写真家がなぜ私を?と驚いたのですが、最初に打ち合わせで会った時、私もホスピスなどで写真を撮っていたので、自分の思いを被写体に押し付けるんじゃなくて、撮られた人がどう思うかが大事だと思うというようなことを話したんです。そうしたら何となく意気投合して、じゃあぜひということになりました」

その時、小児科病棟で看護経験のあるサキさんは、斎藤さんから「病気の子どもたちは、なんであんなに明るいのだろう?」と問いかけられたのを覚えている。

「私は、『普通の子どもも病気の子どもも違いはないと思っています。病気の子だからとか、病気なのに健気に振舞っているのだろうなどと、関わる側の思い込みがあって、そのように感じてしまうのではないか』と答えました」

初対面からそんな突っ込んだ話をして、互いの理解が深まった。別れる前、「サキさんの写真を撮らせてください」と改めてお願いされ、快諾した。

女装で出かけて「ふつうさ」経験した

撮影の日、齋藤さんの「昔、女装をしていたこともあり、自分も女装をして、サキさんの撮影をしたい」というリクエストで、新宿二丁目のメイク・着替えルームで、サキさんがメイクを施した。女装姿の二人で飲み屋をはしごしながら撮影した。

「最初からすごく自然で、写真を撮られるからと身構えるのではなく、会話をしながら人間関係を作りながら撮られて心地よかったんです。私としてはお友達感覚、気の合う仲間という感じで、リラックスして楽しかった」

齋藤さんもこう語る。

「ふつうに楽しかったですねえ。この『ふつうに』が、とても、よかった。ありがたい。女装するって、なんか、ことさらに、きゃぴきゃぴ!というイメージがあったんですが、そういうこともなく、ただただそういう人として、ふつうに、ふつうに、呑んで食べて、遊んで。特筆することもない『ふつうさ』を経験できたのは、サキさんのおかげだなあとおもいます」

齋藤さんは生まれつき耳が聞こえないが、看護師として聴覚障害を持つ人とコミュニケーションを取る経験があったサキさんは、身ぶり手ぶりや口をはっきり動かすなどの方法で、ごく自然に会話ができた。

サキさんの魅力について、齋藤さんはこう語る。

「しなやかさですねえ。不思議な柔らかさ。あのような、柔らかさというのは、ん~女性的なもの、というのでもなくて...説明が難しいです。おとことしての柔らかさとおんなとしてのやわらかさそれぞれあって、それぞれの柔らかさを両立させているというか」

齋藤さんとすっかり気の合う友達となったサキさんは、その後、出会ったひかるさんと2019年1月に結婚式を挙げる時、齋藤さんに撮影を依頼した。齋藤さんも快諾した。

1月に結婚式 戸籍上の性別の衣装を着て

結婚式では、親戚縁者にカミングアウトしていない二人は、それぞれの戸籍上の性別に合わせた衣装を着た。当人たちはセクマイ同士でも、知らない人から見ればヘテロセクシュアルの男女の結婚だ。

普段、仕事では男性の格好をして働いているサキさんは、「私はいやではないのだけれど、相手はスカートを履くのも嫌いですし、普段メイクもしていませんので、女性装をしなければならないから嫌ですよね。でも、『まあいいや。コスプレと考えたらいいし』と気持ちを切り替えてくれた」

実はひかるさんは昨年夏にサキさんが実母たちと引き合わせた時も、サキさんがカミングアウトしていないことを気遣って、着慣れないワンピースを着てくれた。

「そんな気持ちの切り替えができるところがすごいなと思うんです。おかげでコスプレ気分で楽しむことができました」

撮影を依頼した齋藤さんから、「陽子ちゃんで撮影しましょうか?」と言われて、慌てて止めた。

式は厳かな雰囲気で開かれ、写真も満足いくものが仕上がった。

でも、結婚を決め衣装を選ぶときから、「自分たちが望む衣装を着たい。そして、そのウェディングフォトを二人が結ばれた大切な記念として残したい」という願いを持ち続けていた。

結婚式の写真撮影を斎藤さんにお願いする時から、そのことも伝えていて、撮影するという約束もしてもらっていた。

笑顔が絶えない撮影時間 「理解者がいるのが安心」

そして、結婚式から9ヶ月が経った10月のある日、ウェディングフォトの撮影は常に笑顔の絶えない空気の中で行われた。

これまでも障害がある人、病がある人ら様々なマイノリティが見せる光を撮ってきた齋藤さんだが、サキさんが女装しているから関心を持ったわけではない。

「僕は元から、外見のどうこうはあんまり信用していなくて。その人間を見つめて撮ろうという思いが強いので」と言う。

齋藤さんの撮影を終えたサキさんは、「陽子ちゃん以外に誰が撮れるの?って感じでしょ? 本当に楽しい時間だった」と笑った。

ひかるさんを高齢出産で授かった亡き両親は、ひかるさんが健康に生まれてきたことを喜び、生前、「普通に生まれてきて良かった」と何度も本人に言っていたそうだ。

そんな両親に性的マイノリティであることなんて打ち明けられるはずもなかった。でも今、横に立つサキさんの前ではありのままの自分でいられるという。

サキさんも言う。

「やっぱり一人じゃない。理解者があると言うことはすごく安心じゃないですか。仕事で嫌なことがあっても『今日こんなことがあってね』とただ聴いてもらえるだけでも、口に出せる相手があるって大事なこと」

サキさんは、周囲には「嫁入りしました」と言っていて、日々の生活では、主にサキさんが食事を作り、ひかるさんが洗い物などをしている。

「セクシュアリティにしても発達障害にしても趣味にしても、これはこうだと分類したり区別したりするのではなく、いろんな人やいろんな生き方があることをそのまま受け入れてほしい。その中で一緒に生きていく誰かを見つけられたら、幸せなことだと思います」