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子宮頸がんの母親が出産→がん細胞が羊水に→赤ちゃんが吸い込んで肺のがんに

国立がん研究センターなどの研究グループは、子宮頸がんの母親が出産した際に、がん細胞が混じった羊水を肺に吸い込んだ子どもが肺のがんになった症例を確認したことを発表しました。

国立がん研究センターなどの研究グループは、2人の小児がん患者の肺のがんが、子宮頸がんにかかった母親から、出産時に移行したがん細胞によるものだということを明らかにしたと発表した。

経膣分娩で生まれて産声をあげた時に、羊水に混じった子宮頸がんの細胞を肺に吸い込んだことによって、母親のがん細胞が子どもの体内で増殖したと考えられる。

他者のがんが体内に入っても、通常は増殖することはない。論文によるとこれまで世界で18例の報告があるが、胎盤から血液を介して移行したと見られていた。

今回、このような形でがん細胞の移行が確認されたのは世界でも初めて。母親の胎内から切り離されたばかりで、免疫系が十分確立していない新生児が、母親のがん細胞を異物と認識しなかったことが原因とみられる。

この研究結果を報告した論文「Vaginal Transmission of Cancer from Mothers with Cervical Cancer to Infants」は日本時間の1月7日、医学誌「The New England Journal of Medicine」に掲載された。

子どものがん細胞に他人のDNA 母親の子宮頸がん由来と判明

そもそも子どもの肺がんは100万人に0.2人と非常に稀だが、2人の小児肺がん患者のうち、1人の男児は1歳11ヶ月で両肺の多発がん、もう1人の男児は6歳で左肺のがんの診断を受けた。

2人の男児はそれぞれのがんに、免疫チェックポイント阻害剤が効果があるかなどを確かめるために、がん細胞の遺伝子や患者が生まれながらにもつ遺伝子の変異について調べるがん遺伝子パネル検査を受けた。

その結果、2人の男児の肺のがんに、他人の遺伝子が見つかった。

1人の男児の母親は出産3ヶ月後に、もう1人は出産直後にいずれも子宮頸がんの診断を受けていたことから、母親も遺伝子検査を受けて、子どもの正常組織やがん組織と比較した。

その結果、子どもたちの肺の中のがん細胞は母親由来のものであることが判明した。

また、男児の肺のがん細胞は、本来、男性の細胞にあるはずのY染色体がない女性の細胞であることがわかった。

子どもと母親のがんの両方から、子宮頸がんの原因となる同じタイプのヒトパピローマウイルスの遺伝子が検出されたため、研究グループは母親の子宮頸がん細胞が、出産時に赤ちゃんの口を介して肺に移って広がったものと結論づけた。

ただし、子どもの肺がん自体が非常に稀なので、子宮頸がん患者の出産でこのような移行が起きることはほとんどないとみられる。

また、事前にがんがあることがわかっていれば、帝王切開でこのようなリスクを防ぐことができる。

免疫チェックポイント阻害薬が効く可能性も

さらに、1人の男児には免疫療法の一つである免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ(販売名:オプジーボ)」を投与したところ、劇的に効いてがん細胞が完全に消えた。

一方、この男児の母親に同じ免疫療法をしてもあまり効果がなかった。

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が患者の免疫細胞にかけたブレーキを外すことで免疫の力を回復し、がん細胞への攻撃力を強める薬だ。

通常のがん患者はがん細胞も自分由来のものだが、この2人の男児のがん細胞は母親という他者由来のものだ。

子どもの免疫細胞が、母親由来のがん細胞を自己ではない異物と認識して攻撃力が非常に強まったことが、免疫療法の効果の向上につながったのではないかと見られている。

HPVワクチンで母親のがんも子どもへの移行も未然に防ぐことができる

男児の1人は免疫療法で、もう1人は手術で回復した。一方、この2人の母親はいずれも子宮頸がんで亡くなった。

会見した同科の小川千登世科長は、HPVワクチンが浸潤子宮頸がんを高い確率で防ぐことを示したスウェーデンの論文を示し、日本でも小学校6年生から高校1年の女子が無料で受けられる定期接種になっていることを紹介した。

その上で、こうワクチン接種による予防を訴えた。

「日本の中のワクチンの接種率は1%ぐらいです。海外だと70%を超えるような接種率です。高い接種率になることで子宮頸がんになる患者さん、子宮頸がんで亡くなる患者さんを減らすことができることは多くの論文で出ているし、日本はこのまま中断していると子宮頸がんでたくさんの命を落とすことになるというJapan crisis(HPV vaccination crisis in Japan)という論文が出ているぐらいです」

「ぜひ定期接種の対象になっている人にワクチン接種をしていただきたい。小児科医として、小児科医の中でも小児がんを診療する医者としての強い願いです」

UPDATE

事前にがんがわかっていれば、帝王切開でリスクを回避することができるという情報を追加しました