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Updated on 2020年6月8日. Posted on 2020年1月21日

ストロング系チューハイに薬物依存研究の第一人者がもの申す 「違法薬物でもこんなに乱れることはありません」

ジュースのような口当たりの良さなのに、アルコール度数は9%と350ml缶1缶で日本酒1合分のアルコールを含むストロング系チューハイ。薬物依存研究の第一人者が「危険な薬物」と警鐘を鳴らしています。

2019年の大みそか、薬物依存症の専門家によるこんなFacebook投稿が話題になりました。

口当たりがよくお酒が苦手な人でもぐいぐい飲めるのに、アルコール度数が高い「ストロング系チューハイ」。自分を失うような飲み方がみられ危険ではないかと、問いかける内容でした。

Twitterでもスクリーンショットが拡散され、まとめ記事に引用されるなど話題になったこの投稿ですが、どのような意図があったのでしょうか?

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

ストロング系チューハイを生み出した酒税改正の経緯に疑問を投げかける松本俊彦さん

「アルコールは、むしろ違法薬物よりも健康や社会に対する害をもたらすことがある」と話す、投稿主の国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長、薬物依存症センターセンター長である松本俊彦さんにインタビューしました。

薬物をやめた後の代わりにも飲まれている

ーーなぜあの投稿を?

患者さんがよく飲むんですよ。違法薬物をやめた後の渇望を紛らわせようとして、ストロング系を飲む。もともとお酒を飲む習慣がある人なわけですが、ストロング系を飲んだ時だけ変な酔っ払い方をして、トラブルを起こす。

それがずっと気になっていたのです。本人たちも、「やっぱりストロング系はヤバいですよね」と気づいている。

お酒の味があまりせず、ジュースのような口当たりなので、女性や若年者がよく飲みます。

今の若い子たちってビールが嫌いな人が多いじゃないですか。だったら飲まなければいいのに、これなら飲む。

お酒を楽しむために飲むのではなくて、酔うために飲んでいるんです。アルコールを効率よく摂取できる飲み物として使っていることが多い。実際にこれで酩酊した後に、リストカットしたりオーバードーズ(過量服薬)したりすることも多いのです。

通院している患者さんが、治療経過中にそういう風になることが目立ちます。覚せい剤を止めて、「もともと酒は嫌いなんだけど、これで紛らわせた」と言っているうちに、おかしくなっていく。記憶がぶっ飛んでいる間に薬を買いに行って再びやっていた、ということがよくあるのです。

ーーいつ頃からでしょうか?

この2〜3年、間違いなくそんな話が出ていました。

業界の中では「ストロング系はやばいよね」という話は出ていたんです。「なぜ度数を上げていくのだろうか?」とも思っていました。その前もハイボールブームがありましたが、発泡酒の税が上がったこととも関係があるのかと見ていたのです。

インターネット上にストロング系を批判するような記事をこれまでも見かけていました。そのうち誰かが指摘するのではないかと思っていたら、大みそかに、日本の酒税増税とストロングゼロを絡めた記事が出た。本当にそうだよなあと思って、その記事をシェアするついでに自分の考えも一緒にして投稿したのです。

酒税と自殺率の切り離せない関係

ーー酒税は酒造メーカーの商品開発や一般のアルコール消費のあり方に影響を与えますね。

以前、アルコールと自殺との関係について、研究したり本を書いたりしていました。その時にフィンランドの自殺を下げるには、お酒に関する税法がかなりプラスに働いたことを評価していました。

フィンランドはよく、自殺対策で成功した国としてあげられることが多いのです。1980年代後半から、十数年に及ぶ国の自殺対策で、自殺死亡率を3割減らすことができました。

だから、日本で自殺対策を始める時も、フィンランドを見本にしようという話があったんです。

フィンランドで自殺が大幅に減少したのは、働き盛りの中年の男性の自殺が減ったのが大きな要因です。そして、中年の男性の自殺は経済的な問題とアルコールの問題がすごく大きい。

実際、フィンランドの統計を見てみると、自殺が減り始めた時から蒸留酒の国内の消費量が激減しているのです。

これには、いろんな理由があって、一つには隣の国の旧ソ連邦で、ゴルバチョフが反アルコールキャンペーンをやった時期が数年間あったことが影響しています。その時期、ロシアの自殺はすごく減りました。それでフィンランドの方にもウォッカが回ってこなくなったのです。

しめしめということでフィンランド政府は、酒税を上げました。北欧の国全てに言えることなんですけれども、寒いところだからお酒が好きなんです。

戦後、スカンジナビア3国のうち、スウェーデン以外の2国はごく短期間だけ禁酒法を敷きましたが、結局うまくいかなかったので、アルコールを国の専売にしたのです。アルコール度数4.7%以上のアルコール飲料は全て国営の専売店で売るようになっています。

食事と楽しむ南欧式、ハイになるために飲む北欧式

ーー今もですか?

今もそうです。日曜日はやっていなかったり、夜は早くしまったりするそうですが、国の専売によってアルコールの健康被害をコントロールしようということになった。たまたまソ連の対策のおかげで、アルコールの流通が一時的に途絶えた効果を見ていたので、アルコール度数の高いものは酒税をあげのです。

さらに、1990年代の半ばにEUに加盟した。ヨーロッパの他の国に比べて酒税が高いと、貿易上、対等ではなくなるので、フィンランドは、ビールやワインの税率は他の国並みにして、その代わり、蒸留酒の酒税を上げました。

すると、ビールやワインの消費量は上がっていったのですが、蒸留酒の消費量は下がっていったのです。

ヨーロッパの国々は、お酒の飲み方が南と北で随分違うと言われています。

南、つまりイタリア、スペイン、フランスなどは「コンチネンタルスタイル(大陸式)」と言われ、平日の夜に、食中酒として、ワインやビールを楽しむ。日曜日はカトリックだから飲まなかったりもする。

Nellisyr / Getty Images

オリエンタルスタイルでは食事と一緒にお酒を楽しむ

一方、北の方の国は、平日食事を取るときは水を飲むのですが、その代わり、週末にハイになるために蒸留酒を飲むんですよ。薬物として。これは「ビンジ(BINGE)スタイル」というのですね。ガブ飲みというか、ワイルドな飲み方のことを言います。

Rawpixel / Getty Images

北欧のビンジスタイルでは強い蒸留酒をまさに「酔う」ために飲むところがある

コンチネンタルスタイルの国の問題点は何かと言うと、肝硬変などアルコールに関する内臓疾患です。

一方、ビンジスタイルの国の問題点は何かと言うと、自殺とか暴力事件とか、飲酒運転による事故、ドメスティックバイオレンス、児童虐待が多いことです。

フィンランドは自殺を減らしたかったので、ビンジスタイルをやめて、コンチネンタルスタイルに変えました。それでEU加盟と同時に、度数の少ないものを酒税を下げて、度数の高いものはあげた。

その結果、見事に自殺率は下がった。その目的は成功したのです。そのかわり、2000年から2010年までの10年間で、フィンランド国民の肝硬変罹患率は倍になったんですけれどもね。

日本の酒税政策は日本人のメンタルを悪化させる

ーー良し悪しですね。

そうです。アルコール政策はなかなか難しいところがある。

ただ、禁酒法を作った国は闇酒が流行って逆にまずいことになったということをみんな経験しているから、酒を禁止しても仕方ないことはわかっています。

そんなこともあって、国として何を守るべきかということを考えながら酒税を設定した方がいいと思うのです。

僕はアルコールはドラッグだと思うし、害はあると思う。でもこの世からアルコールを消すことは不可能だとも思う。

だとしたら、どうやってみんなに安全に楽しんでもらうかを考えなくてはいけません。税金というのは、まさにそのためのいい手段だと思うのですね。

ところが、日本の場合には、なぜかみんなが一番飲むビールには高い酒税をかけてきました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

スーパーの棚のかなりのスペースを占めるストロング系チューハイ。350ml缶だと100円もしない

それに対抗して、発泡酒が出てきたわけですが、発泡酒が広がると、財務省はまたそこに高い税をつけてきた。それで、出てきたのが、税率が低いことを狙って開発されたこのストロング系チューハイです。

※現状、500ml缶に換算すると、ビールは110円、発泡酒は約67〜約89円(麦芽比率による)、ストロング系チューハイも含むアルコール度数10度未満のいわゆる「新ジャンル」は40円の酒税がかかる。

2017年度の酒税法改正で、2026年10月までに段階的にビールは酒税が下がり、発泡酒は酒税が上がって77.5円に統一、アルコール度数11度未満のチューハイは酒税が上がって50円となるが、依然として差は残る。

そして、お酒がもともと好きではない人たちが、酔うためにこれを飲む。リストカットなどを繰り返している10代の子たちが、意識を飛ばすためにこれを飲む。

もともと酒なんて嫌いな人たちなんです。嫌いなら無理して飲むことはないじゃないですか。毒なんだから。好きな人だけ飲めばいいと思う。だけど、そういうことが起きてしまっています。

酒は酒らしい味であるべき

アルコール依存症になると、どんな上品な酒飲みも、最後に飲むものは、昔は「俺とお前と大五郎」(アルコール純度が高く、価格が低い甲類焼酎)だったんですよ。

ーーそうですよね。

今は大五郎ではなく、ストロング系になったわけです。みんな酔うために、体の中にエチルアルコールを補うために飲んでいる。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

口当たりがいいため、強いアルコールを速く摂取してしまうのも問題と指摘する松本さん

ーー大五郎も大五郎で問題は起きていたのでは?

あれも、醸造アルコールのようなものですから問題はありましたが、口当たりはよくないから子どもは飲めませんよね。10代のリストカットをしている子が「大五郎飲んでます」なんて聞いたことがないです。

ーー若い子はかっこよくは感じないでしょうね。

ところが、ストロング系が出てくると、お酒の味が苦手な人たちでも飲めるようになりました。コマーシャルも魅力的にしています。

僕自身もちょっと飲んでみたことがあるのですが、僕に言わせれば、薬品のエチルアルコールに炭酸と合成甘味料を合体させただけのようなものの気がしました。これを酒と呼ぶなんて、酒に失礼という気もしたんです。

350ml缶を1本飲んだら日本酒1合 500ml1本でも1合半

ーー昔の酔いたい人が飲んでいたのは、大五郎だったりワンカップ酒で今はストロング系に流れている。大五郎やワンカップとの違いは何でしょう?

大五郎やワンカップは、要するに、行き着いてしまった人が飲むものでした。

ストロング系は、行き着いた人も飲むけれども、お酒の入り口にある人も飲むというところが問題なのです。

アルコール人口を増やすことに貢献していると思うんですよ。

Yuto Chiba / BuzzFeed

男性の飲酒習慣率は全般的に下がり、特に20代では大幅に下がっている

ーー若者は特に飲まなくなりましたが、飲酒量は全体的に下がっていますよね。

国税庁「酒のしおり」 / Via nta.go.jp

成人一人当たりの酒類消費量は減り、飲酒習慣のある若年層も少ない

最近、ビールの売れ行きも下がっていると言われるけれど、日本人のエチルアルコールの消費量は変わっていない気がするんです。若い人がお酒を飲んでいないにしても。

平成30年国民健康・栄養調査
国税庁「酒のしおり」 / Via nta.go.jp

ビール系飲料の中で、ビールの消費量は下がり、「新ジャンル」と分類されるチューハイ系はビールの減少に伴い増えて、最近では横ばいだ

厚生労働省 平成30年「国民健康・栄養調査」

生活習慣病のリスクを高める量(男性1日40グラム以上、女性1日20グラム以上)を飲酒している者の割合の年次比較(20 歳以上、男女別、年齢調整済み)(平成 22~30 年)。ほぼ横ばい

9%の350ml缶を1本飲んだら、日本酒換算にして1合です。純アルコールにして25.2グラムになります。

500ml缶なら1本で36グラム。2本飲めば72グラムで日本酒3合を超えます。厚生労働省が定義する「多量飲酒者」(1日平均純アルコール60gを超える飲酒)ですよね。

それはつまり、将来、様々な健康被害を約束されている人ということになります。

高濃度のアルコールを短い時間で摂取するのが問題

ーーFB投稿で500ml缶を3本飲んだら自分を失って暴れると書かれていましたが、日本酒換算で5合飲んだということですね。

大変な状態になるのは当たり前ですよね。「だったらウイスキーや焼酎だって同じじゃないか」と言う人もいますが、ストロング系を飲む人は飲むペースが速いです。

ビール並み、もしくはそれ以上で飲んでいる。飲みやすくてするするいっちゃうからです。度数の高いアルコールを速いペースで飲んでしまうのが問題です。

ーーウイスキーや焼酎と比べると、値段の差が大きいのかと思っていました。経済的に余裕のない人が飲んでしまうから。

それだけではないと思います。ジュース感覚でごくごく飲んでしまうのが問題です。ぜひストロング系を飲んでいる人を横でみていてください。飲むペースが速いから。

ーー若い時にそのような飲酒習慣がついたら、将来にも影響がありそうですか?

もちろんそれだけの量、するするとお酒をたくさん飲んでいれば、将来における健康被害はとても深刻になると思うんですね。

これを機会に財務省に僕がものを言う力もないのですが、ただ国民にそういう危機意識を持ってもらいたいと思ったんですよね。それが一つ。

もう一つ、別の要因もあるんです。

(続く)

訂正

純アルコール換算と日本酒換算を訂正しました。

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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