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街に埋もれたお役立ち情報を、困っている人への「お薬」に

「社会的処方研究所」を作るために、クラウドファンディングがスタート

「認知症の夫を家に残して出かけられず、ウツウツとしている」「がんになってしまったけれど、同じ年頃の同じがんの患者とつながりたい」「子供が小さいのに、親が病気になって介護が必要になり手が回らない」

薬や医療では解決できないが、心身の健康を大きく左右するそんな悩みごとに地域のつながりを活かせないか? 困っている人と手助けできる人をつなぐ「社会的処方」という仕組みを川崎市に作ろうと、クラウドファンディングが始まっている。

呼びかけ人の医師、西智弘さんは社会的処方が、医療や介護だけでは救われない人の健康を守る鍵になるのではないかと挑戦を始めた。この計画の目指すものについてお話を伺った。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

社会的処方の必要性を訴える西智弘さん

医療者の知識では太刀打ちできない問題が続々

川崎市立井田病院で腫瘍内科医をしている西さんは2017年4月、市民が気軽に訪れて医師や看護師らに健康相談ができる場所「暮らしの保健室」を作った。

「診察室での関係性は、どこまで行っても医療者と患者。患者さんは病院から出たら生活者として生きる時間が長いのに、日常生活で困っていることはなかなか診察室では言えません。医療者に気軽に話せる場所を作りたかったのです」

ところがいざオープンしてみると、医療スタッフのそれまでの知識やネットワークでは太刀打ちできない相談がたくさん寄せられた。

初期の認知症がある夫の世話をしていた70歳ぐらいの女性は、夫を自宅に一人残して外出できないことに悩んでいた。

「身の回りのことは自分でできるそうですが、一人でいたら何をするか心配ですし、怒りっぽくなっているので少しでも奥さんが外出しようとすると『なんで出ていくんだ!』と怒鳴るのだそうです。介護の仕組みだけでは解決できませんし、どこに相談すべきなのか私たちも頭を抱えました」

手足が震えるなど体の動きに障害が出るパーキンソン病の女性は、「外に出て少し運動した方がいいと思うのですが、一人で出かけるのは不安で仕方ない」という悩みを打ち明けた。

「お年寄りでは孤独の問題もよく見られ、『1週間ぶりに人としゃべったわ。テレビとしか話をしていないの』とホッとしたように話すおばあさんもいます。親の介護のために仕事を辞めたけれども、亡くなった後、再就職ができずに生活が苦しい中高年の貧困問題も医療や介護の仕組みでは解決が難しい困りごとです」

「地域とのつながり」を処方

スタッフが持つ知識やネットワークでは対処できない生活上の問題にどう取り組むか。

参考になったのが、イギリスの「社会的処方」という仕組みだった。医療や介護の枠組みでは救えない困りごとについて、地域の市民団体や慈善団体につなぐという方法だ。

「例えば、認知症がある夫を置いて出かけられない問題や高齢者の孤立の問題があったら、退職したり子供が巣立ったりして手が空いている近所の高齢者が話し相手になることができるかもしれない。または、地域の高校生の社会勉強の形にして、インタビューをするために通うということもできるかもしれない。あるいはすでにある支援団体につなぐこともできるかもしれない」

そのために必要なのは、街に埋もれている有用な人材や情報を掘り起こし、必要な人につなぐ仲介者だ。

「私たちは、このために『社会的処方研究所』を作り、生活上の困りごとに役立つ情報を集めるために市民に手伝ってもらう仕組みを考えました」

社会的処方研究所をどう動かすか?

西さんらが考えた「社会的処方研究所」は、社会的処方箋を作るFactory(工場)、支援の方法について学び研究するResearch(研究)、困りごとを受け付け社会的処方箋を提供するStore(店)という仕組みだ

西智弘さん提供

社会的処方研究所の仕組み。Research(研究)やFactory(工場)で作った処方箋を Store(店)で提供する。

Researchでは外部講師を招いての勉強会や役立ちそうな市民団体やサービスを視察するフィールドワークなどを行い、社会的処方箋として利用できそうな情報を集めておく。

Factoryでは、地域の市民や医療者が毎月1回集まり、「認知症」「ダブルケア」などテーマを決めて、チームに分かれてワークショップを行い、最も有用な処方箋作りを競う。メールやSNSでの参加も可能だ。

「課題を解決するのに最も素晴らしいアイディアを作ったチームには景品や仮想通貨を支払い、普段から街中の情報にアンテナを張って、質の高い処方箋を開発するため意欲につなげてもらいます。私たちはお礼を支払ってでも買取りたい質の高い処方箋作りを目指しています」

掘り起こした団体や人材が安全、安心かどうかは医療者や介護者のスタッフが専門家の視点から吟味する。しかし、西さんたちが何よりも期待しているのは、市民が普段の生活の中で何げなく触れている情報だ。

「外国人が病院に通うのに意思疎通ができなくて困っている場合は、近所にスペイン語が話せる学生さんがいるという情報が役に立つでしょうし、話し相手がほしいという庭いじりが好きなお年寄りには、近所に園芸サークルがあるという情報がうってつけかもしれません。街の中の宝探しをするつもりで、自分の周りの情報が誰かの健康問題に役立つかもしれないと思って参加してほしいのです」

Naoko iwanaga / BuzzFeed

処方箋はデータベース化 初年度の資金85万円を募集

処方箋はStoreでデータベース化し、困りごとを相談してきた人や地域の医師や行政などの問い合わせに応じて無料で配布する。たくさん集まったら、「社会的処方箋集」としてまとめる予定だ。

クラウドファンディングの目標額は85万円。初年度のResearchとFactoryの資金を集め、2018年4月にスタートする予定だ。

西さんは、「自分にとっては大したものに思えない情報でも誰かにとっては価値のあるものかもしれません。少子高齢化が進み、医療や介護でできることには限界がある中、地域の助け合いである社会的処方は未来を救う鍵になるかもしれません。ぜひこの試みに力を貸してください」と呼びかけている。

「社会的処方研究所」クラウドファンディングのサイトはこちら

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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