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「本気で風しんを食い止めようとしているのか」 無料クーポン小出しに配る対策に要望書を提出

繰り返す風しんの流行を止めようと、ワクチン不徹底世代の男性に今年度から検査やワクチンの無料クーポン券を配っている追加的対策。対象者の一部に小出しにクーポン券を配布するやり方に、患者団体が改善を求める要望書を提出しました。

流行がなかなか収束しない風しん。国立感染症研究所の統計によると、2018年からの流行の累積患者数は11月17日までに5180人になった。

流行の中心となっているのは、過去に公的な予防接種を受けていないままの40〜57歳の男性だ。

厚生省は今年度から3年間、この年代の男性を対象に、免疫の有無を調べる抗体検査とワクチンを公費で受けられる無料クーポンを配る追加的対策を進めている。

だが、今年度、対象者の一部にしか無料クーポンを配らず、検査を受ける率は低迷しているにも関わらず、厚労省の感染症部会は11月28日、来年度も残りの対象者の一部にしか無料クーポンを配布しないことを決めた。

「風しんをなくそうの会『hand in hand』」と「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろうの会」は29日、加藤勝信厚労相に対し、対象者全員に早急に無料クーポンを配ることなどを求める要望書を提出し、記者会見を開いた。

hand in hand共同代表で、先天性風しん症候群で娘の妙子さんを18歳で亡くした可児佳代さんは、「悔しいとしか言いようがない。国は本気で考えているのか」と話し、「子どもを守ろうの会」事務局長の中谷牧子さんは「この案が粛々と通ってしまったことに、悲しみと深い憤りを感じている」として改善を訴えた。

先天性風しん症候群の子どもが4人 それでも受検率は13.4%

風しんが怖いのは、大人がかかると重症化するだけでなく、妊婦が感染すると子どもの目や耳や心臓に障害が残る「先天性風しん症候群」をもたらすことだ。既に2018年からの流行で4人の障害を持った患者が生まれている。

流行を繰り返すのを食い止めるには、ワクチンで抗体(ウイルスに対する免疫)をつけた人を増やすことが必要となる。

集団で9割程度が抗体を十分持てば流行は食い止められるとされている。だが、1962年4月2日から1979年4月1日生まれ(2019年度で40歳から57歳)の男性は国の予防接種政策から漏れ、8割程度しか抗体を持っていない。

そこで厚労省は、今年度から3年間の時限政策として、公費で抗体検査を受けられ、抗体が不十分だった場合はワクチンも接種できる無料クーポンを順次、配布する追加的対策を始めている。

検査場や医療機関、事務手続きなどの受け入れ能力を考えるとして、初年度は対象者の一部の40~47歳(646万人)のみ無料クーポンを配り、少なくとも半数程度(330万人)は受けるだろうと見込んでいた。

ところが、この世代は働き盛りの世代でもあり、平日に会社を休んで検査を受けづらいなどの理由で検査を受ける率が低迷しており、今年度配布した646万人のうち検査を受けた人は9月まででわずか13.4%にとどまっている。

厚労省は職場の健康診断などで行ってもらおうと企業に協力を求めて、検査を受ける率を上げようとしている。

それでも、なかなか効果が出なかったにも関わらず、今回の感染症部会で、来年度は1966年4月2日~1972年4月1日に生まれた男性(現在48~53歳、約570万人)と、再び対象者の一部にしか無料クーポンを配布しないという対応が了承された。

これに、何とか無料クーポンを使ってもらって、流行を食い止めたい患者団体が異議を唱えたのだ。

対象者に全員配布、検査は経ずに予防接種、20〜30代にも配布を

今回の要望で、患者団体は、以下の3点を要望している。

  1. 風しん排除を達成するために、抗体検査を前提としないワクチン接種体制を構築
  2. 風しんの第5期定期接種(※今回の追加的対策)のすべての対象者に、早急に受診券を送付
  3. 妊娠子育て年代である20代〜30代の風しん報告数が多いことから、20代〜30代の男性についても第5期定期接種の対象を拡大


記者会見を開いた「VPDを知って、子どもを守ろうの会」事務局長の中谷牧子さんはまず、「検査だけでも血液を採るのと、結果を聞きに行くので2回かかり、その後、ワクチンが必要なら医療機関が取り寄せて3回は行かなければいけない。3回も会社を休まなければならないのは、働き盛りの男性としてハードルが高い」と、検査を省いてワクチン接種した方が接種率が上がると訴えた。

2については、企業健診に組み込むためにも必要だと可児さんは話す。

「企業健診で検査や予防接種を入れ込んでほしいと依頼すると、『すべての対象者にクーポン券が配られていないとやりにくい』と言われる。もし来年度にすべて配布してもらえれば、来年の健診には間に合うはずです。3年間の時限対策なのですから、できることはすべてやることが必要です」と話す。

既に4人の先天性風しん症候群の子どもが生まれたことについて、可児さんは涙ぐみながらこう話した。

「お母さんに、私たちの声が届かなくてごめんなさい、そして産んでくれてありがとうと伝えたい。お母さんは自分を責めるんです。こんな思いをもう誰にもしてほしくない。(厚労省などに)みなさんの本気度を見せてくださいと伝えたいです」

厚労省結核感染症課「市区町村に働きかけて実質的に全員配布を目指す」

初年度の実績が低迷しているのにも関わらず、実施方法を改善できないのはなぜなのだろうか?

風しんの追加的対策を担当する厚労省結核感染症課の加藤拓馬課長補佐は、こう説明する。

「実際に検査や予防接種費用を担当する市区町村、検査機関、医療機関、支払い事務を行う国保連合会など、関係各所の対応能力の問題があり、この形で方針決定せざるを得なかった」

ただ、厚労省としても、「早急に全員に配布するのが望ましいと考えていることは患者団体と一緒だ」と強調する。感染症部会でも複数の委員から、「全員に配布する方がいい」という意見が出ていたという。

それではどうするのか?

「少なくとも570万人分の予算の確保はしているので、570万人すべてが受けないことを考えれば、市区町村の判断で全員に無料クーポンを配布することに予算を使っていただくこともできる。資料のただし書きで『市区町村の希望に応じて、送付対象を拡大することも可能』と書いたのは、そんな思いを込めている」

そして、こう話した。

「流行の中心となっている大都市には特にそのような働きかけをして、実質的に全員に配布していただくことを目指したい」

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