れいわ新選組の迷走 大西つねき氏の「命の選別」発言に党内からも批判 なぜ除籍処分は遅れたのか

    れいわ新選組の大西つねき氏が発した「命の選別」発言と党の甘い対応に、党内外から批判が殺到しています。内部からも厳しい批判がなされたれいわ新選組はどこに向かおうとしているのか。経緯を振り返り、会見を取材しました。

    「命、選別しないと駄目だと思いますよ。はっきり言いますけど、なんでかと言いますとその選択が政治なんですよ」

    れいわ新選組の大西つねき氏が7月3日、自身の動画チャンネルで語った発言に、党内外から批判が殺到している。

    れいわ新選組は7月16日に総会を開き、大西氏の除籍を決めた。

    山本太郎代表は「許されません」「言葉の暴力によって身の危険を感じた皆様に心よりお詫びを申し上げます」と謝罪した。

    一方、大西氏は、総会で「謝罪を撤回する」と、改めて発言を肯定する態度を明らかにした。

    重度障害者2人を国会に送り、「人は生きているだけで価値がある」と優生思想に抗う政策を打ち出してきたはずのれいわ新選組はどこに向かうのか。

    大西氏の「命の選別」発言問題とは?

    まず問題となった大西発言を振り返ってみよう。

    大西氏は7月3日に自身のYouTubeの動画チャンネルで、「『正しさ依存症』とそれを生み出す教育について」という動画配信を実施した。

    その中で、「どこまで高齢者を長生きさせるのかというのは真剣に考える必要がありますよ」と語り始め、高齢化が進むと医療費や介護費が多くかかり、「若者たちの時間の使い方の問題になってきます」と世代間の不公平感を強調。

    「どこまでその高齢者をちょっとでも長生きさせるために子供を若者たちの時間を使うのかということは真剣に議論する必要があると思います」とした。

    さらに、「こういう話、たぶん政治家は怖くてできないと思うんですよ」と前置きした上で、「 命の選別するのかとか言われるでしょう。命、選別しないとだめだと思いますよ。はっきり言いますけど、なんでかと言いますとその選択が政治なんですよ」と命の選別が政治の役割であるかのように語った。

    その上で、「選択しないでみんなにいいこと言っていても、 たぶんそれ現実問題として無理なんですよ。そういったことも含めて順番として、その選択するんであれば、もちろん高齢の方から逝ってもらうしかないです」と語り、年齢で命の選別をすることを肯定した。

    山本太郎代表「人は変われる」一転「除籍です」

    この動画がSNSで拡散され、「優生思想ではないか」などと批判が殺到すると、7月7日、山本太郎代表は、「大西つねき氏の動画内での発言について」とする声明を党のウェブサイトで公開した。

    「大西つねき氏の動画内での発言は、れいわ新選組の立党の精神と反するもので看過することはできない」と冒頭で述べながらも、「一方でそのことによって、大西氏を除名するという判断はこちらにとっても簡単なことではあるが、それでは根本的な解決にはならない」と除籍処分はしないことを匂わせた。

    大西氏は同日、自身のブログで謝罪し、発言を撤回。

    山本代表の説明によれば、7日にこの発言に気づき、本人と面会して、「れいわを離れるか、謝罪・発言撤回の二択だ」と示したところ、本人が謝罪と発言の撤回を選んだという。

    さらに、「多くの人々の心の中にもあるであろう何かしらかの優生思想的考えに、光が当たったことを今回はチャンスと捉え、アジャストする責任が私たちにはあると考える」とこの問題を個人の問題として捉えない姿勢を見せた。

    その上で、「大西氏には、命の選別の問題に生命尊重の立場から、取り組んでいらっしゃる方々にレクチャーを受けて頂き、命について真摯に向き合うチャンスを与えたいと思う」と再教育することを示し、「人は変われる。私はその力を信じたい」と締めくくった。

    こうした党の甘い姿勢にもさらに批判が集まり、10日の動画生中継では山本代表は一転、「この言葉を聞いて恐ろしい気持ちになった方々、多くいらっしゃると思います。本当にお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした」と謝罪した。

    その上で、「私の中では数ある処罰の中でも一番重いものが該当する。つまりは除籍です」と除籍処分を党の総会にはかることを明らかにし、様々な人の心にもある優生思想を考えるための機会としたいと強調した。

    その後、7月16日に党の臨時総会を開くことを公表した。

    木村英子氏「大西氏の発言は、決して許すことはできません」

    一方、大西氏の発言に対し、内部から厳しい批判を投げかけたのが、自身も重度障害を持ち、自身の問題として優生思想と戦ってきた同党参議院議員の木村英子氏だ。

    木村氏は15日夜、自身のオフィシャルサイトで「大西つねき氏の『命の選別』発言について」とする声明を公表した。

    まず「今回の大西氏の『命、選別しないとだめだと思いますよ。はっきり言いますけど、その選択が政治なんですよ』という発言を聞いて、施設にいた頃の私のトラウマを思いだし、背筋がぞっとしました」と発言にショックを受けたことを明かした。

    その上で、大西氏の発言を以下のように強く批判した。

    「『命の選別』、この言葉は、私が幼いころから抱いていた、『殺されるかもしれない』という避けがたい恐怖を蘇らせました。大西氏の発言は、自分の命を人に預けなければ生きていけない人たちにとって、恐怖をあたえる発言であり、高齢者だけではなく障害者も含めた弱者全体を傷つけた暴言であると思います」

    「『人は生きているだけで価値がある』という理念を掲げた政党であるれいわ新選組の一員から、今回の発言が出たことに、私は耳を疑いました」

    また、党が設定した当事者と大西氏が対話する機会においても、大西氏には反省の念が見られなかったことを指摘している。

    「大西氏の発言についての当事者の意見を聞く会において、当事者たちが涙ながらに意見を訴えたにも関わらず、大西氏は自分の主張がいかに正しいかを話すだけで、当事者の必死な訴えに理解を示そうとはしませんでした」

    そして、「大西氏の処分は総会で決まることになっていますが、私は、今回の大西氏の発言は、決して許すことはできません」とした上で、最後にこう締めくくった。

    「今回の件で、弱者に対する差別が明るみに出ましたが、私は、自らの掲げる理念である『共に学びあい、共に助けあい、共に互いを認めあい、共に差別をなくし、共に生きる』を実現し、『誰もが生きやすい社会』を作るために、これからも差別と向き合い続けて、政治を変えていきたいと思います」

    「命の選別をするのが政治ではなく、命の選別をさせないことこそが、私が目指す政治です」

    総会で除籍処分 山本代表「許されません」

    れいわ新選組は7月16日、臨時総会を開き、大西つねき氏に対して「除籍処分」を承認した。様々な意見が出て総会は紛糾し、約5時間に及んだ。大西氏は離党届を出したが、党としてそれは受理せず、除籍処分とした。

    山本代表からの「除籍処分」の提案に、賛成14票、反対2票で決まったという。

    大西氏は謝罪を撤回し、「謝罪はしません」「『謝罪』とは支配的な性格を持つものだ」などと発言。また、「コロナウイルスの流行」がきっかけで「命の選別」を語るようになったと説明したという。

    総会後、会見を開いた山本太郎代表は、「言葉の暴力によって身の危険を感じた皆様に心よりお詫びを申し上げます」と頭を下げた。

    また、「彼の持っている資質に気づけなかった」とも述べた。

    そして、「大西つねきの中にあったものは山本太郎にもあるかもしれない。誰の心にもある社会的な問題。大西つねきをきっかけに向き合っていただきたい」と、優生思想が大西氏個人の問題ではないことを訴えた。

    その後、質疑応答で、当初、処分に及び腰だったのではないかという質問に対しては「処分なしにはならないというのが私の最初からの見解でした」と反論しつつ、こう釈明した。

    「火消しのためならさっさと処分するのが簡単。でもそれをしたくない気持ちがあった。(直後に直接話した)彼の中に謝罪という気持ちがあった。構成員停止処分などを考えていた」

    大西氏が総会で謝罪を撤回したことについては、「総会に到るまでに、自分の論を強化しようとしているところが私なりに感じられた。そこで除籍処分という考えになった。(総会では)謝罪を撤回するだろうなと思っていた」などと述べた。

    木村英子議員は「新選組の皆さんからは私と同じように命の選別は許せない、人として絶対に許してはならないことだと多くの意見が出たことは活動していく上で心に残っていく。大西さんの発言は社会全体に向けられる問題だと思います」と党内でも発言に批判的な意見が多かったことを明らかにした。

    また、舩後靖彦議員は、「この発言は到底容認できるものではありません。大西氏は障害者や社会的弱者を対象にしたものではないとおっしゃっている。しかし、高齢の方からという線引きを許せばあらゆるところに広がっていく」と発言を改めて批判。

    「残念ながら命の選別を認める価値観は社会に蔓延しています」とし、「大西氏を処分するだけで問題が解決するとは思えません」と大西氏個人の問題に矮小化しないよう訴えた。

    大西氏はBuzzFeedの取材に対し「17日に会見して全て説明する」と述べた。

    川口有美子さん「がっかりした。ちゃんとしてほしい」

    難病を抱える患者の支援活動をしてきたNPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会副理事長の川口有美子さんは、「れいわ新選組は重度障害者を国会に送り出すという今までになかったことを成し遂げ、生存ギリギリの人が応援している政党だと思っています。今回の発言が党の中から出てきたことにがっかりしましたし、怒りも感じています」と話す。

    当初、大西氏が謝罪し、撤回したことについては「ああいう言葉を動画で発信できるというのは本心であり、そうした生命倫理観は簡単には変えられないと思っている」と疑いの念を抱き、すぐ除籍すべきだと思っていたという。

    「でも、ああいう考え方をしている人は世の中に結構います。反駁し、論破するための練習問題を解くつもりで山本代表はすぐ切ることをしなかったのではないかと思う。対話しようと考えたのかもしれない」と処分が遅れた理由を推測する。

    ただ、生活が苦しくなっている世の中で、優生思想はますます強くなっており、こうした発言に寛容になることは当事者を不安に陥れていることを指摘する。

    「新型コロナなどでみんなが大変になっている時代に、ああいう強い、わかりやすい言葉で解決策を示す人は出てくるものです。大西氏のような単純な言葉を使う人が強い力を持っていくと、ヒットラーのような人物になりかねない。れいわ新選組はそうした恐れも見据えて、ちゃんとしてほしい」

    筋ジストロフィーの詩人、岩崎航さん「希望をれいわに見ていることを忘れないで」

    筋ジストロフィーがあり、生活の全てに介助を必要とする詩人、岩崎航さんは以下のコメントを寄せた。

    どんな理屈をつけようと、命の選別をするのが政治だという乱暴な考えを断じて容認することはできません。


    「ぶっちゃけ本音」という盾を構えた上で敢えてセンセーショナルな表現をすると、ある一定の受けを狙えるとして、計算して社会にもの言うひとが増えているのではないか。


    れいわ新選組は、小さい政党ですが、2人の重度障害者をはじめて国政に送り出した稀有な政党です。
    重度障害者をはじめとして社会的に弱い立場にいる多くの人が、期待という言葉だけでは追いつかないほどの希望をれいわの活動に見ています。


    言われなくても分かっていると信じたいですが、れいわ新選組と、代表の山本太郎さんは、そのことを忘れないで、今後も活動していってほしいと思います。