• medicaljp badge

5時間で1300万円が溶けた......  仕事中でも電車の中でも24時間できるオンラインカジノの怖さ

山口県阿武町の誤送金問題で、振り込まれた男が使ったと供述して話題になったオンラインカジノ。7000万円の借金を抱えることになった当事者が、いつでもどこでも多額の賭け金を注ぎ込めるこのギャンブルの恐ろしさを語りました。

公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」が5月18日に都内で開いた啓発フォーラムにオンラインカジノにハマった当事者が登壇し、いつでもどこでも手軽に多額の賭け金を突っ込めるこのギャンブルの恐ろしさを語った。

山口県阿武町が4630万円の給付金を誤送金した問題で、振り込まれた男が使ったと供述して話題となっているオンラインカジノ。特に若者で急速に広がっており、深刻な社会問題となっている。

主催した同会代表の田中紀子さんは「大人たちは『若者から稼ごう』ではなく、『若者を守ろう』であるべきではないか? 大事な日本の宝物であり、これからの日本を担う若者がギャンブルで未来を奪われないように、死ぬことのないように守らないといけない」と訴えた。

オンラインカジノにハマった男性「ネットゲーム感覚だった」

フォーラムに登壇した不動産コンサルタントの男性(38)は、コロナ禍でハマったオンラインカジノで7000万円もの借金を抱えることになった。

学生時代からパチンコやスロットを始め、30代で稼ぎ出した頃からカジノに手を染めた。休みに海外に行ってはカジノに通うようになったが、2020年から新型コロナウイルスの流行で渡航できなくなり、オンラインカジノに手を出すようになった。

会員登録をして、お金を振り込むだけで5分以内にはゲームができる。モニター越しにはリアルなディーラーがいて、プレイヤーはチャットでやり取りしながら、画面上のテーブルにチップを積んでベット(賭け)する。

「クレジットカードも使えるし、仮想通貨のビットコインでの入金もできる。今は銀行アプリでネット振込みができるので、銀行の窓口に行くことなく365日24時間できます。ネットゲーム感覚で、モニターに映る金額の数字が増えた・減ったぐらいの現実感しかありませんでした」

ところが、振り込みは簡単なのに、出金は簡単にはいかない。高額になると審査があり、出金に1ヶ月待たされることもあった。

「待っているうちに、気づいたら出金手続きをキャンセルして、出金するはずのお金を賭けていたこともあります」

最初は5万、10万単位で賭け、そこそこ勝つこともあったが、なかなか出金されない間にその儲けも突っ込み、残金がゼロになるまで賭けを繰り返すようになった。妻が寝ている脇で背中を向けて寝ながら、布団の中でスマホの画面に一人没頭していたこともある。

5時間で1300万円「負けた分を取り返す!」

最後になった賭けでは、1日に1300万円を突っ込んで全て失った。

「時間で言うと、10時半に最初の100万円を入金して、午後3時半に最後の100万円を入れるまで13回入金しました。1回の上限が100万円なのですが、1 日いくらまで振り込んでいいという上限はなくて、歯止めにはならない。最後の500万円は数分以内で100万円突っ込むような状況で、スピードも早くなっていました」

次々に入金を重ねている時は、これをスってしまうという不安は全く頭に浮かばなかった。

「ただただ熱くなって、負けた分を取り返すという気持ちしかないので、口座にあるだけ突っ込んでやろうという気持ちでした」

実はその少し前から「自分はギャンブル依存症かもしれない」と気づき、自分の意志で少し止めていた期間もあった。だが、再びギャンブルの虫がうずき出し、再発。気づいた時には7000万円もの借金を抱えていた。

「自殺するしかない」妻から自助グループを紹介されて

「もう自殺するしかないと思って妻に離婚を告げると、『どんな状態でも、あなたを愛している』と書いた手紙をもらいました。そこで初めてギャンブルをやっていたと打ち明けました」

しかし、妻は既に気づいており、1年前から一人でギャンブル依存症の自助グループ「ギャンブラーズ・アノニマス(GA)」に相談に行っていた。「ここに連絡してみたら?」と田中紀子さんの名刺を渡され、電話をしたのが自助グループにつながったきっかけだ。田中さんは2時間話を聞いてくれて、一緒にGAの会合に行った。

今はGAに通い続けており、あれから一度もギャンブルはやっていない。

「リアルのカジノは飛行機で行かなければいけないですが、オンラインはその手間がない。お金さえあれば、トイレでも電車でも仕事中でもできちゃうという違いがあります」とその手軽さに問題があると語る。

今は働きながら、借金の返済を続ける日々だ。

「僕と同じ問題を抱えている人はたくさんいると思いますが、自分ではなかなか問題に気付けない。啓発や規制が必要だと思います」と訴える。

コロナ禍で増えたオンラインギャンブルと過剰な宣伝

ギャンブル依存症問題を考える会の分類では、「オンラインギャンブル」は、競輪や競馬、競艇などの「公営競技」、「FX・仮想通貨・バイナリーオプションなどの投資や投機」、そして今問題になっている「オンラインカジノ」の3種類に分かれる。

同会の調査では、コロナ禍で巣ごもり需要が増えている影響か、2021年にはオンラインギャンブルにハマった人が平年の2倍近くになった。

コロナ禍で現地に行かなければいけないテーマパークなどの客は激減する一方、ネットで簡単に投票できるようになった公営競技だけが売上を逆に伸ばしている状態だ。

「特に飲食業の方は夜に全然営業ができないので、突然暇になる。『趣味も持っていないし、何をやったらいいかわからない。パチンコ屋に行くわけにもいかないので、競馬をやるようになっちゃったんだよね』という相談が増えています」と田中さんは明かす。

「なぜこんなに伸びているのかといえば、ものすごい宣伝活動がある。『簡単にアプリで投票できる』とアプリ業者が宣伝を打っている。競艇のアプリを登録するだけで最大4000円が当たる、とか、1000ポイントプレゼント、というのが、なぜ許されるのか疑問です。パチンコで同じような宣伝をしたら批判されるでしょう」

賭け金を振り込むために業務提携をしているネットバンクの宣伝も激しく、最近は投票券の後払いシステムもできた。ギャンブル依存症の人が手元にお金がなくてもギャンブルをやり続ける環境がすっかり整ってしまっている。

「ギャンブラーの心理としては、後払いだったら支払い日が来るまでに必ず当たりが出ると思う。絶対取り戻せる、むしろ取り戻せるまでやるべきだ、取り戻せるまでやらないのは根性がない、という気持ちになる。自分の恐怖に打ち克て!みたいな気持ちになるんですよ」

一方、最近、投資や投機の広がりに影響しているのは、低金利時代を背景に、本来は地道な研究と準備が必要でリスクも伴う投資を「手軽に儲かる」と推奨するコンテンツがYouTubeなどに溢れていることだと田中さんは言う。

「人気YouTuberが投資を推奨して、『投資をしない人 貧乏確定』とか『投資しないと人生詰む』などと掲げている。それを見た若い子たちが夢を見て、手を出してしまうのかなと思います」

若者の間で急増するオンラインカジノ

そして、最近、急増しているのがオンラインカジノだ。2022年にはこの傾向がさらに加速しており、依存症者がハマっているギャンブルの12.5%がオンラインカジノになっている。

さらに、同会の調査では、はまっている世代の60%が20代だ。平均年齢は30.8歳と若く、若者の間で広がっていることがわかる。

田中さんは、オンラインカジノは日本では違法という見解が出されているにもかかわらず、「違法でも合法でもない」という誤った情報がネットで流れていることが、若者が手を出すハードルを下げていると説明する。

さらにTwitterなどのSNSで「スマホがあればドコでも出来る」などの宣伝文句を掲げるオンラインカジノのアカウントが放置されていることにも疑問を投げかける。

「阿武町の事件を契機に、日本で違法で公序良俗に反するものに関しては、SNSの運営会社も責任を持ってほしい」と訴える。

ギャンブル依存症回復施設「グレイス・ロード」の調査では、オンラインギャンブルにハマると入寮者の借金額は急増し、最大で9200万円の写真を抱えていた人もいる。若いうちにハマると、人生のスタートで持ちきれない重荷を抱えることになりかねないのだ。

内閣官房参事官 「日本ではオンラインカジノは違法」と明言

続くシンポジウムで、「オンラインカジノは違法なのか?」と問われた内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部の榎本芳人参事官は、「元々違法」とした上で、取り締まりの対象ということになる」と明言した。

ギャンブル等依存症対策基本法」に基づく国の「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」の改定版が今年3月閣議決定されたばかりだが、その「違法に行われるギャンブル等の取締りの強化【警察庁】」という項目でも新たにこう明記された。

警察庁は、都道府県警察に対し、違法なギャンブル等の取締りの指示を徹底し、ゲーム機等使用賭博事犯(オンラインカジノに係る賭博事犯を含む。)の取締りが実施されるなど、違法なギャンブル等の排除と風俗環境の浄化を推進しており、平成 31 年基本計画で
設定した目標を達成したと評価できる。
今後の取組としては、違法な賭博店等に係る情報の収集に努め、ゲーム機等使用賭博事犯の取締りを実施することを通じ、違法なギャンブル等の排除と風俗環境の浄化を推進していく。(ギャンブル等依存症対策推進基本計画より)

そして啓発の強化に取り組んでいくことを述べた。

依存症対策に取り組んできた内閣総理大臣補佐官の中谷元氏は、「依存症対策基本をを作った頃はオンラインカジノが出てくるとは想定していなかった」として、「対策をしなければならない」としつつも、こう規制の難しさについて述べた。

「通信傍受法があって、携帯電話やコンピューターで通信したというのは個人の通信の一部ですから、勝手に捜査できない。非常に難しい」

精神科医「オンラインカジノは金銭感覚が狂うまで早く、うつの度合いも強い」

昭和大学附属烏山病院でギャンブル依存症患者を診ている精神科医、常岡俊昭さんはこの1年でオンラインカジノにハマっている患者が増えているといい、「ギャンブラーは元々うつを合併しやすいが、うつの度合いがオンラインカジノにハマってきた人は強い印象がある。現金が目の前にないので、始めてから金銭感覚が狂うまでが明らかに早い」と注意する。

24時間できるため、睡眠時間が確保できなくなることも、精神状態の悪化に影響していそうだという。

こうしたギャンブル依存症の問題に、業界団体も競輪場などで、自分はギャンブル依存症の可能性がないか来場者にテストを受けてもらう取り組みを始めている。だが、オンラインギャンブルの対策はまだ手付かずのままだ。