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これさえ知っておけば怖くない! 気になる症状、治療、予防、サル痘の基礎知識

国内でも2人の感染が報告された感染症「サル痘」。いったいどんな病気なのでしょうか? 感染研の感染症危機管理研究センター長は、「日常の社会生活をしていてうつるような感染症ではありません」と落ち着いた対応を呼びかけます。

日本でも2例目の感染者が確認され、話題となっているサル痘。

どんな病気で、感染予防や治療の手段としては何があるのでしょうか?

そして、今回の流行の特徴は?

日常生活を送る中で、広く誰でも感染するような感染症ではないので、正確な情報を知って、落ち着いて対応することが必要です。

国立感染症研究所の感染症危機管理研究センター長の齋藤智也さんに話を聞きました。

※インタビューは7月28日に行い、その時点の情報に基づいている。

サル痘ってどんな感染症?

——まずサル痘とはどんな感染症なのでしょうか?

サル痘ウイルスに感染することによる急性発疹性疾患です。

文字通り、サルから見つかったのでサル痘ウイルスと言います。飼育しているサルから、1958年に発見されました。

オルソポックスウイルス属という仲間に入るのですが、似たウイルスでは、既に病気が根絶された「天然痘ウイルス(痘そうウイルス)」や、痘そうウイルスのワクチンに使用される「ワクチニアウイルス」、牛も感染する「牛痘ウイルス」があります。

サル痘は形態的にはこれらのウイルスと見分けがつきません。

「サル痘」という名前なのですが、自然界で感染しているのはどうもサルではなさそうです。リスなどのげっ歯類が多いとされていて、いわゆる人と動物に共通してうつる感染症です。

最初に人に感染が確認されたのは1970年のコンゴ民主共和国です。天然痘撲滅運動の中で、見つかりました。

感染経路は? 今回の流行での主な感染ルートは性的接触

——どんな感染経路なのでしょうか?

サル痘のこれまでの感染経路は、基本的に動物から人でした。感染動物から噛まれたり、血液や体液に接触したり、感染する動物の狩りをしたり食べたりもリスクです。人から人へはあまりうつらないというのがこれまでの見解でした。

呼吸器からの飛沫や、(発疹など)皮膚病変に接触することによる感染が、主な感染経路と考えられています。病変のある皮膚に触れた寝具を介した感染も知られています。

ところが、今回の流行では、主な感染経路がこれまでと大きく変わりました。

男性、特にMSM(Men who have sex with men、男性とセックスする男性)で感染者が多く、病変も性器周辺や肛門周辺 でよく見られています。性的接触での感染はこれまであまり報告がなかったのですが、今回の流行ではほとんどがこの性的接触が関係しているとみられているので、注意が必要です。

ただ、女性や子供も感染していますので、MSMの病気と考えるのは間違いです。

——潜伏期間中も感染はするのですか?

どうも症状が出る前から感染する可能性はあると考えざるを得ません。感染が疑われる場合は、性的接触に注意する必要があります。

症状は? 性器や肛門周辺からの発症が多い

——どんな症状が出てくるのですか?

潜伏期間は少し長めで5〜21日、通常は1週間から2週間ぐらいです。

最初は風邪のような症状から始まります。発熱、頭痛、リンパ節が腫れる、筋肉痛が数日続いた後に、特徴的な発疹(ぶつぶつ)が出てきます。

これまでの典型的な例では、発疹は顔面から出てきていました。それが体全体に広がっていきます。発症から2〜4週間ぐらいですべてかさぶたになって落ちていきます。それで治癒します。

ところが今回の流行では、多くの人で発疹が性器や肛門にみられます。性的接触による感染が多いため、症状の出る部位がこれまでと異なっていると考えられます。発疹が風邪のような症状の前に出ることもあるようです。

発疹は見えている皮膚だけでなく、口の中、陰部の粘膜、目の結膜粘膜にも出てくることがあります。

発疹は、最初はプチっとした水膨れができて、そこに膿みが溜まったようになってきて、真ん中に少しへこんだようなへそのようなものができてくるのが特徴です。それが崩れるように潰瘍ができて、かさぶたができる、という具合に進んでいきます。

これはイスラエルの症例ですが、典型的な症状が出ています。ただ、他の感染症と見分けるのが難しい。顔の発疹を見ると、根絶された天然痘とそっくりで、最初に診た医師はドキッとすると思います。

イギリスの症例を見ても、こういう発疹は他にもありそうで、なかなか見分けがつきにくいと思います。

重症化するとどうなる? 致死率は低い

——重症化することはありますか?

多くは軽症か中等症で、自然に治ります。

ただ、悪化すると脳炎を起こしたり、皮膚病変の部分が細菌などに二次感染したり、脱水、気管支肺炎、敗血症など、重症化することもあります。

子供で致死率が高いことも知られています。

天然痘のワクチンを過去に接種していない人たちで重症化しやすいことがわかっています。天然痘のワクチンはサル痘にも効果が期待されています。

(ウイルスは)中央アフリカ系統と西アフリカ系統と呼ばれるものに分かれていて、中央アフリカ系統の方が致死率が高いです。

今回の流行は、西アフリカ系統のものです。近年の致死率は3%程度で、死者は非常に少ないです。

若者や未治療のHIV感染者が亡くなっている割合が高いことも報告されています。

基本的に、命を脅かすような病気ではありません。

治療法は?

——治療法は?

ウイルスに効果のある治療法は今はなく、症状を和らげる対症療法を行います。

一応、サル痘の抗ウイルス薬の候補とされているものが3つあります。

そのうち、海外で天然痘の治療薬として承認されているのは、生物テロ対策として承認しているブリンシドフォビルと、テコビリマットという二つです。

これがサル痘に対して効くかどうかですが、イギリスの2018年の感染者3人に投与しているのですが、ブリンシドフォビルを使ってから潰瘍ができた部位や呼吸器、尿、血液のウイルスがどうなっているか調べています。

しかし、ウイルス量が下がっているとは確認できませんでした。しかも使用期間中に肝機能障害が起き、途中で投薬が中止されています。

論文としての結論は、有用性は認められず、全例で肝機能異常が確認されたという報告になっています。

もう一つのテコビリマットは、天然痘が撲滅しているので代わりに動物を使った治験のようなものをする特別な方法でアメリカは承認しています。カナダも承認しました。

EUではサル痘も含めたポックスウイルス属のウイルスに対する抗ウイルス薬として承認しています。

イギリスでサル痘の一人に投与しているのですが、ウイルス排出期間も短く、有害事象もなかったと報告されています。

日本では抗ウイルス薬は承認申請がされていませんが、いくつかの医療機関で特定臨床研究に参加することで投与を受けることができる体制ができています。

ワクチンは?

——ワクチンはありますか?

天然痘ワクチン(痘そうワクチン)がサル痘にも効果があると言われています。

天然痘ワクチンは天然痘ウイルスを使っているのではないかという誤解がありますが、使っていません。似た「ワクチニアウイルス」というウイルスを使っています。

生物テロ対策として開発が進められており、製造法が異なる3種類のものがあります。今日本が持っているのは、副反応を抑えた第3世代の「LC16」というものです。

一般的に天然痘ワクチンは、サル痘にも効果があると考えられており、アメリカ、カナダは第3世代のワクチンをサル痘でも製造販売承認しています。

実際にサル痘に対する予防としても使われたことがあります。英国で接触者や医療スタッフに使った経験があります。

日本で備蓄しているのは、純国産のワクチンです。最初は子供の接種成績で承認しましたが、大人での接種成績も積み重ねられています。サル痘への効果を示した効果はありませんが、期待はできます。

6月15日からは国内でも、感染者の濃厚接触者に対して、感染予防措置として臨床研究として接種できるようになっています。

——天然痘ワクチンをうっていない世代は何年生まれですか?

1976年生まれ以降はうっていないです。接種している世代は、感染せずに済んだり、発症した時に軽く済んだり、無症状になったりする可能性は高い。ただそれがどれぐらいの割合かは分かりません。

——今後、未接種の世代に接種する可能性はありますか?

今はないですね。感染リスクや発症によるリスク、副反応リスクも考えると、濃厚接触者や高い曝露リスクがあって希望する人がまず対象になると思います。

どこで流行しているの?

——ヨーロッパで流行が拡大したことで話題になってきましたが、今回、どうして世界中で広がっているのでしょうか?

1970年代から1990年代にかけて、サル痘は中央アフリカや西アフリカで流行していて、特にコンゴで流行していました。2000年代に入ってからは急速に増え、数万単位になりました。

ナイジェリアでも増えてきた影響で、イギリスやイスラエル、シンガポールなどに輸出症例が出てきました。増えていくにつれ、最初は非常に若い人の間で広がっていたのが、20代ぐらいが中心になってきました。天然痘ワクチンの接種有無の影響です。

最近までアフリカ諸国での流行が継続していました。ここ数年増えてきた印象はあったのですが、新型コロナの影響もあって、正確に状況がわからない状況でもあります。

これまでの流行はほとんどアフリカ内で、アフリカ外で確認された事例はここに書かれたものだけでした。アメリカでの流行は特殊で、ガーナから輸入したプレーリードッグから47人感染したという、動物からの感染でした。

今回の流行については、5月7日に、イギリスがナイジェリア渡航後のサル痘患者を報告したのが始まりです。

その次の週に、5月13日には、7日の症例とは関係なく、渡航歴がなく、渡航歴のある人との接触もない2人の家族症例が報告されました。ある程度、コミュニティで広がっていることが想像されたわけです。

またその直後に、同じく渡航歴がなく、先に報告した例とも関係がない4人の感染者が報告されました。

この4人は、ゲイ、バイセクシュアル、MSM(男性とセックスする男性)です。

WHOは、7月23日にサル痘について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。WHOの集計によると、今年に入ってから報告された感染者は7月27日現在で1万9178人に上ります。

98.9%は男性で、年齢の中央値は36歳。性的指向がわかっている感染者の98.3%がMSM(男性とセックスする男性)でした。また、感染した可能性が高い場所としては、性的接触のあるパーティー会場が最も多いようです。

ただ、年齢が確認できた1万3933人のうち、0~17歳は84人で、そのうち0~4歳は24人と、子供の感染も見られます。

日本でも7月25日に、都内に住む男性が感染していることが報告されました。また、28日にも都内滞在の北中米に住む男性が2例目として確認されました。二人が接触したことはないようです。いずれもおそらく輸入症例のようですね。

日本での対応は?

——日本ではこの2例以外に見つかったことはないのですね。

日本ではこれまで、この2人以外に報告された事例はありません。

——2例見つかったということは、既に国内である程度広がっていると考えた方がいいですか?

今回は輸入症例ではありますが、ほかにも海外で感染して日本に戻っている方がいる可能性はあると思います。サル痘感染者と接触した可能性があって、疑わしい発疹があったら人との接触を極力さけ、お医者さんにかかってほしいです。

2003年のアメリカでのプレーリードッグによる感染をきっかけに、感染症法上に、日本では4類感染症に位置付けられ、診断した医師は保健所に届出をすることになっています。

今回の流行の特徴は?

——今回の流行の特徴は何でしょう?

西アフリカ系統のウイルスであることがわかっていて、重症化しにくいウイルスです。

ほとんどの症例は男性です。性的指向がわかる人の多くはMSM(男性とセックスする男性)を自認する若い男性です。性器や性器周辺に病変があり、性的接触で感染したことが考えられるとされています。

これまでは性行為で感染するとはあまり知られていませんでした。

過去の流行ではまず顔に出て、体全体に広がる形でしたが、最近の報告によると、発疹が性器や肛門周辺から始まり、その後体全体に広がっています。直腸炎を発症した患者もいるようで、直腸に発症すると非常に痛く、その痛みのために入院することもあると聞いています。

ここで注意したいのは、MSMだけに感染は限られないということです。「ゲイがかかる病気だ」などの誤解がないようにと思います。

今後の対策は?

——我々はどのように気をつけたらいいでしょう?

とにかく患者さんを早く見つけ、接触者を調べることで人から人への感染を早めに断つことが大事です。それによって防ぎ切ることが十分可能な感染症です。逆に言えば、広がれば広がるほど封じ込めは難しくなります。

外務省は7月25日、全世界の渡航に対して「感染症危険情報」のレベル1を発出し、十分に注意するよう呼びかけました。入国時に検疫すべき病気にはなっていません。

新型コロナのような爆発的な流行になることは考えられません。感染者が少ないうちに対策を行えば確実にコントロール可能な感染症です。

ただ、これからも輸入症例があるでしょうし、そこから国内でもパラパラ感染することはあると思います。そこから国内のコミュニティに広がることがあるかどうかは、何とも言えません。

リスクの高い行動を取る人は気をつけていていただかなくてはいけません。


特に以下の人は発疹などがないか、体調に注意してください。

  1. 21日以内に常在国外のサル痘症例が報告されている国に滞在歴があり、滞在先で他者との濃厚 接触(性的接触を含む)があった人
  2. 21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に滞在歴がある人と濃厚接触(性的接触を含む)があった人
  3. 21日以内に複数または不特定の者と性的接触があった人


発疹が完全に治って、かさぶたが落ちるまでは感染力がありますので、周囲の人となるべく接触しない。ヒトからペットへの感染はこれまで報告はありませんが、動物にも感染する可能性があるのでペットの動物などとの接触も避けるべきです。

また、子供や妊婦、免疫が落ちている人は重症化するリスクがあるので、そのような人との密な接触や性的接触も避けることが大事です。

重症化リスクがある接触者に対しては、ワクチンの接種も考えられます。

差別や偏見は、感染拡大を招く

日常生活を送る中で広く一般に感染するリスクがあるかといえば、そういうリスクは低い感染症です。感染リスクが高くなるのは感染した人との密接な接触です。それ以外は恐れるものではありません。

今は、報告された患者さんの多くは男性であり、男性間で性交渉を行う者が多く含まれていることが各国から報告されています。不特定多数の人と性的な接触をする人は特に注意が必要です。ヨーロッパなどでは大規模なクラブイベントやパーティーなどとの関連が指摘されています。

ただし、女性や子供も感染しますし、性的接触に限らず呼吸器飛沫でも感染するので、感染者と密接な接触があれば、だれでも感染し得ます。肌と肌が密着することや、ディープキスでもうつる可能性があります。

流行地域に行く時には、性的接触や近距離で飛沫を長く浴びるような行動は気をつけてください。コロナほどの感染力はなく、同居家族のように長く密接に過ごすぐらいでなければ感染はしません。

セクシュアルヘルスの観点から言えば、サル痘以外にもさまざまな注意すべき感染症があります。コンドームの使用など適切な予防行動を忘れず、互いの症状、体調、行動に注意しながら、安全で健康的なセックスを楽しんでもらえればと思います。

もし、特定の属性や集団への差別や偏見があると、症状があったときに受診しようという行動を妨げる可能性があり、感染拡大にもつながります。客観的な情報に基づいて、先入観を持たない判断と行動が必要です。

流行状況については常に最新の情報に触れてください。

【齋藤智也(さいとう・ともや)】国立感染症研究所感染症危機管理研究センター長

医師、医学博士、公衆衛生学修士。慶應義塾大学医学部熱帯医学・寄生虫学教室助手・助教、同大グローバルセキュリティ研究所研究員を経て、2011年4月より厚生労働省厚生科学課健康危機管理対策室で公衆衛生危機管理を担当、結核感染症課で、新興感染症・バイオテロ・新型インフルエンザ対策に従事。2014年4月より国立保健医療科学院上席主任研究官、2020年1月より部長、2021年1月より現職。専門分野は公衆衛生危機管理、バイオセキュリティ。