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「将来の生活不安が差別をはびこらせている」 障害を持つ人の集会で抵抗の声

障害者が社会に対してあらゆる命の尊重を訴える「みやぎアピール大行動2018」で、杉田水脈議員の「生産性がない」という言葉に批判の声が相次ぎました。

障害を持つ人があらゆる命の尊重を訴える「みやぎアピール大行動2018」が9月24日、仙台市で開かれ、最近の強制不妊手術訴訟や障害者雇用の水増し問題などと共に、杉田水脈議員が「生産性がない」と書いた寄稿に続々と抗議の声が上がった。

障害者の人権問題に取り組んできた立命館大学教授の立岩真也さんは、少子高齢化が叫ばれる時代、命を選別しなければ国民の生活が立ち行かなくなるとする不安が蔓延していることが背景にあると指摘。

「何となく信じ込まされているものから距離を置くことが必要」と語りかけた。

障害を持つ当事者の一人として発言した詩人の岩崎航さんは、「生産性があるかどうかで人権に軽重をつけ、人の生き方や命の価値まで測ろうとするのは、人間を軽んじ、馬鹿にしていることです。そんな誤った考えは断固拒絶しなければなりません」と力強く訴えた。

最後に参加者約100人は、「優生思想を許すな!」「多様性を尊重しよう!」と声をあげながら、車いすなどで仙台の街をパレードした。

少子高齢化での生活不安 「優生思想」がじわじわと”常識”に

「みやぎアピール大行動」は、障害者自立支援法が全面施行された翌年の2007年から毎年開かれている。障害の種類を超えて集い、障害者支援に関する制度の改善を訴えてきた。

旧優生保護法に基づく強制不妊手術に対する国家賠償訴訟が宮城県からも起こされた今年は、「生存学」を提唱し、こうした障害者の人権侵害や抵抗の歴史に詳しい立岩真也さんが基調講演をした。

全国の障害者が連帯して杉田水脈議員の発言の撤回と謝罪を要求する「生きてく会(すべての人が差別されることなく安心して生きていく会)」の運営にも関わる研究者だ。

立岩さんは、訴訟やアピール行動という手段を使って、障害者の垣根を超えて集い、声をあげる意義を高く評価した上で、2016年に元障害者施設職員の男が心身に障害を持つ入所者ら19人を殺し、26人に重軽傷を負わせた相模原事件に触れた。

「犯人の言っていることは突拍子もないと思われているかと言えば、今はおかしいと思われていないところがこの事件を忘れてはいけない理由です」

「この男は社会や国家の未来を心配し、こういう形で障害者を生かすことを続ければ社会がもっと大変なことになる、だから社会を危機から救うのだというある種の正義感にかられてやったと言っています」

「誰もそんなことはしないけれど、手前のところで(植松被告と同様のことを)思っている。植松被告はそれを真に受けて人を殺しましたが、素っ頓狂な信仰に過ぎないと言えない状況になっていることが、問題なのだと思います」

「少子高齢化という言葉を小学生でも知っている今、より生産に励み、生産しないものは産まれないようにしておかないと、この世の中はやっていけないらしいというある種の常識が根っこにあって起きた事件だと思います」

その上で、こう問いかけた。

「仮に社会が大変になり、人の生命を維持するために苦労したり工夫したりしなければいけないとしても、直接的に生産に貢献できない人間と一緒にやっていく覚悟があっていい。大変なんだろうとなかろうとみんなで一緒にやっていかなければならないと心を定めていいと思います」

「一緒にやっていく覚悟」と「本当に大変なのか問う冷静さ」

さらに、少子高齢化で生産性が失われ、社会が成り立たなくなるという危機感を改めて問い直す必要性を語った。

「大変だろうとやっていくという覚悟と、本当に大変なのかを問う冷静さと両方が必要です」

「労働力が足りなくなって、生産性が失われて困ることはありえない。例えば定年という制度がありますが、60や65で働けない人は今時いない。寿命が長くなれば働ける期間の割合も増え労働力は余ってくる。今は働ける人を無理やりリタイヤさせている」

「女性が外で働きたいと言っても諸般の事情でそれができない。保育園や学童保育があればやってもいいという人を加えれば、人口の何十%はいる。にも関わらず、その状況を冷静に見ないで大変だという考えに乗っかり、その中で社会を動かさざるを得ないと言っているのが今の政治です」

そして、杉田議員の「生産性がない」という寄稿や、アナウンサーの長谷川豊氏の「自業自得の人工透析患者を殺せ」という主張を取り上げ、彼らが政治を志しながらこうした言説を振りまいていることについてこう分析した。

「彼女らは物心ついた時には既に少子高齢化という言葉が世の中にあり、バブル崩壊後に社会の中で失業者がたくさんいるという中で育った。世の中は放っておいたらもっと大変になるという空気の中に生き、それを前提にして政治家になろうとした人たちです」

「だから一人一人を咎めるだけで済む話ではない。もちろん一人一人の言ったことを放っておかないことは大事です。ただ、一人一人のレベルを超えた社会の見立てがある」

そして、こう訴えた。

「ただ単に、それに対して違う、生命は尊いのだと言うだけでなく、それに加えて、我々を覆っている根拠のない暗さから距離を置いてみる。なんとなく信じ込まされているものから身を離して安心してみる。大丈夫なんだってさと思うことがとても大切なんだろうと思います」

杉田議員の発言を黙認する空気を徹底的に拒絶

続いて、 心身に障害を持つ当事者や性的マイノリティら5人が「当事者発言」を行い、 仙台市在住の詩人、筋ジストロフィーによって人工呼吸器をつけ、生活の全てに介助が必要な岩崎航さんも壇上で声をあげた。

岩崎さんは、まず杉田議員の「生産性がない」とする寄稿について触れ、こう問題を指摘した。

「差別に基づく偏った発言を、国会議員や有名作家など社会的に影響力のある人が垂れ流すのは、近年の見飽きた風景になっていますが、今回はスルーしてはならない危機感を持ちました」

「なぜなら、特に、国政を担う公人の立場で『生産性がない』から支援の必要もないと判断してしまう部分は、LGBTの人たちへの差別に留まらず、重度の障害者にも、子を産まない人生を送る人をも傷つける攻撃になるからです」

そして、障害者についても、「非生産的な存在で税金で公的に支援することは無駄だ」と考える人も社会に一定数おり、相模原事件の植松聖被告と同質の発想だと指摘した上で、杉田議員の発言についてこう批判した。

「杉田議員の主張が極めて悪質だと思うのは、社会の中で影響力のある政治家が発言することで、こうした暴力の芽を社会に広げてしまうからです」

「人はいつどうなるかわかりません。自分自身、もしくは家族や友人が、生まれつきだったり、不慮の出来事で障害を持つこともあるでしょう。気づいたら同性の人を愛するようになっていることもあるでしょう。子供を産みたくても産めない体になる場合もある。さらに言えば、マイノリティかどうかに関わらず、歳をとったら全ての人が公的支援を受けることになります」

「支援される立場になる、ということを自分ごととして考えていないから、支援に対して身勝手な基準を設けてしまえるのではないでしょうか」

その上でこう言い切った。

「ただそこにいるだけでいい、生きているだけで十分というのが人の命であるはずです。外部から条件などつけてはいけないし、つけられるはずがない。そんな貧しい思想を流してはいけないし、許してはいけない。徹底的に戦わなければなりません」

性的マイノリティの一人も「対話の場を」と呼びかけ

男性のパートナーと暮らす性的マイノリティで、「レインボー・アドボケイツ東北」の小浜耕治さんもやはり杉田議員の寄稿について、「LGBTは子供を産まず、生産性がないから支援はいらないというひどい差別を言った人がいます」と批判し、こう言った。

「これまでにもこうした差別的な発言をする人はいて、私たちはまた言われたと悲しい気持ちになりました。でも、悲しむだけでなく、それはおかしいと怒って、異議申し立ての声をあげました」

「いのちに重み付けをするのは間違っていますし、国の大事なことを決める人が間違った考えを持っているのはダメなことだからです」

小浜さんは、性的マイノリティだけでなく、支援者や障害者も一緒に怒りの声をあげたことを心強く感じたと語り、宮城県で「みやぎで多様な性とともに生きる有志の会」を立ち上げて自民党宮城県支部連合会に対話の場を持つよう呼びかけたことを明かした。

「多様な性のことや命に重みづけをするのは間違っていることについてよく話し合える場を作りましょうと提案しました。来月中にはちゃんと返答するということです」

そして、こう呼びかけた。

「多様な性のことも、障害のことも、それぞれ別のことだけれどもお互いによく知ることも必要です。今日のように、分野を超えて一緒に考え、広く社会に訴えていく機会ができたことが本当に嬉しいと感じています。これからも私たちの間で、そしてもっと広く地域の人とこうした対話をしていける機会を作っていきましょう」