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HPVワクチンの接種率は14.4% 「8割は一生に一度は感染する」が接種意欲を高めるポイント?

HPVワクチンの接種率は14.4%と推定されることがみんパピの調査でわかりました。最大の課題は不安感をどう払拭するか。「性交渉をしていれば8割は感染する」という情報が接種意向に影響しそうなこともわかりました。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV )への感染を防ぐHPVワクチン。

日本では小学校6年生から高校1年生までが公費でうてる定期接種となっているが、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、接種率が一時1%未満まで激減した。

このワクチンについて医師らが啓発する「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」は、無料でうてる最終学年である高校1年生の女子とその保護者を対象にHPVワクチンに対する実態・意識調査を行った。

その結果、現在の接種率は14.4%と推定され、「性交渉をしていれば8割はHPVに感染する」という情報が、本人の接種の意向を上げる可能性があることがわかった。

みんパピ!代表の稲葉可奈子さんは、「かかりつけの先生や学校の先生や、メディアや自治体はもちろん、SNSやYouTuberやインフルエンサーの方から伝えていただくことで、社会全体で女性を子宮頸がんから守っていければ」と、様々なルートからの情報提供に協力を呼びかけている。

現在の接種率は14.4%と推定

調査は今年8月、ウェブで行われた。スクリーニング調査では高校1年生の女子473人に聞き、さらに詳しい接種の意向などを聞く本調査は、高校1年生245人、高校1年生の娘がいる母親245人から回答があった。

スクリーニング調査の結果、高校1年生の女子のうち、接種したことがある人は14.4%と推定された。「接種したことはないが、存在は知っている」と答えた人は65.5%もいた。接種したこともなく、存在も知らない女子も2割に上った。

代表の稲葉さんは「(接種率が)非常に上がっていて喜ばしいですが、まだまだです。以前の0.6%に比べれば10倍以上ではあるが、日本の定期予防接種は9割ぐらいの接種率。国民の健康を守るために国がお勧めしている他の予防接種と比べるとまだ低いので、引き続き丁寧な啓発が必要だ」と話す。

「接種したい」親より本人が高め

本調査はスクリーニング調査で出された接種率を反映して、接種者と未接種者の回答を重み付けして解析した。

その結果、接種したいかどうか尋ねたところ、「とてもそう思う」「ややそう思う」の合計は本人が32.4%、母親は12.6%だった。親よりも本人の方が接種したい気持ちは高めだ。

接種していない理由を聞いたところ、「本当に安全かどうかわからないから」「副作用・副反応が心配だから」が多く、安全性への懸念が最大のハードルになっていることがわかった。

それに続くのは、「HPVワクチンのことを詳しく知らないから」「申し込み方法がわからないから」で、情報不足も接種の妨げになっていることがわかる。

分析した「みんパピ!」の副代表で医師の木下喬弘さんは、「手続き上の情報提示で解決できることもある。やはり自治体からの通知、接種の手順なども詳細に記載した情報提供が大事だ」とコメントする。

正確な情報を知ればうちたくなる? 「8割が感染する」がインパクト大

次に、HPVワクチンについて正確な情報を知っていることが、接種したい気持ちに結びつくかどうかを調べた。

具体的にはHPVワクチンの存在に加え、

「小学校6年生から高校1年生の女子は無料で接種できる」

「HPVワクチンは子宮頸癌予防に有効」

「HPVには8割の人が一生に1度は感染する」

「HPVワクチンは子どもの時にうつ予防接種と同じように安全」

という4つの事実を情報提供し、接種の意向がどうなるかを聞いた。

その結果、HPVには生涯で8割の人が感染するという情報が最も接種の意向を高めることがわかった。本人では56.7%が、親では32.1%がこの情報を知って接種したい気持ちを示した。

情報を知っても振り払えない不安 過去の報道の影響も

逆に安全性の情報を提供した後も接種したくないと答える人は、「副反応が心配」「本当に安全かどうかわからない」と、やはり不安が払拭できない傾向が見えた。

親の回答では、「過去に嫌なニュースを見た」と過去の報道の影響を引きずっていることも伺えた。

さらに元々、その情報を知っていたかどうかと、知った後でうちたくなったかどうかのギャップを見た。

高校1年生の女子は、子宮頸がんを発症すると9割が子宮摘出などが必要という情報を8.3%しか知らないが、その情報を知るとうちたくなる割合が26.2%と最もギャップが大きかった。子宮頸がんになった場合の治療のダメージの大きさを知ることは、接種につながる可能性がある。

有効性に関する詳細な情報でも接種の意欲が高まることが伺えた。

親も有効性に関する詳しい情報が接種意欲を高めている。中咽頭がんや他のがんにも影響することはあまり知られていないが、接種意欲を高める可能性が伺えた。

高校1年女子「学校」「SNS・YouTube」で知りたい

またHPVワクチンに関するこうした情報をどこから知りたいかという質問に対しては、高校1年の女子は学校が4割を超えトップだった。それに「SNS・YouTube」が続いた。

一方、親はテレビ番組やCM、医療機関や自治体などからの情報を求めている。

高校1年の女子にさらにSNSの中でもどこから情報を得たいか尋ねたところ、YouTubeのインフルエンサーや公式チャンネルが高く、Twitterがそれに続いた。

対象者に情報を届けるために、伝えるルートもこの世代に合わせていく必要が伺える。

積極的勧奨再開に向けて情報提供の課題は?

日本では接種後に体調不良を訴える声をメディアがセンセーショナルに報じた影響もあり、2013年6月に厚生労働省は積極的勧奨を差し控えるよう自治体に通知した。

この10月から厚労省の有識者会議で積極的勧奨を再開する議論が始まったが、再開するだけでは不安が払拭されることはないと見られている。

木下さんは、「なぜ勧奨が再開されるかの理解が得られないと、『今までは危ないと言っていたのに急に安全と国が言い出した。信じていいのか』と受け取られると思う。再開に付随して、どのような議論が行われたかを伝えるのが必要だ」と話し、こうメディアに注文した。

「昨年スウェーデンから浸潤子宮頸がんを予防するエビデンスが出たこと。名古屋スタディで日本でも安全性が検証されて、接種者と非接種者で有害事象の起きた頻度に差がないことが確認されたこと。デンマークや韓国でも同様の研究結果が出ていること、WHOやCDCや日本産科婦人科学会なども全てワクチンの接種を推奨していること」

「そういうスタンスや科学的なエビデンスを再開のニュースと同時に伝えていただくことで理解も得られると思いますし、意味のある情報として再開のニュースが伝わるのではないか」

稲葉さんは接種後に訴えられる症状について、丁寧な対応をするようにも訴えた。

「もう一つ大きい課題は、接種した後に色々な症状が出ることはあり得る。症状があることは事実なので、ワクチンのせいであるかどうかとは切り離して、症状と向き合っていかなければならないし、症状のある人の受け入れ先がないことが決してないように接種に関わる医療者たちがしっかり認識しておかないといけない」