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HPVワクチン接種後の痛みとは? 原因がなくても人は痛みを感じる生き物

慢性の痛みを専門とする大阪行岡医療大学特別教授、三木健司さんが、HPVワクチン接種後の体調不良を行動医学の考え方から説明します。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

効果や安全性が国内外で明らかになっており、公費でうてる定期接種にもかかわらずうつのにためらう女子が多いのは、接種後に体調不良を訴える声が相次いだからです。

名古屋市の7万人を対象とした調査「名古屋スタディ」や、厚労省の研究班の調査で、ワクチンをうっていない女子にも同じような症状が現れることがわかっており、ワクチンの成分と症状は無関係だろうということが国内外の調査で明らかにされています。

では、この症状はいったいどういうもので、どうしたら治るのでしょうか。

慢性の痛みが専門で、HPVワクチン接種後の体調不良の治療にもあたってきた大阪行岡医療大学特別教授、三木健司さんが日本産科婦人科学会の勉強会で話した講演詳報を2回に分けてお届けします。

「行動医学」の考え方で痛みを捉える

私自身は整形外科医で、慢性の痛みを訴える患者さんや、痛みなどで学校に行けない子供がどういう原因で行けないのか、どういう風にすれば学校に行けるようになるのかということを考えて診療をしています。

その時に、どんな考え方で痛みを捉えるかなのですが、アメリカに留学していた時に出会った「行動医学」や「行動科学」という考え方があります。今まで日本ではこの学問は、私たちも含めて医者は習っていません。

今年の医学部の1年生は少し習っている大学もあるぐらいですが、2023年までに日本の医学部でも行動医学は必修になります。すべてのお医者さんは外科医も含めて、心理学的な要素、精神医学的な要素も習ってからお医者さんになるということになります。

原因がなくても痛みがある時はある

まず、痛みの定義を考えてみましょう。

痛みの他にも痺れや力が入らないなど様々な症状がありますが、これらは基本的に自覚症状です。例えば、頭が痛いと言っても、頭の中にどこかおかしくなっている部分がなくても痛い場合もあります。

「患者の情動や体験こそが痛みである」というのが痛みの国際的な定義です。

日本の場合は、痛いと言ったら何か原因があるはずだと探そうとしますが、痛みに原因がない時もありますよと国際学会では言っています。

定義以外にも注釈があって、実は原因がはっきりしなくても痛みはありますよ、患者さんが自分の体験を痛いと思ったら、痛みなのだということが言われています。痛みはいつも心理学的な状態であるということが国際的に定義されているわけです。

痛みの原因はさまざま

これは、日本整形外科学会の会員全員に配られた整形外科の教科書です。2014年9月発行です。その時に、依頼されて原稿を書いたのですけれども、痛みの原因は「器質的な痛み」と「非器質的な痛み」に分けられます。

一つが、身体に明らかな原因がある「器質的な痛み」です。骨折があるから痛い、がんがあるから痛いという痛みです。

もう一つは検査のデータや身体の診療では原因が見当たらない「非器質的な痛み」があります。「機能的な症状」とも言いますね。昔はこれを「心因性」「心のせい」だと言っていました。

でも実は、心因性でなくても、ストレスなどがはっきりわからなくても、調子が悪い患者さんはいます。要するに、脳のせいで痛みを感じたり調子が悪かったりする人がいることが言われています。

犬も同様の症状を見せることがあります。

(足を引きずっている犬が、一瞬でスタスタ歩くようになる動画を見せる)

この犬は過去に怪我をしていたことがあって、その時に近所の人に餌をもらえていました。でも、治ってしまった最近は餌をもらえないから、また足を引きずる。動物も同じなのです。

人間も「調子が悪い」時に優しくしてもらえた経験があると、「じゃあ今日も調子悪くしておこうかな」という心理が無意識のうちに働く。要するに学習効果です。

それが自分にとっていいことかどうかは別です。昨今、引きこもりが問題になっていますが、本人はつらいのに引きこもっている人もたくさんいます。なぜ、そうなっていったのかを理解しようというのが「行動医学」「行動科学」です。

本人はもしかして治りたいと思っていないかもしれない

そして、お医者さんが患者さんを見る時に、患者さんがどういう風に思っているかというのを分かってあげた方が、より治療がしやすいという考え方が行動医学です。

例えば、北海道大学に「HPVワクチン副反応支援センター」があり、患者さんがそこに来たからといって、実は治してほしいと思っていない人もいるかもしれません。

先生に診断書を書いてもらって、「HPVワクチンのせいでこうなった」と言ってほしくて来ている人もいるのかもしれない。この場合は、医療者側が、患者さんがそう思っているなら、そう思っているということを前提に治療する方がいいかもしれません。

つまり、そういう人に、「HPVワクチンは原因ではないよ」と一生懸命、説得しようとしても、患者さんはおそらくHPVワクチンが原因と認めてくれる別の医師のところに行ってしまいます。

病気の事実というより、患者さんがどう思うかが治療において大事だということです。

勝手に体が動くのはなぜ? 「機能性の不随意運動」

動画などでHPVワクチン接種後の体調不良を見たら、影響を受けると思っている人もいるかもしれませんね。けいれんしている女の子をテレビなどで見たことがある人も多いと思います。

実はもともと「不随意運動」という症状があります。明らかな病変や検査値の異常が見当たらない「機能性の不随意運動」です。これは神経の病気ではないのですけれども、本人の意思とは無関係に体が色々動いてしまう人がいます。

男女で比べると、女性の方が機能性不随意運動になりやすいです。その原因ははっきりしていません。

ワクチンをうったお子さんの動画を見ると、同じような症状を見せる人はたくさんいます。片方の足だけがピクピク動いたり、または両足がピクピク動いたりします。そして、ワクチンをうっていてもうっていなくてもこういう人はいます。

今はMRIなど色々な検査機器がありますから、検査をしても異常がなかったら患者さんもがっくりしますよね。そうすると、余計患者さんは原因を探していろんな病院に行きます。

たとえば、レディー・ガガがなった「線維筋痛症」や、お腹が痛くなる「過敏性腸症候群」などがあります。怪我をした後、治ってもずっとそこが痛い人もいます。子供や高齢者で腰がすごく痛み続ける人もいます。

MRIを撮っても何も見当たらないけれども、本人にしたら非常に痛い。そういう症状は同じような「機能性疼痛」です。原因はわからないけれども痛くなってしまっている。

どうやって治療するかというと、ある程度、薬は出すのですが、運動したら良くなるということが言われています。実は脳のせいで痛みがずっと続いているわけですが、脳を治すのは薬だけでは難しいので、ある程度動かすと良くなると言われています。

医師のつけた病名が自分の気持ちを決める

それでは、なぜこのような原因が見当たらない痛みなどの症状が起きるのでしょうか。

患者さんが病院にきた時に、骨折であればレントゲンを見たらわかりますし、がんでもMRIを見たらここにがんがあるとわかります。でも、痛みの場合はここかな、こっちかなといろんな病名を言われても、何のせいなのかわからないのです。

例えば「それはワクチンのせいかな」と言われたら、ワクチンのせいにしておこうかなと思うようになることもなります。自覚症状だけで診断する場合は、患者さんが、どのお医者さんにどのように言ってもらったかによって、自分はそういう病気かなと思ってしまうことがあります。

病名というのも曖昧で、「症候群」のような病気があります。原因は明らかでないけれども、様々な症状が出てくる状態です。

関節リウマチもそうなのですが、診断基準に当てはまるかどうかを診て点数を導き出し、6点以上だったらリウマチとしているのです。でも、そうすると5点の人はなんだったのかなとなります。

5点の患者さんに「これもリウマチの手前かな」と言って、リウマチと診断すれば患者さんもリウマチと思うでしょう。様々な症状が現れる症候群の場合、診断が曖昧なことはたくさんあるんです。患者さんが悩むのもそのせいです。お医者さんによってもつける病名が異なることもあります。

HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)とは?

例えば、HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)という診断名は、日本で命名された病名です。HPVワクチンの被害を訴えている人がよくつけられている診断名です。

このHANSというのはどういう定義かというと、「ワクチンをうった後に調子が悪い」という定義なのですね。普通の病気は、こんな原因があって、どのぐらいでどこの細胞にダメージを受けてこうなる、という定義があるのですけれども、HANSはそうではない。

ワクチンをうっているかどうかがまず一番の条件ですね。ワクチンをうって10年後に症状が起こってもいいですし、3日後に起こってもいい。

あとは自覚症状なんです。患者さんが体が痛い、関節痛がある、疲労感がある、あとは神経症状と言って、頭が痛いとか、しびれ、不随意運動、月経異常、起立性調節障害の子供も多いです。そういうあいまいな定義なんですね。

病名は簡単に作ることができる

私も去年から教授になったので、教授が名前をつけると、だいたいみんな病気にできます。例えば、こういう病気を作ったらどうでしょうか?

「報道機関関連老眼症候群」です。マスコミに勤めていることがまず要件になります。とにかく1日でもマスコミに勤務していたことがあることが必要です。

体が疲れています。締め切りが近くなると原稿が見えにくくなる。特ダネを他社に抜かれると心拍数が速くなる。

例えば老眼がある人は、早い人は35歳からなるし、60歳になったら全員なっていると思います。そうすると、何か病名をつけて診断基準を作ったら、どれでも病気に仕立てあげることができるということなんです。

ですから本当に因果関係があるかは別として、ワクチンをうった後に症状が悪くなって、症状が多いような診断基準だったら、たくさん病気を作ることができます。

「報道機関関連老眼症候群」も、老眼の人は多いですし、暇なマスコミの人はいないはずですから、だいたい疲れているはずなんです。老眼になれば目も見えなくなる。そうすると、マスコミに勤めている人全員に、特別な老眼の病気が発症して、マスコミに勤めていることが労働災害になってしまうのかなと思います。

病名をつけると患者さんは病気になる

実はこれは笑い話ではなく、患者さんに病名をつけると病気になるということは、論文でも書かれているほどよく知られています。患者さんは自分の症状をお医者さんに何と説明されるかで、その後の経過がずいぶん違ってくるということも言われています。

例えば、皆さんも線維筋痛症という病気があるのをご存じかと思います。全身に痛みを感じる病気です。実はこの病気になっている人は、もともと精神疾患が隠れている人が多い。要するに自覚症状は、本人の感じ方によるんですね。

一番多いのは「身体表現性障害」というもので、これは基本的には「身体症状症」と呼ばれるものですが、基本的には体調が優れず、「その症状のせいで〜できない」のように、日常生活に支障をきたす現れ方をします。

例えば、人によってはちょっとぐらい熱があっても会社に行く人もいるでしょうし、ちょっと熱があったら休む人もいます。調子が悪い時に、よりしんどく感じる人が、より多く線維筋痛症を合併しています。

もともと他の疾患が隠れていることも多いです。症状を出しやすい人には、心理社会的な問題、脆弱性があると言われています。

他にも、「CRPS(複合性局所疼痛症候群)」というのは、何か手術をした後などに、5000 人に1人ぐらいがなる痛い病気です。

これも18%ぐらいの人は、「転換性障害」という、手足が動かなくなったり、急に倒れたりする症状をもともと持っているのです。昔、「ヒステリー」と言われていた症状です。

だから患者さんを診た時に、もともと心理的なものがあるかどうかを診てあげた方がより治しやすくなります。それがアメリカでやっている行動医学、行動科学の考え方なんです。

ただ残念なことに日本では、2023年以降の卒業生しか習わないので、今、町で診療しているお医者さんで行動医学を学んでいる人はほとんどいないということになります。

(続く)

【三木健司(みき・けんじ)】大阪行岡医療大学医療学部特別教授

1990年、滋賀医大医学部卒業。2015年早石病院疼痛医療センター・センター長、同年8月、大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学講座准教授を経て、2018年4月、大阪行岡医療大学医療学部特別教授に就任。

日本整形外科学会整形外科専門医、認定リウマチ医、日本リウマチ学会リウマチ専門医。日本疼痛学会評議員(2017年〜)、日本線維筋痛症学会副理事長(2018年〜)。認定NPO法人いたみ医学研究情報センター理事長(2016〜2019年)。