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子どもにも会社にも罪悪感を抱かずに働けるように 企業向けの子育て支援の医療講座

仕事と育児の両立を支えるために、まずは子どもの病気を知るところから始めましょう。

「子どもに対して、無理させてごめんねと思う。職場に対して、役に立たなくてすみませんと思う」

子どもが急に病気になった時、お迎えに行ったり、休んだりしなければならない子育て中の働く親は罪悪感に苛まれがちだ。

そんな時、職場のどんな理解があり、どんなフォローがあったら働きやすくなるのだろうか。

一般社団法人「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」は、企業向けに子どもの病気について知ってもらう講座を始めている。

代表の阿真京子さんは、「子どもが想像以上に病気をすることを理解してもらい、お互い様の気持ちを持ってもらうことで、子育て中でも働きやすい職場になります。そして、子育てに優しい会社は、介護や自身の病気にも優しい会社になるのです」と職場の相互理解が進むことを目指している。

「知る」から始める働き方改革

都内の会議室で、企業の人事担当者らを前に、阿真さんはまず、子どもがいかに頻繁に病気をするか、自身の体験も盛り込んで語ることから始めた。

「子どもは小さいうちは本当にたくさん病気をします。たいてい保育園に行って最初の1年間は山ほど休みます。私は生後4ヶ月から子どもを預けていて、最初の半年ぐらいは自営するラーメン店で働ける日が半分になるほど、子どもが病気をしていました」

この日、同会が開いたのは、企業で子育て支援を行う担当者向けの講座「『知る』から始める働き方改革 子育て支援医療講座」だ。

同会は子ども3人の母親である阿真さんが、小児救急が混み合い、小児科医が疲弊しているのに気づき、「親が子どもの病気を知ることでこの状況を変えよう」と2007年に設立。乳幼児の親向けに11年間で150回以上の講座を開いてきた。

「子どもの病気で仕事と育児が両立しづらい」という悩みをよく聞くため、昨年から企業向けの講座も開き、職場の理解を広げようとしている。

この日の講座で、個人差はあるものの、保育園児の1ヶ月あたりの欠席日数は、年齢を重ねるごとに減り、1〜2歳では月に2〜4日以上休んでいた子どもも5歳では滅多に休まなくなることを富山市内の保育園の平均データを使って紹介した。大変なのは限られた年数であることを親も会社も認識してもらう。

悪化させて休みを長引かせたり、入院させたりするのをできるだけ避けるために、子どものいつもの状態を知り、「食う」「寝る」「遊ぶ」「出す(排尿・排便)」がいつもと違わないかチェックするなど、体調管理のコツを教える。

さらに、子どもの病気で困った時に頼れる窓口として、日本小児科学会の「こどもの救急サイト」や電話相談「#8000(子どもの急病)」「#7119(救急利用相談)」、総務省消防庁の救急受診判定アプリ「Q助」、佐久医師会の子どもの病気とホームケアのアプリ「教えて!ドクター」などがあることなどを紹介した。

「職場と子どもに申し訳ない」

さらに、同会が働く父母341人(父親31人、母親310人)にとったアンケートの結果を披露する。それによると、子どもの病気で仕事を休む時に抱く感情としては、もちろん「体調が心配」が一番多かった。

しかし、同時に、「仕事の調整が大変」「早退や遅刻、欠席などで職場に迷惑をかけることが心苦しい」「子どもの預け先の調整が大変」など、職場への罪悪感や仕事との調整で悩む人も8割近くいた。

このアンケートの自由回答を阿真さんが読み上げると、うなずく人、深刻な表情になる人がいた。

「仕事している人として無価値だと感じる」

「なんで病気になるのーと思ってしまう。子どもは全く悪くない。でも当たってしまうことも」

「仕事の進捗の不安と同僚への申し訳なさ。また、子どもに熱があると分かったときに、仕事休まなきゃ、どうしよう、なんで今日なの、と焦ってしまうのが、子どもに申し訳ない気持ちになります」

「人数がいないと成立しない職場なので本当に大変です。子どもの為に働いているのに、なんだか余裕が持てず転職も考えています。仕事に穴をあけないことばかり考えてしまいしんどいです」

一方、自由記載欄では働く母親の夫への不満も目立つ。

「夫の職場の人は息子が熱を出していることも知らずに、夫も私が休めるからと普通に働いているのが納得いかない」

「父親も会社休むなり早退するなりしてお迎えや看病や通院やれ。自分だけ普段通りの生活してんじゃねー」

阿真さんは、「今、働いている私たちが、次の世代の当たり前を作っています。だから子どもに申し訳ない、会社に申し訳ないと思うことを当たり前にしてはいけない。次にカバーできる時はそうするよと言い合えるようにすることが、会社が育児支援に取り組む意味です」と参加者に語りかけた。

「気づきがある」「貴重な人材失わないために」 出前講座も

参加した製薬会社人事担当の男性は、「女性が6割と多く子育て世代が増えているうちの会社は子育て制度の利用は進んでいる方だと思っていたが、『申し訳ない』と思っている社員がいるというのは気づきだった」と驚いた様子だ。

科学総合機器メーカーで職場のダイバーシティ(多様性)部門を担当し、自身も2歳の子の母である女性(36)は、「うちの子どもはぜんそく持ちで保育園に通い始めて半年は6割しか通えませんでした。たまたま上司が理解がありましたが、仕事内容や職場によっては『復帰したけれども、子育てに理解がないから退職したい』という同僚もいます」と話す。

この女性は、会社での出前講座を開いてもらうことを考えて、今回の講座を受講した。

「今、管理職になっている40〜50代の男性は、自身が子育てに関わっていないから子育てしながら働くことがどういうことかわかっていません。会社にとっても専門性の高い人材が両立ができずに辞めていくのは損失のはず。子育てをしていない社員や管理職にもぜひ受けてほしい」と講座開催にかける思いを話す。

同会では2017年3月以降、企業向けの講座を6回開き、208人の社員に受けてもらった。医師による医療講座と子育て講座を合わせて2時間の出張講座を開いている。申し込みは、こちらから。