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不登校を恐れるな 誰かとつながっていればいい

夏休みが終わる頃は子供の自殺が増える時期。精神科医、松本俊彦さんのインタビュー第2弾は、見えづらい自殺のサインと周りの関わり方について伺いました。

子供の自殺が増える夏休みが終わる頃。精神科医、松本俊彦さんのインタビュー第2弾は、見えにくい自殺のサインと周りの心構えについて伺いました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

子供は原因がわからない自殺も多い

ーーいじめや友人関係など明らかな原因がなくても、「なんとなく自殺」のようなものはあるのでしょうか?

実はあるんですよね。中学生以降の自殺について僕らが集めた情報によれば、原因が不明なのですが、ただ「死にたい」とずっと言っていた子がいます。

ご遺族の人とも一致しているのですが、「死にたい病」にかかっちゃったとしか言いようのない自殺なんです。なぜ死にたいのかがよくわからない。

ただ、診療していると、「死にたい」と言いながら渋々病院に通ってくる子はいます。なかには発達の偏りがあって、我々から見ると、「え? これが苦痛なの?」と普通なら苦痛に思わないようなことを苦痛と感じていることもあります。

もしかすると、感覚過敏などがあって、生きていること自体、色々な刺激が入ってきて地獄のようにつらいのかもしれないですね。

ただ病院に通ってくれる子たちは、「死にたい」ということは言ってくれるので、それがサインと言えばサインになります。問題なのは、常に「死にたい」と言っているから、それを行動に起こすのがいつなのか、手がかりはないのです。

ーー対応がとても難しいですね。

本当に難しい。自殺を遂げた人についての聞き取り調査をやっていて思ったのは、中高年より若者の自殺を防ぐ方が難しいということです。

例えば、中高年の男性は明らかにこれは大変だろうなというストレスが見えやすくて、自殺直前には9割以上の人がなんらかの精神医学的な診断がつくと言われています。

確かに直前にはうつやアルコール依存の問題があるなど、わかりやすい兆候を見せて亡くなっています。だから具体的な介入のポイントがわかるのです。

言葉でなく、体の症状でストレスを表す子供たち

ところが子供、特に10代の子供たちを見ていると、直前に精神医学的な診断がつくことはまれです。

自殺した人の調査はご遺族の語りが中心ですから、情報が不足しているということもあるのですが、子供は言葉で伝える能力が発達していないので、どうしても精神医学的な症状ではなく、行動や身体の訴えとして表現される傾向があります。

言葉でつらさを訴えられない子供も多い
Lfo62 / Getty Images

言葉でつらさを訴えられない子供も多い

言葉で、「つらい」とか「眠れない」とか言ってくれないと、精神症状の把握もできないから診断もつきません。しかも自殺に至るまでのスピードが速い。しかも、すでに述べたように、しばしば子供たちのストレスは行動や身体の症状で出てくることが多いのです。

ーー身体の症状とはどんなものがあるのでしょうか?

例えば、不登校児が訴える「お腹が痛い」とか、原因不明の痛みなどです。いろんなお医者さんにかかってみたけれど、原因がはっきりしない。思春期の子によく見られる、「身体表現性障害」のようなものですね。ストレスがそんな形で出てくることが多く、兆候がわかりづらいのです。

ーーそうすると、「お腹痛い」などとずっと訴えているようでしたら、対応してあげた方がいいのですね。

そうですね。心配してあげて、「大丈夫?」「無理しないで」と言ってあげてください。「学校に行かなくてもいいよ」と言ってあげれば、急にお腹の痛みが和らいだりもします。

周りからすると、言葉でなくても、そうやってサインを表に出してくれると楽なんです。いつもの本人らしくない行動や症状があれば、そこで立ち止まることができます。

でも、それさえも見せない子もいるので、子供の自殺は本当に難しいです。

サインが見えたらどうしたらいいのか?

ーーいつもと違う行動でも、体の症状でも、幸いにもなんらかのサインを見せてくれたら、周りはどうしたらいいのでしょうか?

8月31日や9月1日前後に関して言えば、親は「もしかして学校が嫌なんじゃないの?」と聞いてあげて、「無理しなくていいんだよ」と言ってあげたらいいと思います。休ませていいと思います。

親からするとどうしても、9月1日にいかないとそのままズルズルと休んで不登校になってしまうのではないかという不安があるのではないかと思いますが、無理して行ってどうするのでしょう。行って死ぬぐらいだったら行かない方がいいですよね。

ーー不登校になるんじゃないかとか、そのまま引きこもって社会に出られなくなるのではないかと親は心配するのでしょうね。

気持ちはわかりますが、自殺既遂者の調査で興味深いなと思ったのは、若くして自殺している人はみんな、中学などで不登校の経験を持っているということなんです。7割か8割、不登校の経験があります。

でも驚くことに、不登校の子は通常そのままズルズル学校に行かずに引きこもることが多いのですが、自殺した子供はほぼ全員学校に復帰していたんです。

不登校になるほどしんどかったのでしょうけれども、周りの意向に応えて頑張って行ったのでしょうね。その代わりに命を縮めた可能性があります。不登校を続けていたほうが生き延びていたのではないかという気さえするのです。

自殺予防の観点から言えば、不登校を恐れるべきではないのだろうと思います。

引きこもっても今はネットで社会とつながれる

幸いなことに、今の時代、色々なメディアがあります。それが時に悪い方向に導くこともあるのですが、学校に行かなくても、いろんな人と出会ったり、情報を得たりすることできるようになっています。

それでいいんじゃないかという気がしてしまうのですよね。

今はスマホを通じて、学校外のいろいろな人とつながることができる
Recep-bg / Getty Images

今はスマホを通じて、学校外のいろいろな人とつながることができる

実際、僕の患者さんの中にもSNSを介して新しい仲間と出会い、リアルに会ったり交流したりしている不登校の子がいました。そこで刺激を受けたことをきっかけに、定時制や通信制の高校に通い始めて勉強が面白いと気づいたりするんです。

不登校になっても今は、ネットなどを通じて人間関係がまるでなくなるわけではないわけです。

ーーネット上のつながりには昨年の座間の事件(SNSでつながった男女が9人殺されて発見された事件)のように危険もあります。プラスの影響もあればマイナスの影響もありますね。

そうですね。まずマイナスを言えば、座間の事件のように危ない人との出会いや危険な誘惑に触れる機会は多くなるでしょう。

特にリアルな人間関係で誰からも話を聞いてもらえない、信頼できる人がいないと思っている子供が、SNSで優しい人に出会うと簡単に信用してしまう危険があります。

「こんなに自分の話を聞いてくれて認めてもらったのは初めて」となった場合、相手からの危険な提案を飲んでしまう可能性があります。リアルが充実していない人にとって、SNSが危険な場所になりうるのは事実です。

安全にSNSを使うにはリアルな関係の支えが必要

一方で、メリットもあります。僕が精神科医になりたて頃は、引きこもりの人は家の中だけで暮らし、バリケードまで作っている人もいました。社会と完全に断絶していたんです。

ところが今は、もっとマイルドな引きこもりになっています。リアルでは社会的に引きこもっていても、SNSなどで知り合いや恋人ができたりしています。

もちろんその恋人は10代の女の子と30代の男の組み合わせだったりして心配になることもあるのですが、誰とも関わらないよりはいいのかなと思うこともあります。ネットの中で趣味の仲間を得て、その中で一目置かれることによって、どん底にあった自尊心が少し持ち直す人もいます。

人間は、特に子供は不思議なことに、一つ得意な分野ができると、それに引っ張られて他のことも底上げすることがあります。そんな様々な出会いの可能性を与えてくれる場所として、SNSは良いと思うのです。

SNSを子供たちが安全に使えるようになるためには、身近にいる大人たちが、少なくとも家族の中でのリアルな関係を風通しのいいものにしてあげることが必要です。それが、SNSの危険な誘惑に対して踏ん張れる一番の予防策になります。

「SNSは危ないからだめ」と禁止すると何が起きるかというと、隠れてやるようになります。やっていることを言わなくなるし、携帯をのぞかれないようにいつも手元から離さなくなる。SNSについてオープンに話せる環境だと、周りの大人たちも危険を察知できるのではないかと思います。

「学校に来なくてもいいよ」と先生こそ言ってあげて

ーー親は風通しを良くして、「無理しなくていいよ」と気持ちを受け止めるのがいいということですが、学校はどう対応したらいいのでしょう。

これをあまり言うと学校の先生に怒られてしまいそうなのですが、「無理して学校に来なくていいよ」と先生たちがメッセージを出すのもいいのではないかと思います。

「来なくてもいいよ。でも連絡はくれよ」
10max / Getty Images

「来なくてもいいよ。でも連絡はくれよ」

その代わり、「しんどかったら来なくてもいいけれど、しんどいっていうことを一言教えてほしいな」と伝えてほしい。場合によっては家に訪問したり、教室以外の場所で先生と会うこともいいのではないかと思います。

ーー「学校に来なくてもいいよ」という言葉が、見放されたように捉えられるのは良くないですね。

「無理して来なくてもいいけれど、連絡をくれよ」とつながりは保ってもらいたいのです。気にかけてもらっていると思えることが大事ですし、いじめ自殺のたいていのケースでは、最後は誰も苦しさに気づいてくれなくて、先生も加害者の側に立ったりしています。そこでどん詰まり感を抱いてしまうんですね。

だから、「君の立場は理解しているし、ずっと気にしているよ」というメッセージを送ってほしいですね。

教室で勝者になることが、人生の勝ち組なわけじゃないですからね。ただ、学校での勝ち組が学校の先生になっているので、そのあたりの気持ちがわからない先生もいます。

ーーそんな子供の気持ちが理解できない先生の場合、子供はつながろうと思うでしょうか?

先生の側でも、「そうは言ってもあいつらは懐かないんだよ」という気持ちを抱くかもしれません。それはそれで仕方ないので、学校の中にいる他の誰かに懐いてもらってほしい。

どうしても担任は嫌だという子なら、「他のクラスの担任や保健室の先生や、週2、3回来るカウンセラーの先生に話してみてよ」と伝えてみる。自分がなんとかするということにムキにならずに、学校の誰かとつながってほしいというメッセージを伝えたら十分だと思います。

クラスの仲間は気づいて、大人につないで

ーークラスの仲間や友達は何ができそうですか? よく、自殺のサインに気づいてつなげる「ゲートキーパー(門番)」ということが言われますね。

何かつらそうだなと気づいたら、「大丈夫?」と声をかけて、「一緒に先生のところに行かない?」って声をかけてほしいんですよね。一人ではいけないでしょうから、「ついていくよ」と話しかける。気づいて、関わって、つないであげる。その橋渡しをやってほしいと思うのです。

ただし、これは夏休みが終わる頃になって、あわてて担任が「お前らをゲートキーパーにする」と言っても無理で、日頃の蓄積が必要です。

子供たちは、先生たちがどんな生徒を軽く見て、どんな生徒を大事にしているのかということをちゃんと観察しています。問題を抱えていそうな子に対して、つっけんどんで冷たくしている先生のクラスでは、同級生も多かれ少なかれ、「あいつはこういう風に扱っていいんだ」と思うでしょう。

先生がマイノリティに対してどんな態度で日頃接しているのかを子供たちはずるいぐらい見ています。

取り柄がないように見えたり、深刻なコンプレックスに悩んでそうだったり、自分があまり好きじゃなくて人前でも顔をあげられないような子たちに対して、先生が普段からどういう態度で接しているかが問われます。

小馬鹿にしたり茶化したりするのではなく、「ちゃんと気にかけているよ」という態度を他の子供たちの視線も意識してやれているかどうかです。

ーーそんな空気が作られていないと、先生も頼りにならないし、友達も助けてはくれない。四面楚歌できついですね。

きついと思います。学校が荒れてくると先生も教室の運営をうまくいかせるために、教室の中のマジョリティの生徒に媚びてその力でクラスをまとめようとすることがあります。そうなったときに、マイノリティの子供たちはすごく辛い目に遭います。学校に行きたくなくなる気持ちもわかりますよね。

(続く)

【1回目】君の話を聞かせてほしい 死にたくなるほどつらいのはなぜ?

【3回目】はみ出したって生きられる 子供たちを救うのは学校の外の世界の情報

いのち支える相談窓口一覧(自殺総合対策推進センター)


【松本俊彦(まつもと・としひこ)】

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)など著書多数。

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