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喫煙者は交通事故死のリスクが高まる? 東北大調査

9万7000人の追跡調査で、1日に20本以上吸う男性は全く吸わない男性より交通事故死のリスクが高まる傾向がみられた

1日20本以上たばこを吸う男性は、全く吸わない男性より交通事故死のリスクが高まる傾向にあることが、東北大学大学院歯学研究科准教授の相田潤さんらの研究でわかった。

茨城県民約9万7000人を20年間追跡調査した結果を分析した。

喫煙は、肺がんや咽頭がんなど様々ながんや、脳卒中や心筋梗塞などの血管や心臓の病気のリスクを高めるが、交通事故死にも関わる可能性があることが、個人を追跡した大規模な調査で初めて明らかになった。

ただし、この交通事故死が本人が車やバイク、自転車などを運転している最中の事故なのか、同乗者や歩行者としての事故なのか、内訳がわからないという限界はある。

ドライバーが火のついたたばこを車内に落とし、拾おうとして衝突事故を起こすなど、喫煙との因果関係が疑われる交通事故は実際に発生している。

分析した相田さんは、「日本では携帯電話を操作しながらの運転は禁じられているが、たばこを吸いながらの運転は野放しになっている。運転しながらのたばこの危険性を調査し、規制を検討することも必要だろう」と話している。

海外では、運転中の喫煙は子供への受動喫煙を防止する観点から禁止されていることがあるが、台湾では2014年に事故防止の観点から運転中の喫煙が禁止された。

健康診断受診者の死亡状況を20年間追跡

調査では、1993年当時、茨城県内38市町村で健康診断を受けた40〜79歳の9万7078人を対象とし、2013年までの死亡状況を住民基本台帳や人口動態調査死亡票を用いて追跡した。そのうち、追跡可能だった9万6384人の喫煙と死亡状況を分析した。

喫煙状況については、「非喫煙者」「過去喫煙者」「1日20本未満吸う現在喫煙者」「1日20本以上吸う現在喫煙者」に分類し、それぞれのグループでどれほど交通事故死があったかを調べた。

その結果、男性では、非喫煙者7335人中31人が、過去喫煙者9115人中46人が、1日20本未満吸う現在喫煙者5125人中29人が、1日20本以上吸う現在喫煙者1万1403人中62人が交通事故により死亡していた。

このリスクを、年齢や飲酒状況の影響を除いた上でそれぞれのグループ間で比較したところ、厳密には有意差(統計上意味のある差)は見られなかったが、1日20本以上吸う男性では、非喫煙者の男性より交通事故死のリスクが1.54倍高まっていた。

また、やはり有意差はないが、非喫煙者の男性と比べ、過去喫煙者や1日20本未満の現在喫煙者の男性の方が、交通事故死のリスクは高まる傾向が見られた。

女性は喫煙者の人数自体が少なく、観察期間中に交通事故による死亡がなかった。

不注意運転、ストレスによるイライラなどが影響?

喫煙がどのように交通事故に関連するのか。喫煙者が運転手だった場合のリスクについて、相田さんはこう推測する。

「例えば、たばこを吸いながらの運転は、火をつけたり、たばこを落とすなどしたりした時によそ見や不注意運転につながる可能性があります」

「ニコチン依存症は吸っていない時にストレスが高まるので、そのイライラが運転に影響したり、たばこによる心疾患や呼吸器疾患の不調も運転に影響したりする可能性があります」

また、今回の調査では運転中の喫煙ではなく普段の喫煙習慣を聞いているため、運転中の喫煙による不注意事故が少なく見積もられている可能性がある。

さらに、「交通事故死」の中には、直接喫煙が関わらなそうな鉄道事故や飛行機事故、歩行者や同乗者としての事故も含まれている。

相田さんは「そうした喫煙との因果関係が低そうな交通事故死を除いたとすれば、実際の喫煙と運転事故の関連はもっと強固であることが予想される」と話す。

その上で、今回の調査結果を受け、相田さんはこう願っている。

「たばこの煙は、肺がんなどの病気をもたらすだけでなく、喫煙者自身の安全を損ない、巻き込まれる人がいる可能性を重く受け止め、喫煙しながらの運転禁止など命を守る法的規制につなげてほしい」