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「飲食店」や「家庭」は受動喫煙ゼロに! 次期がん対策推進基本計画の数値目標

「がん対策推進協議会」は受動喫煙を許さない厳しいメッセージを打ち出しました

国のがん対策を方向付ける次期「がん対策推進基本計画」に、2020年までに飲食店や家庭内での受動喫煙を0%にするという厳しい数値目標を盛り込むよう、厚労省のがん対策推進協議会が満場一致で強い提言を打ち出した。

受動喫煙対策については、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開かれるのを機に、厚生労働省が飲食店内を原則禁煙とする健康増進法改正案を成立させようとしているが、反対する自民党との調整が難航している。

患者団体や医学界、マスコミら国民を代表する委員らが受動喫煙を許さないメッセージを明確に国に示したことで、受動喫煙対策が前進することが期待される。

人の煙で健康を害するのを防ぐのが受動喫煙防止策

基本計画は、がん対策基本法に基づき、がん対策を計画的に推し進めるために5年ごとに見直されている。現在策定されているのは2017年度から22年度に実行される第三期基本計画で、この日、厚労省で患者団体代表や医学界の委員らによるがん対策推進協議会が開かれ、基本計画案の最終的な詰めが行われた。

まず議論になったのは、「受動喫煙防止策」について。厚労省はこれまでの議論に基づいて基本計画の素案を委員に示したが、反対派への配慮もあり、当初盛り込まれる予定だったという「飲食店での受動喫煙ゼロ」という数値目標が直前に撤回されたという報道もあった。

「数値目標」の部分については最後まで調整がつかず、この日の協議会では第二期計画の数値がそのまま「ペンディング(保留)」の「P」をつけて示された。

最終的な取りまとめの段階でも調整がつかず、ペンディングの「P」の字がつけられた素案の数値目標部分

なお、第二期計画では、2022年度までに受動喫煙をしている人の割合を、行政機関や医療機関では0パーセント、家庭では3%、飲食店では15%、2020年までに職場は受動喫煙なしとする目標が掲げられていた。しかし、2015年の国民健康・栄養調査によると、行政機関は6%、医療機関は3.5%、飲食店では41.4%、職場では30.9%に留まっている。

患者委員が真っ先に数値目標0%を主張

次期計画の数値目標について、まず口火を切ったのは患者委員の一人、一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさん。

「働く患者の電話相談などをしていると、自分ががんになったのは職場がたばこを吸える環境だったからじゃないか、そばで吸っている人がいると再発するんじゃないかと不安に感じる人もいる。『煙はいやだ』と長年働いた飲食店をたたむ人もいる」と現状を報告。

「がん患者にとって、たばこの煙は不安をかき立てる根源になっている。2020年までに、行政機関、医療機関、飲食店も含めて受動喫煙を0%にすることをしっかり計画に刻むことが大切」と述べた。

「小児脳腫瘍の会」代表の馬上祐子委員は、子供の受動喫煙の大半は、親が子供の目の前で吸わなくても室内のたばこの煙を知らず知らず長時間に渡って吸い込むことで起きていることを紹介し、「家庭においても受動喫煙は必ず0%としていただきたい」と訴えた。

やはり患者委員の一人のNPO法人がんフォーラム山梨理事長の若尾直子さんも、「どこどこでは何%と場所ごとに数値目標を定めるよりも、シンプルに『2020年までに受動喫煙の機会を有する者の割合をゼロにする』としていただきたい。この目標が載らなかったら委員を辞任するぐらいの覚悟」と語気を強めた。

医師らも賛同 満場一致で「0%目標」に

医師側からも賛同の声は相次ぎ、東京大学放射線科准教授の中川恵一委員は「受動喫煙の健康影響は子供でより強く出て、学力が下がるというデータもある。喫煙率は所得などが低い人で高く、たばこを通して格差が固定されるのも問題。格差是正という観点からも飲食店も家庭も0%にすることが必要」と主張。

国立がん研究センター理事長の中釜斉委員も、「最近のがんゲノム(遺伝情報)の解析からも、たばことの関係が言われる肺がんや口の中のがんだけでなく、幅広い臓器のがんにおいて喫煙に関連したゲノムの異常が見られる。自分がたばこを吸わない人でもそのリスクがあり、2020までに受動喫煙をなくすことを書き込むことは必要」と続いた。

さらに、医療機関の中でも緩和ケア病棟においての喫煙については議論が分かれるが、日本緩和医療学会理事長の細川豊史委員は、「かつては喫煙者が最期の段階で吸うことはオーケーとされてきたが、今はご家族や小さなお子さんの受動喫煙も考えて、病棟内の喫煙は困るとしている。緩和ケア病棟やホスピスでの喫煙は今は否定的という動きになっている」と説明した。

受動喫煙の数値目標を0%とすることに反対意見は全く出ず、座長の堺市立病院機構理事長の門田守人委員は、「それぞれの場での受動喫煙防止をあえて強調するために、職場や飲食店という言葉は入れながら全てゼロにするという表現でまとめることで意義はないですか?」と問いかけ、満場一致で了承された。

基本計画は今月中にもまとめられ、与党などとの調整を経て、夏の閣議決定により発効することを目指す。