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結核は過去の病気ではない 私も慌てた発症者の知らせ

仕事先から「結核の発症者が出ました」と連絡を受けました...

最近、結核の集団感染のニュースをよく聞くなあとは思っていた。沖縄では5人が発病、5人が感染して、1人が死亡と報道。京都市の病院では患者や職員56人が感染し、男性患者2人が死亡しているというニュースもあった。

結核というと美人薄命の小説に出てくる昔の病というイメージがあるが、今もあるのか...。そうぼんやり思っていたところ、つい先日、一緒に仕事をした人が結核を発症したという知らせを受け、医療記者なのにすっかり慌ててしまった。

結核を発症した人に接触したことがわかったらどうしたらいいのか。

結論から言うと、感染したとしても、生涯発症しない人がほとんどだし、発症しない限り人にうつす心配はない。ただし、日本では結核は珍しい病気ではなく、過去の病にはなっていないということもよくわかった。

テレビ番組の収録で スタッフが結核発症

連絡は突然、メールで来た。

11月半ばに出演したあるテレビ番組のプロデューサーから、「収録時に参加していた男性スタッフの一人が結核検査を受けて陽性反応が出ました」と送られてきたのだ。

その男性スタッフとは、収録前に10分か15分ほど至近距離で打ち合わせをした記憶がある。体からたばこの煙の匂いが強くして、時折、咳き込んでいたので、「ヘビースモーカーなのだろうな」と感じたのを覚えていた。

メールには、「保健所の指導を待っている。ただ、密閉空間で一定時間一緒に過ごす等の接触がない限り、感染の可能性は極めて低い。結核は二次感染後、発症するのは半年から2年後と言われている」と書かれていた。

これは、後で調べて概ね正しい情報であることが確認できたのだが、メールを見て私はすっかり慌ててしまった。10日ぐらい前からずっとたんがらみの咳が抜けず、「咳が長引くなあ」と思っていたからだ。

(結核、私もうつっていたらどうしよう…)

テレビ収録のために、ほぼ閉鎖空間であるスタジオには4時間ほど滞在したはずだ。仕事柄、抵抗力の落ちた患者さんを取材することもある身なので、感染を広げないためにも、正しい情報を確認しておく必要がある。早速、調べてみた。

結核とは何か? どうやってうつるのか?

結核の基礎知識は、公益財団法人結核予防会の「結核Q&A 」や「結核の常識2017」がわかりやすく詳しい。

それによると、結核は、結核菌という細菌が体内に入って居座り(感染)、その菌が増殖して肺などに様々な炎症を起こす病気だ。日本人では8割近くが肺に発症し(肺結核)、肺以外では腎臓や脳などにも影響が起きることがある。

肺結核の初期症状は風邪と似ており、咳や痰、発熱などが長引くことが特徴となる。寝汗や体重減少なども起こし、悪化すると血の混じったたんや血を吐いたり、呼吸困難に陥ったりもする。

感染症である結核はどのような経路でうつるのだろう。結核菌の混じったしぶきが咳やくしゃみで飛び散り、乾燥して小さな粒になって空気中にふわふわと浮遊する。それを吸い込むことによる「空気感染」でうつる。

発症したスタッフは、至近距離で時折、咳をしていた。彼の結核菌が私の体内に入っていないとは言い切れない。

これも調べてみると、結核菌を吸い込んでも多くは体の抵抗力で追い出されるし、万が一感染したからといって、ほとんどは免疫によって封じ込められ一生発症しないとある

そういえば、私は結核を防ぐ「BCGワクチン」を幼い頃に接種したはずだ。あの9つの丸い穴が二つ押された跡も、左の二の腕にうっすら残っている。

しかし、残念ながらこのワクチンの結核予防効果は10年から十数年。44歳の私はとっくに効果は切れていそうだ。

さらに、都立駒込病院の感染症科部長、今村顕史さんに取材したところ、

健康な人は一般に感染しても発症するのは10%ぐらいと言われ、このうち5%が1年以内に、残りの5%は一生のうちのどこかで発症するとされています。感染したとしても、肺結核は結核菌がある程度、肺の中で増殖しないと発症はしないので、健康な人ならそんなに早く発症しないですよ」

と安心させてくれた。

結核予防会の資料では、感染から半年〜2年で発病すると書かれているが、これは本人の免疫力も左右するので、感染から発症までの時間には個人差があるようだ。もちろん一生発症しない人の方が多い。

発症したスタッフと接触してから10日ぐらいで出始めた私の咳は、少なくともこのスタッフから感染した結核によるものではないだろう、と理解した。

しかも症状は徐々に治まってきている。結核だったら、症状は治療しない限り悪化すれども、自然に和らぐことはないそうだ。それならば、この症状は結核ではないのだろうと不安が消えた。

感染は日常茶飯事 年間2万人前後が発症

だが、メールの知らせについて職場で話したら、急に同僚たちの目が冗談半分ながら厳しくなった。

「うつさないでよ!」「会社に来て大丈夫なんですか?」

万が一、感染していたら人にうつす可能性はあるのだろうか?

この不安もすぐに解消した。

結核は発症している人でないと、体の外に菌を排出することはなく、人にうつす可能性はない。

だが、まだ発症していないだけで感染した可能性はある。現時点で検査などを受けなくてもいいのだろうか。

結核は感染症法によって、発症した場合は最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられている。届出を受けて保健所は発症者に発症後どのような人と接触したか聞き取り調査を行う。

接触の濃厚さ、病気などによる免疫力の低下があるかによって感染リスクを検討し、検査を受けるべき人、一定期間フォローする人など対応を決めるのだ。

今村さんは、「発症していなければ人にうつす可能性はないので、慌てて検査を受ける必要はありません。保健所からの連絡を受けてからで十分ですし、万が一、気になる症状が続くのであれば保健所に連絡して検査を受けるべきか指示を受けてください」

さらに、今村さんから衝撃の事実を聞いてしまった。

「世界の人口の3分の1は結核菌に感染しています。そして、日本は先進国の中でも感染者が多く、毎年約2万人弱が発症している”中蔓延国”です。結核は過去の病気になっていないですし、今回はたまたま発症者の知らせがきたかもしれませんが、知らずに感染している可能性は誰にでもあるのです」

国の統計によると、2016年は1万7625人が、2015年は1万8280人が新たに発症し2017年も1〜10月の累積発症者は1万3638人となっている。国は結核罹患率(人口10万対)を2020年までに10以下にしようとしているが、2016年時点で13.9に止まっている。大阪や東京など都市部で多い。

もし今回の接触でうつらなかったとしても、どこかで結核菌にさらされた可能性は確かにある。それでは発症するのはどういう人なのだろうか?

「免疫力が弱まっている時は発症しやすくなりますから、加齢による抵抗力の低下、糖尿病や抗がん剤治療、HIV感染などで発症リスクは高まり、病院の中での発症も珍しいことではありません。日本では60歳以上の発症が7割以上を占めます」

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治療は? そして何に気をつけて生活したらいいのか?

発症して菌を体外に排出している間は、患者は空気が外に漏れない陰圧室という特別な部屋に入院する。完治するまでは最低半年間、3、4種類の薬を飲み続ける必要がある。

薬を飲みきってしっかりを菌を押さえ込まないと、薬が効かない「多剤耐性」のある厄介な結核菌が生まれてしまうこともある。不十分な治療による多剤耐性結核菌が世界では増えており、WHO(世界保健機関)は、その感染者が世界で48万人いると推計している。

そして、国際化が進む中、日本の若い世代では外国生まれの発症者が増え、今では20代の患者の5割以上が海外出身者だ。感染症は全てそうだが、国内だけで封じ込められる時代ではない。

「また、若者の結核は都市部に多いのも特徴です。人混みやカラオケボックス、ネットカフェなど、人がたくさん集まる狭い空間は感染のリスクが高くなります」と今村さんは注意する。

結核のリスクが他の先進国と比べ、比較的高い日本。私たちは何に気をつけて暮らしたらいいのだろう。

「結核は過去の病気というイメージが強く、初期では風邪と見分けがつかないことから、受診や診断が遅れがちです。2週間以上咳やたん、だるさが続くようなら、受診を考えてください」と今村さんは言う。

そして、知らないうちに結核菌を蔓延させないように、普段から心がけてほしいと今村さんが強調するのが「咳エチケット」だ。

「咳が出始めた時は、風邪なのか結核なのかを判断することはできません。結核に限らず、咳が出始めた時から、本人がマスクをつけ、人にうつさない咳エチケットを徹底することが大事です」と今村さんは言う。

さて、私は今のところ、保健所からの連絡はない。咳は治まってきたが、念のためマスクをつけて仕事には来ている。ただ、数日前からやはり咳が出てきた隣の席の同僚が恨めしい顔で私を見ている...。

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