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白衣の悪魔「上手な医療のかかり方大使」に 「日本の医療現場の危機を、国民の多くが知らなければ」

「上手な医療のかかり方」を広めるための大使が任命され、「白衣の悪魔」のデーモン閣下や3人の子育てに奮闘中の中村仁美さんがどうしたら上手に医療にかかれるのか語り合いました。

厚生労働省は、「上手な医療のかかり方」を広めるために、デーモン閣下を大使に任命し、フリーアナウンサーの中村仁美さんを1日大使に任命しました。

11月18日、開かれた任命イベントで、デーモン閣下は「このまま行くと医師は疲弊してちゃんとした医療を受けられなくなるという現状を国民のみんなに知ってもらいたい」、中村さんは「親として病院にかかるべきか的確な判断ができる知識を得て、それが医療現場の改善にも役立つということが他の親御さんにも伝われば」と意気込みを語りました。

その後、「上手な医療のかかり方」について語り合うシンポジウムが開かれ、医療の現状に関するクイズを通して、「#7119(救急相談電話)」や「#8000(子ども医療電話相談)」などを使い、病気に関する知識を持つことで、医療のかかり方を変えていけることが伝えられました。

加藤厚労相「負担を減らして、より質の高い、安全な医療の提供を」

まず、加藤勝信厚労相は、医師の過酷な勤務によって現在の医療が支えられていることに触れ、私たちの医療のかかり方にも改善の余地があるのではないかと問いかけました。

そして、

「例えば、大きな病院の方が検査もできるし専門の医師もいるからと考えがちです。しかしその結果、患者さんが大病院に集中し、長時間待たされ、診療は短時間で終わるといったことがあるのではないでしょうか?」

「これから冬場を迎えて風邪が流行するシーズンになります。ウイルス性の風邪には抗生物質は効果がないばかりでなく、不必要な投与が(薬が効かない)耐性菌発生の温床ともされています。『念のための抗生物質』を求めて医療機関を受診し、投薬を求めることがないでしょうか?」

「救急医療の搬送件数は毎年増加しています。一方で救急外来の受診が必ずしも必要でないケースも指摘されています。本当に救急診療が必要な重症患者の搬送に支障が出かねないのではないかという指摘もされています」

と、一人一人の医療のかかり方が自分たちにも、医療側にも負担をかけている可能性を伝えました。

その上で、

「受診の必要性や医療機関の選択など、上手に医療にかかることが実践できれば、患者や地域社会にとっても必要な時に適切な医療機関の受診が確保できる。患者さんから見ても混雑の緩和につながる。さらにその結果、現場の医療に携わる医師や医療スタッフの負担が緩和される。より質の高い、安全な医療の提供が期待できるという好循環が生まれるのではないでしょうか」

と、上手な医療のかかり方を広める狙いを説明しました。

白衣の悪魔「日本の医療は危機」医療者を代弁したい

その後、デーモン閣下と中村仁美さんを「上手な医療のかかり方大使」に任命しました(中村さんは1日大使)。

デーモン閣下は、2018年に開かれた厚労省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」の構成員として議論に参加し、自身のコンサートでも上手な医療のかかり方を広める活動を続けています。

中村さんは3人の子どもの母親で、子どもの医療のかかり方に悩む当事者の一人として、同じ立場の親たちに実感を持って上手なかかり方を伝えることを期待されました。

デーモン閣下は、「日本の医療現場が危機を迎えている、そして国民の多くがこれを知らなければならないということに役立てればと思い、今回この大役を承った」と思いを語りました。

中村さんは、「これだけ危機が迫っているとは知りませんでした。ちょっと心配だから一応受診しておこうかという行動が、そのまま直接医療現場の大変さに直結しているということは自覚がない方が私も含めて多いと思います」

「子どもを病院に連れて行くのは親にとって重労働で、うちは3人いるので、一人の受診のために全員連れていかなければいけない。でも連れていかないで重症化しても嫌だし、行ったら行ったで、わざわざ来ることもなかったんじゃないかなとも思う。親として行くべきか行かないべきか的確な判断ができる知識を得て、それが医療現場の改善にも役立つということが他の親御さんにも伝わればいいなと思います」

と親の心情を明かしました。

その後、加藤厚労相から、白衣を贈られたデーモン閣下は、

「白衣を着ることによって医療の現場の代弁者であることも兼ねて、今後やっていく」と話しました。

これからCMやポスターなどにも「白衣の悪魔」が登場する予定です。

医療の現場クイズ ギリギリで回している救急現場

その後、上手な医療のかかり方を広める懇談会の構成員を務めた「一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会」代表の阿真京子さんや「株式会社ワーク・ライフバランス」社長の小室淑恵さん、救急救命センターで働く医師、赤星昴己さんも加わり、上手な医療のかかり方を考えるシンポジウムが開かれました。

デーモン閣下が懇談会で提案した「上手な医療のかかり方を広めるための5つの方策」を紹介した後、医療現場の今を知るためのクイズを行いました。

まず、年間2500人の重症患者を受け入れている赤星さんが働く東京女子医大東医療センターの救命救急センターの医師の数は何人かデーモン閣下が尋ねると、中村さんは「30人ぐらいは必要ですよね?」と回答。

しかし、明かされた答えは8人でした。

赤星さんはこう現場を語りました。

「過去10年間で救急の件数は100万件増えていて、さらにうなぎ上りで増加し続けています。一方で救急医は勤務体制を心配する人が多くて増えていません。我々は全員を助けたいし、原則救急は断らないし、どんな症状でも来てくださいと言いたい」

「(医療行為を一部担える)診療看護師さんなどの助けを借りてなんとか工夫しながらつないでいますが、地域医療を守るにはギリギリです。どうしても緊急度の低い人が受診してしまうと、緊急度が高い人が受け入れられないことがあると思います」

デーモン閣下は「今の方が救急度が高くない人も安易に時間外に受診している人が増えているということですね」と尋ねると、「中には必要ない救急要請があるのは確かかなと思います」と赤星さんは答えます。

小室さんは「本当は翌朝、病院が開いてから通院したらいいのに、会議が休めないなどいろんな理由で夜間の救急にかかって翌日は這ってでも会社に行くということがある。『這ってでも来い職場』があると、時間外診療を利用してしまい、企業のプレッシャーもすごく関係している」と、企業の問題も指摘しました。

心配性の夫「何かあったらいけないから」救急外来へ

次のクイズでは、勤務医で毎日、毎週自殺や死を考えている人が3.6%にのぼるというデータが明らかにされ、過酷な勤務で医師たちが追い詰められている深刻な現状が伝えられました。

さらに、小2、年少、生後5ヶ月と3人の小さな男の子の母親の中村さんに、デーモン閣下が「子育てをしていると急に具合が悪くなった、どうしようということがありますが、どんな対応をしてきましたか?」と尋ねました。

中村さんは、「私自身は病院行かずに市販のお薬を飲んで寝たら治るかなと考えだったんですが、夫(さまぁ〜ずの大竹一樹さん)は真逆で、『心配だからお願いだから(病院へ)連れて行ってくれ』と言われます。子どもにもどれぐらい辛いか、いつ頃から痛いかは確認するのですが、最終的には病院に行くことが多いです」と答えました。

新米の親御さんに医療のかかり方を伝える活動をしてきた阿真さんは、救急を呼ぶべきか悩んだら相談できる「#7119」や、子どもの体調不良を相談できる「#8000」という電話相談があることを紹介し、厚労省も上手な医療のかかり方.jpという信頼できる情報を提供する医療サイトをオープンしたことを紹介しました。

その上で、深刻な病状を見逃さないためには、「いつもと違う」ことに気づいて、医療者に伝えることが必要で、泣き方や肌の張りなど「我が子のいつもを知る」ことが大事だと強調しました。

さらに、高熱が出ていても、全身状態を見ることで救急にかかるべきかどうかは判断できることを紹介しました。

「お熱だけで受診したくなる気持ちはよくわかるのですが、お熱の高さは状態の悪さとイコールではないと言われます。先生方は全身状態を見ることが大事だと言いますが、予防接種をした上で、『食う』『寝る』『遊ぶ』『出す』がいつもと同じようにできているかどうかが大切です」と見分け方のコツを伝えました。

中村さんは、「親は病院に連れて行きたいわけではなく、安心したいので、プロの意見を聞きたい。相談電話はすごくいいですよね」と話ししました。

「上手な医療のかかり方アワード」募集中

このキャンペーンに絡み、厚労省は「上手な医療のかかり方」を広めるための取り組みを表彰するアワードを作りました。12月20日まで募集中です。

筆者の岩永直子は、上手な医療のかかり方を広めるための懇談会に参加した構成員で、今年度も引き続き、懇談会で決めたことが適切に実行されるか推進委員を務めています。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に取り組みを報じていきます。