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2000年度生まれ以降は子宮頸がんから守られない? HPVワクチン実質ストップの影響

日本では20代、30代の子宮頸がんが急増していますが、予防策であるワクチン接種は4年間ストップしたままです。

国が積極的な勧奨を中断して4年、事実上、接種がストップしている子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)。この空白期間に公費助成で打つ機会を失った2000年度生まれの女子が、子宮頸がんを発症するリスクは接種開始前のレベルに戻ったと推計されることが、大阪大学産婦人科の助教・上田豊さんや特任研究員・八木麻未さんらの研究で明らかになった。

20〜30代の子宮頸がん発症が増えている日本。このまま国がワクチン接種に消極的な姿勢を見せたままでいると、2001年度以降に生まれた女子も発症リスクが高いまま放置されることになりそうだ。

日本で事実上、接種がストップしているHPVワクチン

性交で感染するウイルスが原因のがん

子宮頸がんは、主に性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で発症するがん。性交経験のあるほとんどの女性が感染するありふれたウイルスで、多くは自身の免疫力で排除される。ところが、一部は持続的に感染することでがんの前段階である前がん病変に進み、さらにその一部ががんにまで進行する。

HPVワクチンは、約100種類あるHPVの中でも特にがんに進みやすい16、18型への感染を防ぐ。日本人の子宮頸がんの約6割はこの16、18型が原因とされている。性交渉を始める前に打つことが効果的で、国は2013年4月から12〜16歳の女子について公費で接種する定期接種とした。

ところが、直後に痛みなどの体調不良を訴える声が相次ぎ、同年6月に国は積極的に勧めることを中断した。被害を訴える人たちは昨年7月、国やワクチンメーカーを相手取り、慰謝料などを求めて集団訴訟を起こしている。こうした影響で、一時、7割程度だったと推計されるワクチン接種率は現在、1%未満まで減少し、事実上ストップしている状況だ。

定期接種で発症リスクも30〜44%低下

上田さんらは、生涯の子宮頸がん発症リスクは、生涯のHPV感染リスクに比例すると仮定して、大阪府堺市の各出生年別の接種率を元に、感染率やがん発症率を推計。ワクチンが定期接種化した時には17歳で対象年齢から外れていた1993年度生まれの発症リスクを1とした場合、他の出生年度ではどれぐらいの発症リスクとなるか比較した。

その結果、積極的勧奨が行われていた時期に対象年齢だった1994年度生まれから1999年度生まれまでは、累積接種率が65.8〜75.7%となり、定期接種で打つ機会のなかった1993年度生まれより、発症リスクが30〜44%下がった。

事実上ストップで定期接種化前の発症リスクに

ところが4年間の空白期間に累積接種率が4.1%にまで下がり、今年定期接種の対象外の17歳になった2000年度生まれは、2%しか発症リスクが下がらなかった。ほぼ定期接種前のレベルに戻った状況だ。

さらに、上田さんらは別の研究で、ワクチンで感染を防ぐことができるハイリスクな16型、18型の20歳時点での感染率を推計。定期接種で打てた年代は約3分の1まで下がった感染率が、2000年度生まれ以降では定期接種前と同レベルまで上がることもわかっている。

増える20代、30代の患者

婦人科がんを専門とする医師の上田さんは、子宮頸がん検診で前がん病変やがんの疑いありとされた女性の精密検査や治療を専門とする外来を大阪大学で担当している。駆け出しの研修医だった20年前は、50〜60代の患者が多かったが、今では20〜30代が目立つようになった。

実際、国立がん研究センターの統計でも、20代後半から30代の子宮頸がん罹患率はここ20年で2倍以上に増えている。

「性活動の低年齢化、活発化によるものではないかと言われていますが、大阪府のデータでも2000年頃から若い世代の子宮頸がんがどんどん増えています。この世代は妊娠・出産年齢でもあり、出産を希望する若い女性が、前がん病変やがんで手術を受け、流産や早産、子宮摘出に苦しむ姿をたくさん見てきました」

前がん病変である「異形成」は進行度によって軽度、中等度、高度と分けられるが、高度異形成まで進むと子宮頸部を円錐状にくり抜く「円錐切除」という手術を行うのが一般的だ。円錐切除によって早産、流産のリスクが高まり、さらにがんに進行すると子宮全摘手術を行う可能性が高くなる。

蓄積された研究 そして、国の判断は?

子宮頸がん検診は早期発見、早期治療に結びつけるために重要だが、発症を防ぐことはできない。そして、世界各国でHPVワクチン接種が前がん病変を減少させたという調査報告が蓄積されている。

一方で、ワクチンの安全性を検証する厚生労働省科学研究や名古屋市の調査ではワクチンを接種していない人たちでも、接種した人と同様の身体症状が現れることが報告され、ワクチンと体調不良の因果関係は明らかになっていない。

WHO(世界保健機関)は2015年12月に「若い女性たちはワクチン接種によって予防しうるHPV関連のがんに対して無防備になっている。弱い科学的根拠に基づく政策決定は、安全かつ有効なワクチンを使用しないことにつながり、実害をもたらしうる」と日本を名指しで批判。

2016年4月には日本小児科学会や日本産科婦人科学会など17の関連学術学会が積極的な接種を推奨する見解を発表している。

それでも国の積極的勧奨は再開されないまま、2000年度以降に生まれた女性は、再びワクチンがない時代の発症リスクにさらされる可能性がある。

上田さんは「積極的勧奨が再開されないうちは、特に2000年度以降に生まれた女性は子宮頸がん検診をきちんと受けて早期発見に努めてほしい。再開した場合には、接種対象の年齢を通り過ぎた人も追って接種できるようにし、オーストラリアのように男性も受けられる体制を整備することが、子宮頸がん予防のために重要な選択肢になると思います」と提案している。