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23歳の私が10万円を出してHPVワクチンをうったわけ

中学生の時にHPVワクチンを公費で打ちそびれた女性が23歳になって自費で10万円をかけて9価ワクチンをうちました。どうしてそんな気持ちになったのでしょうか?

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するHPVワクチン。

日本では2013年4月から小学校6年生から高校1年生の女子が無料で受けられる「定期接種」となっている。

ところが接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、それをメディアがセンセーショナルに報道したこともあり、対象者に個別にお知らせを送る「積極的勧奨」を国が差し控えて、7年以上、実質中止状態だ。

そんな中、当時、HPVワクチンを公費でうてなかった医療従事者のかほさん(仮名、23)が今年に入って自費でHPVワクチンを受けた。9種類のHPVへの感染を防げる9価ワクチンで、3回で約10万円がかかった。

「辛い出費ですが、命の問題なので高くありません。できれば公費で受けたかった」

BuzzFeed Japan Medicalはかほさんに取材した。

Twitterを見て「自分はうっていないな」と不安に

現在、23歳。定期接種には間に合わなかった世代だが、大学進学まで住んでいた自治体で2011年1月に公費助成が始まった時に中学生だった。

自分がHPVワクチンをうったかどうかなんて気にしたこともなく生きてきた。

それが、昨年秋、Twitterで「高校1年生は最後のチャンス」というつぶやきが流れてきたことで急に気になってきた。

HPVワクチンは免疫をしっかりつけるために、通常3回うち、1回目と3回目の間は6ヶ月空けなければならない。公費でうてる3月までに3回とも接種するために早く1回目をうつよう医療者たちが呼びかけていた。

「そもそも私うったかなと嫌な予感がして、母に電話して聞いたら『だって危ないからうたせなかったよ』と言われたのです」

「そういえば私が中学生の時に希望制(任意接種)のワクチンがあったなと思い出しました。それから色々検索するようになって、BuzzFeedの記事も読みました」

調べているうちに、学生時代にHPVワクチンのテレビ報道を見た記憶が蘇ってきた。

「女の子がうって歩けなくなったなどとニュース番組などで連日やっていました。『ああうたなくてよかった。うちの親は正しかったんだな』とホッとしたことを思い出しました」

でも、あれから時が経ち、医学の勉強をして医療従事者になった今は、HPVワクチンの情報が違って見えてきた。

日本産科婦人科学会、WHOの情報を検索

地元から出たい一心で、中部地方の大学に進み、医療資格の国家試験を受けて東京の病院に就職した。大学の授業ではHPVワクチンは生理学の授業で少し触れたぐらいだった。

「感染症の授業があって、予防するワクチンがありますがそのうちの一つということでした。そこでも自分のこととしてはあまり思い出さなかった。昨年、Twitterを見て、初めてハッとしたんです」

母や叔母に相談すると反対され、地元の友達にも相談したが、「そんなわけのわからないものうたなくてもかほちゃんは大丈夫だよ」と言われた。

どうしても気になってインターネットでHPVワクチンの情報を検索し始めた。11月初めには一部の自治体が接種対象者にお知らせを送っていることを日本産科婦人科学会が支持する声明を読んだ。

「学会はお金目的でそういうことを言う団体ではないことはわかっていたので、本当に安全なんだ、それをうち逃していたのかもしれないと思い始めました」

日本産科婦人科学会のサイト厚生労働省のサイトWHO(世界保健機関)のサイトと信頼できそうな学会や公的機関の情報を読み漁った。

「最初はTwitterも検索していましたが、ワクチンに反対する人たちの投稿で炎上していました。ここで情報を集めるのは得策ではないと思い、公の情報を当たりました」

公の情報はどれも、安全で効果があるとデータも引用しながら書いてある。

「海外のサイトも読んで、他の国だと子宮頸がんはワクチンで撲滅できる見込みになっているのに、この国だけ残っているのはまずいとも思いました。WHOでも推奨されているのだから、本当だろうと考えました」

「大学の指導教官が、一つの論文だけではあてにならないと指導する人で、システマティックレビュー(質の高い複数の論文データを分析している論文)などをちゃんと見なさいと叩き込まれたんです。それがHPVワクチンについて調べる時にも役立ちました」

自費でうつことを考え始めた。

18歳で初体験 検診もずっと受けていなかった

かほさんが初めて性行為をしたのは18歳の時だった。

HPVは性的な接触でうつるウイルスだ。

「経験が少ないので、正直、大丈夫だろうとたかをくくっている節があったのです。『私の彼氏は遊んでいる人ではないし』と本気で思っていました。でも、そういう問題じゃないということも調べているうちにわかってきました」

HPVはセックスの経験がある女性の8割が感染しているありふれたウイルス。初めての性行為であっても、相手がHPVを持っていれば感染する可能性がある。男性も感染し、性的な経験が豊富な人だけがうつるウイルスではない。

実は20歳から対象となる子宮頸がん検診もそれまで一度も受けたことがなかった。HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となるウイルスへの感染を防ぐが、検診はがんやがんの手前の状態を早期発見するために行う。

かほさんは住民票を実家の住所に残したまま、違う県の大学に進学し22歳まで自治体の検診の案内を受け取ったことがない。

「大学3年、4年生は、実習と卒論と卒試で忙しかったので、実家に帰ってまで検診を受けようという気持ちにはなれませんでした。今やらなくてもということで結局受けなかったのです。今思うとそんなに時間はかからない検査なのに」

今回、ワクチンをうとうと決めて、1回目の前に子宮頸がん検診も受けた。陰性だった。

LINEで予約、明るい看護師、翌日には痛みなし

そして、今年1月に1回目をうった。LINEで予約ができるクリニックで、仕事を終えた後に夜でも行ける。「在庫があるのでいつでもOK」と返信があり、ハードルの低さに驚いた。

当時、日本で承認されていた2価、4価ワクチンではなく、9種類のウイルスへの感染を防ぐ9価ワクチンがうてるクリニックを選んだ。2、4価では子宮頸がんの6〜7割を防ぐとされているが、9価なら9割を防ぐと言われている。

自費で1本3万5200円。3回で10万円を超える。彼氏は「がんが防げるなんてすごいね。そんなに高いなら少し出そうか?」とうつことを応援してくれた。

昨年就職したばかりの23歳にとって、軽い出費ではなかったが満足している。

「出せないわけではないですが、給料の少ない20代にはきついです。でも惜しくはない。自分の体を守るためですから」

日本では毎年約1万1000人が子宮頸がんになり、約3000人が死亡している。20〜30代の若い女性の発症も多いのがこのがんの特徴だ。

うつ時はあまり緊張はしなかった。

「最初にお医者さんから、『何を見てうとうと思いました?』とか色々聞かれたんですよ。『良い選択ですね』と言われ、『なかなかあなたぐらいの歳の人は来ないけど、輸入した甲斐がある』とも言われました」

筋肉注射で痛みが強いと言われていたが、翌日には痛みはひいた。

「他のワクチンよりやはり痛かったですが、翌日にはなんともなくなりました。看護師さんもできるだけ明るい雰囲気にしていましたね。『私も痛かったの!これ!』『でもそんなに腫れないよ。揉まないでね』と言ってくれて、リラックスしてうてました」

3月に2回目、7月に3回目をうち、3回接種を終えた。今もなんともなく過ごしている。

3回目をうつ直前、9価ワクチンが厚労省の検討会で承認することが認められたニュースも読んで安心した。

「遅いですよね。でも、あの承認が『自分は間違っていないんだ』という自信になりました。親も反対していましたし、国が正式に認めてくれたのは安心感がありました」

メディアや情報発信の問題

今回、BuzzFeedのHPVワクチンの記事を読んでくれていたかほさんが、医療のイベントの時に声をかけてくれて、取材に繋がった。

「記事が感情的でないことにすごく安心しました。HPVワクチンは反発が強いですよね。強い意見というのはたいてい論理的ではありません。冷静に最新のデータを紹介してくれていたので信用できました」

せっかくうつので自分も発信しようと、noteにHPVワクチンをうつという記事を書いてみて、最初についたコメントに驚いた。

「『お前は騙されている』『毒を体にいれてまで』『人殺し』という激しい言葉を見て、うわ〜と慌てて消しました。でも『うっても安全だということを証明してやろうやないかい』という意地が芽生えましたね。自分を被験者にしてやろうって(笑)」

ただ、Twitterなどを見ていて、HPVワクチンを勧める医療者たちの口調も強過ぎることが気になっている。

「一生懸命伝えているのでしょうけれども、喧嘩腰ですよね。喧嘩腰で来られると、それに反発する人は絶対にいます。正しいとか正しくないではなく、喧嘩しているように見えてしまう。もっと落ち着いてほしい。これまでずっと情報が届かなかったから喧嘩腰になっているのでしょうけれども逆効果だと思います」

とはいえ、かほさんが参照した厚生労働省や学会の情報も難しいと感じている。

「私は医療者だから医療用語も慣れていますけれども、文字がたくさん並んでいるから読みたくないという人は結構いると思います。だからもっと煽らないで、読みやすい資料が女の子たちに届くことが必要だと思います」

国に求めること

今回、取材に答えてくれたのは、同世代の女性にHPVワクチンは大丈夫だよと伝えたかったからだ。

「高くはない給料でもうった人間がいるということを伝えたいです。大丈夫だったよという1例になれたらいいなと思います」

同世代はめったに病気もしないから、がんになる可能性を考えることがない。

「インフルエンザでも、なってから何とかすればいいとワクチンをうたない子がたくさんいます。『心配し過ぎ』とも言われます。でも、公の機関が勧めていることの重みをもっとみんな知ってほしい。新型コロナでこれだけ大変になっているのですからワクチンの意味をきちんと考えてほしい」

国のHPVワクチンの位置付けは、対象者の女性にとてもわかりにくいものになっていると感じている。

「『積極的には勧めていないけれど、うちたいならうってもいいよ』とモヤっとする言い方がされています。結局どうすればいいの?と思ってしまう。心配でうち逃した人だってたくさんいるでしょう。対象者にはお知らせを送って、うてなかった人には公費でうち直しできますよとなればうちたい人は出てくると思います」

チャンスを逃した人の接種も必要だし、もし対象年齢でなくても、補助が出たらありがたいとも思う。

「30歳ぐらいまでにはうちたいワクチンですが、この年代は給与も少ないし、一人暮らしをしていたらなおさら余裕がない。まだ生涯のパートナーを決められない頃だと思いますので、対象者をもっと広げた方がいいと思うのです」

そして、男子にも接種を広げてほしいとも願う。HPVは中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんなど男性がかかるがんにも関わることがわかっている。欧米では男子も公的接種の対象になっている国が多い。

「彼氏は最初はHPVが男性のがんにも関係あることを知りませんでした。子宮頸がんを防ぐことだけが強調されて、男性側もうったほうがいいことが知られてもいません。本当に日本は遅れているなと思います」

メディアは正確な情報を

メディアには、煽らずに正確な情報を伝えてもらうことを求めたい。

「昔のテレビ報道をみたときに、うたなくてよかったと心の底から思ったんですよね。ショックを受けたものは一旦保留にするし、思考を停止させる。視聴率稼ぎにしては人の人生を左右し過ぎだと思います」

「先日の9価ワクチン承認のニュースもほとんど報じられていませんでした。コロナで国難だからということを大義名分にしているのかもしれませんが、亡くなる人は子宮頸がんの方がずっと多い。メディアには責任を感じてほしいです」

若い世代は、朝昼のニュース番組はほとんど見ない。

「ワイドショーやクローズアップ現代などで特集をやってくれればいいなと思います。日本人って、『みんなやってるよ』と言われると乗る。YouTuberとか、女子高生モデルが私もうったと発信してくれたら関心を持つのではないでしょうか?」

「淡々とデータを示しながら、女性たちに寄り添って発信してほしい。私は特に子どもは欲しくないですが、がんにはなりたくないからうちました。でも田舎の友達はいつか母親になりたいという夢を持っている子が多いです。将来の妊娠にも関わるよとか、痛みがあってもすぐに収まるよとか対象者が欲しい情報を伝えてほしいです」