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HPVワクチン、積極的勧奨再開へ 厚労省の副反応検討部会「再開を妨げる要素はない」

厚生労働省の「副反応検討部会」が開かれ、子宮頸がんを予防するために定期接種にしているHPVワクチンについて、「積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」と再開を認める方向性が確認されました。

厚生労働省の「副反応検討部会」と「薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」の合同会議が10月1日に開かれ、子宮頸がんを予防するために定期接種にしているHPVワクチンについて、積極的勧奨を再開するか検討する議論が始まった。

座長の森尾友宏・東京医科歯科大学小児科教授は「大きな方向性として、積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」とこの日の議論をまとめ、再開の方向性が確認された。

次回の検討会で再開に関わる医療体制などの課題を検討した上で正式決定する。

HPVワクチンは2013年4月に小学校6年生から高校1年生の女子を対象に公費でうてる定期接種になったが、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、メディアがセンセーショナルに報道したことで、同年6月に積極的勧奨が一時中止されていた。

対象者へのお知らせが届かなくなり、70%に上っていた接種率は一時1%未満まで落ち込み、接種を逃した当事者、医療者、学会、与党の議員連盟などから積極的勧奨の再開を求める声が高まっていた。

3つの課題「安全性と有効性の整理」「接種後の症状に苦しむ人への支援」「情報提供」

この日の検討会では、これまでの経緯と共に、

  1. HPVワクチンのリスク安全性と有効性の整理
  2. 接種後に起こった症状に苦しんでいる人への支援
  3. HPVワクチンの安全性・有効性等に関する情報提供


という3つの課題が提示され、その上で、積極的勧奨を再開するか否かという論点が問いかけられた。

1つ目の課題については、この8年間に国内外で蓄積された安全性や有効性の科学的根拠が示され、接種後に訴えられている多彩な症状についてはワクチン接種との関連性は示されていないことが報告された。

また、有効性については前がん病変だけでなく、子宮頸がんそのものも減らす効果が示され、接種していない人も感染や前がん病変を防ぐ「集団免疫」の効果まで見られていることが示された。

また2つ目の課題である接種後に生じた症状に苦しんでいる人の対応については、救済制度が確立され、47都道府県に84の「協力医療機関」を設置して治療対応するなど、支援が強化されていることが紹介された。

3つ目の情報提供については、HPVワクチンの安全性や有効性をわかりやすく伝えるためにリーフレットが改訂され、昨年10月の厚労省の通知でこのリーフレットを使った対象者への個別の情報提供を今年度までに行う市町村が76.4%に上っていることが報告された。

接種状況についても、HPVワクチンへの周知が進んだこの2〜3年で、徐々に接種数が増えていることも紹介された。

一方、副反応疑い(有害事象)(※)報告については、この数年間、0.5%未満でほぼ横ばいであると報告された。

※ワクチンとの因果関係は無関係に、接種後に起きたあらゆる有害な出来事。そのうち、ワクチンとの因果関係が否定できないものを副反応という。

3つの課題では、接種後に報告されている副反応疑いがワクチンと関係があるとは明らかになっていない一方、有効性については子宮頸がんそのものを防ぐ報告も出ており、情報提供や接種後の症状への対応も進んでいることから、以下の論点を審議するよう事務局から問いかけられた。

現在HPVワクチンの定期接種の積極的な勧奨が差し控えられていることについて、どのように考えるか。

委員からの意見

その後、委員からの意見が出された。

まず、2013年6月の積極的勧奨が差し控えられた時も委員だった国立感染症研究所名誉所員の倉根一郎委員は、これまでの議論で、接種後の痛みや運動障害は実際にあるものの、ワクチンの物質によるものではなく、注射の痛みや体を動かさないことによって生じているという結論が示されてきたことを報告した。

亀田総合病院薬剤管理部長の舟越亮寛委員は、「多様な症状が起きた人への救済制度は充実し、行政の対応は適切だ」と評価した上で、積極的勧奨が再開された場合、対象者に配っているリーフレットの内容を最新情報に基づいて見直すことを求めた。

また、再開された場合、接種者が増えることを踏まえ、接種後に相談にのる医師の研修の必要性や、治療に当たる協力医療機関の数が足りるのか、診療所も含めて広げることも議論することが必要だと指摘した。

リーフレットは積極的勧奨を再開していないため、「接種をおすすめするお知らせをお送りするのではなく」という文言が入り、読んだ保護者から「勧めたいのか、勧めたくないのかわからない」という混乱の声が上がっている。

これについても舟越委員は「積極的推奨ではないけれども、市町村から個別送付をするというちょっと曖昧な状態になっている中なので、見直すタイミングで、もう少し盛り込んでもらいたいことがある」と求めた。

また、個別にお知らせが届かず接種のチャンスを逃した人について「うてなかった人への対応を議論していかなければならない」とキャッチアップ接種の必要性を述べた。

山梨大学大学院総合研究部医学域社会医学講座教授・山縣然太朗委員は、「今後キャッチアップ接種の問題も出てくるので、どれぐらいの人がうつことができなかったのか。どれぐらいの人がうつ希望があるのか検討する必要がある」と、接種の状況を確認する必要があると要望した。

対象者への情報提供については、国立感染症研究所感染症疫学センター予防接種総括研究官の多屋馨子委員は、「子供たちは学校に長くいるので、学校の先生、特に養護教諭がよく理解していただいて子供たちに教えていただけるような体制を」と学校との連携を呼びかけた。

接種後に症状が出た子供への対応については、安全対策調査会の埼玉県立小児医療センター病院長、岡明委員は、慢性の痛みに対応している指定医療機関や小児科の医療機関の協力も求めていくことを提案した。

国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター長の長谷川秀樹委員は、情報提供について以下の意見を述べた。

「(定期接種の対象となっていない)9価のワクチンを希望している人も多く、(定期接種となっている)2価、4価が古いものを与えられるという印象を避けた方がいい。違いを説明した方がいい」

「リーフレットを読まずにゴミ箱に捨てる人もいるので、紙媒体だけでなく、若い世代の親などに届く方法で、コロナで言われていることを応用して、と思う」

今すぐの再開に慎重な意見、副反応検討部会で決めるべきでないという意見も

一方、今すぐの再開に慎重な意見も出た。

長谷川委員は、「移行期間が必要になる。今まで国で勧めませんよとなっていたのに、いきなり勧める、となれば、何だったのだろうと思う。いきなり(差し控えを)外すのではなく、情報を与えられて受けたい人は受けられるという間のクッションが必要」と意見を述べた。

これに対し、事務局は、リーフレットの個別送付などで情報提供をする段階を経た上で、積極的勧奨を再開するかどうかという論点を出していると説明して、必要な段階を踏んだ上で、再開が審議されていることを強調した。

さらに、再開を副反応検討部会で決めるべきではないという意見も複数の委員から出された。

東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授の濱田篤郎委員は、「積極的勧奨を再開する時期に来ているのかなと思う」としながらも、こう疑問を投げかけた。

「副反応検討部会の立ち位置として、どこまでここで決めるのかよくわからない。実際、8年前、副反応検討部会で積極的勧奨を止めたのは事実だと思うが、あくまでも副反応検討部会はそういう懸念がなくなったと報告を出して、それに基づいて、(上部にある)予防接種分科会で決める話ではないか」

「行政面での対応が重要になっている時期で、キャッチアップ接種の件もある。危ない危ないと言っていたものをうてるようにするのであれば、副反応検討部会で決めるよりも、ここでは副反応への懸念はなくなってきたということを報告した上で、もっと上の分科会(予防接種・ワクチン分科会)で決めるのがいいと思う」

この意見に対し、長谷川委員が「そもそもどのワクチンを積極的勧奨にするのかを選ぶのはどこの会議体か?」と尋ね、宮川委員が「予防接種・ワクチン分科会の中の予防接種基本方針部会になるはずです」とし、以下の意見を述べた。

「今日はリスク・ベネフィット(利益)の問題が整理されていたか、生じた症状に苦しんでいる方々に寄り添った支援がちゃんとできるのか、リスク・ベネフィットに関する情報提供がしっかりとできる体制ができているのか、課題の3つを把握して、ちゃんとできているか、今後の方針を定めましょうというところまでだと思う」

「(副反応検討部会は)ちゃんとした勧奨にできるのかどうかというところに持っていくのが大事で、濱田先生の言う通りだと思う」

長谷川委員も「私も積極的勧奨をどのワクチンにするかを決める会議に対して、副反応としてはどうかという意見を述べるのが適切かなと思います」と、副反応検討部会で積極的勧奨の再開を決めるべきではないという意見に賛同した。

「積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」次回の検討部会で結論

こうした意見に対し、座長の森尾友宏・東京医科歯科大学発生発達病態学分野小児科教授は、この日提示された課題を議論した上で、上部組織である「予防接種・ワクチン分科会」に諮る形で進めたいと述べた。

そして、この日出された意見をまとめた上で、「本日の部会の議論におきましては、大きな方向性として、積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」と明言し、積極的勧奨の再開を了承する方針を確認した。

今後、事務局が会議体の役割を整理し、接種者が増えた場合の医療体制や自治体が対応できるか、安全性に関するエビデンスが十分検討されたかなど、積極的勧奨再開にまつわる課題を改めて整理し、次回の検討部会にはかった上で、結論を出す。