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一度かかってしまうととても辛いから...... 当事者と産婦人科医がHPVワクチンの大切さを訴えるわけ

子宮頸がんの原因となるウイルスへの感染を防ぐHPVワクチン。国が積極的勧奨を再開する動きが出ている今、当事者と産婦人科医がその大切さを訴えるトークショーを開きました。

ワクチンで病気の予防を訴えるイベント「ワクチンパレード2021」(ワクチンパレード実行委員会)が10月21日、オンラインで開かれ、特別企画としてトークショー「HPVワクチン『再開』に向けて」が行われた。

子宮頸がんのサバイバー、羽賀登喜子さん、子宮頸がんで妻を亡くした渕上直樹さん、学生たちと啓発活動を続けている産婦人科医、高橋幸子さんが登壇した。

大学生「私たちの問題だ」 HPV Vaccine for Meをスタート

「性教育がしたくて産婦人科医になった」と言う高橋さん。「性行為で、接触でうつるウイルスを予防することでがんになることを防ぐことができると知り、このことを知らない人たちに伝えなければいけないと思っています」と挨拶した。

2019年に女子栄養大学の養護教諭を目指す学生サークル「たんぽぽ」の1、2年生の学生と一緒に、中学3年生向けの性教育の資料を作った。

「大学2年生は全員がHPVワクチンをうっていました。でも1年生は誰もうっていない。そこで1年生の学生が危機感を抱き、『私たち中学3年生のために資料を作ってきたけれども、これって自分たちのことだ』と気がついたのです」

そこで、国が積極的勧奨を差し控えたことにより、ワクチンのお知らせが自治体から届かず、接種の機会を逃した大学生とともに再チャンスを与えるように訴える「HPV Vaccine for Me」という活動を始めた。

妻が突然、子宮頸がんに「ワクチンがあったら.....」

渕上さんの妻、ルミ子さんは2018年12月に子宮頸がんと診断された。既にがんは腸にも広がり、手術もできない状態だった。診断された日は夫婦で抱き合いながら泣いた。抗がん剤や放射線治療などを重ねたが、昨年9月、幼い双子の娘を遺して47歳で亡くなった。

渕上さんはこう振り返る。

「2年弱戦ってきたのですが、子どもたちも今も寂しいと言っている毎日の中で、振り返るとワクチンがあったらもしかしたらこんなことにならなかったのかもしれないと思っています」

「ワクチンがあったら、こういう闘病生活もなかったのではないかなという思いがすごく強い。今子どもたちは7歳ですが、子どもたちのために何か残してあげたいと思って活動しています」

ルミ子さんは亡くなる2日前にビデオを撮り、子どもたちの毎日の幸せを願う言葉を遺した。

「『守ってほしい』と言われたので、自分たちの子供だけじゃなく、子どもたちが大人になっていく時に、HPVワクチンが本当に日本でちゃんと広まっている状態を作ってあげたいなと思っています」

妻の闘病生活の時に、「残酷だな」と思ったことがある。朝、音楽をかけて子どもたちが踊っている姿を一緒に見ていた時のことだ。

「大泣きしてしまったんですね。『なんで泣いているの?』と聞いたら、『生きていることを表現している。本当に楽しそうで羨ましい。自分は毎日毎日できることが少なくなっていくのに...。子どもたちは大人になっても幸せになってほしい』と言っていました」

ルミ子さんは「子どものためにも死ねない」と根治を目指す治療を希望したが、主治医からは痛みを和らげる治療を勧められた。新しい治療法を探るための臨床試験、治験にも参加した。

「(診断されてからの1年半は)痛みの話と治療の話、薬の話になっていて、かなり切羽詰まった生活になっていました。大変だったなとそばで見ていて思いましたし、自分自身もつらいものでした」

痛みを止める治療を続けながらも、妻は最後まで友達に「悩みなんかない?」と自分のことより、人のことを気遣う人だった。

「誰かのために生きていこうと感じとれたので、この悲しい思いを他の家族にさせたくない。子どもたちに子宮頸がんが撲滅された日本を見せてあげたいと思っています」

初期で発見されたが......「もう私は死んでしまうのかと頭が真っ白に」

「くまがやピンクリボンの会」で運営委員を務める羽賀さんは2008年、32歳の時におりものの異常に気付いて受診し、前がん病変である「高度異形成(上皮内がん)」と診断された。子宮頸部の一部をくり抜く「円錐切除」という手術を受けた。

「がんと言われただけで頭が真っ白になってしまって、『がん=死』じゃないですけれど、もう私は死んでしまうのかなと、すごく辛い日々でした」

HPVワクチンに反対する人の中には、「検診で早期発見すれば治る」と言う人もいる。だが、前がん病変を経過観察する心の負担も相当のものだ。

思春期外来で診ている高橋さんは「HPVワクチンをうっていない10代の女の子からも細胞診の異常は出てきていて、ワクチンをうっていたらこんなおっかない思いをしなくて済むのに、3ヶ月ごとにがん検診を受けてその2週間後に結果を聞きに来る。これがいかにドキドキすることか」と話す。

初期の段階で見つかった羽賀さんは「肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方が強かった」と言う。

「がんの知識が全くなかったし、HPV(ヒトパピローマウイルス)が原因でがんになることも全く知らなかった。どうしても性交渉による感染なので、陰湿なイメージがある。一人で抱えて悩んでいる人もいるし、酷いことを言われてしまう」

「私の場合は性交渉に抵抗を感じてしまった。その頃、子どもがほしかったのですが、病気をして性交渉をしたくなくなってしまった。抵抗を感じてしまってうまくいかず、そのまま歳を重ねて子どもができない歳になってしまった」

再発も怖かった。

「がんが転移しないか。またがんができないか。肉体的プラス精神的にも辛かったのが、私の子宮頸がんの思い出です」

高橋さんはまた、早期発見で円錐切除で子宮を残せた場合もリスクがあると指摘する。

「妊娠した場合に早産になるリスクがあったり、円錐切除の処置で妊娠しづらくなったりする。そして精神的に性行為自体も心が遠くなってしまう。未来の子どもにつながる道が絶たれてしまう大きなことなんだなと感じました」

一度でも性交渉があれば感染する可能性

羽賀さんは子宮頸がんになってから何年か経って、アメリカの10代と話した時に言われた言葉が忘れられない。

「性交渉したらみんなHPVいるの当たり前でしょう? だからワクチンで予防するんじゃん!」

驚いた。HPVは一度でも性交渉をした経験があれば、誰でも感染する可能性がある。それでも「性的に奔放な女性がかかる」という色眼鏡で見られることがあった。

「日本と海外では子宮頸がんに対しても、性教育に対してもこんなに違うんだと思いました」

検診で全ての前がん病変や初期のがんが拾えるわけではない。渕上さんの妻も検診をきちんと受けていたのに、手遅れになるまで見つけられなかった。

「限りなく可能性を低くするために、ワクチンと検診が必要なのだなと感じました」と渕上さんは言う。

子宮頸がんは他のがんと比べ、30代、40代と若い年齢でかかることも多い。経済的にもダメージを受ける。

「診断されてから仕事は辞めさせて治療に専念しました。僕は仕事をして、妻は抗がん剤のために病院に行って、送り迎えをするとその分、仕事はできない。仕事の頻度を落として病院のお金もかかるので、みなさん頭を抱えているのではないかと思います」と渕上さん。

羽賀さんも言う。

「病気のことだけを考えていたいのですが、やはりお金のことも考えなきゃいけないとなると結構きつい。子育て中の場合、時間もない。そのことで救われている方もいますが、それも辛いだろうなと想像します」

それでも、がんを経験していない人からは、「5年後、10年後にはがんなんて薬で治っちゃうんでしょ? HPVワクチンをうって予防しなくても、その頃にはがんは簡単に治っちゃうんじゃないの?」という質問を羽賀さんはよく受ける。

「でも、予防できるのは今ですよね? 」と問いかけると、高橋さんはこう答えた。

「ワクチンで防げることは大きい。診断を受けて定期的な検診を受けることの負担、治療の負担。早く見つかれば治るとはいえ、見つかるのが遅くなれば命にも関わることで、ご家族にも影響を及ぼします。ワクチン1本で防げるものをなぜうたないの?ということです」

無料接種のチャンスを逃した女子の悲痛な叫び

高橋さんは「HPV Vaccine for Me」で、無料接種のチャンスを逃した大学生たちと共に、国に再チャンスを求める活動をしている。今年3月には署名を厚労相に届けた。

その大学生たちのメッセージも代読した。

私は母が異形成(前がん病変)になったことがきっかけで、HPVワクチンを無料で接種することができました。しかし、副反応報道により、私のクラスメイトや後輩たちは途中でHPVワクチンをうつことをやめたり、存在自体知らなかったりする子がいます。

HPVワクチンをうちたいと思っても、彼女たちは自費で接種しなければなりません。しかし、HPVワクチンを自費で接種するとなると、5万円ほどかかります。また、9価ワクチンをうとうとすると、10万円以上する場合もあります。

私たちはそのお金がとても高く感じます。公費でうちたいと思った時に、うてる環境を作ってほしいと願っています。

勉強する機会がないと知らない情報が多く、こんなに大事なことなのに普通に生活しているだけでは教えてもらえない。高校までの学校でも習わないというのは残念だと感じました。

ワクチンの定期接種対象は小学6年生から高校1年生の子供たちなのに、必要な正しい情報が届いていない現状を変えたい。このまま情報不足で私たちと同じようにうち逃して後悔する人を減らしたいです。

定期接種なのに、対象者にお知らせを出していない自治体は今も4分の1近くあることがわかっている。

「『積極的勧奨再開』と国が言ってくれないと、学校から強くお勧めする情報提供はできないのですよ、と学校の先生もおっしゃるのです」と高橋さんは訴える。

男子接種、9価ワクチン、山積する様々な課題

HPVワクチンが防ぐのは子宮頸がんだけではない。肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんなど男性にも関わるがんの原因となることもわかっている。海外では男子にも無料でうたれている。

「性行為でうつるウイルスなので男性も媒介者であるだけでなく、男性自身のがんも防ぐことがわかっている。やはり男子もうってほしいですね」と高橋さん。

羽賀さんは、「情報が入ってこないから、自分たちの健康は自分たちで選ぶ自由があるのに、その自由もない。それは辛いです。男子も女子も自由にうてるようになってほしい」と話す。

また、今、定期接種でうてるのは、2種類のウイルスへの感染を防ぐ2価ワクチン、4種類のウイルスへの感染を防ぐ4価ワクチンで6〜7割の子宮頸がんを防ぐと言われている。さらに能力の高い9価ワクチンは9割防ぐとされる。

高橋さんは「どれをうちたいですか?と聞かれたら、9価に決まってますよね?でも9価のワクチンは定期接種の対象ではないので、お金を払って自分で選択できるところまでは来ています。無料での選択肢にはない状況です」と説明する。

渕上さんは言う。

「選択肢が増えるほど、良い方を選択するのは当たり前の話なので、それを選べるようになってほしいですし、男子女子共に話し合えるようになってほしい。今は女子だけがうつイメージが強いと思いますが、他の国では男子もうつ。ぜひこれから当たり前のように『ワクチンうった』と話せる時代になれば」

性教育 どうやって対象者に必要な情報を届けるか?

日本では「性」について話し合うハードルがとても高い。性行為で感染するヒトパピローマウイルスや、その感染を防ぐHPVワクチンについても、なかなか接種の対象者に説明できていない状況だ。

「小さい頃から家庭の中で性教育を積み重ねていく中で、HPVワクチンの話も当たり前にできるのかなと思う」と高橋さんは言う。

高橋さんらが厚労省の科学研究費で作った「#つながるBOOK」という高校生向けの性教育のパンフレットでも、セックスや性感染症のページがある。その中にHPVワクチンについての情報も入れた。

高橋さんは、「ただ残酷なことに高校1年生には『今なら無料でHPVワクチンを受けられるよ』と伝わるけど、高校2年生、3年生には、『ごめんね。もうあなたたちは無料じゃないんだよ』って伝わるんです。だからもっと早く知ってもらなくては」と言う。

そこで高橋さんが監修して作ったのが、小学生女子向けの漫画雑誌『りぼん』に綴じ込み付録として作った「生理カンペキBOOK」だ。

「小学6年生から接種対象ですから、小さい頃から知っていて損はないと思って、その情報も入れました。知ることで選択することができる。お知らせが届くのが第一歩になりますから、積極的勧奨の再開を一刻も早くお願いしたい」

厚労省の副反応検討部会は10月1日、積極的勧奨再開の方向を確認したばかりだ。

高校1年生は11月中に初回をうてば3回とも無料

HPVワクチンは半年で3回うつことが必要だが、最後の年になる高校1年生は通常9月までに1回目をうてば、3回とも無料でうち終えることができる。ただ、止むを得ない事情がある場合には、4ヶ月で3回うつことも認められており、11月中に1回目をうてば間に合う。

「高校1年生の女子を見たら『HPVワクチン!』と叫べ月間、と呼んでいます」と高橋さんは、期限が迫る女子への情報提供を呼びかける。

羽賀さんも「1日も早く(積極的勧奨を)再開してほしい。先進国の中でなぜ日本だけ?と...。人体実験じゃないけど、日本だけうっていないから子宮頸がん患者が増える。他の国ではゼロに近づいている中で、日本だけなぜ変わらず、このままだともっと増えてしまう。すごく怖いです」と語る。

「若い女性ががんになるなんてと思っている方は本当に多いと思うので、これからもワクチンのことももちろん、子宮頸がんの知識を私なりに伝えていけたら」

渕上さんも「今、コロナワクチンを親がうつので、ワクチンがどういうものか子供たちの頭の中では定着しています。そのつながりで、『ママは勝てなかったけれど、今からだったら(子宮頸がんに)勝てるワクチンがある』と言うと、『それは選ぶしかないよね』と子供たちに言われたりもする」と言う。

「知れば選択するだろうというのは明白なので、そういった社会づくりを僕自身もやっていきたい」

高橋さんは最後にこう締めくくった。

「ワクチンをうてば終わりじゃなくて、子宮頸がんはがん検診も必要だということや、ワクチンをうった後の副反応で苦しんでいる人がいることも大事なところです」

「副反応はどのワクチンにも起こりうること。それが起こった時にサポートできる体制が大切で、日本中のお医者さんたちが『ちゃんと診てあげるから安心してうってね』という環境を整えてくれています」

「皆さん、知識を得た上で、うつかうたないかを自分で選択できるようになるのがいい。みんパピ!わかりやすいフライヤーもありますので、今日のイベントを、ぜひお子さんと『HPVワクチンってあるんだって。うつかどうか一緒に考えてみよう』というきっかけにしていただけたらと思います」