• hpvjp badge
  • medicaljp badge

HPVワクチンの積極的勧奨再開 新聞各紙はどう報じたか

厚労省の審議会に了承されたHPVワクチンの積極的勧奨再開。新聞各紙はどう報じたのでしょう。主要6紙を比較しました。

厚労省の審議会に11月12日に了承されたHPVワクチンの積極的勧奨再開。

積極的勧奨の差し控えが長引いたのは、接種後の症状をマスメディアがセンセーショナルに報じて社会の不安を煽ったことも一因と見られている。

再開が了承された翌朝、新聞各紙はどう報じたのか。主要6紙(東京版)を比較した。

【朝日新聞】1面、 31面(第3社会面)「HPVワクチン勧奨再開 子宮頸がん 中止から8年」

朝日新聞は1面左下に3段見出しで「HPVワクチン勧奨再開 子宮頸がん 中止から8年」、第3社会面トップ3段見出しで「10代接種後のケア課題 子宮頸がんワクチン 体調不良や不安」と2本立てで報じた。

1面の記事では、「ワクチンの有効性について、子宮頸がんそのものを防ぐ効果が海外の報告で示されたことを確認。一方で、接種後に体の広範囲が痛むなどの『多様な症状』とワクチンとの関連を示すエビデンス(科学的根拠)が認められておらず、安全性について『特段の懸念は認められない』と判断した」と、副反応検討部会の判断を書いた。

「勧奨が中止されていた8年余りの間に接種機会を逃した人に公費で接種する救済策も設ける方向だ」と、キャッチアップ接種についても触れている。

社会面では、「検討部会では、勧奨再開に向け、接種後の体調不良による受診や相談に対応する医療体制の強化を求める声が上がった」と、接種後に訴えられた症状への対応を中心に書いた。

定期接種に使われている2種類のHPVワクチンで、どのような副反応が起こり得るのか表を使いながら説明した上で、「厚労省の部会は2014年、ワクチンの成分による神経疾患や中毒、免疫反応では説明できず、接種後の痛みや不安などがきっかけになったことは否定できないと結論づけた」と検討部会の判断を紹介している。

注射に伴う緊張や不安が様々な症状を引き起こすとWHOが提唱する「予防接種ストレス関連反応」についても触れ、「厚労省の研究班のその後の調査で、多様な症状は、HPVワクチンを接種していない同年代の人にも一定数いることがわかっている」と指摘。

検討部会委員の岡明・埼玉県立小児医療センター病院長の「予防接種を打った、打っていないに関わらず、多様な症状のある人をしっかり診療できる体制をつくることが非常に大事だ」という発言を載せた。

また海外では2回接種が主流になりつつあり、日本も現状の3回接種から2回接種に減らすことが安全性の改善につながるのではないかという委員の意見も載せた。

一方、最後は、HPVワクチンによる薬害を主張して国や製薬会社を相手取った損害賠償請求訴訟を起こしている薬害訴訟の全国原告団・弁護団の「深刻な被害実態と科学的知見を無視したきわめて不当な結論」という抗議声明の言葉で締めくくった。

【読売新聞】2面「HPVワクチン 勧奨再開へ 子宮頸がん予防 厚労省部会 了承」

読売新聞は2面下の3段見出しで「HPVワクチン 勧奨再開へ 子宮頸がん予防 厚労省部会 了承」という記事を掲載。32行の記事が1本と、新聞各紙で最もあっさりした扱いが目立った。

「厚労省は15日に開かれる別の専門家会合で接種体制を議論し、来年度にも再開させたい考えだ」と時期も掲載。

副反応検討部会で示された、今月イギリスから出たばかりのワクチンが浸潤子宮頸がんを予防することを報告した研究を紹介。

「過去2〜3年に国内で副反応が疑われる報告の割合は0.5%未満とし『勧奨を差し控える状態を終了させるのは妥当』とした」と検討部会の結論を書いた。

【毎日新聞】2面「HPVワクチン勧奨再開 厚労省専門部会が了承」

毎日新聞は2面3段見出しで「HPVワクチン勧奨再開 厚労省専門部会が了承」と報じた。

「国内外の調査によって、接種後に生じた症状とワクチンとの関連性が明らかになっていないことや、海外の大規模調査で接種による子宮頸がんの予防効果が確認されている」と紹介。

最後に、「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」が同日に抗議声明を出したことにも触れ、弁護団共同代表の「積極的勧奨を再開すれば同じ苦しみを味わう被害者が生まれることは明らかだ」というコメントで締めくくった。

【日経新聞】 42面(第2社会面)「子宮頸がんワクチン接種 積極的勧奨を再開へ 厚労省」「『不当な結論』原告団が抗議 ワクチン薬害訴訟」

日経新聞は第2社会面に4段見出しの「子宮頸がんワクチン接種 積極的勧奨を再開へ 厚労省」という記事と、その後ろに1段見出しで「『不当な結論』原告団が抗議 ワクチン薬害訴訟」という記事を載せた。

「HPVワクチンをめぐる経緯」として、2009年10月のHPVワクチン初承認からの流れも表で紹介。

前文で「効果や安全性についての情報が集まり、接種後の副作用を訴える人への支援体制も一定程度整ったと判断した」と書いた。

「子宮頸がんは国内で年間に約1万1千人がかかり、約2800人が死亡している。性交渉によるHPV感染が主因とされ、世界保健機関(WHO)はワクチン接種による予防を推奨している」と、日本の現状とワクチンによる予防が世界的に勧められていることを本文の出だしで説明した。

「これからは積極的勧奨を控えていた期間に接種を受けられなかった年代への対応が焦点になる」とキャッチアップ接種について触れ、「HPVワクチンは年齢が高まるにつれて効果が低減するとされており、対象や実施時期をめぐり議論が難航する可能性もある」と課題を示した。

また、この記事のすぐ脇に、薬害訴訟の全国原告団・弁護団の記者会見の様子を紹介する記事も掲載した。

原告団の一人の「ワクチンのせいで私の人生はめちゃくちゃになった。私たちの被害から目をそらさないでほしい」という声を紹介した。

【産経新聞】3面「子宮頸がんワクチン 積極的勧奨再開認める 厚労部会が結論」26面「子宮頸がんワクチン勧奨再開 安全性と有効性 機熟す」

産経新聞は3面下2段見出しで「子宮頸がんワクチン 積極的勧奨再開認める 厚労部会が結論」という記事と、26面(第2社会面肩)4 段見出しで「子宮頸がんワクチン勧奨再開 安全性と有効性 機熟す」という記事を載せた。吉村泰典・慶應大名誉教授(産婦人科)の一問一答も載せている。

3面の本記では、「HPVワクチンの安全性と有効性」とする表を作り、安全性では「接種後の『慢性的な広範囲の痛み』や『慢性疲労』など多様な症状は接種歴がなくても一定数存在」「国内外の研究で接種と多様な症状の関連性は認められていない」とこれまでの知見をまとめた。

また、「部会は有効性が確認され、安全性に特段の懸念は認められない」として、『(中段の)終了が妥当』との結論をまとめた」と紹介した。

社会面では、HPVワクチンのこれまでの経緯と議論をまとめ、「直後から広範囲の痛みや手足が動かしにくくなるなどの多様な症状が報告され、同年(※2013年)6月に厚労省の専門部会が『持続的な痛みの発生頻度などが明らかになり、適切な情報提供ができるまで積極的に勧奨するべきではない』とし、積極的な勧奨は中断された」と説明。

「その後の調査で、これらの症状はワクチン接種歴のない人でも存在することが判明。名古屋市立大チームは約3万人のデータを解析し、症状の発生率は接種の有無で違いがないとした」と名古屋スタディの結果を引用し、現在の評価を紹介した。

有効性についても、浸潤子宮頸がんを予防する効果を示したスウェーデンの研究などを紹介した。

また囲み記事で、再開を訴えてきた吉村泰典・慶應大名誉教授の一問一答も載せ、「出産期の女性に多いことから『マザーキラー』とも呼ばれている。妊娠してから子宮頸がんが分かると、最悪の場合、赤ちゃんを諦めて子宮を摘出しないといけないこともある」など、子宮頸がんが妊娠、出産へ与える影響についても示した。

一方、最後に薬害訴訟の全国原告団・弁護団の記者会見の様子も紹介し、「被害の治療法は確立しておらず詐病扱いする医師さえいる。救済制度の適用も不支給が多い」という抗議声明の言葉や、原告の一人のコメントを掲載した。

【東京新聞】1面「子宮頸がんワクチン 積極的勧奨の再開決定」24面「8年ぶり積極勧奨 『副反応』に懸念の声も」

東京新聞は1面肩3段見出しで「子宮頸がんワクチン 積極的勧奨の再開決定」という記事を、24面(第2社会面)トップ3段見出し「8年ぶり積極勧奨 『副反応』に懸念の声も」という記事を掲載した。

1面の記事では「HPVワクチンは一三年四月に定期接種となったが、接種後に慢性疲労や歩行困難などの報告が相次ぎ、二カ月で勧奨が停止した。その後接種率は1%前後で推移しており、海外と比べて低い」とし、主要先進国のHPVワクチン接種率をグラフで載せ、接種率が激減している日本の状況を強調した。

社会面の記事ではこれまでの経緯を書き、「二〇一三年、接種後に原因不明の歩行困難や強い疲労感を生じた女性たちがメディアで報じられ、社会問題化。定期接種開始から勧奨が二カ月で止まった」とメディアの報道の影響にも触れた。

また、「ある政府関係者は『自民党内の保守的なグループが、HPVが性行為を通じて感染することから接種が<性の乱れ>につながると長く抵抗していた』と背景を明かし、『新型コロナのワクチン接種でワクチンそのものの効果を実感できるようになるなどして、ようやく議論ができる環境になった』と話した」と、再開に至った背景を分析した。

さらに、HPVワクチンを啓発する医師らのプロジェクト「みんパピ!」が今年8月に高校1年生と高校1年生の娘がいる母親にアンケートした結果も引用し、「『接種したい』と『接種したいと思わない』がともに約三割で拮抗。未接種の高校一年女子を持つ親二百十二人に聞くと、それぞれ13%、51%で、親の方が抵抗が強かった」と紹介した。

最後には、「不当な結論」とする薬害訴訟の原告団・弁護団の抗議声明を載せた。


この問題に関して、メディアの影響について触れたのは東京新聞のみだった。