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HPVワクチン 当時の副反応検討部会で積極的勧奨を差し控えた立場から振り返る

HPVワクチンの積極的勧奨を再開するための議論が始まりました。8年前、副反応検討部会の委員として、一時的な差し控えを提言した岡部信彦さんはどんな思いで見つめるのでしょう?

子宮頸がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

日本では小学校6年生から高校1年までの女子が無料でうてる定期接種となっているが、国が積極的勧奨を差し控えて8年3ヶ月、接種率は激減した。

年間約1万人が子宮頸がんを発症し、約3000人が亡くなるこの国で、ワクチンで防げるがんを防げるようにしようと、10月1日から厚生労働省の副反応検討部会で積極的勧奨を再開するための審議が始まった

2013年6月に副反応検討部会が積極的勧奨の差し控えを提言した時の委員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに、日本のHPVワクチン政策について聞いた。

こんなに長くなるとは思わなかった

ーーHPVワクチンの積極的勧奨が差し控えられた時、岡部先生も副反応検討部会の委員として議論に加わっていました。8年以上の年月を経て、ようやく積極的勧奨再開の議論が始まりましたが、どのように感じていますか?

僕はあの決定に責任を感じてきました。自分の目が黒いうちになんとかしてほしい、なんとかしなくてはと思い続けています。

ーー田村憲久厚労相が10月の早い時期に審議を始めると表明しました。

田村さんが当時の大臣で、積極的勧奨差し控えを最終判断しています。大臣がどのような思いで決めたのかはわかりませんが、僕はあの時は時間限定でやらなくてはだめだと強く言ったつもりです。

でも世の中の解釈はどんどん膨らんでしまいました。そして一度膨らんだものはなかなか取り戻せず長期化していった。

ー先生は当時の議論で、定期接種のままにして、接種希望者には費用に関しては自己負担なく接種できるようにしておくべきだが、積極的な勧奨は一時差し控える。ただし調査・議論を行い、半年後か少なくとも1年後かにその時点で得られたデータに基づいて最終判断するべきである、と発言していました。8年以上になると思っていましたか?

一定の期間で結論を出すべきであり、そうしないとずるずる続くことを危惧しました。こんなに長くなるとは思いませんでした。

ーーそして今、再開の動きが出てきたことについてはどう思いますか?

8年以上経って、現在HPVワクチンの接種対象年齢にある子供たちは、小学校とか幼稚園時代に起きた話ですから、ほとんど知らない。保護者も年代が変わっているわけで、あの時のものすごい騒動は知られていないか、忘れてしまっていますね。よくも悪くも過去の話になってしまっています。

一方で、日本で子宮頸がんが増えている状況は伝わってきています。

そういう意味でHPVワクチンを受け入れる気持ちは現れてきていると思います。

今、改めてメリット・デメリットを検討し、また「痛み」「ワクチン接種に伴う不安」などへの対応を明らかにする。そして、現在の「事実上の中止」を継続するのか再開するか、公的なしかるべき場での議論を始めるべきと思います。

私は再開すべきだと思いますし、それは以前から申し上げていることです。

急ブレーキを踏んだつもりではなかったが......

ーー当時の議事録を見ると、岡部先生は中止ではなく、定期接種のままで自己負担のないように、と強く主張しています。その理由は?

それは日本脳炎の時の経験があったからです。

日本脳炎ワクチンで、急性散在性脳炎(ADEM)の発生が問題になり、積極的勧奨が差し控えられた時のことです。

制度的には定期接種のままにしながらも、「私は定期接種を受けます」と保健所に申し出て書類にサインをしないと、定期接種のための問診票が受け取れない。保健所の窓口で「ほんとにやるんですか?」などと確認されることも少なからずありました。

そんなサインまでして受ける人はなかなかいない。非常に強い措置で、事実上の停止でした。

HPVワクチンについて議論した当時の副反応検討部会での私の意見は、事実関係を調査する間に「皆さん、定期接種だから受けてください。ぜひ受けましょう」と積極的に呼びかけるのはしばらく控えるけれども、子宮頸がん予防を積極的に希望する人や必要と思われる人にはこれまで通りに受けられるようにする、というつもりでした。

しかし、それは法的に言えば「積極的勧奨の差し控え」となる。そうなると自治体に一斉に通知が送られ、結局、自治体には強いメッセージとして受け止められ、事実上の中止となりました。

ーー狙った効果よりは、かなり厳しい捉え方をされてしまったということですか?

そうですね。接種を受けようと思って接種券をもらいに行くと「本当に受けるんですね」と念を押され、「行政としては何があってもこちらの責任ではありませんので、こちらにサインを」というような説明をされました。それでは、誰も受けなくなります。

そういう意味で「積極的勧奨の中止」という最終判断に至ったことには、責任を感じていました。

でも、あの時積極的勧奨を一時止めたということは、今でも間違った判断ではなかったと思います。もしワクチンで何か問題が起きたら、少し立ち止まって冷静に調査を行い、様子を見ようということですから。

決して急ブレーキを踏んだつもりではないのです。

逆に急速にアクセルを踏み込んで急発進したこと自体にも僕は批判的でした。

そんなHPVワクチンについて、少しふらつき始めたので目一杯に踏みこんだアクセルから足を離して、減速して改めて周りを見ながらゆっくり進もうということであって、急ブレーキで止めようとしたつもりではなかった。

でも、結果的にタイヤ痕が道路に強く残るような急ブレーキになってしまいました。

再開後も「手のひら返し」が起きないように

ーーその後、接種率が1%未満にまでなってしまったことをどう見ていましたか?

コロナワクチンは「なぜ早く接種ができないのか!」」と多くの人が求める状況になっていますね。生活の不便さ、病への不安などがありますから、もっともな気持ちだと思います。

新型コロナが日本で発生して1年9か月で亡くなった方は約1万8千人、子宮頸がんでは年間約3千人の方が亡くなり、そのすべてが女性です。子宮頸がんは女性にとっては、決して遠い存在の病気ではない。

でも、これほど求められているコロナワクチンでも、きわめて少数であっても何かあって社会に大きく取り上げられると、世の中は手のひらを返したようにワクチンに否定的になり接種をしなくなるはずです。そのようなことはワクチンの歴史の中で何度も繰り返されてきたことです。

みんなが手のひらをひっくり返さないようにするためには、今、HPVワクチンに追い風が吹き始めた時こそ、慎重にいくつかの手を打たなくてはいけません。

勢いというのはなかなか止められません。導入時の大歓迎ムードから、手のひらが一気にひっくり返ったのがHPVワクチンでした。

それをもとに戻すことは必要なのですが、どうしても影の部分は残ります。副反応や、副反応かもしれないという症状は、稀まれであったとしても、これからも起こり得ることです。当然ながらそれらに対する対応はきちんとやらなくてはいけない。

因果関係は別として、それは本人にとって本当の被害です。どんなことがあっても、ワクチン接種後に体調不良を訴えている人には対応しなければなりません。

このワクチンが悪いということではなく、ワクチン接種という行為がきっかけになった症状に誠意をもって対応すべきです。

積極的勧奨を再開すれば、多くの人が接種を受けることになり、同じようなことはおそらく起きてきくるでしょう。その時にどうやって誠意をもって、かつ冷静に科学的に対処できるか、準備しておくことが肝要です。

なぜ8年以上先送り?

ーーこれまで国内でも、祖父江班の調査名古屋スタディで接種していない女子にも同様の症状が現れることが確認されて、HPVワクチンの成分と訴えられた症状には因果関係がなさそうだと示されてきました。この調査が出た時点で再開を検討すべきだったのではないでしょうか?

僕はそれで再開に向くと思っていました。祖父江班の前から接種者と接種していない人でどういう症状が出るか比較する研究をした方がいいとずっと言ってきました。でも、接種する人の数があまりにも少なくなったのでできない、という見解でした。

こうした調査は早くやるべきだったと思います。

ーー8年以上も判断先送りになったのは、HPVワクチン以前から、ワクチンに対する根強い不信感があったからでしょうか?

それはわからないですね。でも「(被害を訴えている女子が)かわいそうだ」という気持ちがものすごく先行していました。また、「自分たちがそうなったらどうしよう」という不安も強かった。

なんと言っても大きなボタンのかけ違いは、最初から自治体と患者さんの関係がうまくいかなかったことです。最初から不信感が強く、また、最初から政治的な問題になっていました。

ーー接種後に痛みなどの体調不良を訴えた時に、「そんなのワクチンとは関係ない」「気のせいだ」と相手にしなかった医師が少なからずいたことも、症状や事態を悪化させた一因となっています。

定期接種になったことで、色々な医師が接種したわけです。接種対象年齢も普段のワクチンと違う年齢で、それもデリケートな年齢層の、デリケートな女性にあまり接し慣れていない医師も、定期接種になったので関わりました。

一方、騒ぎになって、多くの医師は「自分が接種をした人に何か起きたらどうしよう。それならば手を出さない方が良い」となり、結局、医療機関側も手を引いてしまいました。

それが、この問題を余計にこじらせてしまったところがあります。

「HPVワクチン薬害」仮説の問題は?

ーー「薬害」を主張した医師が、体調不良を訴えている患者さんに寄り添った問題もありました。それによって、患者さんが「HPVワクチンの副反応だ」という考えから逃れられなくなりました。

でも、不明な病気の原因を追いかけることは医師ならやるべきことです。いろんな見方をしなければならない。

例えば、僕の大先輩でアレルギーを専門としていた医師は、「どんな病気を診ても、自分はまずアレルギーに関係するのではないかと思って診る。追及する。それが専門家だ」と言っていました。

これはその通りだと思います。専門家は、一度自分の専門領域で解決できることかどうかを考え、仮説を立てます。

HPVワクチン接種後の反応には色々な仮説が出てきました。

ただ、世の中が仮説を仮説として受けとらず、即真実として受け入れてしまったのが問題です。むしろ積極的にそう受け取ろうとした。結果的に科学的に正確な話なのかがわからなくなりました。

STAP細胞もそうでしたね。論文が通っただけの段階であり、すべてが真実として明らかになったのではなかった。論文は自分の仮設の主張で、査読によってその仮説を提唱することの妥当性が認められただけです。

その仮説が発表されたことにより、他者によって同様の手法で確かめられ、再現されることで、初めてサイエンスの真実として認められるわけです。論文として発表された仮説が消えていくことは、科学の世界ではいくらでもあります。

ーーHPVワクチンの成分がマウスの脳にダメージを与え、神経や免疫系に悪影響を与えるというHPVワクチン薬害説を支える論文も撤回されました。あれも科学者としてはあり得ることというわけですか。

あり得ると思います。仮説の検証まで押さえつけてしまったら、自由な発想に基づいて進める科学は伸びることができません。

ーー厚労省の研究班長がマウスの実験であたかも脳内に炎症が起きたかのような発表をし、HPVワクチン接種後の体調不良と関連づけるようにメディアで話した問題もありました。

僕が知る限りでは、彼は特定の条件で特定の結果が出たと述べています。そして、自分としてはこれが普遍的だと考えるので、さらに研究を積み重ねる必要があると言っていました。

でも彼がそれをメディアに対してどう膨らませて話したか、その説明をメディアがどう受け止めたのかは、よくわかりません。

ーーあの段階では盛り過ぎた感がありましたね。厚労省も「不適切な研究発表」とする異例の見解を出しました。仮説を真実のように思い込ませたのが問題でした。

でも仮説を出せないようにするのは絶対によくありません。仮説を真実のように取り扱うことが問題です。

あの問題は、あの仮説がどうなるのかが注目されたわけではなく、スキャンダラスな問題として扱われてしまったのも問題でした。似たような論文問題はよくありますね。

WHOも認めたワクチン接種をめぐる社会的な影響

ーー先生は池田先生とも共同研究をしていますね。

僕の研究班に池田先生に入ってもらったし、僕が一時、池田先生の研究班に入りもしました。症状が出た後の対処法の研究ですが、やはり数が少ないので十分な結果は出ていません。

ーー名古屋スタディなどで、ワクチンの副反応だとして訴えられている症状は、接種していない女子でも起きており、ワクチンとは関係なさそうだという結論が広がりました。一方で、WHOが出した「Immunization stress related responses(予防接種ストレス関連反応)」では、ワクチンへの不安などがいろいろな症状を引き起こすという意味で、予防接種と関係のある反応はあるのだと示しています。

「ワクチンと症状は全く無関係」という方向に極端に振れるのも、それはそれで問題があります。

ワクチンを接種するという行為そのものが人の不安感を増強します。それによって起きた症状は本来、消えるはずなのに、不安が不安を呼ぶような感じで次第に増強され、場合によっては慢性的、あるいは不可逆的な反応になるという考えです。

僕もこの議論にはWHOで委員会メンバーとして加わっていました。

ーーワクチンの成分そのものが影響したわけではないけれども、接種を受けることへの恐怖不安、社会的な影響、本人のストレスへの対処などが影響しているということですね。

ある病気を考えるときに、病理学的な変化だけでなく、本人の持ついろんな生物的・精神心理的な状況、社会やメデイアが与える影響があるという概念(Bio-Psycho-Social model 生物・心理・社会モデル)がありますが、その考えをワクチンでも応用しています。

はじめてこの考えをWHOの会議で聞いた時、僕としてはHPVワクチン接種後の症状の理解が、ストンと胸に落ちた印象でした。十分説明がつくし、納得がいきました。

ーーワクチンとは無関係な症状だ、と主張するのも間違いだということですね。

その主張を切り捨てるのは良くないです。また、これは本人の気持ちの問題とか気のせいではありません。その不安を強化するような周りの問題、社会的な問題も周辺にはあるということです。

ーーそういう見方からすると、あの症状は国の救済の対象になってもおかしくないわけですか。

そこから派生して「無過失補償」(加害責任の有無を問わずに救済する制度)を適用しようという考え方があります。日本の予防接種健康被害救済制度は、基本的にはこの無過失救済制度となっています。

徹底的に因果関係を科学的に徹底的に求めるのではなく、現象としてそういうことがあり、他に明らかな理由がないのであれば、予防接種を勧めた方が責任を持つべきだという考え方です。

国際的にもそのような考え方に動いています。医学的因果関係が明確になくても、それについて否定できなければ、救済はされています。

コロナワクチンで活かされたHPVワクチンの教訓

仮説の検証は急性の病気ならわかりやすいのです。接種しなくなったら患者が急増したとなれば、ワクチンの意味がわかる。子宮頸がんは慢性の病気だけに、受ける患者に「今」のメリット感がありません。


コロナの場合は接種すれば旅行に行けるかもしれない、みんなと飲食ができるかもしれないというメリット感がある。

でもHPVワクチンは、接種しても、10年先に子宮頸がんにならないだろうという恩恵は感じにくいです。「今、痛いだけで嫌だ」というデメリットの方が目につくのです。


新しいワクチンが出たり、ワクチンが普及していないところでワクチンを強く勧め始めると、必ずといっていいほど出てくるのは「不妊になる」とか「流産する」とか「10年先にがんになる」という類の噂話です。


ーーまさにコロナワクチンでも同じ噂が流れていますね。


ワクチンにまつわる噂話は繰りされています。しかも今はSNSなどで、その広がりが早い。あっという間に広く拡散します。


ーーただ今回は厚労省も事前に「副反応」と「有害事象」の違い()を繰り返しメデイアに説明していましたし、専門家たちも繰り返し記者たちに伝えました。

「副反応」はワクチンが原因で起きる有害な症状で、「有害事象」はワクチンとの因果関係は問わず、接種後に起きた全ての望ましくない出来事。


それはHPVワクチンの教訓がみんなどこかに残っているからです。

そして今回は、ある一つの出来事の発生に異常に飛びつくというようなことはなく、メディアも慎重に報じていたと思います。ここでうっかり書き間違えて、コロナワクチンがストップした時の影響の大きさや責任を考えると、責任の取りようもありません。

ーーHPVワクチンの時と比べて、メディアの報道も冷静だったことがプラスに働いたわけですね。

そうです。もちろん事実は事実として、接種した後にアナフィラキシーが出たことや亡くなった人がいることを報じるのは当然と思います。しかし、それだけで物事の良し悪しを判断して、「危険なワクチン、なぜ続ける」などという論調にはなっていません。

でも海外から見ると、なぜ日本はこれほどHPVワクチンに慎重なのかがわからないそうです。海外からは「なぜ日本はがんを防ごうとしない」との質問がきます。

逆風の中での厚労省のワクチン行政は?

ーーHPVワクチンではメディアの報道が副反応への不安を煽りましたが、担当していた正林督章(とくあき)前健康局長(9月で退官)に2年前にインタビューした時に、「マスコミの側で責任を取って、世論を戻せ。メディアが世論を変えてしまった責任まで行政にあるのか」と訴えていました。それはそうだなと思いつつも、海外で同じような報道問題が起きた国では行政はブレずに推進を続けて接種率は回復しています。

HPVワクチン問題では韓国もそうでした。韓国もやはり同じような問題が起きた時に、日本での厚労省に当たる衛生省と、医師会が一緒になって信頼回復のためのキャンペーンを繰り広げました。

「このワクチンは科学的には安全なのだ。副反応とのバランスの問題で子宮頸がんになったらどうするのか」と訴えて、一時落ちた接種率は回復したのです。素晴らしい対応でした。

ーーワクチンはリスクコミュニケーションが重要になりますね。

日本はその時に国会でもものすごく反対が起きました。あの時は「科学的に語れない政治家は黙っていてほしい」と思いました。

厚労省の担当の医系技官はかわいそうでした。電話で反対する人の攻撃を受け続けて、メンタルヘルスが潰れた人を複数知っています。

科学的な議論だけでなく、政治的な論争にもなっていきましたね。

ーーその中で与党の議員連盟ができたのは、大きな後押しになったのではないでしょうか。

そういう点ではそうでしょうね。

ーーこのまま放置していてはいけないと強い思いを持っている厚労省の人も何人もいて、9価ワクチンの承認や男子接種への拡大の承認、そして自治体の個別通知の再開の依頼など、着々と進めてきたことも影響していますね。

スピード感は遅いけれども、努力は続けていたと思います。実際に患者を診る現場にいてこの問題を扱っていた医師が人事交流などで役所に入って、科学的な議論を続けさせました。それはじわじわとではありますが、接種率の回復にも表れてきて、今回の積極的勧奨の再開の動きに影響を与えたと思います。

積極的勧奨の再開 焦らずにじっくり取り組んで

ーーHPVワクチンはコロナや他のワクチンにも影響を与えたと思います。今後、どのように積極的勧奨再開をめぐる議論を進めてほしいと思いますか?

データを元に言うならば、効果は間違いなくあるし、接種の影の部分として確かに問題も起きてきました。でもそれに対する解決法も出てきています。そういう情報を合わせて出していかなければいけないと思います。

今のコロナの後遺症と言われるものにも同様の問題があります。

僕らは「後遺症」と言わずに、「遷延する(長引く)症状」と言っているのですが、診ていると消えていくのです。3か月から半年でほぼ消えます。10分の1ぐらいになる。

しかし、この間はつらい思いをするので、放っておいてよいということでは決してありません。きちんとしたサポートが必要です。そうでなければ治るものがますます長引いてしまう。

HPVワクチンの時の反省ではないですが、コロナの後遺症でも最初からたらい回しにするのが一番問題です。専門家もなかなかいない。日本では最初から精神科を受診することに抵抗がある患者さんが多く、緊急的な場合を除き、少しクッションを置くような対応の形にした方が良いと思います。

他の病気との見分けはもちろん重要ですが、それが見当たらなければ接種から3ヶ月ぐらいはできればかかりつけの先生などにに診てもらい、そこから先は専門家がバックアップするのがよいのではないかと思います。

これはHPVワクチンの時の教訓を活かした診療体制です。

HPVワクチンは導入するのに焦り過ぎたワクチンです。ものすごく世の中がイケイケドンドンになっていました。僕は当初、小児科がタッチするワクチンではないところから、あまり関心を持っておらず、当時はHibワクチンとか小児の肺炎球菌ワクチンとか水ぼうそうのワクチンの方が優先的だと思っていました。

小児科が取り扱っているほとんどのワクチンとは違う手法で導入され、年齢層も従来のワクチンと違う、しかも多感な年齢層でしかも女子。それなのに十分な説明ができないうちに導入を急ぎ過ぎたのではないかという思いがあります。

もう一度ひっくり返されたら、今度は本当にこのワクチンは国内では接種できなくなる。

今度こそは焦らずに、勧める方も、受ける側も、メデイアも冷静に取り組んでほしいと思います。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。