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HPVワクチン研究の「捏造」報道 名誉毀損で訴えられた村中璃子氏が二審も敗訴

HPVワクチン「薬害」説に立つ元信州大医学部長の池田修一氏の研究班の研究を「捏造」と書いたのは名誉毀損に当たるか争われた裁判で、東京高裁は一審判決に続き、筆者の村中璃子氏の名誉毀損を認めた。

HPVワクチン接種後の体調不良に関する研究で、元信州大医学部長の池田修一氏が雑誌に自らの研究発表を「捏造」とする記事を書かれたのは名誉毀損に当たるとして、筆者の村中璃子氏や出版社などを訴えた裁判の控訴審判決が10月30日、東京高裁であった。

秋吉仁美裁判長は、「控訴人(村中氏)は十分な裏付け取材もせずに繰り返し被控訴人(池田氏)の行為を『捏造』と記載したこと、本件各記事により信州大学の副学長の任にあった被控訴人が結果的に全ての役職を辞任せざるを得なくなるなど影響は甚大」などとして名誉毀損を認めた。

池田氏は「控訴審でも私の主張が認められました。引き続き患者さんの治療と研究に真摯に取り組んでいきます」とコメントを出した。

一方、敗訴した村中氏は会見で、「(私の)主張が認められなければ日本の未来は暗い。不正を指摘することが難しくなれば、科学的にこうだと思うことを書き手としても医者としても発言することが難しくなる」と不服を訴え、上告する方針を明らかにした。

一審判決を出版社と元編集長は受け入れ、村中氏は控訴

争われていたのは、元信州大学医学部長の池田修一氏が、HPVワクチン「薬害」説に立ち、接種後の体調不良の原因を探った研究について、雑誌「Wedge」に研究内容を「捏造」とする記事を書かれたのは名誉毀損に当たるかどうかだ。

厚生労働省の科学研究班「池田班」はHPVワクチンの成分が脳に障害をもたらす「薬害」を仮定して行ったマウス実験について、2016年3月16日に厚労省の成果発表会で中間報告をしていた。

この発表会で示された画像について、村中氏らはマウス実験を担当したA氏の証言をもとに、池田氏が自説に都合の良い画像データだけを恣意的に選んだと指摘し、「重大な捏造である」と書いている。

2019年3月26日の東京地裁判決は、「画像が何枚もある中から、自分の仮説に都合の良い本件スライドだけを公表して、チャンピオンデータで議論をしているという事実を認めることはできない」と認定。

「A氏の発言を鵜呑みにするのではなく、より慎重に裏付け取材を行う必要があった」として名誉毀損を認め、出版社と当時掲載誌の編集長だった大江紀洋氏、村中氏に330万円の支払いや謝罪広告の掲載、記事の一部削除を命じた。

出版社と大江氏は判決を受け入れ、謝罪広告を出し、記事を一部削除した上で支払いを済ませたが、村中氏のみ、判決内容を不服として控訴していた。

二審判決でも「捏造」は認められず

控訴審で、村中氏側は記事で使った「捏造」という言葉は、池田氏側が主張する「存在しないデータや研究結果等を作成すること」を指したわけではなく、「科学的結論を導き出し得ない実験結果しかないにもかかわらず、あたかも重要な科学的な発見があったと公表すること」を指していると補足の主張をしていた。

これに対し、秋吉裁判長は「研究活動の不正行為への対応に関する指針」で「捏造」は「存在しないデータ、研究結果等を作成すること」とされ、一般の辞書でも「事実でないことを事実のようにこしらえること」という定義がなされていると指摘した。

その上で、信州大の調査でも「捏造」に当たる不正行為は確認されなかったことから、村中氏側の主張は認められないとした。

また、重要な科学的な発見があったと公表したことについて、「仮に根拠の乏しい事実であったとしても、これをもって『事実を作り上げた』ということにはならないから、捏造行為と評価することはできない」などと判断した。

さらに、「画像が何枚もある中から自分の仮説に都合の良い本件スライドだけを公表してチャンピオンデータで議論しているという事実を認めることはできない」として、「『捏造』という言葉を使う根拠があるとは認められない」などと認定した。

村中氏側は、親交のあるノーベル医学生理学賞受賞者の本庶佑氏が「一例に基づき結論を出したなどという行為は、生命科学研究者の常識としては、作為の捏造と同等である」とした意見書を提出していた。

これについても秋吉裁判長は、「仮に一例に基づき結論を出した行為が常識に外れるとしても、存在しないデータを作成する捏造とは異なるのである」として、村中氏の主張を認めなかった。

二審判決も、一審と同じ損害額などを認めたが、一審判決で賠償金の支払いや謝罪広告などすでに出版社が対応済みであることから、請求は消滅したとして、村中氏側の敗訴部分を取り消した。