子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。
小学校6年生から高校1年生の女子は公費で受けられる定期接種だが、接種後に体調不良を訴える女子が相次いだことから、対象者に個別にお知らせを送る「積極的勧奨」が2013年6月に中止されてもう6年半が経とうとしている。
この現状に対し、「もう十分、安全性に関する科学的知見は積み上がっている」として、自民党が11月26日に「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す勉強会」を開き、同時に議員連盟も発足させる予定だ。
自身も子宮頸がんで子宮を摘出した経験があり、この動きの呼びかけ人となった参議院議員、三原じゅん子氏に、この議連が目指すものを伺った。
まず積極的勧奨の再開を そしてキャッチアップも
ーー勉強会ということですが、議員連盟とは違うものなのですか?
いえ、1回目の勉強会で議連を立ち上げます。参議院だけではなく衆議院からも議員は参加しますが、超党派ではありません。とりあえず自民党だけです。
ーー公明党は? 反対しているのでしょうか?
知りません。そうした調整をしていると時間がかかりますから。
ーー何人ぐらい参加する見通しでしょう?
当日、何人に来ていただけるかわかりませんが、基本的に医療関係の先生方はこの問題を心配してくださっていた方も多いですし、お子さんがちょうど対象年齢の方たちは以前から関心がありました。
科学をきちんと理解していらっしゃる先生方が多いです。今回、細田博之先生(衆議院議員)に会長に就任していただきますが、細田先生は特にそうで、昔から私に「この問題は大変重要だ」と言っていただいていました。
ーーこの議連で何を目指すのでしょうか?
まず、現状打破。国が接種を推奨する定期接種でありながら、積極的勧奨は差し控えているというわけのわからない状態をまず打破することです。
そして、定期接種ですから対象年齢があるわけですが、公費でうつ機会を逃した方へのキャッチアップ接種(対象年齢を過ぎても接種する機会を与えること)。この実現も、とても大切なことだと思っています。
日本は二回りも三回りも遅れている
私が議員になる前からこのワクチンの定期接種化にこだわってきたのは、経済的理由で健康に格差があってはならないということです。それが、今、定期接種であるにも関わらず、裕福な方は輸入した9価ワクチン(※)をうっています。
※日本では特にがん化しやすいウイルス2種類への感染を防ぐ2価ワクチン、その2つに加えて尖圭コンジローマという良性のイボになりやすい2種類のウイルスへの感染も防ぐ4価ワクチンしか承認されていないが、海外では9種類のウイルス感染を防ぐ効果があり、子宮頸がんを95%防ぐことができるとされる9価ワクチンが承認されている。
今、97の市町村でこのワクチンの接種に関して独自に対象者に知らせるために動いてくださっている。それを考えても、国民の間で健康に格差が生まれていますね。
HPVワクチンに関しては色々腹が立つことがありますが、通常なら1〜2年で承認されるはずなのに、4年以上経っても、9価ワクチンが承認されていないことも問題です。海外では新たなワクチンの開発も進んでいるぐらいなのに、まだ2価、4価を使っています。
ましてや、日本では男子にもうたせていません(※)。
※HPVは男性にも感染し、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなど男性がかかるがんの原因にもなるため、海外では男子も公費接種となる国が増えている。
二回りも三回りも遅れている中で、とにかく対象者にお知らせは出しましょうよと、定期接種であることはちゃんと守ろうよと言いたいわけです。
後押しも増えている 自治体任せにしていてはいけない
ーーまずは積極的勧奨の再開を最優先にするのですね。
もう科学的、疫学的検証は終わっていますからね。
ーー2年前にインタビューさせていただいた時も、同じことをおっしゃっていました。しかし、この2年間、全く事態は動きませんでした。
これは政治の不作為ですよ。と同時に、9価ワクチンに対する懸念もあったと思うのですが、もういい加減、政治主導でなければ動かない時期に来てしまったと思います。
ーーこの勉強会、議連について呼びかけた時に、他の議員の反応はいかがでしたか?
今回、私一人で声をかけて回りましたが、賛同者は多かったです。意外でした。医療界、医学界からも様々なご意見をいただいていますが、この重要性をわかっている人たちは世の中に多いのだなと背中を押していただけた気がします。
私、この問題に関しては敵ばかりだと思っていて、矢面に立つ覚悟でいたのですが、そうでもない。「待ってました!」という方も多いです。産婦人科医会、医師会、小児科や産婦人科関連の学会など様々な方たちが応援してくださっています。
一般のドクターもSNSを通じて、「もういい加減に始めてください」と声を届けてくださっていますね。
ーーこのタイミングで議連発足というのは何かきっかけがあったのですか?
やはり自治体が動いてくれたのは大きかったです。自治体にだけ任せていてはだめだ、国がやらなければと思いました。それが一番の後押しになりましたかね。
ーー自民党の女性局長になったことも大きいのですか?
関係ないです。私はもともとこのために議員になったのですから。このままでは国会議員を辞められません。
説明を聞きたい なぜ止めているのか?
ーー初回には何を議論するのでしょう?
予防接種推進専門協議会委員長の岩田敏先生が来てくださって現状を話していただきます。また日本医師会常任理事の釜萢敏先生も話してくださいます。
HPVワクチンが大事だと発信してくださっている堀江貴文さんにも来ていただきます。医療界だけでなく、ワクチンで自分の体を守ろうよと若い子に発信していただいている動きは重要だと考えています。
また、厚労省が来て(健康局長、健康課長、予防接種室長が出席予定)、なぜ積極的勧奨が止まっているのかということをちゃんと説明していただこうと思っています。自民党の議員の中でも全く知らない人がいるんです。
6年は長過ぎたのだと思います。科学的根拠が出るまでは待っていなくてはいけないと思いましたが、もうさすがに全部出尽くして、自治体まで動き出しているならば、政治主導でやらなければいけません。
ーー厚労省の態度も問いただすのですね?
そうですね。積極的勧奨を再開するという姿勢で臨みますが、ただ反対の先生方もいらっしゃると思いますので、それにはきちんと答えることが必要だと思います。それなりの専門家をお迎えして、一つ一つにお答えできるようにしたい。
思想の違いや感情で話すのではなく、これは医療であり、科学であるわけですから、科学に基づいて議論したいです。
体調不良を起こしている子どもには手厚い補償と治療を
有害事象(因果関係は関係なくワクチン接種後に起きた全ての有害な事象)と副反応(ワクチンによって起こった期待される効果以外の作用)とをぐちゃぐちゃにして議論してきた罪は重いです。
しかし、本当に副反応と言われている子どもたちに対する治療や補償はどうするという問題は、この議論とは切り離して、考えなくてはいけないと考えています。
それもそれでちゃんとやる。でもワクチンの積極的勧奨もちゃんとやる。両方大事なんです。
どちらも一緒にして議論して来たから進まなかったのであって、今、治療している人たちの治療もちゃんとしていきたいし、補償もしっかりしていきたいとも思っています。
ーーそれも議連では話し合うのですね。
そうですね。まず、積極的勧奨を進めなくてはいけません。でももちろん、体調を崩した子どもたちのことも忘れていないよということです。
ーー議連が積極的勧奨再開に向けて動き始めれば反対の声も届くでしょうけれども、どう対応されますか?
もう既に届いています。それに対しては、今、言った通りのことを進めていきます。現在治療している人には今まで以上の治療、今まで以上の補償を考えていかなければいけません。
私たちがやりたいのは、積極的勧奨を再開することなんです。無理やりうてと言っているわけではないんです。うつうたないは保護者と本人の自由。だけど、正確な情報を知ってもらってから選んでもらわないといけません。今は情報さえ届いていません。こんな状態で接種率が1%未満なんてどう考えてもおかしい。
ーーと言いますか、今は自分が対象者であること、こんなワクチンがあることさえ伝えられていないですね。
そうなんです。それは問題だと思っています。ここで決めないと決まらないぐらいの気持ちでやるつもりです。
検診とワクチン両輪で対策を進めたい
ーーその思いを支えているのは、ご自身の闘病体験ですか?
初心ですね。それが政治家になった初心です。私は検証をずっと待っていて、HPVワクチンが子宮頸がんの予防に役立つし安全だという自分の考えは正しかったのだと思えたので、だから初心を貫きたいと思います。
ーー積極的勧奨が差し控える理由となった、副反応と訴えられている様々な症状については、改めてどのようなものだと考えていらっしゃいますか? あの症状が起きるのが不安だからうちたくないという人は今も多いです。
名古屋スタディ(※)を見てくださいとしか言いようがないですね。
※名古屋市に住む7万人の女子を対象に行われ、HPVワクチンの接種者と非接種者で現れる症状に差がないことを明らかにした調査。HPVワクチンの安全性を裏付ける調査の一つとされている。
ーー接種していない女子にも接種している女子が訴えている症状が見られることを明らかにした研究ですね。
そう言ってしまうと突き放してしまうように聞こえてしまうでしょうけれども、そういう症状はもともとあった中で、こんな思春期の女の子たちに、あれほど痛い筋肉注射を3回させて何かが起きたというのは、いろんな意味で準備不足、説明不足だったと思います。
その症状が心身の反応だけだったとは思いません。病気や症状が現れる時に、何が原因かは解明できないことがいっぱいある。だけど、ワクチンのせいなのか、そうではないのかということを言い合っていても何の身にもならない。
とにかく治すこと、症状を出さないことが先決だと考えて、そちらに舵をきらなくては、今後も、別のワクチンで同じことが起きると思います。
健康な体にうつものなのですから100%はないかもしれない。でも、がんという恐ろしい病を防ぐ効果は間違いないわけですから。「前がん病変にしか効果がないじゃないか」という人もいますが、前がん病変を防げるなら、その先のがんに効果があるのは当たり前のことです。
私のところには子宮頸がんになったという人からたくさんメールが届いているんです。今、こういう治療を受けていますとか、精神的につらいですとか。
検診だけでは防げないのですから、ワクチンも両輪で対策を進めていたらその子たちは助かるわけです。命だけでなく、子宮も助かる。
私は自分自身、それがとてもつらかったですからね。これから子どもを産みたいと思っている人たちが、子どもを宿すことすらできなくなったら、これほどつらいことはないと思います。
本来、女性の命や健康を守るために定期接種にしているわけですから、それを放置する厚労省のやり方は間違っているとしか言いようがないです。
厚労省もメディアも問題
ーー海外でも同じような反対運動が起きた国はたくさんありますが、日本のように積極的勧奨を6年以上もストップした国はありません。それで接種率が1%未満になり、将来子宮頸がんになる人が日本でだけ減らないとも言われています。なぜ日本はこんな道を歩んでしまったのだと思いますか?
いろんな力が働いていますよね。真相はわかりませんが、政治家も外部の団体も色々な動きがあったと聞いています。
だけど、それがあったとしても、ここまで延ばしてはだめですよね。厚労省の問題は大きいと思います。特に、副反応と有害事象をごっちゃにして数字を出して、危険なワクチンだという印象を強めた問題は大きい。
メディアも危険だと報道したのと同じぐらい、安全と証明された研究を出すべきでしょう。今の状態では、積極的勧奨を再開したって誰もうちませんよ。
メディアもわかっていたはずです。この6年間、これだけのことが検証され、論文として発表され、それは全て公開されているのですから。
小さな記事にしかしなかったり、無視したりというマスコミの罪も重いです。政治家も頑張って来た人はいっぱいいるのですが、反対する人との力関係で声をあげられなかった人もたくさんいます。
厚労省にしてもマスコミにしても政治家にしても、感情ではなくものを考えられる人がいなくてはだめだと思います。
オリンピックまでに結論を 覚悟を持って動こう
ーー今後はどのようなスパンで議連を開くのですか?
月1回か2ヶ月に1回は開きたいですね。
ーースケジュール感としてはいつ頃までに、結論を出すのでしょうか?
夏までにはまとめたいですね。通常国会が終わるまでに。しかも2020年はオリンピックがありますよね。海外の方が来て、日本は未だにこんなことをやっていると知ったら驚くと思います。
ーーMRワクチンもそうですね。風疹が流行っている国でオリンピックをやるなんて恥ずかしいことですね。
そうです。本当に恥ずかしいです。HPVワクチンも、男性だけでなく、女性もうっていないなんて恥ずかしいことです。
ーー男子接種もこの議連では議論するのですか?
9価ワクチンが承認されたら考えるべきだと思います。私が子宮頸がんワクチンと呼ばずにHPVワクチンと呼ぶのは男性にも関係するワクチンだと考えているからです。男子接種の実現も視野に入れています。
ーー夏までに答えを出したい?
出したいです。オリンピック前までに出したいです。私たちは再開しろとしか言いようがないですけれども。
ーーそのための世論は高まっていますか?
自治体がそれぞれ動いているのはプラスになっていると思います。あとは一つずつ、反対派のいろんな意見に答えていくこと、同時進行に考えていかなければいけない治療の問題、補償の問題は絶対に出てくるわけで、みんなが納得できることを知恵を出し合わないといけません。とにかく放置していてはいけないと思います。
たくさんの方の命や子宮がかかっている。それを守るためになんとかしなくてはいけない重要な政策なので、覚悟を持って動かないとなりません。
これまで覚悟が足りなかったのだと思います。みんながみんな、「誰かがやってくれるだろう」と思っていた。
今こそみんなで覚悟を持って動く時だと思います。