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「国の動きを待っていられない」 HPVワクチンの情報を自治体が独自に周知 日本産科婦人科学会が支持する声明

国がHPVワクチンの積極的勧奨を中止して6年5カ月が経ち、地方自治体の中には独自に住民に周知する動きが広がっています。日本産科婦人科学会はこの動きを支持する声明を発表しました。

子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を防ぐHPVワクチン。

国がこのワクチンの積極的勧奨を中止し、自治体が対象者に個別にお知らせを送らない状態になって6年5カ月が過ぎた。公費で受けられる「定期接種」であることを知らずに、ワクチンを無料で受ける機会を逃している女子も多くいると見られる。接種率は1%未満まで落ち込んでいる。

この間、安全性や有効性を示す科学的根拠が積み上がっているにもかかわらず、厚労省が積極的勧奨を再開しないことにしびれを切らし、自治体が独自にHPVワクチンを周知する動きが広がっている。

子宮頸がん予防のためにHPVワクチンの積極的勧奨再開を求める声明を再三出してきた日本産科婦人科学会は11月1日、HPVワクチンは公費で受けられる定期接種であることを自治体が独自に知らせる動きを支持する声明を出した。

厚労省はまだ動かないのだろうか?

個別の情報提供 97の自治体が独自に実施

国は2013年4月からHPVワクチンを公費で受けられる定期接種としたが、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、予防接種の実施主体である自治体が対象者に個別に通知するよう求める「積極的勧奨」を同年6月に中止した。

HPVワクチンと体調不良の因果関係は国内外の研究で明らかになっておらず、厚労省の研究班の全国疫学調査や名古屋市による7万人の女子を対象とした名古屋スタディでは、このワクチンをうっていない女子にも同様の症状が見られることがわかっている。

しかし、こうした研究が積み上がっていても、厚労省は積極的勧奨を6年5ヶ月が経つ今も再開していない。

国が積極的勧奨のワクチンに位置付けると、予防接種を行う市区町村は、対象者(小学校6年〜高校1年の女子)に手紙などで個別にお知らせを送る。現状では「国が積極的勧奨を再開していないから」と個別の問い合わせに対しても消極的に答える自治体は多い。

だが、国の動きを待っていられないと、自治体の中には個別に通知を始めるところも増えている。

厚労省の調査では、ワクチンの接種対象者・保護者へ一律に個別の情報提供を行っている自治体は97ある。

希望者に同様の案内を送っている自治体は168にのぼった。

岡山県は独自の啓発リーフレットを作成

一方、岡山県は地元産婦人科医の団体や大阪大学産科学婦人科学教室の協力を得て、最新の科学的な根拠を盛り込んだ子宮頸がん予防の啓発リーフレットを2019年8月に作成した。地元産婦人科医団体の要望がきっかけとなったという。

8万5000部印刷し、県内の市町村や保健所、学校に送付し、県のウェブサイトでも公開している。

作成を担当した同県健康推進課は「子宮頸がん予防を重点事業として掲げる岡山県としては、ワクチンで原因ウイルスへの感染を防げて、検診では早期発見できるという正しい情報を伝えることが目的です」と狙いを語る。

厚労省の積極的勧奨が再開されないままであることについては、「公費で受けられる定期接種であることさえ対象者に伝わっていないのは問題だと思っている」と話す。

一方、このリーフレットに対し、HPVワクチンによる薬害を訴えて全国で訴訟を起こしている全国HPVワクチン薬害訴訟弁護団は10月25日、使用中止を求める申し入れを行っている。

中止を求める理由の筆頭に掲げられているのは、厚労省がHPVワクチン接種の積極的勧奨を一時中止していることが明記されていないということだ。

代わりに「積極的におすすめすることを一時的にやめています」と書かれた厚労省作成のリーフレットを送るように求めている。

岡山県はこの申し入れに対し、現時点ではリーフレットを中止するなどの対応を考えていない。同県健康推進課は「県のリーフレットの内容に問題があるとは考えていない」とその理由を話す。

日本産科婦人科学会は自治体の啓発活動を支持する声明を発表

こうした様々な動きに対し、日本産科婦人科学会は11月1日、自治体が国の態度とは別に、独自に始めているHPVワクチンの啓発活動について支持する声明を発表した。

「HPVワクチンが定期接種であることや疾患に関する理解を促す資材を、97の地方自治体が接種対象者に、168の地方自治体が希望者に対して配布・送付していることが報告されました」と自治体の動きに触れた上でこう述べている。

日本産科婦人科学会は、学術団体(アカデミア)の立場から、この動きを強く支持いたします。また、定期接種を周知する主体であるすべての自治体が、HPVワクチンが定期接種であることや疾患に関する理解を促す広報を接種対象年齢の住民ならびに保護者に対し強力に推進されることを強く望みます。

反対の声や、厚労省が積極的勧奨を再開していないことについて、理事長の木村正・大阪大医学部教授(産科学婦人科学)はこう語る

「定期接種のHPVワクチンについて、予防接種の実施主体である自治体が正しい情報を住民に提供するのがなぜおかしいのか。それに反対することは筋が通っているでしょうか? 」

「厚労省が積極的勧奨を6年半も再開しないのはやる気がないのか、やれない事情があるのか我々にはわかりません。積極的勧奨の再開は今後も適切な時に訴えていきますが、自治体が定期接種のワクチンについて適切な情報提供をすることを応援したいし、国の動きとは関係なく全ての自治体に頑張ってほしいと願っています」

厚労省の見解は?「積極的勧奨の再開も含めて情報提供のあり方を議論する」

適切な情報提供がないため接種の機会を逃す可能性を危惧して、自治体が独自に動き出していることについて、厚労省予防接種室の専門官は「そういう批判の声があることは把握している。対象者へ定期接種であるという情報提供はやっていかなければならないと思っている」と話す。

その上で検討状況についてはこう語る。

「積極的勧奨を再開するかどうかも含めて、HPVワクチンの情報提供のあり方については今後、議論を進めていきたい」

ただ、積極的勧奨再開を具体的に議論する時期がいつになるかは、「今の時点でどうこうとは言えない」と言葉を濁した。