子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。
自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」(細田博之会長)は11月16日に会合を開き、接種を逃した女子大学生たちと共に活動している医療者ら有志の会「HPVワクチンfor Me」の産婦人科医、高橋幸子さんが講演した。
高橋さんは「厚生労働省からの積極的接種勧奨の再開と同時に、無料で(うち逃した対象者の後からの接種を可能とする)キャッチアップ接種を実現してください」と訴えた。
「知った時にはもう無料接種期間を過ぎていた」
高橋さんは、「HPVワクチンfor Me」について、「『HPVワクチンのことを学べば学ぶほど未接種の自分たちに気づき、一刻も早くHPVワクチンをうちたい。しかし、5万円という接種費用の捻出が難しい』という大学生当事者の声を届けることに特化して活動しているグループです」と紹介した。
性教育に熱心に取り組んでいる産婦人科医、高橋さん。
「今日もこの後、高校2年生380人を対象に性教育の講演会にいきますが、高校2年生は既に無料期間を過ぎてしまっている年代の子たちです。HPVワクチンの話をした後に、『ごめんね。みんなはもう無料じゃないんだよ』と言った時のため息が予想できます」と話し始めた。
日本では小学校6年生から高校1年生の女子は3回で5万円かかるHPVワクチンが公費でうてる。
しかし、厚労省が積極的に推奨するのを7年以上差し控えているため、対象者にお知らせが届けられず接種率は1%未満に落ち込んでいる。
そのような状況に置かれている医学部1年生の女子大学生の声をまず紹介した。
「私がHPVワクチンについて初めて知ったのは大学に入ってからでした。その時はもう既に無料接種期間を過ぎていて、もっと早く知っておけばよかったと後悔しました。HPVワクチンについて学ぶ機会はなかったので、中学生、高校生のうちに学ぶ機会を設けるべきだと思います」
「私のようにHPVワクチンのことを知らずに無料接種期間が過ぎてしまっていた、という方も多くいると思うので、キャッチアップ制度の実現を望みます」
大学生の74%が「HPVワクチンを知らない」
そして、11月12日に十文字学園大学の女子学生76人にとったアンケートの結果を示した。
「HPVワクチンを知っていましたか?」という問いに対し、73.7パーセントが知らないと答えた。「接種したいと思いますか」と聞くと、「接種したいと思う」と答えたのは71%だ。
しかし、「5万円という費用は負担だと思いますか?」と尋ねると、94.7%が「負担だと思う」を選んだ。
「大学生にとって5万円の負担はだいぶん大きいということです。大学生の収入で5万円という費用を捻出することはとうてい無理ということです」と訴えた。
「HPVワクチンを知らずにがんになった人の責任が取れますか?」
また、一緒に活動している女子栄養大学で養護教諭を目指す学生の性教育サークル「たんぽぽ」の学生のメッセージをビデオで伝えた。
このサークルでは中学生向けにHPVワクチンの啓発資料を作ったが、ワクチンを勧める資料を作りながら、自分たちはうっていないことに危機感を覚えたという。
「自分の学年(2000 年度生まれ)はほぼ接種を行なっていない現状です。それは公費でうてる定期接種となっていたのが、積極的勧奨を差し控えるよう通知がなされたからです」
「安全であることを広めてほしいです。HPVワクチンが危険なものであるというイメージが残ったままになっていると思います。そのため親の同意が得られず、うつ機会を得られないことがあります。HPVワクチンの安全性について正しい知識を広めてほしいです」
「ワクチンをうつことによりがんになるリスクを下げることができます。そのことを知らされないでがんになった人の責任を取れますか?予防できる病気で死にたくないです」
「私たちのように接種を逃した年代にHPVワクチンをうつチャンスをください。これは日本の未来を担う学生の声です。どうかこの声を受け止めてください」
阪大の研究 接種しないままで死亡者は4000人増加
そして、大阪大学産婦人科の上田豊講師らの研究グループの予測研究も紹介した。
2000〜2003年度生まれの女子のほとんどは接種しないまま、定期接種の対象年齢をこえ、うつ機会を逃している。
その結果、将来、子宮頸がんを発症する人は接種した場合と比べて1万7000人増え、死亡者の増加が約4000人にのぼるという報告だ。
その後に生まれた2004年度生まれは現在高校1年生で、公費でうつラストチャンスの年を迎えている。3回とも無料でうつには今月中に1回目をうつことが必要だ。
「今、HPVワクチンをうたない状況は、1日あたり12人子宮頸がんになる人を余分に増やしています。1日あたり3人、子宮頸がんで死ぬ人を増やしている状態です。これは非常に強いメッセージなんじゃないでしょうか? 」
「HPVワクチンfor Me」は6月から署名活動を始めている。接種機会を逃した女子が、後からでも無料で接種できるキャッチアップ接種を求める署名だ。厚生労働大臣や各市町村長あてに届ける予定としている。
厚労省「個別通知、相当多くの自治体で取り組んでいただいている」
その後、厚生労働省の林修一郎・予防接種室長が、新しく作り直した広報リーフレットの内容を説明し、これを使って自治体からの個別通知を進めている現状を報告。
「自治体の方も積極的に対応いただいていると感じている。年度の途中でもやっていただけるところがどれぐらいあるか不安なところがありましたが、相当多くの自治体で今年度からリーフレットの送付に取り組んでいただいている印象を受けている」と話した。
一方、「HPVワクチンfor Me」に参加している小児科開業医、細部千晴さんは、
個別通知を自治体に求める厚労省通知の中に「市町村長は、接種の積極的な勧奨とならないよう留意すること」という文言や、対象者向けの啓発リーフレットに、「積極的におすすめするお知らせをお送りするのではなく」という文言が残っていることで、国のメッセージがわかりにくくなっている問題を指摘した。
細部さんは「各地方自治体の長はこの言葉を読んだだけで、やってはいけないのかなと思う。そして、『接種をおすすめするお知らせをお送りするのではなく』という文言は、親御さんたちや本人が読んで『安心だ。安全だ』と思ってうっていただけるかどうか。親御さんから『やっぱり怖いわ先生』と言われてうってもらえなかったりする」として、改善を求めた。
厚労省の林室長は、「ご意見を参考にしながら今後に活かしていきたい」と答えるに留まった。
細田会長「年齢限定せずに接種対象を広げられないか?」
冒頭、細田会長は、「日本では世界でも例を見ないほど、子宮頸がんの罹患者も増え、死亡者も増え、子宮を失う方も増えているのが現状です。幸い9価ワクチンもできてきたわけですし、最近ではスウェーデンその他で子宮頸がんワクチンが効果的であるという科学的な立証材料も出てきています」と現状を指摘した。
その上で、
「問題はお母さん方が今の子育てを考えて(接種を)控えてしまう。そのために1%、2%台に接種率が落ちているわけですが、むしろ弊害は万が一、将来子宮頸がんになった場合は20年後に亡くなる人も多い。罹患して子宮を取ったりしてお孫さんができない。そういう隠れた被害者がたくさんいるわけです」
として、「これは日本だけの現象です。これを克服しなければいけない」と述べ、啓発運動を広げるよう呼びかけた。
最後には、不妊治療の保険適用を進める菅内閣に対し、HPVワクチンの年齢を限定せずに対象を広げることも求め、こう提案した。
「全額国庫負担とはいかないにしても、例えばHPVワクチンを保険対象にして自己負担は1万円にする。5万円の費用との差額は、受診者が増えれば単価が下がる。不妊治療とのバランス論からするとそういうことも考えるべきではないか?」
厚労省副大臣となって議連の運営を抜けた参議院議員の三原じゅん子氏は、「ワクチンの重要性を国民全体で考えていかなければならない。コロナももちろん大切ですが、それ以上に死亡率も高いがんという恐ろしい病であることを決して忘れてはいけないという思いでこれからも取り組んでいきたい」と語った。