植松被告に殺された美帆さんの母 「当然の結果だと思います。悲しみは変わらない」

    植松被告に殺された美帆さんの母親が、代理人弁護士の滝本太郎氏を通じて、「当然の結果だと思う」とするコメントを発表した。また、匿名裁判への批判に反論しながら、なぜ遺族が名前や顔を出したか、改めて裁判に与えた意味を語った。

    相模原事件の植松聖被告が死刑判決を言い渡されたのを受けて、殺された入所者の一人、「美帆さん」の母親が3月16日、「当然の結果だと思う。悲しみは変わらない」などと書いたコメント文を発表した。

    初公判直前に姓名全てを明かすか、匿名の記号を使うか選択を迫られ、「娘が生きた証を残したい」と滝本太郎弁護士に相談し、下の名前と顔写真を報道機関に提供した。

    会見した代理人の滝本弁護士は、匿名発表を批判するメディアに反論しながらも、「実質的なしっかりした裁判をするためには殺された人のイメージを裁判員にも国民にもわかってもらわなければいけない。それで名前を出し写真も出したものです」とし、

    「あれがなかったら(裁判は)どうなっていたか。勇気が必要だったけれど、良かった」と、実名や顔写真が裁判に影響を与えたとする美帆さんの遺族の声を紹介した。

    美帆さんの母、コメント全文

    当然の結果だと思う。

    悲しみは変わらない。

    けれど、一つの区切りだと思う。

    大きな区切りであるけれど、終わりではない。

    19の命を無駄にしないよう

    これから自分のできることをしながら

    生きていこうと思います。

    2020年3月16日

    美帆の母

    匿名批判への反論

    滝本弁護士は、これまで相模原事件についてまとめたものとしては、神奈川県の検証委員会が2016年11月25日にまとめた報告書は36枚だったとした。

    その上で今回の判決については、「必要最小限の判決文としか思えず不満です」「テロ犯罪であること、ヘイト犯罪であることをはっきり書いていない」と批判した。

    被害者が記号化され、匿名とされたことについて、質疑応答で記者から疑問を投げかけられると、こう反論した。

    「誤解があるかもしれないが、刑事記録としては全部名前が出ている。その上でメディアに知られない、法廷ではわからないように言う取り扱いは秘匿決定であって、記録自体に名前が残っていないわけではない」

    「障害者だけでなく職員も匿名。メディアの人と意見は違うでしょうけれども、どんな事件の被害者も自分の名前を明らかにしなければいけない、自分の家族の名前を明らかにしなければいけないという義務はない。これが本来の形だと実は思っています。ただ、名前を出す出さないはご家族や遺族、本人が決めることで、警察が決めることではない」

    そして美帆さんの身近な人は美帆さんが殺害されたことを知っていたと強調し、名前を明かすかどうかは被害者のプライバシーの問題だと述べた。

    「被害者を今まで知らなかった人が突然関心を持たれても困る。美帆さんの葬儀にはのべ200人が来て、もともと知っている人は皆来たのですから、隠しているわけでも何でもない。(殺された)19人も障害を負った人たちもそれぞれ事情がある」

    「刑事裁判史上初めてかもしれないが、今まで全部が明らかにされていたのがおかしいのではないか。20〜30年前は強姦事件の被害者の名前も出ていました。存命中でも出ていました」

    一方...名前や顔を明かしたのは「殺された人のイメージをわかってもらうため」

    我々メディアは、被害を受けた人の命の重みを社会に訴え、犯罪がもたらした被害の具体的な痛みを知らせるために実名や顔写真の報道を行なっている。被害者や遺族のプライバシーに最大限配慮しながら対応しなければならないのは当然だ。

    滝本弁護士は、一律の実名・顔写真報道を批判しつつも、美帆さんの名前や顔を明かしたことについて、遺族の思いをこう代弁した。

    「生きた証を残したかったんです。生きた証を残したかったので、美帆さんという名前を出し、かつ写真を出した。昨年11月に私が(美帆さんの遺族から)受任したのは、『甲のA』という記号になってしまいそうだと、フルネームならOKと言われた。でもフルネームにしたら、世の中おかしい人がいるから怖いということだった」

    「美帆さんという名前を出すことによって、生きた証になるし、植松の主張だけが報道される裁判になったら冗談じゃないと美帆さんの遺族は思っていた。実質的なしっかりした裁判をするためには殺された人のイメージを裁判員にも国民にもわかってもらわなければいけない。それで名前を出し写真も出したものです」

    「『あれがなかったらどうなっていたか。勇気が必要だったけれど、良かった』とお母さんも言っていました」

    裁判員裁判のプラス面・マイナス面

    また、裁判員裁判については、良いところと悪いところがあったと指摘した。

    「被告人質問は弁護側の質問、検察側の質問、大変短かかった。参加弁護士、被害者、裁判員、補充裁判員の方がページが多いぐらいです。前代未聞のことです」

    一方で、「裁判員裁判であればどうしても1〜2か月で終わらなくちゃいけない」とマイナス面も指摘した。

    「だからといって、職業裁判官だけの裁判に戻すのか。確かにそうすれば、彼の親の調書も形を変えて、時間をかけて出てくるかもしれない。学校の先生も出てきてもらえるかもしれない。一方で、裁判員裁判であるからこそ、裁判員から素朴な質問が出たりもした。良い面悪い面両方あり、悩むところです」

    そして、刑事記録の不十分さを補うために、被害者参加制度を活用したことを述べた。

    「被害者参加制度ができたのは良かった。被害者参加制度や被害者参加弁護士がいなかったら、(小学生の時に障害者はいらないと書いた)作文の話は出てこなかった。調書には書いてあるのに、誰も聞かない。検察、裁判官、弁護士は知っていたけれども、社会に知られていない。このままではまずいと思ったので聞きました」

    「とにかく、白々しい裁判にはしたくなかった。なんとか白々しい裁判にはしないで、彼に最後まで考えさせる材料になったかなと思います」

    そして、被告側弁護人の弁護士についてはこう批判した。

    「立場はわかるが死刑違憲論を言っていない。死刑廃止を主張する人、死刑が違憲だと考える人は、弁護団を批判しないといけない。その声が聞こえてこないのが不思議で仕方ありません」

    生育歴が明らかにされなかったこと、施設運営の法人への不満

    裁判の内容についても、植松被告の生育歴について、裁判で十分、明らかにされなかったことを批判した。

    「少年事件なら、『社会記録』というものがある。彼の生育歴が知りたかったし、通信簿やこれほどの大事件であれば小学校の先生から聞き取りをする。『障害者はいらない』と書いた作文について、その先生はいつもコメントするのに、コメントはなかったと調書にある。社会記録のようなものが欲しかったとつくづく思います」

    さらに、津久井やまゆり園を運営していた法人「かながわ共同会」について、苦言を述べた。

    「『(職員の監督が)不十分で申し訳ありませんでした。お詫びします』という言葉がしっかり聞けていない。これは美帆さんのお母さんも言っていたので申し添えます。法的な責任追及云々ではない」

    「(美帆さんが)大変お世話になったし、ご努力もわかるのですが、彼が危ないということは知られていたわけで、監視カメラも彼のためにつけたわけですが、常に警備員が見るというシステムになぜできなかったのか。非常ボタンはなぜなかったのか。職員教育が不十分だったということもはっきり認めてほしいですね」