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「管理料」は女性への罰金じゃない 子宮内膜症、月経困難症などに診療報酬を新設

むしろ、女性の病気を丁寧に診てもらえるチャンスが広がりそうです。

毎日新聞

月経困難症や子宮内膜症など女性特有の病気に診療報酬が新設されるという報道があったところ、SNSでは、「女性への罰金か?」「なぜ女性だけから金をむしり取る?」「性差別だ」「なぜ管理されなくちゃいけないの?」など、批判の声が相次いでいます。

しかし、これは本当に女性にとってマイナスな施策なのでしょうか?

診療報酬を新たに設けるということは、医師や医療機関にとってはその診療をやれば儲けになり、積極的に取り組もうというインセンティブ(動機)が働くことでもあります。

また、今回の「管理料」を請求するには患者の同意が必要なので、こうした病気に対する継続的な診療や丁寧な説明が必要ない人は拒否すれば自己負担が増えることはありません。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「月経困難症などを丁寧に診て説明するのは、今は個々の産婦人科医の『やる気』に任されている」と話す宋美玄さん

まさに女性特有の病気を自身のクリニックで日々診ている産婦人科医の宋美玄さんや厚生労働省に、管理料の意味について伺いました。

そもそも男性の病気にもついている「管理料」

まず、「女性差別か?」「なぜ女性だけに?」という声が多いわけですが、そもそも「管理料」は女性特有の病気にだけつけられるものではありません。

「生活習慣病管理料」「がん患者指導管理料」「糖尿病透析予防指導管理料」「ニコチン依存症管理料」など様々な病気についており、もちろん男性も対象です。

厚労省によると、管理料は「特殊な疾患に対する診療、医療機関が連携して行う治療管理、特定の医学管理等が行われた場合に算定する点数」 という定義となっています。

宋さんはこう言います。

「手間のかかる病気や状態を診療することを適切に評価しようと設けているのが管理料です。当初出た記事では、男性がかかる他の病気でも管理料があることが書かれていなかったので、『なぜ女性だけに?』という誤解が生まれたのではないでしょうか?」

「我々女性が女性ホルモンに守られてかかりにくくなっている生活習慣病も管理料があるわけですから、『女性特有の病気に罰ゲーム』と受け止めるのは間違っているんですね。男女関係なくお互い様と言えると思います」

月経困難症や子宮内膜症などに丁寧な説明をすることにこれまでお金がついてこなかった

そもそも、女性特有の疾患に「管理料」をなぜ設けることになったのでしょうか?

「婦人科は、報酬の少ない初診料、再診料のみで、これまで管理料はまったくついていませんでした。今回対象となった月経困難症や子宮内膜症などの治療はピルが中心になりますが、『ホルモン剤で調整するのは不健康』と考えている人が多く、説明や診療には手間がかかります」

Antonioguillem / Getty Images

ピルに不安を抱く人は多く、生理の仕組みから副作用、飲み方の指導まで丁寧な説明が必要となる

「生理の仕組みから話し、患者さんが妊活をしていないなら、排卵したり内膜を育てたりする必要がないので、将来の妊活のために月経をコントロールした方がいいこと、副作用や治療薬の飲み方、飲んでみた感じで薬を変える提案など、患者さん個々の生活に合わせた説明や提案をするのは手間も時間もかかります」

しかし、この説明や治療計画をたてることにお金がつくわけではありません。現状では医師の「善意」に左右されている状況です。

「こういう丁寧な診療をするかどうかは、実質医師のポリシーに任されています。私は生理痛は我慢する必要はないということを広めたいのでやっていますが、簡潔にしか説明しない医師がいても仕方ないと思います。数をこなさないと経営が成り立たないので、お金にならない診療に時間や手間をかけていられないからです」

「一般婦人科の診療は不採算部門ですから、他の医療スタッフの生活もかかった経営を考えれば、検査やお産、妊婦健診、人工妊娠中絶などで経営の帳尻を合わせるしかありません。中には、プラセンタなどの美容注射やにんにく注射、血液クレンジングなどのニセ医学で儲けようとする人もいるでしょう」

こうした現状は女性の健康にとっていいことなのでしょうか?

女性特有の病気を丁寧に診てもらえる医療機関が広がるチャンス

そうは言っても患者からすれば自己負担が増えることは変わりないですね。反発を抱く人はいそうです。

「『妊婦加算』も300円程度の自己負担でしたが、今回も自己負担がいくらぐらいなのかということがわからないまま、ものすごく負担が増えるというイメージが先行しているのではないでしょうか? 」

「SNSで一般の人とやり取りしていると、『ただで丁寧な診療をしてほしい』という人はさすがにいないのです。いくらになるかはこれから決まるでしょうが、おそらく1000円未満だと思いますので、丁寧な診療を受けるための正当な対価だと考えてほしいです」

産婦人科以外でも専門知識を持って妊婦の診療をする時につくはずだった「妊婦加算」も、同様の反発が起きて、結局潰れてしまいました。

今度の管理料も二の舞にしてはならないと宋さんは言います。

「妊婦加算は産婦人科以外の先生が診る時につくものだったので、我々産婦人科医は直接関係なかったのですが、少なくとも妊婦さんだからといって診療を断ったり、検査や治療もしなかったりという状況を変えるための施策であったはずです。妊婦さんを丁寧に診るための施策が潰れて残念ですが、今度も炎上したから止めるということはあってはならないと思います」

そして、この診療報酬は産婦人科医のやる気につながるといいます。

「これまで月経困難症などは勉強会や学会などで知識をアップデートするモチベーションが起きにくく、いまだに古い薬を使い続けている先生もいます。今も最新情報に基づいてきちんと診る自助努力をしている先生はいますが、採算が取れるようになれば勉強して丁寧に診ようというモチベーションは多くの先生で高まるはずです」

女性の診療に対する不満の蓄積が背景にあった

それにしても、なぜ今回、これほど女性たちから反発の声が上がったのでしょう。宋さんは、「気持ちもわかる」と理解も示します。

「もともと、ピルの承認も海外に比べて極端に遅かったし、ピルの市販化も見送られたし、中絶するのに配偶者の了承が必要なのが日本です。これまで女性が自主的に自分の体の健康をコントロールすることに、日本の医療界はことごとく抵抗してきました」

「女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ライツ・アンド・ヘルス(性と生殖に関する権利や健康)に関して、医者の意見に従うしかないという状況に置かれ続けた不満の蓄積が、『女性にさらに負担を上乗せするのか』『医師にどうして管理されなくてはいけないのか』という反発を強めている気がします」

それでも、今回の管理料新設は、きっと女性たちの健康のためになると宋さんは訴えます。

「婦人科の病気を丁寧に診ることへの評価が全く認められなかった中、今回は初めて国が、女性の診療を丁寧に変え、その診療が広がって女性が婦人科医療にアクセスしやすくするための手を打ったと考えられます」

「負担が増えるのが嫌だという気持ちはわかりますが、儲けているのは海外よりも薬価を上げている製薬会社で、医療機関や医師ではありません。ピルなど高過ぎる薬価を引き下げることで自己負担を減らすことは必要ですが、診療を適切に評価する『管理料』の新設は女性が自主的に自分の健康をコントロールする一歩だと捉えて、前向きに受け止めてほしいです」

厚労省の狙いは? 働く女性の健康を守るための施策

ここで、今回の管理料新設を提案した厚労省保険局医療課に狙いを聞いてみましょう。

12月11日に開かれ、この管理料を厚労省から提案して了承された中央社会保険医療協議会総会の資料を見てみると、13ページにわたってこの管理料を検討する意味が説明されています。

厚労省

18〜49歳で働く女性の半数が月経異常を経験したことがあるのに、受診しなかった人は37%にのぼる

現在は、働く女性で月経異常を経験したことのある人が多数に上りながら、受診をためらったり、結局通院しなかったりしている課題があります。

厚労省

子宮内膜症や子宮筋腫などにかかっている女性は一定割合おり、働く女性の生活の質が損なわれていることが課題となっている

生理痛を訴えることが多い子宮内膜症がある人は30代で19%、40代では28%もいることが明らかになっています。

厚労省

働く女性が月経困難症などで苦しみを抱きながらも通院していない現実にどう対処するか

それに対して、通院で定期的に管理することを診療報酬として評価しようと新設されたのが今回の管理料。

保険局医療課課長補佐の木下栄作さんは「通院を中断している理由として、『通院の必要性を感じない。治療してもすぐに効果を実感できない』という声が上がっているので、計画的で継続的な治療の意義について医師から説明を受け、理解していただく必要があると考えました。そのための丁寧な説明は従来の再診料だけでは難しいと考え、新設しました」と狙いを話します。

「自己負担が増えると余計、医療機関に行かなくなる」という声に対しては、「これは患者さんの同意がなければ請求できない診療報酬です。選択権は患者さんにあるので、やはり自分には必要ないと思えば選ばないこともできます」と理解を求めました。

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