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「男らしさの呪い」がみんなを苦しめている 深澤真紀さん、松本俊彦さん薬物報道を斬る(4)

自分への抑圧や互いへの監視が強い「男らしさの呪い」が人々を苦しめ、薬物や虐待などの問題に結びついていると分析していきます。

薬物報道の問題から、世代論、日本人論に話がどんどん膨らんでいく獨協大学特任教授でコラムニストの深澤真紀さん、薬物依存症のスペシャリスト、松本俊彦さんの対談も4回目。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

どんどん話が膨らんでいった深澤さんと松本さんの対談

マッチョな価値観から外れることを許さない「男らしさの呪い」が、様々な問題の根底にあると話します。

「治安の良さ」を乱すものへの過度な恐れ

深澤 今の日本は治安も良いですし、犯罪も薬物問題も少ないです。先進国でもヨーロッパの街で奥の方に入ると明らかにやばいところがあるのに、日本ではそんなあやしいところは本当に減りました。

昔は新宿を歩いていたら、ドリンク瓶に入った薬物を持って売人が取引する姿が見られましたけれど、今は治安が良くて、街がきれいというのは、私も含めて多くの日本人が誇る価値となっています。

逆にそれを破るものは、悪であり敵であるとみなすようになってしまった。「美しく治安のいい日本を壊す人間は許さない」という意識は、右も左も、老若男女も、多くの人が持っている価値観になっています。

今の日本の治安はなぜこんなに良くなったのだと思いますか?

松本 いや、わからないです。見当もつかないです。

深澤 私が子どもの頃の1970年代は、公害も交通事故もひどかったし、海も川も街も汚くて、治安も悪くかった。薬物だって今より蔓延していました。それがどんどん改善していった。それは本当に素晴らしいことだと思うんです。

だからこそ人々は治安の悪化をすごく恐れているわけです。そうすると、薬物問題は、治安を乱すので許せないと思ってしまうわけです。

松本 確かにそうだし、日本の法律はそうなのですが、一方、先進国の中で自己使用を犯罪化している国はないんですよね。これを理解してもらうのはすごく難しい。少量の所持や自己使用を非犯罪化し、健康問題として扱え、というのは国連の決議で、日本は国連の決議に反した対策をとっているわけなのですが。

深澤 WHOも、薬物使用の非犯罪化を推奨していますね。

松本 日本はそれを見事に無視しているし、そうした国際会議で他国から批判されたことことにはいっさい言及しないまま、「有意義な議論ができました」ってホームページでしれっと報告しています。

適切な言葉ではないのかもしれませんが、よく薬物と売春は被害者なき犯罪と言いますよね? こうしたものは、逆に規制を厳しくすることで地下に潜って、公衆衛生的に深刻な健康問題が生じる可能性があるんです。

たとえば、数年前までアメリカは、ヨーロッパに比べると大麻に対してかなり厳しい態度をとってきました。それなのに、国民の大麻経験率はなぜかヨーロッパの1.5~2倍くらい高い。

また、ヨーロッパの国々のなかではオランダ国民の大麻経験率がかなり低い方であることもよく知られています。そしてポルトガルでは、違法薬物の自己使用と少量の所持を非犯罪化し、福祉的支援の対象とした結果、国民の違法薬物の経験率が低下しています。

一方、日本の場合、数年前、いまは危険ドラッグと呼ばれている、いわゆる「脱法的な薬物」が広がった当時、規制を強化すればするほど、より危険な薬物が新規に流通するようになった時期がありました。

そして、それを使用した結果、救急搬送されたり、死亡したりした事例が増加し、交通事故も急増しました。つまり、規制強化がかえってコミュニティに害をもたらしたわけです。

深澤 アメリカの禁酒法の時代の問題と全く同じですよね。

「ダメ。ゼッタイ。」運動の弊害

松本 それでも被害者なき犯罪を罰するのは国民の健康を守るためだと思うのです。ただ、その行為をすることによって受ける罰が、その行為による健康被害を上回るべきではないという理念があるはずです。そうでなければいきすぎた人権侵害となりかねません。

しかし、現状、薬物関連犯罪に対する刑罰は、明らかに薬物使用による健康被害を上回っている。

さらに言えば、日本では薬物の害が喧伝される一方で、アルコールの害については相当に過小評価されている気がします。

僕らの依存症外来に来る患者さんの中で、一番身体がボロボロで脳みそが縮んでいるのは何の依存症かというと、圧倒的にアルコールなんです。覚せい剤の人たちは元気です。逮捕されたおかげで深刻になる前に治療につながるという見方もできますが。

深澤 ただ、病院にも警察にもつながらないケースも、あるのではないですか。

松本 それはアルコールも同じです。病院につながったケースに限っていえば、薬物依存の患者さんは内臓は元気ですし、かつて「注射器のまわし打ち」で蔓延したC型肝炎もずいぶん少なくなった気がしています。

おそらくある時から売人が、必ず新品のポンプをつけてくれるようになったことが、C型肝炎の減少に影響しているのかもしれません。だとすれば、これは貴重な「民間の努力」ですね。

深澤 そこそこに健康を維持して、いつまでも買ってくれる方が、薬物を売る方にとってもメリットがあるわけですよね。

松本 薬物使用に関係する感染症としては、他にHIVもありますが、HIVにしろC型肝炎にしろ、薬物使用に関係する感染症の治療はすごく進歩しています。C型肝炎は完治するようになったし、HIVも初期に発見され適切な治療を受けたら寿命は一般の人と変わらない。

それから、覚醒剤を使うことによる害ってよく「幻覚妄想が出る」なんて言われていますが、実際には幻覚妄想が出る人は使用者のごく一部でしかないんですよ。

深澤 「シャブ山シャブ子」にはなかなかならないと。私たちの世代だと、深川通り魔事件(1981年に起こった無差別殺人事件、犯人が覚醒剤を常用していた)の印象が強すぎるんですよね。衝撃でしたから。

松本 でも、あの事件も鑑定書を吟味すると、覚醒剤を使う前からおかしかったんです。どうも何でもかんでも薬物のせいにされすぎている気がしてならないのです。何かに原因を押しつけて安心するというか。

時事通信

薬物乱用防止キャンペーンで「ダメ。ゼッタイ。」の横断幕を掲げて歩く警視庁や行政の関係者

そして、薬物の怖ろしさを「ダメ。ゼッタイ。」と喧伝する。それが国民に広く浸透して、誰もが「薬を使ったら人生はおしまい」と思い込んでいますが、実際はそうではありません。

逆に依存症になっている人は、「俺はあそこまで行ってない、幻覚妄想が出ていないし、『シャブ山シャブ子』みたいになっていないから依存症じゃない」と思い込み、治療につながらない、という弊害もあります。

初めて薬物を使った人は学校の啓発で教わったほど気持ち良くもない代わりに怖いことも起きないと拍子抜けして、大人の言うことを聞かなくなるんです。

深澤 思っていたよりたいしたことがなかったわけですね。

松本 はい、そうですね。もうちょっと事実を伝えていくことと、万が一自分が当事者になった時にどういう支援があるか、周りに困った人がいたらどういう助言をするかということにもっと時間を割いた方がいいと思います。

希望が持てる明石市長の「アンガーマネジメント」

深澤 最近興味深いと思ったのが、明石市長の泉房穂さん(55)のニュースなんです。市長としてとても評価の高い人だったのに、暴言があったのでもう復帰は難しいかなと思っていたら、辞任後に彼は、アンガーマネジメント(怒りをコントロールする方法を身につける講習)に行きました

それもあってか、選挙で再選されましたね。



時事通信

出直し市長選挙で当選した泉房穂明石市長

東大を出て、NHKに入り、司法試験に受かり、衆議院議員になって、明石市長になった。優秀すぎて、周りの人を侮っていたから、暴言を吐いてしまったんでしょう。そういう人は最もアンガーマネジメントに結びつきにくいと思っていたんですが、彼は表面的な謝罪だけではなくて、「怒らないことを学ぶ方法」を選んだ。

松本 そうかもしれないですね。あの年代の男性が。

深澤 松本さんもよく引用されていますが、熊谷晋一郎さん(東京大学先端科学技術研究センター准教授で、脳性麻痺当事者でもある)がおっしゃる、「自立とは「依存先を増やすこと」」ということは、本当に大事ですね。自分の弱さを認めて、問題が起きたらと思ったら誰かに言う、助けてもらうことが必要です。

泉市長のようなハラスメントする人や、児童虐待する人は、起こしてしまった罪を償うことはもちろん、同じことを繰り返さないためのカウンセリングを受けることも必要だという認識が広がってきました。

アンガーマネジメントについては、日本ではまだまだ広まっていませんが、日本の管理職全員に受けてほしいです。

大正大学で叱られ方講座をやったというニュースが話題になりましたね。でも「今の若者は叱られ慣れていない」なんて、50年前の新聞にも書いてありますよ。それよりむしろ、管理職に叱らない講座をするべきです。そうでないと、ますます被害者が増えるだけなんですから。

松本 そうですね。

深澤 最近は性暴力のニュースでも、ワイドショーで「深澤さん、こういう犯罪にはカウンセリングも必要なんですよね」と聞いてくれたりします。そこで「性被害者へのカウンセリングもありますし、性加害者への治療プログラムもあります」と言うと、受け入れられるようになってきました。

つまり「暴力や虐待から被害者を守るため」には、「加害者が繰り返さないために、処罰と同時に治療が必要だ」という考え方が、受け入れられつつある実感があります。

一方で薬物問題には被害者はいないけれど、治安悪化というイメージが強いので、厳罰主義でいいのだという考え方が強いままです。

私は逆だと思っていたんですよ。薬物使用者は依存症患者でもあるので、厳罰より治療が必要だという発想の方が受け入れられやすいと思っていた。でも今の日本では、被害者を出さないために加害者も治す必要があるという考え方が、受け入れやすいんですね。

ですからカウンセリングや治療プログラムというものが、もっと日本で受け入れられるようになれば、薬物問題への視線も変わってくると思います。

男らしさと依存 おじさんよ鎧を脱ごう

松本 明石市長がアンガーマネジメントに行ったように、例えば、清原さんでも、高知東生さんでも、あの年代のおじさんたちが自分の限界を認めて、治療を受けているというアピールが、もしかすると社会を変えますかね。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

おじさんが弱さをさらけ出すことが大切と話す二人

深澤 アマチュアボクシングの「男・山根」がワイドショーで叩かれつつも、バラエティー番組で重宝されたのは、「そうそう、男ってそういう生き物だから、ちょっと横暴でも、ハラスメントをしても仕方ないよね」みたいな空気があったからだと思います。

そういう「男らしさの呪い」こそが、周囲へのハラスメントを生み、自分自身も苦しめるだけなのに。

松本 すごいな。薬物から気づいたら「男・山根」の話してた(笑)。

深澤 でも「男らしさの呪い」問題と依存症の問題は結びついていると思います。清原さんは著書の『告白』を読んでいても、三島由紀夫と似ているなと思ったんです。三島もそうなんですが肉体改造する人って、自分の男性性に苦しんでいることが多い。

清原さんは本来は、野球の上手な優しい人だったと思うんですが、“男らしさの呪い”に苦しめられたことが、薬物につながった部分があると思います。

「男らしさの呪い」問題は根深いです。1990年代に、男性の自殺率がすごく増えたのも、バブルがはじけたという経済が原因ですが、仕事や収入こそが男らしさを支えていたからですよね。

松本 面子の問題ですよね。

深澤 そうです。依存症や暴力は、男性自身が面子に縛られるために起こしてしまっている部分は大きいと思います。そういった「男らしさの呪い」にも目を向けていくことが大事だと思います。

本当はフェミニズム団体と薬物団体がつながっていい。性的少数者団体とアンガーマネジメント団体がつながってもいい。日本では男性が生きるのが楽になることで、いろいろな問題への解決の糸口が見えてくると思うんです。

若者は「男らしさの呪い」から圧力を受けている

深澤 草食男子と私が名付けた世代の男子は多様性があって、上の世代のような極端な女性差別をすることも少ない。

一方で男子世代は、上の世代から「男らしさの呪い」からの圧力も、影響も、受けて苦しんでいますから、「こうはなりたくない」という気持ちがすごく強い。

父親からの抑圧が強い男子学生に相談されますが、「これからの時代にそんな生き方は通用しないから、話は聞くことないよ」と言うと、「やっぱりそうなんですね」ってホッとしている。

「男らしさの呪い」には女性はもちろん、若い男性もずっと苦しめられているんです。でも、その呪いに一番苦しめられているのは、当の本人である中高年男性だと思います。

清原さんもそうですけど、ピエール瀧さんは繊細な人だと聞きます。あの歳であの地位がありながら、薬物に手を出せばどんなことが起きるのかわからないはずはないから、彼にも彼なりの苦しみがあったんでしょう。

こういうことを言うと、「苦しみなんかみんなあるんだ」と反論されるのですが、みんな苦しいんだから、それを言いやすい社会にして、助けを求めやすくしようよと思うんです。

(続く)

【深澤真紀(ふかさわ・まき)】獨協大学特任教授、コラムニスト 

1967年東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。いくつかの出版社で編集者として勤め、1998年企画会社「タクト・プランニング」設立。2006年に日経ビジネスオンラインで命名した「草食男子」が、2009年流行語大賞トップテンを受賞。

『ニュースの裏を読む技術ーー 「もっともらしいこと」ほど疑いなさい 』(PHPビジネス新書)、『輝かない がんばらない 話を聞かないーー働くオンナの処世術』(日経BP)、『女オンチーー女なのに女の掟がわからない』(祥伝社黄金文庫)、『ダメをみがくーー"女子"の呪いを解く方法 』 (津村記久子との対談、集英社文庫など著書多数。公式サイト

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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