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「犯罪者扱い」「監視」では回復できない 薬物使用者の家族が厳罰化に反対する理由

薬物問題は逮捕で解決しないという調査結果を示した「関西薬物依存症家族の会」。代表の山口勉さんに、一時、息子の死まで願った家族の立場から大麻「使用罪」創設について意見を聞きました。

厚生労働省で唐突に始まった大麻「使用罪」創設の議論。

海外は刑罰から回復支援に舵を切る中、逆行するかのような議論に、依存症者の家族会が3月末、刑罰は問題解決に役立たないという調査結果を突きつけた。

Sapadsorn Harnbumrungkit / Getty Images

薬物問題に巻き込まれる家族もまた苦しむ(イメージ)

調査した「関西薬物依存症家族の会」代表の山口勉さんに、家族として苦しんだ経験と大麻の取締り強化の議論について取材した。

子どもを「犯罪者」として「監視」した日々

山口さんの長男は、中学2年生ぐらいから不登校になり、16、17歳の頃から「脱法ハーブ(危険ドラッグ)」や大麻にハマった。

20歳になると、それに追い討ちをかけるかのように1型糖尿病を発症。毎日、インスリン注射をうつストレスからさらに荒れた。

「昼夜逆転の生活になって、インスリンもまともにうたない。ガリガリに痩せてしまって、一度、緊急入院したほどです」

その病院もすぐに脱走し、さらに薬物にどっぷりつかる毎日が始まる。山口さんは、息子を常に疑いの目で監視するようになり、捜査のように部屋を探して薬を見つけては大げんかを繰り返した。

「その頃は依存症が病気だという知識もなかったので、子どもの生きづらさに気づかないし、理解もできない。『大麻から入って、ゆくゆくは覚せい剤まで行き着くんやぞ!』などと叱りつけては、ああしろこうしろとコントロールしようとしていました」

息子が夜に薬物を買いにいくと、自分は酒を飲みながら起きて帰るのを待つ。

「警察のサイレンが遠くから聞こえると、『もしかしたら事故を起こして人を殺めているかもしれない』と妄想も浮かぶ。『死ぬんちゃうかな』と心配していたのが、疲れ果てて『死んだらええのに』と思うようになっていました」

Ghislain & Marie David De Lossy / Getty Images

犯罪者扱いし、家族が監視していた時は、心を開こうとはしなかった

「最悪の時は、『一緒に死のう。俺が殺したる』とまで追い詰められて、包丁を持って帰るのを待っていたこともあります。酔いが覚めて我に帰ると、『このままだと息子が犯罪者になる前に俺が犯罪者になる』と思いました」

自助グループにつながる

このままだと家族も崩壊する。ネットで必死に探して薬物問題の家族の自助グループがあることを知り、9年前に初めてつながった。

息子を犯罪者や犯罪者予備軍としてしか見られなくなっていたのが、薬物依存症という病気で苦しんでいる患者なのだと一から学んだ。

「正しい情報を得て、私たちが監視しなくなると、息子もいちいち嘘をつき続ける必要がなくなります。命令もしなくなると、2階の自分の部屋に引きこもり続けていたのが、食事の時には降りてきて一緒に食べるようにもなりました」

そんな時には、さりげなく自助グループの存在を告げるようにした。

「『お父さんとお母さんは今こんなところに行っとるねん』と家族会のことを話す。『当事者も週1回自助グループがあるみたいよ。回復支援施設があるけど1回話を聞きに行かへんか?』と情報だけは与え続けました」

そのままの状態で1年ぐらい過ごしたが、1型糖尿病もあってインスリン注射をまともにうたずに痩せ細っていく息子を放っておけない。23歳になっていた。

その頃、ナルコティクスアノニマス(NA、薬物依存症者の自助グループ)の全国会議が京都であり、家族会の一員として初めて参加した。

「参加している当事者を見ると、すごくいい表情をしているのです。助け合っていて、温かい雰囲気があって、『あれ、うちの息子やねん』『うちの娘やねん』と家族会の仲間から聞くと、薬をやっているようにはとても見えない」

「回復の成功例を目の当たりにして、息子もこんな風に回復してほしいと思いました。翌日には回復施設につなげる人を紹介してほしいと依頼していました」

初めて出せた本音「お前らにつらさはわからない」

そこで紹介されたのが、全国ギャンブル依存症家族の会代表で、様々な依存症の患者支援をしている田中紀子さんだ。自宅まで来て、息子に語りかけてくれた。

息子は抵抗していたが、他のスタッフと共に3時間ほど粘る田中さんに対して、ついにこう叫んだ。

「陰に隠れて自分の体に1日4回も5回も注射をうつつらさはお前らにはわからんだろ!」

初めてぶつけられた本音。次の瞬間、息子と同じぐらいの年齢のスタッフの男性が駆け寄り、「大丈夫や。つらかったやろう、今まで。俺が助けたるから」と息子を抱きしめた。

息子はがっくりうなだれ、そのままサンダルを履いてスタッフらと一緒に空港に向かった。回復支援の施設に入所したのだ。

山口さんは息子の叫びを聞いて、初めてその気持ちが少し理解できた気がした。

「ああ、自分たちが考える以上に病気のつらさがあったのだなと思いました。当事者には、当事者の声しか響かないのだなとも思いました」

Milos Dimic / Getty Images

1型糖尿病の患者はインスリン注射をうち続けなければならないつらさがある

息子は15ヶ月の入所後、沖縄で自立生活を始めている。干渉しないことを決め、連絡もとっていない。どう過ごしているかはわからないが、長女が時折、息子のところに子どもを連れて遊びに行く。

「どうにか生きているのだろうと思っています。3年前に一度、地元の友達に会うためにうちに帰って来て5年ぶりに一緒にご飯を食べました。自分で洗濯して、また沖縄に戻っていきました」

ゴボウのように痩せていた息子は、糖尿病治療の副作用もありふっくらとした体つきになっていた。

「きちんとインスリンをうっているのでしょう。妻は元気になった息子を見送って、『これでやっと息子を手放せた』と話していました」

逮捕などで薬物問題は「むしろ悪化した」「効果はなかった」が8割

監視し、犯罪者として扱っていた時は、決して本音を話そうとしなかった息子の姿を見てきた。そんな経験から逮捕や刑罰は回復に役立たないと山口さんは考えている。

2019年3月には、薬物問題を抱える当事者の家族が活動する「関西薬物依存症家族の会」を作った。

この会で3月に家族に対して、「大麻使用罪」新設についての緊急Webアンケートを行った。

対象はなんらかの支援につながっている薬物問題当事者の家族。3月23日から26日の4日間で、169人から回答を得た。

関西薬物依存症家族の会

「逮捕、補導、収監された」経験があるのはそのうち140人。あると答えた人のうち、それによって薬物問題の解決についてどう影響があったか聞いたところ、「むしろ問題が悪化した」が25人、「効果はなかった」が85人で、合わせて約8割に及んだ。

「効果があった」と答えた17人(12%)の方が少ないという結果だ。

自由回答では、

「逮捕後にリハビリ施設につなげる段取りをしたため、とても大変だった」

「出所から約1年経過すると考え方が戻り覚醒剤以外のものを使用し始めているようです。根本治療が必要だと思いますがなかなか自助グループに繋がらない現状です」

「逮捕というよりその後医療に繋がったことで効果があった」

と医療や回復のための自助グループなどにつながることを求める内容が目立つ。

山口さんは「実際に罰せられて5回も6回も刑務所に入る人はいますが、一向に改善しません。なぜいつまでも同じことを繰り返すのでしょう」と疑問を投げかける。

「危機感が強くなって親が通報するケースも結構あります。逮捕のきっかけが親の通報だと、子どもは恨みが募ります。出所後もお互いに不信感を抱き、監視する最悪な状況が続くので、回復支援とは真逆の方向に進みます」

「薬物依存症をよく知る医師は、治療する医療者も守秘義務を守って通報しない方がいいと呼びかけていますが、それでも通報する医師はたくさんいます。僕らは家族会で『簡単に通報はしない方がいい』と家族に伝えています。回復のために逮捕は役立たないからです」

必要なのは治療や自助グループにつながることだ。

「回復支援の視点で接すれば、発達障害や統合失調症があるお子さんはその生きづらさが薬物依存につながっていたことに気付きます。そして同じような障害がある先輩が回復している姿を見て希望を抱く。『つらい思いをしていたのは自分だけじゃない。ああいう風になりたい』と思った時が本当の回復の一歩です。家族も同じです」

「それなのに、若い頃に一発アウトで逮捕して、負の烙印を押して、なかなか社会復帰しにくい状態に置く。子どもが社会に戻って、どうしようもできなくなる家族もたくさんいます」

昨年、立て続けに仲間の子どもが2人亡くなった。社会が孤立に追いやった末の死だと思っている。

「WHOや国連が薬物依存症は脳の疾患で治療が必要だと位置付けているにもかかわらず、新たに使用罪を作る日本はなんと逆行しているのか。若い子に大麻が蔓延しているからということですが、逆に若いうちに人生をダメにさせていいのでしょうか」

逮捕は家族の人生にも影響 「子どもを憎むようになった」

関西薬物依存症家族の会

当事者の逮捕、補導、収監が家族に与えた影響を聞くと、「うつ状態になった」「人と会えなくなった」「家庭内で争いが増えた」と回答する人が多い。

自由記述では、

「色々調べてみたが、子供のこれからの人生は苦痛と我慢で希望がない
ものになってしまうという誤った情報を得てしまい本当に辛い日々だった」

「当事者の兄弟が不登校になった」

「自分の子供を憎むようになった」

と家族の人生にも当事者の逮捕が大きな影響を与えていることがわかった。

山口さんは、薬物依存症の回復には家族の回復も重要なのだと指摘する。

「家族会につながって最初は泣きながら話していた人が、いつしか笑いながら話し、旅行に行ったり、趣味を始めたり、自分の人生を生き直していく。家族が当事者に巻き込まれていると冷静な判断ができず、子どもに対しても間違った行動を取りがちです。それが子どもを余計追い詰めていくのです」

一方で、「逮捕されて彼の薬物依存に向き合えるようになった」「家族会に繋がることができた」という前向きな意味を見出した人もいた。

相談につながるまで長い年月 警察への通報の不安も

この調査でもう一つ重要なのは、当事者の薬物問題を知ってから誰にも相談できずに長い年月抱え続けている家族が多いことだ。

関西薬物依存症家族の会

相談に行くまで1年以上抱えていた家族が全体の約72%。5年以上10年未満抱えていた家族は18%、10年以上抱えていた家族も9%いた。

関西薬物依存症家族の会

相談をためらった理由としては、「どこに相談したら良いかわからなかった」が最も多いが、「人に知られてはならないと思った」「相談して警察に通報されないか不安だった」と逮捕への恐れが相談につながるのを遅らせたことが伺える。

山口さんも最初に家族の自助グループにつながり、会合の教会に入る時、誰かにみられていないか気にして、遠回りしながら行き着いたことを覚えている。

「刑事か誰かつけて来ているのではないかとか、おとり捜査しているんじゃないかとかそんな恐れでいっぱいでした。その話をミーティングでしたら、『一緒!一緒!』という声が上がりました。家族もみな『バレたらアカン』という意識で何年も暮らしているからです」

厚生労働省

厚生労働省が作成したポスター。蜘蛛の巣の真ん中にいる蜘蛛のイメージに「薬物」という文字を重ねる

山口さんは背景に、薬物に強いスティグマ (負のレッテル)を植えつけてきた薬物対策キャンペーンの影響も見る。

「親は『覚せい剤止めますか?人間やめますか?』の世代で、当事者は『ダメ。ゼッタイ。』の世代です。1回使ったら人間失格というスティグマが抜けきれない。だから逮捕されると、家族もバッシングを恐れて表に出られなくなる。近所の人にも絶対ばれたらダメだと思っているんです」

芸能人が逮捕されればマスコミはいまだにバッシング報道を繰り返す。

「子どもが逮捕された後、家を売って、帰れなくした家族もいます。家族も社会が薬物につけたスティグマに苦しめられているのです」

なぜ負の烙印をこれ以上広げるのか?

山口さんは薬物依存症の息子を見てきた親として、大麻「使用」罪の創設に対し、こう考える。

「刑事罰を広げることで、社会における薬物使用の負の烙印をこれ以上広げていいのでしょうか。罰を与えるよりも、治療や支援の方が圧倒的に回復しているのです。なぜそんな簡単なことが厚労省はわからないのでしょう」

「罰則ありき、刑罰ありきの議論はもう止めてほしい。若い世代がつまづいたら一発アウトで、失敗したらやり直せない国にはしてほしくない」

依存症なび / Via youtube.com

厚労省の依存症啓発イベントで、一緒に登壇した高知東生さんらも2016年に逮捕されたことから、「花の2016年組と呼ばれているんです」と笑顔で話す清原和博さん

そして、生きづらさを抱える若い人に対して、こんなメッセージを与える国であってほしいと願う。

「先日の依存症の啓発イベントで登壇した清原和博さんが、同じ年に捕まった高知東生さんたちとの自助グループを『花の2016年組』と紹介して笑っていましたね。今までだったら薬物で捕まった有名人は鎮痛な面持ちで頭を垂れながら謝っていました。日本も劇的に変わるチャンスです」

「清原さんたちが社会の中で回復した姿を見せているように、『薬物で失敗してもやり直せるよ。それをプラスにして生き直せばいいよ』というメッセージを社会は子どもたちに与えてほしい。その方がよっぽど生きやすい社会です」

厚労省の検討会に望むことはこうだ。

「薬物問題に苦しむ当事者や家族をこれ以上追い詰めないでください。逆に、『薬物問題は脳の病気だから、治療や支援を受けたら回復できる』と社会に伝えるチャンスにしてほしいです」

犯罪者という差別や偏見を増長する必要はない

山口さん家族も含めこれまで数々の薬物依存症の人を支援してきたギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんもこうコメントを寄せた。

田中紀子さん提供

薬物使用者の回復を支援してきた田中紀子さん

我が国では薬物問題を抱える人々に対し、ことさらスティグマを強め社会から排除してきました。犯罪者というレッテルを貼られることで当事者はもちろん家族まで居場所を奪われてきました。

この現実を是正すべく、勇気を持って声をあげたご家族たちの孤立や差別による苦しみを真摯に受け止めるべきです。

大麻の使用という軽微な罪で人生を奪うことは誰のためにもなりません。刑罰では違法薬物根絶には役立たないと先進諸国でエビデンスが出ています。

取り締まり官は、末端の使用者を追いかけるのではなく、供給元の根絶に力を注ぐべきです。

大麻使用罪の新設で、これ以上犯罪者という差別や偏見を増長する必要はありません。

(続く)


【薬物の問題に悩む家族の自助グループ】

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ファミリーズアノニマス(アルコール、薬物、ギャンブル、買い物、ネット、ゲーム、スマホ、摂食障害etc.ご家族や友人に依存症の問題を持つ方のための自助グループ) 問い合わせフォーム

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