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Updated on 2019年8月27日. Posted on 2019年8月24日

「逃げろ」だけでは無責任 子どもの居心地のいい場所を見つけるために

夏休み明けに増える子どもの自殺。長年、不登校や行きしぶりの子どもを診てきた小児科医が語る、今、子どもの命を救うために必要なこととは?

夏休みがもうすぐ終わろうとする今、ひとりぼっちでつらい思いをしている子どもがたくさんいる。

学校に行きたくない。でも家にもいられない。どこにも自分の居場所がない。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

発達外来で今も発達障害のある子どもや不登校のある子どもの診療を続ける平岩幹男さん

追い詰められていく心にどうやったら手を差し伸べることができるのだろう。

発達障害の専門家で、不登校の子どもや学校に行きしぶる子どもを長年診てきた小児科医、平岩幹男さんにお話を伺った。

不登校、行きしぶりも含めたらもっと多い

ーーなぜ子どもの自殺や不登校は増えているのでしょう。

まず、現状を把握しましょう。厚生労働省の人口動態統計によると、2017年に10歳から14歳までの死因でもっとも多いのはがんを抜いて自殺になりました。大人の自殺が減っているのに対し、子どもの自殺は食い止めるための効果的な手段が見出せていません。

日本財団が2018年に18〜22歳の若者を対象に行ったインターネット調査では、3割の若者が本気で自殺をしたいと考えたことがあると答え、もっとも多かった理由は「学校問題」で約半数を占めました。

この学校問題を詳しく見るといじめが多く、いじめや不登校を経験した若者の多くが自殺を本気で考えていたことがわかりました。

ーー小中学生の不登校は13万人と言われていますから、それは深刻ですね。

13万人だけではありません。不登校の定義は年間30日以上欠席することですが、30日まで行かなくても学校に行きたくない「行きしぶり」の段階の子どもはもっと多くいるのです。

「お腹が痛い」「頭痛がする」「布団から起きられない」「トイレから出られない」などと訴えて、学校に行きたがらない経験をしたことがある人は多いでしょう。

日本財団の「不登校傾向にある子どもの実態調査」では、不登校まで行かない年間欠席数が30日未満の子どもは全中学生の1割以上に当たる約33万人と推計されています。自殺の可能性も決して他人事ではないのです。

発達障害が背景にある子どもも

ーー不登校や行きしぶりですが、先生の専門である発達障害がある子どもは多いのでしょうか?

多いのかどうかはわかりませんが、診療している間に行きしぶりや不登校になったり、不登校ということで受診して発達障害と診断する子どもはたくさん診てきました。

発達障害があっても学校で友達とうまくやる子はうまくやるのですが、コミュニケーションがすごく下手な子がいじめを受けることはよくあります。

また、例えば学習障害があって字を書くのが苦手な子が、みんなは3回漢字の練習をするのに、一人だけ5回やりましょうと指示されたり、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子が授業中立ち歩きをするため、20分休みを取り上げられたり、教師の不適切な指導で、気持ちが潰れてしまうことがあります。

20分休みは子どもの権利ですからね。教師が発達障害の対応や支援について不勉強で、そうした行動に罰を与えるような指導を繰り返したら、学校に行きたくなくなるのは当たり前でしょう。

Bodnarchuk / Getty Images

いじめや不登校の陰に発達障害が隠れていることもある

ASD(自閉スペクトラム、アスペルガー症候群)はコミュニケーションがうまくできないと言いますが、逆に、疲れ切ってしまうほど周りの子どもや先生の気持ちを忖度する子どももいるんです。それで学校に行くのが嫌になってしまう。

ASDとADHDは併せ持つことも多いですし、症状はグラデーションがあります。また、診断を受けていない子どもも多いです。先生や親にも友達にも行動や感覚の特性を理解されないまま、学校で居心地が悪くなっていくということはよくあると思います。

また、感覚過敏で学校に行きづらい子どもたちは、学校で過敏に耐えていた経験を持っていると不登校になりやすくなります。

最近では聴覚過敏や視覚過敏などに対して学校で合理的配慮をしてもらえることも増えてきましたが、まだまだ苦しんでいる子どもたちもいます。これについてはまた別の機会に詳しくお話ししたいと思います。

「睡眠」「食欲」「感情失禁」が要注意

ーー医学的に診て、自殺につながる要注意のサインはあるのでしょうか?

例えば睡眠に乱れが出てきたら要注意です。

睡眠障害には、寝つきが悪くなる「入眠障害」、途中で起きてしまう「中途覚醒」、朝早く起きてしまう「早朝覚醒」、寝る時間や起きる時間のリズムが狂ってしまう「リズム障害」があります。

発達障害がある子は、3時間以下の「少眠期」と10時間を超える「過眠期」を交互に繰り返すこともありますが、発達障害の有無に関係なく、こういう睡眠障害がある子どもはストレスや不安が強くなっている可能性があります。

不安状態が続くと、特に寝つきや寝起きが悪くなるのも特徴です。

他に「食欲がなくなる」、逆に「過食に陥ってしまう」のも危険なサインです。

摂食障害は思春期の頭と青年期の頭にピークがあることが知られていますが、夏休みが終わりに近づいて急に食欲が落ちたり、逆に甘いものをいっぺんにたくさん食べたりするようになるのはストレスが高まっている可能性があります。

さらに、「感情失禁」と呼ばれる、感情を抑えられない状態になることも要注意です。急に涙を流す、笑いが止まらない、ハイな状態が続く、急に落ち込む、急に攻撃的になるなどの形で現れることがあります。感情失禁を見せる子どもは、うつ状態に陥っている可能性がありますので、危険性が高いと言えます。

まずは気分を変える行動を

ーーそういう危険な状態に気づいたら、周りは何をしたらいいのでしょう。

親が気づいたら、まずは一泊程度でいいので親子で温泉に行ったり、山登りに行ったりなど環境を変えて、気分を変えることを勧めています。都内なら、近くの高尾山のような場所でいいんです。できたら軽く汗を流すようなこと、身体活動も伴うことを親子で一緒にやる。

嫌な感情がないところで、親子が時間と空間を共有することが重要です。

無理に「最近、調子悪いんじゃない?」「何かあったの?」と聞き出さなくていいです。世間話だけしていればいいのです。世間話ができているうちは死ぬ可能性は低いと思います。本当につらくなると、世間話をする余裕もなくなります。

日常生活ではないところに連れ出して、一緒に色々なことをすることが大事です。

仕事を休めない親御さんもいると思いますが、なるべく子どもを優先して、子どもと非日常の楽しい時間を過ごすことが、子どもを救う可能性があると考えてみてください。

家にいるのも居心地がいいわけではない 生活リズムは崩さないように

ーーその状態が続いて、「学校に行きたくない」と言われたら、どう対応するのがいいのでしょうか?

まずは、休ませることです。ここで休ませたら、引きこもりになるんじゃないかと心配して無理に行かせようとする親もいるようですが、無理に行かせることは全くおすすめしていません。

だいたい義務教育の9年間で学校に行くのが一度も嫌になったことがない人なんているのでしょうか?

ただ、生活のルーチン(お決まりの習慣)は崩さないようにしてください。朝は学校に行くのと同じ時間に起きさせ、着替えさせましょう。好きな時に寝起きさせて昼夜逆転になると、生活リズムが崩れ、本人がやりたいことができた時に何もできない心身状態になってしまいます。

私の患者で、軽い発達障害がある小学校2年生の男の子は、教師がささいなことで何度も注意するなどの不適切介入で不登校になったのですが、朝は決まった時間に起きてもらい、週2回、スポーツジムに通ってもらうようにしました。

学校に楽しく行けないなら行かせる必要はないですが、不登校の子どもは学校に行かず家にいることについてもまた、居心地の悪さを感じています。

「こうしていていいのだろうか?」という不安を抱えている子どもに、「いいんだよ。好きに過ごしなさい」と不登校を容認するのも、逆に子どもを追い詰めることになりかねません。

無理をして学校に行かなくてもいいですが、その代わりにやれることやその子にとっての「居心地の良い場所」を見つけないと、その子は生きていけません。

「これをやってみる?」「こんな本を読んでみたら?」と親はその子の心に小さなさざ波のようなメッセージを送って、勉強や運動をさせた方がいい。やりたいことが見つかった時に挑戦できる「準備運動」をさせておかないと、自分のやりたいことが見つかっても動けない状態になります。それは子どもにとってもつらいことです。

なぜ「9月1日問題」なのか?

ーー夏休み明けだけではないですが、その前後は特に子どもの自殺が多いことが人口動態統計で明らかになっていますね。なぜ長期の休みの後に、自殺したいという気持ちが高まるのでしょう。

9月1日問題って日本だけなんです。アメリカやイギリスでは起こらない。なぜだと思いますか?

日本では子どもたちが家庭や学校以外に相談できる場所がないからです。夏休みが終わりに近づいて学校が始まると行き詰まってしまう。

だから「逃げよう」となりますね。でも、「逃げろ」と言っても具体性に乏しいです。私もこの時期、学校にいくのがつらい子どもに向けて図書館に行ってごらんとは言いますが、ずっと図書館に通い続けるわけにもいかないのは子どもが一番わかっています。

緊急避難でしかありません。どこに逃げたらいいのか具体的な場所を示さないまま、ただ逃げろというのは無責任です。

例えば相談窓口としては、相談電話で「いのちの電話」や「チャイルドライン」などがありますが、いのちの電話はなかなかつながらないし、チャイルドラインも24時間365日ではありません。

Rouzes / Getty Images

学校や家庭以外で相談できる場所があるだろうか?

また、24時間365日の電話相談ができても、顔が見えないのはいい面でもあり、悪い面でもありますし、当たり前ですが電話相談には相談の継続性がない。学校の代わりになる、自分の居場所にはなり得ないのです。

学校健診はメンタルの問題を気にかけていない

ーーではどうすればいいのかと思ってしまいます。家庭でも学校でもない相談場所として、先生方のような医療の専門家は助けにならないのでしょうか?

正直、小児精神科医でおすすめできる医療機関がそう多くないのが現実です。

親が医療機関に連れて行く以外で、医療に接する機会と言えば、学校の健康診断になりますが、不登校の子はそもそも学校健診が受けられないですね。

そして、健康診断をする学校医の何割が小児科医かご存じでしょうか? 2割だけなんです。ほとんどが内科医です。そして、学校医も思春期の心理状態を勉強し、適切に面談できる医師は多くないのが現状です。

文部科学省が監修し、日本学校保健会が出している「児童生徒等の健康診断マニュアル」というものがあり、これに基づいて学校医は健診をします。このマニュアルの中にメンタルに関するページはたった2ページです。日本の学校健診は身体的な問題しか対象にしていないと言っても過言ではありません。

これに比べ、アメリカ小児科学会が出している小児健診のマニュアル「Bright Futures(明るい未来)」は思春期の子どもの精神状態を診るための方法が何ページにもわたって書かれています。

子どもと親それぞれに、子どものストレス状態やそれに対処できているか聞き出すための問診例まで書かれ、家庭の貧困状態など健康の社会決定要因に気を配る必要性にまで触れています。

身体だけでなく、心理、社会的側面にも気を配る診療へ

ーー身体面だけでなく、子どもの心理状態や社会経済的な状態にも気を配る健診や診療は日本では難しいものなのでしょうか?

実は2018年度から厚生労働省の研究班(主任研究者=岡明・東京大学小児科教授)が設置され、「日本版Bright Futures」を作っているところです。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「日本では子どもの精神状態を診るための診療体制も整っていない」と語る平岩さん

乳幼児期から高校生までを対象に、身体的な病気の可能性をチェックするだけでなく、虐待・ネグレクト、食事、睡眠、アレルギー、メディア・ゲーム、発達障害、こころ、性教育、LGBTなどまで、多岐にわたって心身の健康を守るためのチェックポイントや介入方法について専門家がガイドラインを書いています。

私も「学童期のいじめ・不登校」について書きました。問題を発見するための問診票の開発もここで目指しています。

ーー身体的な問題だけではなく、子どもの精神状態もキャッチできるようなアプローチは可能なのでしょうか?

1977年に、アメリカの精神科医のジョージ・エンゲルは、「Bio-Psycho-Social model(身体ー心理ー社会モデル)」を提唱しました。要は、「身体に現れる症状だけを診てもだめで、身体と心と社会関係は複雑に絡み合っており、総合的に診るべきだ」という考え方です。

例えば、アトピー性皮膚炎が悪化した子どもがいるとしましょう。

「かゆい」という症状は身体的なものですが、「かゆくて眠れなくてイライラする」は心理的な問題、それが理由で不登校になる、または学校や家庭のストレスが原因でアトピーが悪化するという側面は社会的な問題です。

ADHDで教室内で立ち歩いて先生や友達に衝動的な行為をするのは身体の問題、繰り返して注意を受けて落ち込むのは心理的な問題、その結果、行きしぶりや不登校になるというのは社会的な問題です。

いじめ、不登校、そして自殺もこうした「Bio-Psycho-Social model」で多面的に見ながら対処することが必要です。日本版Bright Futuresもその視点を取り込んで作っているところです。

小児医療で、こうした視点での診療を始めるための取り組みはまだ始まったばかりです。「Bio-Psycho-Social model」の診療を広げ、子どもの命が少しでも守られることを願っています。

【平岩幹男(ひらいわ・みきお)】小児科専門医、Rabbit Developmental Research(ラビット発達臨床研究所)代表、国立成育医療研究センター理事、なかじまクリニック発達外来担当

1976年、東京大学医学部卒業。三井記念病院、帝京大学医学部小児科講師、戸田市立医療保健センター参事・健康推進室長(2007年3月退職)を経て、2007年4月、Rabbit Developmental Researchの前身となる研究所を設立し、後に改称。2009年1月からなかじまクリニックで発達外来を開設し、発達障害の子どもの診療に当たっている。2012年4月から国立成育医療研究センター理事。

発達障害(自閉症)、乳幼児健診、思春期医学を専門とし、『乳幼児健診ハンドブック』(診断と治療社)、『自閉症スペクトラム障害:療育と対応を考える』(岩波新書)、『発達性読み書き障害(ディスレクシア)トレーニングブック』(合同出版)『発達が気になる子のライフスキルトレーニング:幼児期~学童期編』(同)など著書多数。

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一部表現を修正しました。

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