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「刑罰でなく早期に親切な支援を」 大麻「使用罪」創設検討の厚労省に人権活動9団体が要望

大麻「使用罪」創設が検討されているのを受け、人権擁護活動をしている9団体が、厚労省に「刑罰でなく支援を」と訴える要望書を出しました。

大麻「使用罪」の創設が議論されている厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。

これに対し、日本の薬物政策について提言している「日本薬物政策アドボカシーネットワーク」が国内の人権活動団体8団体に呼びかけて、田村憲久・厚労相宛に刑罰ではなく必要な支援を早期に受けられる対策を要望した。

同ネットワーク代表で、自身も薬物依存の経験がある上岡陽江さんは「厳罰化すると相談できなくなるので、問題を重くしてしまうことが今までもあった。刑罰ではなく支援を」と訴えた。

刑罰ではなく支援 逮捕や刑罰で追い込まれる社会的弱者の問題に対策を

名前を連ねたのは他に、「アフリカ日本協議会」「ウェルク」「エイズ&ソサエティ研究会議」「 女性ネット Saya-Saya」「つくろい東京ファンド」「ぷれいす東京」「akta」「HUMAN RIGHTS WATCH」。

厚労省に渡した書簡では、以下の5点について要望した。

  1. 厳罰による、人に対するスティグマ(偏見、負のレッテル)を解消すること
  2. 違法の薬物に限らず処方薬・市販薬、アルコールやたばこなど物質使用による健康・生活上の悪影響に対して、司法ではなく地域社会において生活、保健、福祉、医療等に関する支援を提供すること
  3. 薬物使用がある人のなかで、女性(母子)・障害者・LGBTQ・未成年・高齢者・移住労働者・貧困世帯など社会的脆弱性がある当事者、そして厳罰によるスティグマの被害を受ける家族たちの声に耳を傾け、政策策定の会議等に参加できるようにすること
  4. 費用対効果が高く、その効果が科学的に実証された対策の研究及び実践のために予算と人員を配すること
  5. 現状の刑罰のなかに、一定量を下回る薬物の所持等の行為及び使用については、刑罰の代わりに福祉・保健等の支援機関につなげ、必要な支援を自発的に受けられるようにする“刑の代替支援措置”を導入すること


違法薬物のみならず、処方薬や市販薬、アルコールやたばこなどの合法となっている薬品や物質でも健康への悪影響が出ていることを踏まえて、要望に含めた。

また、こうした薬物による逮捕や処罰は、女性、障害、貧困、LGBTQなど社会的に弱い立場にある人ほど住居を失ったり、出所後の就労が困難になったりなどますます貧困や他の犯罪に追い込まれる悪循環を引き起こすことを指摘。

厚労省の検討会で議論されている大麻「使用罪」創設にも関わる話として、わずかな量の所持や使用については刑罰ではなく、薬物使用に到る問題を解決するために必要な支援を受けられる対策を求めた。

薬物問題を抱える女性の回復支援施設「ダルク女性ハウス」を運営する上岡さんは、面会した厚労省の田中徹監視指導・麻薬対策課長に「今の薬物対策による弊害」として以下の3点を指摘した

  1. こどもたちを中心にほとんどの人が、困ったときに誰にも相談できません。
  2. 逮捕されても、当事者たちは良くなっていません。良くなっている人たちがいるのは、社会のなかでその人にとって親切な支援に出会ったからです。
  3. たくさんの人を捕まえて、刑務所に入れたり、保護観察をつけたりするというやり方は、うまくいっていないので、税金の使い方としてもったいないと思います。

その上で、要望書の5点を要望した。

大麻「使用罪」創設について田中課長は「一方的に何かをすることはない。薬物の問題は非常にわかりにくい問題なので、これからも新しい情報を交換して、一緒に学んでいこう」という趣旨の内容を答えたという。

「取締りの強化は人権侵害」「重罰化の国はどこも失敗」

会見した「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」プログラムオフィサーの笠井哲平さんは、「大麻を含む薬物使用に対する法律、取締りの厳罰化は人権侵害につながるリスクが高い」と指摘。

日本では健康への権利やプライバシーの侵害に当たる可能性があるとした上でこう述べた。

「懲役罰を受けた人の多くはは薬物依存症に苦しんでおり、刑務所の矯正医療は人手不足で適切な治療を提供できていない。使用罪ができた場合、薬物事犯者というレッテルを貼られ、時には実名報道もされてプライバシーの権利の侵害につながるリスクがある。長期的に見ると居住の権利や雇用の権利などその人の生活を脅かすような権利侵害につながる恐れがある」

そして、厳罰化ではなく公衆衛生的なアプローチが必要とし、「自発的に当事者が参加できるリハビリのプログラムや薬物依存症の治療への参加を促すことが政府にはできる」と訴えた。

海外のHIV/エイズ問題に取り組む「アフリカ日本協議会」国際保健部門のプログラムディレクター稲場雅紀さんは、「薬物問題に重罰化で対応している国はどこも失敗している。逆に健康被害の軽減を最大化する政策をやっているところが成功している」と指摘した。

さらに日本の問題として、「社会的な制裁が非常に強い国。ちょっとしたことでも逮捕され、拘禁される。逮捕が社会の中で重みを持つ」とし、大麻使用罪によって社会的制裁を広げることに反対した。

日本薬物政策アドボカシーネットワーク事務局長の古藤吾郎さんは「警察や麻薬取締官は軽微な違法薬物に関する犯罪をした人に出会った時、逮捕はしないで地域にあるその人に親切な支援に案内すること」を刑法に組み込むことを求め、こう述べた。

「薬物を使った人に特別な何かを作るというよりも、地域で暮らす外国人でも貧困の人でも母子家庭の人でも、困ったことに対して親切に関わる支援が豊かになれば十分に対応できる。(薬物対策が)司法に行くことで余計大変になるし、税金もかかる。地域での支援の方が再犯率も低い」

「若い人の使用を防ぐのは刑罰」? 「大麻はゲートウェイドラッグ」?

厚労省が若い世代での使用が増えていることを強調し、それを防ぐために使用罪の創設を提案していることについて、古藤さんはこう反論した。

「私たちも大麻に限らず薬物の使用が早い年齢から始まるのを少しでも防げればと思う。そう思うからこそ、薬のことで困ったり心配になったりした時に、すぐに安心して相談できる社会でないといけない」

「ところが今は、『これだけの人が捕まった!』という話は聞くが、『これだけ相談件数が増えました。だから若い人たちの間で大麻や薬物が広がっている』という統計を見ることはない。そういう人たちがどうやったら相談しやすくなるかを考えるべきだ」

また、厚労省がよく語る「大麻はゲートウェイ(入り口の)ドラッグだから放置しているとさらに強い薬物に進む」という説明について、海外の薬物研究にも詳しい古藤さんはこう述べた。

「世界的にも大麻がゲートウェイドラッグになるという根拠になるものは見たことがない。ゲートウェイであろうがなかろうが、少しでも早い時期に相談でき、困ったことがあった時にSOSが出せることが必要。厳罰化して取り締ることがそのことに役立つかと言えば明らかに役立つことはない」

「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の笠井さんも、「(大麻はゲートウェイドラッグという説明に)明確な科学的根拠はない。日本の報道を見ていると、大麻がゲートウェイドラッグであるとファクトであるように報じていることに危機感を覚える」と批判し、こう述べた。

「大麻を利用している人はもっとハードなドラッグに移るという固定観念が普及している。実際に大麻を使う人は他のハードドラッグも使うという相関関係はあるかもしれないが、それは因果関係ではない。大麻やハードドラッグを使う人はお酒やタバコも吸うので、それも規制するのかという話になる」

訂正

稲場雅紀さんの名前の漢字が間違っていました。訂正します。