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大麻使用者、意外に高い就労率。逮捕で職を奪う意味はあるのか?

日本初の大麻使用者への大規模調査で、95%が働きながら使っていることも明らかになりました。逮捕して職を取り上げることが本当にその人のためになるのか、問いかけます。

今、日本で「使用罪」が新たに検討され、規制が強められようとしている大麻。

しかし、日本初の一般への大規模調査で、大麻の依存症は1割に満たないことが明らかになった。

しかも、使用経験のある人の95%は働いたり学校に通ったりしており、学歴も比較的高いなど、社会生活を破綻なく送りながら使用していることも示されている。

これはいったいどういうことなのか。

調査した研究グループの中心メンバー、医療用大麻の啓発団体「一般社団法人Green Zone Japan」代表の医師、正高佑志さんと、国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部部長、松本俊彦さんに話を聞いた。

95%が働きながら使っている 逮捕して職を奪うことは意味がある?

ーー回答者である大麻の経験者の就労率が非常に高く、94.7%が就業や就学をしているというのも驚きました。厚労省の啓発サイトで書かれている、大麻は社会生活に適応できず、人生を台無しにするという使用者像と違い、社会生活を営みながら使っている姿が伺えます。

正高 その通りで、みなさん普通に日常生活を送りながら、持続可能な形で使っていることが今回の調査でも裏付けられたと思います。それが最大のポイントだと思います。

「違法薬物」というと、使っている人はだんだん生活が壊れていって、最終的には逮捕される、もしくは病院に担ぎ込まれる、と今は啓発されています。

実際には日本の失業率(2021年10月現在、2.7%)を考えれば、大麻の使用者の95%が働いているのは、一般人口とそう変わらない数字です。

大麻を吸っていること以外は、ごくごく普通の生活をしていることがこの調査で垣間見えると思います。そこまで思いを馳せていただきたいです。

松本 本当にその通りだと思います。我々が2年に1回定期的に行っている全国の病院調査で、主な乱用薬物ごとに患者さんを分けて比較すると、実は薬物の使用者の中で、一番学歴が高くて、一番就労率が高いのは大麻なんです。

使用障害や依存症の診断基準に該当する人が少ないのも大麻です。おそらく病院に来ている人は元々のメンタルヘルスの問題があるパターンが一つあります。もう一つは逮捕されちゃったから仕方なく来ているというパターンです。

そのことも毎回報告書に書いているし、大麻の検討会でも資料として出しているのですが、その調査は採用されませんでした。

厚労省の監視指導・麻薬対策課としては、「大麻を使うと怠惰になって仕事をしなくなる」と強調してきたし、これからも強調したいのでしょう。

でも実際は違うじゃないかと、いつも言っているのです。病院に受診している人でも働きながら使用している傾向が見られるし、一般人口を対象にするともっとその傾向が顕著になることが今回わかったわけです。

このように社会で居場所を見つけながら使っている人を、例えば刑務所に入れたり、刑罰の対象にして今の仕事から引き剥がしたりすることが、長期的に見てその人の人生にどのように影響するのか。

おそらく真剣に治療プログラムに取り組み、どれだけ長い期間、薬物をやめつづけても、絶対に取り戻すことのできない部分が残る。そんな想像力が必要です。

先日の大麻検討会では、単に罰するだけではなく、予防的なプログラムもやったほうがいいという意見が出ましたが、使用障害に該当する人が1割を切っていることがこの調査でも明らかになっている中、病気ではない人を治療対象にするのでしょうか?

コントロールできている大麻愛好家の人たちに、医学的な介入をすることになる。それはもしかしたら医学の乱用です。毎日晩酌していい感じで仕事を頑張っている人に「晩酌しないためのプログラム」を強制するようなものです。

被害者がいればそれも致し方ないでしょう。しかし、違法薬物の自己使用はそうではない。となれば、過剰な刑罰は人権侵害とはいえないでしょうか?

本人が困っているなら医療はサービスを提供するけれど、困っていないのに要らぬお節介は危険だし、これの延長線上に旧ソ連が行った精神医学の乱用があると思います。要するに、共産主義に反対する人がいたら「反社会性パーソナリティ障害」と診断して、精神病院にぶち込んだというのと同様の悲劇を生み出します。

多くの人は「自己治療」目的で使っている

正高 使用障害に該当しない9割の人たちが、なぜ大麻を使っているか知るための聞き書き調査「smokers story project」をしています。

匿名のまま、なぜ大麻を吸っているのか話を聞き、今、40人ぐらいの聞き書きをweb上に公開しています。

読んでいただくとわかるのは、非常に多くの人たちが自己治療的な理由で大麻を使用していることです。

多いのは他の薬物の弊害から逃れるために最終的に大麻に落ち着いた、という話です。他にはうつや辛いことなどメンタルヘルス系の問題がある時に、それに対処するために使っていたり、痛みのケアに使っていたり、更年期障害に使っていたりします。非常に多くのかたが健康上の恩恵を得ていると言っています。

アルコールで言えば、晩酌にもそれなりの恩恵はあると思います。ストレスと向き合うためのある種の自己治療でしょう。きちんとコントロールしながら飲めているそういう人から晩酌を取り上げると、おそらくまた違うところに歪みが出ると思います。

「余計なお節介」を超えて、やめさせるための介入をすることは、ある種の加害行為なのではないかとまで思います。良かれと思ってやっているのかもしれませんが、小さな親切大きなお世話、のようなものではないかと感じています。

松本 確かに自己治療のような使い方をしている人は結構います。昔精神科に通っていたことがあって、精神科で処方される薬が副作用ばかりでマッチしなかったけれど、大麻ならば数日間に1回吸うことで安定する、と言う人もいます。

その時に思うのは、例えばエチゾラム(デパスなど)のような依存性の高い薬を飲んでやめられなくなることと、大麻を使うのと、どちらが安全なのか、あるいは、生涯全般にわたる健康被害が少ないのかということです。

あるいは慢性の痛みや線維筋痛症に悩み処方された麻薬性鎮痛薬のオピオイドを使ってやめられない状態に陥っている人と、コントロールして大麻を使っている人と、どちらの方が健康被害が大きいのかは気になるところです。

病院が処方する薬のほうが安全だ、とは言えません。

大麻を使用者は学歴が高いことを示すデータ なぜ?

ーー今回の調査では、学歴も比較的高いのが面白いところです。最終学歴が高校卒業未満の人が、松本先生が行った受診患者71例の先行研究の40.8%よりもかなり低い15.2%です。どうしても違法薬物を使っている人は、成育歴が大変で、早い段階で社会からドロップアウトしたというイメージがつけられがちですが、違う様子ですね。

正高 日本の学歴社会は東京大学を頂点としているようですが、その上にハーバード大学などがあって、米国留学をする人もいます。アメリカでは西海岸ではたばこよりも大麻を吸う方がいい、というのが常識のようになっており、若い人の喫煙率はたばこより大麻の方が高くなっています。

そういうところで学業を修めたり、仕事をしたりしている人は、大麻を吸うことに対してネガティブなイメージがありません。そういう人が日本でも潜在的にたくさんいて、今回のアンケートにも回答してくれたのではないでしょうか?

この調査を始める時と、日本での使用罪創設の議論がタイミングとして重なったので、社会意識の高い層が、ある種、一石を投じるアクションの一つとしてこのアンケートに答えてくれて、学歴が高めに出た可能性もあります。

松本 僕らの病院での調査でも、覚せい剤と比べると大麻の人たちの方が学歴は高いのですよね。インテリが好むところはある気がします。

かつて、薬物乱用防止教室をあちこちでやっていた時、ある超名門進学高校で教室をやった時が一番大変でした。

「大麻について無動機症候群(無気力になる)になるとか、慢性精神病になる、と言うけれど、それを裏付けるデータはあるんですか?」とか、「そもそも規制の根拠は人種差別から始まっているんじゃないですか?」とか質問が来る。

いろんな人たちがちょこちょこ発信している情報を押さえ、自分でも読書を通じて積極的に情報収集している頭のいい子たちがいて、そんな子には「ダメ。ゼッタイ。」が通用しない。すごくやりづらかったことを覚えています。

国は大麻の健康被害の根拠がかなり曖昧なまま啓発をしていて、敏感な人や頭のいい人はその歯切れの悪さをなんとなく感じている気がします。

不良文化から大麻を使い始める人ももちろんいなくはないのですが、それとは別の海外渡航や海外留学の中で覚えてくる人も多い。今はコロナで海外渡航がストップしていますが、今後また優秀な人たちが海外留学をどんどんしていくでしょう。

その人たちに対して、今、国が発信している情報では納得させられないだろうと思います。

正高 今週、日本人がよく語学留学しているマルタ共和国でも嗜好品としての大麻が合法化されるというニュースがありました。カナダやアメリカの西海岸も日本人のワーキング・ホリデー先として人気がありますが、大麻が普通に売られています。そこで大麻に触れる日本人も多いと思います。

(続く)

【正高佑志(まさたか・ゆうじ)】内科医、一般社団法人 GREEN ZONE JAPAN代表

1985年京都府生まれ。熊本大学医学部卒業。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年に医療大麻に関する科学的根拠に基づいた一般社団法人GREEN ZONE JAPANを設立し、研究・啓発活動を続けている。

著書に『お医者さんがする大麻とCBDの話』(彩図社)がある。

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本精神救急学会理事、日本社会精神医学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)、『誰がために医師はいる』(みすず書房)など著書多数。

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