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「厳罰化に犯罪抑止効果あり」と強調する厚労省に相次ぐ反論 「ダメ。ゼッタイ。」バトルも

取りまとめを始めた厚労省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。厳罰化の犯罪抑止効果を強調する厚労省に反論が相次ぎ、「ダメ。ゼッタイ。」の是非に対するバトルも繰り広げられました。

厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」5回目の会合が4月23日に開かれ、取りまとめに向けての議論が始まった。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

厚生労働省の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」

複数の委員から、大麻を既に使っているものの、依存症まで至っていない人への支援が必要という意見が出て、重症化予防の観点から対策を盛り込む方向が示された。

一方、厳罰化による犯罪抑止効果を強調する厚生労働省に対し、複数の委員から反対意見も出て、大麻「使用罪」の創設の議論については行方がわからない状況だ。

日本で薬物予防の啓発活動として盛んに行われてきた「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンについて、激しい議論も繰り広げられた。

厳罰化による犯罪抑止効果として紹介したが...

取りまとめに先立ち、厚労省は「厳罰化による犯罪抑止効果」について、危険ドラッグ対策と飲酒運転に対する規制を例にあげて強調した。

危険ドラッグは2014年に使用者が池袋で男女7人を死傷させる自動車事故を起こしたことをきっかけに、取り締まりを強化した結果、販売店が撲滅し検挙数も激減したと紹介。

飲酒運転については、2016年に福岡市で起きた飲酒運転による事故で幼児3人が死亡したことをきっかけに、2017年に飲酒運転の罰則が強化され、飲酒事故やそれによる死亡も減ったことを示した。

これに対し、薬物依存症の専門家である医師は、「罰を厳しくしたから減るよ、という例として示されたと思うが、大麻使用罪を作ることの効果として示すにはずれている」と例示が不適切であることを指摘し、

「お酒を飲むことが違法になったら交通事故が減ったということならそうなのかとも思うが、むしろ禁酒法の時には隠れてヤミ酒場に行くために飲酒運転が増えて事故が増えたという報告もある」と批判した。

また、法律に詳しい別の委員からは、

「危険ドラッグはこれまで法規制の対象になっていなかったものを規制の対象に加えたという例。厳罰化というよりも、規制の適正化」として、やはり厳罰化の抑止効果の事例としてそぐわないと指摘した。

そして、「薬物関連の規制については、刑罰を重くした場合、どういう効果があるかを現実に測定した例は私の知る限りない」とも述べた。

飲酒運転の例についても、

「社会問題化し、マスコミに取り上げられ、企業や官庁でも飲酒運転をした従業員や公務員に厳しい対応がとられ、検問も行われるようになった。様々な対応による複合的な効果で、法改正よりもむしろそちらの影響が大きい」と語り、

「薬物事犯の場合には、当事者に対する処遇とか治療とか、一般の人々や児童に対する教育とか啓蒙、マスコミによる適切な報道が合わさって法規制の目的を達することができることを念頭におく必要がある」と刑罰の強化だけで犯罪抑止効果が出るという見方を否定した。

厚生労働省

患者が麻薬中毒者であることを都道府県に届け出る医師の届出義務や警察への通報と、医師の守秘義務の対立について厚生労働省が説明した資料。麻薬中毒者届出はほとんど行われていないことも説明された

また、患者が薬物依存症である場合に都道府県に届け出たり、違法薬物の使用を警察へ通報したりすることは医師の守秘義務違反に問われないという厚労省の説明に対しても、患者をよく診ている医師から釘を刺す発言があった。

医師の通報を恐れて、薬物で困難を抱えていても受診や相談ができない当事者や家族がたくさんいるからだ。

「2005年の最高裁判決は『守秘義務違反ではないよ』という判決なのに、実際には多くの医療関係者に『通報しないとだめだよ』という風に共有されている。これに対するきちんとした説明が医療関係者になされていないことが安易な通報を招いている。このあたりもきちんとした広報が必要だ」

さらに別の委員は、「この会議が厳罰化に向けて動いているように聞こえてしょうがない。そういうのは別に決まっていないと思うのですけれどもどうでしょうか?」と厚労省の事務局に質した。

厚労省は「特に方向性ということでお示ししたことではない」と、厳罰化や大麻「使用罪」の創設が既定路線になっていることを否定した。

取りまとめの方向性は?

厚労省からは、

  1. 大麻取締法のあり方
  2. 再乱用防止,社会復帰支援等
  3. 医療用麻薬及び向精神薬
  4. 情報提供、普及啓発

という4つの柱に分けて議論し、報告書をまとめていくことが提案された。

厚生労働省

厚労省から取りまとめの検討課題として挙げられた項目

これに対し、複数の委員から、既に大麻に手を出した人への支援が必要だという意見が相次いだ。

薬物を使う人の心理に詳しいある委員は、「特に二次予防が大切。二次予防は重症化の予防をしている。依存症にならないようにする。大麻に手を出したけど、迷いながら使っている人がおそらくいる」とした上で、

「三次予防の対象は依存症になった人の社会復帰や再発の予防。『助けてほしい。治療が必要です』と言って医療機関や回復支援施設につながっている。全く使ったことがない一次予防から三次予防の間の距離が空いてしまっている。二次予防は特に若年者が大麻の検挙者が多い背景を踏まえると大事」と訴えた。

薬物について一般に啓発する文章を書いてきた別の委員は、「大麻は半分しか起訴されず、起訴されても9割は執行猶予。犯罪化されてもそのまま放置されている実態がある。これをなんとかしなくちゃいけない。(大麻を)やったら刑事手続には乗るけれど、そのままほったらかしという状況をなんとかしないと意味がない」と依存症になる前の対策を訴えた。

「予防啓発に当たって、メッセージを出す時に、既に依存症になっている人、これから手を出すかもしれない人たちを分断しないような、排除しないような啓発や広報のあり方を模索してほしい」という意見を出した依存症の専門家もいた。

「ダメ。ゼッタイ。」バトルが勃発

また、日本で盛んに行われている薬物防止を啓発する「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチコピーについて、2人の委員間で論争が繰り広げられた。

薬物依存症の患者を専門に診ている委員は、「薬物の問題はそもそも保健衛生、健康問題。人類の健康や福祉を守るためにこういう法律はある」とした上で、

「当事者や当事者の周辺の方々が傷つくような予防啓発は非常に慎重にしなければいけない。例えば感染症について、HIVやハンセン病に感染した方たちが恥じ入るような予防啓発はすべきではない」と主張した。

「かつて妊婦がアルコールを飲むことによって胎児性アルコール症候群で様々な障害が出たことに関して予防啓発をしていた民間団体の方たちが、後に胎児性アルコール症候群のお子さんがいるお母さんからクレームを受けた。『うちの子は生きていてはいけないような気がする』とクレームを受けたと聞く」と紹介し、

「この『ダメ。ゼッタイ。』に関しては、依存症当事者やご家族の方たちがすごく強く不満を持っている。薬物依存症の治療や支援に関わっている専門職や支援者の方たちも不満に思っている。このようなものがこのまま使われるということは予防啓発のあり方としてどうなのか。再考していただきたい」と強く批判した。

これに対し、長年「ダメ。ゼッタイ。」を推進してきた立場の委員がすぐさま声を震わせながら反論。

「『ダメ。ゼッタイ。』で表される一次予防ですが、『当事者』というのは薬物乱用を不幸にして始めていない人に対する標語であった。今でもそうです」

「したがって、『当事者』というのは不幸にして始めてしまって、それを止めようと思って戦っている人たちではない。それを我々は頭に置いておかなければいけない」と語った。

さらに、

「最近、治療に当たっている人たちと私はいろんな国でお話ししてきました。日本においても、最近お話しすることがあったのですが、『ダメ。ゼッタイ。』という一次予防に対する呼びかけは不可欠である、という意見を伺った」

「ヨーロッパのある国ではそういう治療に携わっている人たちから伺ったが、社会復帰を果たした人たちは、英語で言うと『 Never, Ever』と言う。要するに『ダメ。ゼッタイ。』ということです。やってはダメだということです。そういう意見があるということを伝えてきた人がいることを指摘しておきたい」と話した。

薬物使用者の家族会も「ダメ。ゼッタイ。」見直しを要望

一方、薬物依存症当事者の家族会「関西薬物依存症家族の会」代表の山口勉さんは検討会に先立つ4月21日、田村憲久・厚労相、衆参厚生労働委員会委員、「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンの旗振り役「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」理事長の藤野彰氏宛てに、「ダメ。ゼッタイ。」の見直しを求める要望書を提出している。

厚生労働省

「ダメ。ゼッタイ。」啓発運動で使われてきたポスター。行き着く先は全て破滅となっており、当事者や家族はこれを見てショックを受けてきたという

山口さんは、

「私達は、この『ダメ。ゼッタイ。』普及運動により、深く傷つき、社会から
排除され、ダメ人間とその家族といった烙印を押されてきました。皆さんの組織力をもって長年に及ぶこの啓発による社会的排除は、私達薬物依存症の家族にとって皆さんが想像するより、ずっと辛く厳しいものがあります」と、この標語によって深く傷ついてきたことを要望書の冒頭で訴えた。

「ダメ。ゼッタイ。」の一番大きな問題点として、「この単純なメッセージが刷り込まれているために、実際に問題が起きた時にどうしたら良いか分からないことです」と指摘し、こう訴えている。

「私達もまさか自分の家族が違法薬物を使用するとは思わなかった普通の市民です。こうして長年問題を家庭内で抱え込むうちに家族関係は悪化し、命を絶ってしまった人々も多数おります。私達はそういった訃報を毎年何件も耳にし悲しみに暮れています」

「またダメ人間、ダメ家族の烙印により、地域社会にいられなくなる家族、職場を追われる家族もおります。 この私達の基本的人権が脅かされ、差別と排除を生み出してきた『ダメ。ゼッタイ。』 のキャッチコピーを改善して下さることを強く要望し、再度の申し入れを致します」

2019 年度にも依存症問題の支援団体が集まり、同様の要望を送っている。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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