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「一人じゃない。いつも見ているよ」依存症回復者の俳優や元NHKアナらが支援者と理解を呼びかけ。啓発イベントで

厚労省主催の依存症啓発イベントが開かれ、薬物依存症から回復中の俳優の高知東生さんや歌手の杉田あきひろさんらが登壇しました。自助グループの意義や、周囲の理解や支えの大事さが伝えられました。

厚生労働省主催の依存症の理解を深める啓発イベント「みんなで考えよう依存症のこと」が3月8日、都内で開かれた。

依存症啓発サポーターに就任したお笑い芸人「バッドボーイズ」の佐田正樹さんの司会で、それぞれ薬物依存症から回復中の俳優の高知東生さん、橋爪遼さん、元うたのおにいさんで知られる歌手の杉田あきひろさん、元NHKアナウンサーの塚本堅一さんらが体験を語った。

コロナ禍で歌えなかった時、ブレーキがわからなくなった

第一部では、応援アーティストとして歌声を披露したゴスペラーズと、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の薬物依存研究部長、松本俊彦さんが依存症について対談した。

依存症とは、特定の物質や行為、過程に対して、やめたくてもやめられず、社会生活に悪影響を及ぼしてしまう状態のことを指す。3大依存症の薬物、アルコール、ギャンブルの依存症に苦しむ人は日本だけで数百万人いると言われている。

多くの患者の回復を支えてきた松本さんはまず、このように説明した。

「依存症というと、一般の人は意志が弱いとかだらしないというイメージを持ち、依存症になると人生が終わったと思う人がいると思うのですが、そのイメージをひっくり返したい。依存症はどんな人もなり得る病気だし、なったとしてもそこから回復できるのだということを伝えていきたいと思います」

ゴスペラーズのメンバーは依存症について、「これまで自分ごととして考えたことがなかった」としつつ、コロナ禍で「自分ももしかしたら依存症になっていたかもしれない」と考えられるようになったと語る。

「緊急事態宣言の最初の頃なんて(酒量が)ちょっとやばかったです。普段は歌が絶対的なブレーキになるんですけれども、3ヶ月、4ヶ月歌わない生活になった時に、ブレーキの踏みどころが本当にわからないということはありました」

それまでは歌のためにお酒の量を控えるという気持ちがブレーキになっていた。

「(歌う時に)調子が悪いのが一番しんどいので、他のメンバーも『あいつ飲みすぎたな』という目で見ますよね。それが歯止めになっているんです」

松本さんは、自分や家族ら大切な人の依存症が心配な時は都道府県や政令指定都市に少なくとも1か所は設置されている「精神保健福祉センター」に相談することを勧めた。

「自分の住んでいる地域にどんな専門病院があるのか、自助グループという当事者が支え合うグループ、家族の自助グループも教えてくれます」

またどんな人が依存症になりやすいかは明らかではなく様々な性格の人がなるとしつつ、「あえて言うならば」としてこんな特徴を述べた。

「困ったことがあっても誰かに相談せずに自分一人で乗り切ろうとする頑張り屋の人。安心して人に依存できない人ほど依存症になりやすい傾向がある気がします」

ゴスペラーズの皆さんは「僕らはいいよね。こうやって弱音を吐ける仲間がすぐそばにいる。これはすごくありがたいことなんだなと今聞いて思いました」

自助グループは「疲れた時のガソリンスタンド」

第2部では、高知さん、塚本さん、橋爪さん、杉田さんとギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さん、松本さんが登壇し、自助グループの意義について語った。

自助グループでは、依存症の当事者が語り合い、支え合いながら回復を目指す。

田中さんはその効果についてこう話す。

「『自分一人ではなかった』と思え、自分一人ではどう問題を解決したらいいかわからなかったということが、先ゆく問題を解決した先輩たちの姿を見ることで光が見えてくる」

「自分だけではどうにもならなかったことを一緒に考えて、一緒に行動して一緒に解決してくれるチームなので、心の拠り所でもあり、疲れた時のガソリンスタンドでもあるようなイメージですね」

仲間がさらけ出す弱さ、淋しさ「自分一人じゃない」

高知さんは自助グループに参加した当初は、他の参加者の姿を斜めに見ているようなところがあった。

「半分は『一緒にすんなよ』と取り繕う部分がありました。でも回を重ねていくごとに、弱さや淋しさを仲間の前でさらけ出して話す一つにヒットして、『俺一人じゃないんだ』と思って自分も話し始めたらだんだん楽になっていくのですね。不思議と」

田中さんは塚本さんと話し合い、高知さんを巻き込んで「著名人の自助グループ」を作ってもらった。海外のように依存症を経験した著名人が回復の過程について一般に発信する機会を日本でも作りたかったからだ。

橋爪さんは高知さんらが活動する姿を依存症回復施設や一人暮らしをしていた時に見ていて、うらやましさを感じていたと話す。

「回復して(施設を)卒業したけれども、活動をしてもいいのか悪いのかわからなかったので、皆さんが羨ましかった。でも自分がそこに行ってもいいのかという気持ちもあった。昨年繋がれて仲間の縁ってあるんだなと思いました」

松本さんは、「何回かこのイベントに登壇していただく中で、みんなそれぞれ変わっていき、毎年毎年先へ進んでいる。これがやっぱり『自分もあんな風になれるかもしれない』という希望を当事者、社会に対して出してくれていると思う。ロールモデルは回復には必要だと思います」と話した。

「がんは応援されるけど、依存症は理解されない」

杉田さんは歌手活動も再開しているが、自分一人ではそれはできなかったと話す。

「仲間の支え、(自助グループという)場があるからこそ、自分の闇や抱えたものを吐き出せて、仲間からも聞いて、リセットして頑張れる」

また杉田さんは昨年咽頭がんがわかり、治療を受けた。

「がんという病気はものすごく皆さんが応援してくださるけど、依存症という病気は、もちろん違法だからやってはいけないのですが、皆さん病気として理解してくれないところがある。真剣に向き合って回復し続けることができるんだと僕たちは発信し続けたいと思います」

塚本さんは、「自助グループは傷の舐め合いじゃないかという人もいるのですが、失敗して傷ついているんだったらそれもアリじゃんと思うんです。傷ついてそれを癒すのはとても大事だなと思う」と言う。

松本さんは「傷の舐め合い」という評価についてこう解説した。

「傷の舐め合いと言いますが、薬を使っている時はなんのために薬を使っているのか気付けない。実は自分がしんどかったり、人前でつま先立ちをしなければいけない時に使っていたりする。仲間もそういうピンチに遭遇している」

「それを正直に話す作業そのものが依存症からの回復に必要なリハビリテーションなんです。舐め合うのは舐め合うのだけれども、前に進むには必要なことなんですね」

高知さんは今、依存症に悩んでいる人にこう呼びかけた。

「仲間と出会い、回復し続けている中で思うのは、まず自分で自分の『親衛隊長』になろうということ。これが何よりも大切。人に目を向けて人と自分を比べることではなく、何よりまず自分で自分の親衛隊長になろうぜ、ということかなと思います」

勇気を出して支援者に「頑張っている姿も、苦しんでいる姿も見ています」

2021年のこのイベントがきっかけで、杉田さんはかつてNHK「おかあさんといっしょ」でうたのおにいさんおねえさんとしてコンビを組んでいたつのだりょうこさんと逮捕以来、5年ぶりに再会した。

つのださんは主催者が用意した動画の中でこう語った。

「依存症経験者とお会いするのは勇気が必要かと思う。その前の気持ちと自分がどう変わってしまうのか、相手もどう変わってしまったのか、色々な気持ちがあると思う。でも勇気を出して一歩踏み出したら、その後は進んでいくしかない」

「『私はいつも見てますよ。頑張っている姿も後遺症で苦しんでいる姿も見てます。だから、これからも歌い続けてください。元気な姿で』と思っているんですね。私たちも勇気を持って一歩進んで、支えたい方達を見守り続けることが大切じゃないかなと思っています」

この日も二人が一緒にステージに上がり、「浜辺の歌」「翼をください」をデュエットした。