• medicaljp badge

「生理バッジ」で話題の 大丸梅田店「ミチカケ」に行って驚いたこと

女性の性と健康に関するグッズや情報を取り扱う大丸梅田店のフロア「ミチカケ」。産婦人科医が潜入レポートしてきました!

11月22日に大阪市の百貨店「大丸梅田店」に女性の性と健康に特化したフロア「ミチカケ」が誕生しました。

フロアの女性販売スタッフのうち希望者が、生理中に「生理バッジ」をつけて生理であることを「オープン」にするというシステムが報道され批判を浴びた「あの」フロアというとご存じの方も多いのではないでしょうか。

生理バッジには私も「それじゃないだろ」感を抱きました。消費者の立場からすると、「販売スタッフが月経中かどうか」というのは知る必要がなく、スタッフも職場でプライバシーを公表させられることには、デメリットを上回るメリットや意義を思いつかないとyomiDr.の連載でも指摘しています。

ただ、「ミチカケ」自体には興味を持ったので、京都で学会に出席したついでに大阪まで足を延ばしてミチカケに行ってみました。

女性の性と健康に関わる産婦人科医として、このフロア、どのように評価できるのかレポートしてみます。

おしゃれで卑猥感のないグッズの数々

神戸に長く住んでいた私にとって、梅田大丸はかつて頻繁にほっつき歩いた庭のようなデパートです。

JR大阪駅を出て大丸に入ると「5階にミチカケ誕生」のような告知がドア付近にあり、全館放送でもミチカケの案内が繰り返しありました。老若男女が訪れるデパートで、現在ミチカケがイチオシとなっていることが感じられました。

5階に上がってみると、おしゃれなショップがたくさんあり、その全体がミチカケとのことでした。特に明確なゾーニングがあるコーナーというわけではなく、ごく普通のレイアウトの売り場でした。

まず入ってみたのは男性用のマスターベーショングッズが飛躍的に売れているTENGAさんの女性向けグッズ「iroha」のコーナーです。

卑猥感のないデザインのローター(主にデリケートゾーンに当てて使う)やバイブレーター(主に膣内に挿入して使う)などの女性向けのマスターベーショングッズに加え、オーガニックのセックスジェル(私のクリニックで販売しているものと同じもの!)やデリケートゾーン用のスキンケアグッズも売っていました。

次に入ってみたのは北原みのりさんの「MOOND by LPC」のショップ。こちらには月経カップなどの生理関連グッズに加え、性交痛、未完成婚(パートナーはいるが一度もセックスに成功されていない方)などの性機能障害の方が使う「腟ダイレーター」も置かれてありました。

自分が何人もの患者さんに「ラブピースクラブ」のホームページを示してこの製品をオンラインで購入してくださいと伝えたその腟ダイレーターが、梅田大丸で堂々と売られているというのはある種、感動に近い思いを呼び起こしました。

店員さんの回答に驚き ナプキンで経血が減る?

そして、生理関連グッズのショップにも入りました。

私自身は第二子出産後にIUS(子宮内黄体ホルモン徐放システム)を装着しているため月経らしい月経は何年もないのですが、生理中のアメニティ面、特にデリケートゾーンのかぶれやかゆみに悩む方には、月経カップやコットンのおりものシート、ナプキンのいらないハイテクショーツなどをおすすめすることがあり、興味がありました。

あることは知っていたものの実物は見たことがなかった、オーガニックコットンで出来た使い捨てのナプキンとパンティーライナーがあったので早速手に取ってみました。

店員さんによると、肌に触れる部分だけでなく、吸収ポリマーの部分も天然の植物由来とのことでした。

肌に触れるのがかぶれにくい素材であるコットンとのことで、肌の弱い方にいいなと思ったのですが、ベタついたりしないのかなと思って質問すると、驚きの回答がありました。

「経血がついても肌ざわりはとてもサラサラしています。そして、使っているうちに経血の量が減ってきてナプキンにあんまり付かなくなってくるんです」

え? ナプキンを変えると経血が減る? 布ナプキンを推奨している人の怪しげな常套句がここにも。

「あの、どういうメカニズムなんですか?」

「経血は体調が悪くなると増えるんです。このナプキンを使うと体調が良くなるので経血が減るんですよ。普通に売っているナプキンは、デリケートゾーンに『冷えピタ』を貼っているのと同じで体が冷えるんですよ」

「生理都市伝説」を拡散していませんか? 生理の仕組みや症状への対処法はなし

「いやー、でもコットンも濡れると冷たいですよね」

「コットンは体が温まりますよ」

それ以上説明していただくのもなんだか申し訳なくて、気になっていたオーガニックコットンのパンティーライナーを買って帰りました。

言うまでもないことかもしれませんが、月経はその周期に作られた子宮内膜がはがれて出てきているもので、デリケートゾーンに何を当てても総経血量に影響するとは考えにくいです。

また、コットンは濡れると乾きにくく、経血で濡れる前提でデリケートゾーンに当てても体が温まるということはありません。

これらはかなり前からまことしやかに言われている「生理都市伝説」なのですが、せっかくできたデパートの生理用品売り場でお客さんにこんな説明をされてしまうとは、都市伝説を信じている患者さんに日々そんなことはないですよと説明している産婦人科医としてちょっと悲しくなりました。

ミチカケの売り場を一巡し、店員さんにも確認しましたが、漫画「ツキイチ!生理ちゃん」の原画展示のパネルはありましたが、生理の仕組みや諸症状への対処法など医学的な情報が得られるコーナーはありませんでした。

生理を楽にする選択肢も紹介して

「ミチカケ」とコラボしている漫画「ツキイチ!生理ちゃん」も初めは面白く読みましたが、「生理は逃れられないつらいもの」という前提で終始しています。

病院に行ったら症状を軽くしたり、頻度を減らしたりする方法が色々あるということにはつながっていないので、「作品としては面白い部分もあるけど、啓発として使われていることには疑問だな」と感じました。

同様にこの梅田大丸のミチカケも「生理バッジ」も、「今まで隠さないといけなかった生理をオープンに」というところまでで「医療にアクセスすればもっと楽になれるよ」「振り回されるだけじゃなくて、こちらからコントロールするという選択肢もあるよ」という私のような産婦人科医が考えるゴールとは乖離がありました。

生理の専門家である産婦人科医も企画段階で仲間に入れてもらえたら良かったのに、と思いました。

セックスや性機能障害を取り扱うのは喜ばしい前進

一方、セックスやマスターベーション、性機能障害など女性の性をテーマにしたフロアがデパートにできたということはとても喜ばしい前進だと感じました。

数々のグッズはこれまでもネットなどを通じて女性に買われていましたが、さらに広い層に存在を知られ、カジュアルに手に取ってもらえるという場が市民権を得るとは10年前には考えられないことでした。

生理バッジの炎上だけでなく、こういったことがもっと話題になるといいなと思います。

それにしても、私が一番気になったのは、生理ちゃんの原画展示コーナーのパネルの女性のスカートの柄が、梅田大丸の宿敵、阪急百貨店の包装紙の模様に見えて仕方ないことでした......。

【宋美玄(そん・みひょん)】 産婦人科医、医学博士

1976年、神戸市生まれ。2001年、大阪大学医学部卒業。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。2017年9月に「丸の内の森レディースクリニック」を開業した。