プロテニス八百長 トップ選手の間で消えない疑惑

    極秘資料とデータ分析から浮かび上がる不審な動き


    BuzzFeed NewsとBBCの取材が明らかにした、テニス世界上位選手らの八百長疑惑。取材チームは複数の内部告発者から匿名を条件に極秘資料を入手し、八百長に関わる不正な賭博組織の存在に迫った。2万6千試合分の賭博データの分析からは、世界ランク50位内の経験がある15選手の関与の可能性が浮かび上がった。この記事では、英語で発表されたBuzzFeed Newsの初報をもとに概要をまとめた。

    大手ブックメーカーは疑惑を指摘してきた

    サッカーなど他の人気スポーツ同様に、テニスの試合を対象とする賭博は欧米で広く実施されている。Betfairなどの大手ブックメーカーは2000年代始め頃から、テニス賭博の不正疑惑を、男子プロテニス協会(Association of Tennis Professionals、以下ATP)に繰り返し警告していた。

    重大な疑惑に対しても、選手への制裁がなかった

    2007年、当時世界ランク4位のニコライ・ダビデンコ(ロシア)と、87位のマルティン・バッサージュ・アルゲージュ(アルゼンチン)の対戦。ダビデンコは足の怪我を理由に途中棄権。Betfairは「フェアではなかった」との理由からこの試合の賭けを無効とした。

    ダビデンコは無実を主張。アルゲージュの電話履歴からは、八百長が疑われた賭け金口座を持つイタリアの男性とテキストメッセージ82通を交わしていたことがわかったが、両選手の疑いは晴れた。この疑惑の捜査を担当したマーク・フィリップスは「テニスの競技団体に、集めた証拠をすべて渡したが、何の対策もとられなかった」と話す。

    2万6千試合のデータ分析で不自然な敗戦が明らかに

    BuzzFeed Newsは、過去7年間、2万6千試合の賭博データを分析した。そこから、一方の選手に賭け金が偏る試合で定期的に負ける選手、つまり八百長の疑いがある15選手の存在が浮かび上がった。

    このうち4選手は、不正が疑われる試合のほとんどで負けていた。ブックメーカーの初期オッズからすると、この選手たちが負ける確率は1千分の1だった(分析の詳細はこちら)。

    テニスは八百長が、やりやすいスポーツ?

    ATPの役員を2005年まで務めたリチャード・イングスは「オッズに不審な動きがみられる試合に、同じ選手の名前が繰り返しでてきた」。イングスはまた、年間1万試合以上が執り行われ、何十億ポンドもの賭けがなされるのにもかかわらず、たった一人のプレーヤーの判断で試合の成り行きを決められる脆弱な側面が強いスポーツだとも指摘した。

    極秘資料には八百長が疑われる70人の選手名が

    BuzzFeed NewsとBBCが入手した極秘資料には、八百長に関与している疑いのある賭博組織のフィクサーや、不正に関与した可能性のある70人以上の選手名も記されている。うち16人の選手の名前は繰り返し登場する。

    だが、BuzzFeed NewsとBBCは、不正への関与が疑われる選手の名前を公開しないことを決めた。電話番号、銀行、コンピューター上の履歴にアクセスするできない以上、不正への関与が疑われる選手と賭博関係者のつながりを証明できないからだ。

    ATP会長「不正をなくすために全力を尽くす」

    この疑惑を受け、ATPのクリス・カーモード会長は18日、全豪オープンの会場で「ここにいる私たち全員は不正をなくすために全力を尽くす。いかなる違反も許さず、無関心でもありません」と話している