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トランスジェンダーは婦人科を受診しちゃいけないの? 当事者や医師に聞いてみた

トランスジェンダーが婦人科を受診することについて、ネットで根拠のないバッシングが広がっています。実際はどうなのか。当事者と婦人科医らに取材して、検証しました。

※この記事はトランスジェンダーに対する差別についての内容を含みます。読んでつらくなる可能性があるのでご留意ください。

先日Twitterをひらいたら、トランスジェンダー(出生時にわりあてられた性別とは異なる性自認を持つ人)が婦人科を受診することについて「迷惑だ」とする投稿が目につきました。

Twitterはいつも殺伐としていて、差別や中傷が渦巻いているところなので、普段であれば「またか」と思って画面を閉じるのですが、命や健康に関することだと思ったので今回はスルーしにくいな、と感じました。

当該ツイートは、匿名アカウントによる「当方産婦人科勤務ですが生まれ持った身体は男性の自称女性の方が受診されるのは迷惑です。子宮、卵巣、無いじゃないですか。産婦人科で診るべき臓器が無い訳です」というものです。

投稿者がそもそも婦人科勤務なのかどうか、医療職なのかどうかもわからない中500以上リツイートされ、この投稿がきっかけでトランスジェンダーの婦人科受診を揶揄する書きこみが殺到しました。

「トランス女性は自分が女性に見えるかどうか、”パス度”をチェックするために体調不良もないのに婦人科にやってくる」

「心は女といいながら男性器をみせようとする」

「要求が通らないと待合室でさけぶ」

「他の女性患者にセクハラする」

「トランス女性なのに月経前症候群があると主張する」

そんな真偽不明の投稿もあり、普段からトランスジェンダーへの差別的な投稿をしている人たちに拡散されていました。

実際のところトランスジェンダーは自己満足のために婦人科を受診しているのでしょうか。そしてTwitterの外では婦人科医たちはトランスジェンダーの受診についてどう語っているのでしょうか。検証してみました。

婦人科を受診している当事者の声

まず、実際に婦人科に定期通院しているトランス女性たちに話を聞いてみましょう。

はじめに大阪在住のAさん。女性ホルモンを投与するために定期的に婦人科を受診しています。トランスジェンダーにとってホルモン療法は、効果に個人差はあるものの、身体違和感を軽減させたり、本人の性自認に沿った社会生活が送りやすくなったりすることが期待できる重要な医療です。

「​​トランスジェンダーに婦人科に行くなというのは馬鹿げていますね。ホルモン剤を扱ってるのは主に婦人科医ですから」と語り、普段通院している婦人科は、他にもトランス女性で利用している人がいると話していました。

「このクリニックはトランスジェンダーの当事者に親身になってくれるので、それを知っている人はわざわざ他の精神科や美容外科でホルモン治療をしないと思います」

次に、同じく大阪在住のBさん。現在はジェンダークリニック(精神科)の医師から紹介された婦人科で定期的にホルモンの処方を受けています。以前は精神科で女性ホルモンの錠剤を処方されていた時期もありましたが、婦人科のほうが身体の健康管理ができるメリットを感じています。

「婦人科では女性ホルモンの体への影響について相談できます。ホルモン投与によって乳がん発症のリスクが上がることが考えられるので、定期的に同じ婦人科で年1回、乳がん検診も受けています。血液検査で貧血の症状を指摘されたときにも、『女性ホルモン投与が影響しているので心配ない』と医師から説明を受け、安心しました」

以前、精神科でホルモンを処方されていたときには「単に処方だけ」で、健康不安については紹介状を渡され、一般のクリニックに自分で通院してくれと言われていました。Bさんは自分の状況が理解されるか不安で、精神科からもらった紹介状を使うことは結局なかったそうです。

「当時はホルモン治療を始めたばかりで身体不調も多く、とても不安でした。婦人科に通っている今思えば、ホルモン療法に関係する診察は婦人科でないと......。やはり餅は餅屋ですね」

兵庫県在住のCさんは、地元の病院に片っ端から電話して現在の婦人科につながったと言います。

ホルモン療法をはじめた20年前は美容外科で注射を受けていましたが、女性ホルモンの投与量などは患者側からの自己申告で決めていました。婦人科に通うことでホルモン値の変化にともなう不調などから来る不調も検査で調べてもらい、適切な治療が提案されていると語ります。

「戸籍上の性別を変更していれば、保険適用で治療が受けられるのもメリットです」とCさんは語ります。Cさんは、SNS上で「自分には月経前症候群があると主張しているトランス女性」として名指しで中傷されていました。そのことについて尋ねると「ひとこともそんなことは言っていない」と困惑した様子でした。

婦人科医に聞いてみると

当該の書き込みについて、婦人科医にも意見を聞いてみました。

大阪府内で働く婦人科医の藤田圭以子さんは「病院に来る人は、しんどいからやってくるんです。それをトランスジェンダーだから来ないでほしいとか、自己満足のために通っているなんていうのは、医療者としてまちがっている。あなたの好き嫌いの問題を、トランスジェンダーの人が悪いという風にすりかえているだけではないですか」と話します。

藤田さんの職場は内科の中に「ジェンダー外来」と称した、婦人科医療を提供する部門を設けており、トランス女性もトランス男性も受診しています。

「ホルモン療法をしていく中で、いろんな不調もあらわれてきます。『ホルモン療法はしてもいいけれど、身体をほったらかしにするのはあかんで』といつも話していますね。むくみ、イライラ、冷え性とか細かい不調がいろいろあって、それに対して漢方を処方するなどしています」

「最近だとホルモン療法中に新型コロナのワクチンを打ってもいいのか聞かれたりしていますよ。ワクチンによる血栓症のリスクなどを相談しながら、ホルモン療法の間隔を調整しています」

このような医療機関がまだまだ少ないことも、藤田さんは気がかりだとい言います。

「医療者のLGBTについての理解はまだまだ進んでいない。手術の同意についても、いまだに家族じゃないとだめという医療者はどっさりいますよ。私たちの病院では、あなたのことで親身になってくれる大人はだれか、という尋ね方をしています」

トランス女性もトランス男性もかかりつけ婦人科があるとメリットがある

東京都内で「よしの女性診療所」院長をつとめる吉野一枝さんは当該の書き込みについてこう批判します。

「そんな患者はうちにはひとりもいない。知り合いの婦人科医からも聞いたことがない。クレーマーは性別を問わずいるものですが、診療妨害があったら医師は警察を呼びます。ネットリテラシーを持って、出どころ不明のニュースを広めるのはやめましょう」

吉野さんの診療所はトランスジェンダーが受診できることをホームページでも明記しています。待合室も、他の患者さんたちと一緒の空間とは別に、ひとりで過ごせる空間を用意しています。トランスジェンダーだけでなく、性被害にあった人など、さまざまな背景をもつ人が安心して過ごせるようにするための工夫です。

「婦人科は女性ホルモンの扱いについてはエキスパートなので、トランス女性もトランス男性もかかりつけの婦人科があるとすごくメリットがあります。注射を同じ量でずっと打つなら他でも出来るけれど、それ以外の管理、ホルモン量の調整などはすぐに婦人科で相談できます」

「たとえば50歳、60歳と年齢を重ねたら、若い頃と同じような量を投与しつづけるより、別の処方の仕方のほうが副作用が少ない場合もあります」

GID学会理事長「知識不足や偏見からくる発言? 理解は広がりつつあるが.......」

GID(性同一性障害)学会理事長で岡山大学教授の中塚幹也さんにも話を聞きました。

「一般的に考えると知識不足、偏見があってそのような発言になっているのではないでしょうか。私たちの岡山大学病院には全国からトランスジェンダーの人がくるので、紹介状を書いて地方のクリニックでホルモン療法をしてもらっています」

「紹介先が決まっていない場合には、紹介状の宛先は空欄にしておいて探してもらうのですが、あらかじめ『岡山大学病院の紹介状があるけど診てもらえないか』と電話して聞いてもらうように当事者の方には伝えていますね。たまたま行った病院で紹介状を開封してしまってから『診られません』となると困るからです」

「クリニックも、婦人科であればホルモン療法に伴う副作用や、治療をやめたときにおきるデメリットなどの専門知識をもっていることが多いでしょう。20年前にはトランスジェンダーのことはわからないと断られることも多かったですが、最近はだいぶ変わってきました」と中塚さん。

「最近では医師、看護師、助産師などの国家試験でも性別違和については出題があり、医療系の学生も勉強しています。婦人科医にきちんと知識をもってもらおうと、日本産科婦人科学会もガイドラインやテキストなどに取り上げて協力してくれています」

「しかし、ずっと前に医師、看護師、助産師になっていて、学会に参加しない人や参加しても関心がない人たちの中には、やはり理解のない人たちもいるかもしれません。院長にトランスジェンダーに対する理解があっても、看護師や受付の人などのスタッフに理解がないことで受診のハードルがあがることもあります」

「医療資格がない受付の人とかにも知ってもらうとなると、一般市民にいかに啓発するかも重要です。理解を広める、差別をなくすような法律ができたら、また変わってくるでしょうね」

婦人科とトランス男性

婦人科での健康管理が必要でありつつ、通院しづらいと考えるのは、トランス男性(出生時にわりあてられた性別が女性で、性自認が男性である人)も同様です。

女性だらけの待合室で自分が浮くのではないかという不安。さらには自分の身体で好きではない部分がみられたり触られたりすることへの嫌悪感があって、受診のハードルは高くなりがちです。

私もそんなひとりでしたが、同じくトランス男性の友人のひとりが吉野さんのクリニックに通い「すごくいいところだよ!」とすすめてくれたことで、少しだけ心が動いたひとりです。昨秋には、トランス男性を対象として、吉野先生になんでもZOOMで質問できる匿名参加の勉強会を主催したところ100人近くの申し込みがありました。

「ホルモン注射をしていれば妊娠しないのか」

「子宮頸がん検診のクーポンが自宅にきて、怖くて開封していないが、どうしたらよいのか」

「ホルモン注射をしている場合、血液検査の結果は男女どちらの基準で見れば良いのか」

などたくさんの質問が寄せられました。それだけ日頃、医療者に質問したくでもできないことが多いという当事者の現実があらわれていました。

当事者の多くが抵抗感を持つ内診も、経膣エコーではなく肛門エコーでも代用できることがあるなど、受診のハードルをさげるための知識が得られる講座でした。

この勉強会の後には「思わぬ展開」もありました。

主催者の私が吉野さんのクリニックを受診すると、放置され大きくなっていた子宮筋腫が見つかり、ある大学病院で全摘することになったのです(内視鏡が使えない大きさだったので開腹となりました)。

勉強会を主催するような「意識の高い」当事者でも、自分の身体は放置していたぐらいですから、トランスジェンダーにとって医療受診のハードルを下げることがいかに重要かを身をもって示してしまったケースと言えます。

なお、大学病院では、入院時に男女混合病棟に変更してもらったり、検査方法も工夫してもらえたりと、かなり配慮してもらえました。

参考:入院時の対応でよかったこと

もし友人から、吉野さんのクリニックを紹介してもらえていなかったら、もっと放置して筋腫が大きくなっていたことは想像にかたくありません。

今回はSNSにおける医療現場からのトランスジェンダーの排除につながる言論をとりあげました。どのような属性の人であっても、体調が悪いときに、そして日頃の健康管理のために医療機関を安心してつかえるようであってほしいと願います。

【遠藤まめた(えんどう・まめた)】一般社団法人「にじーず」代表

1987年、埼玉県生まれ。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)のための居場所・にじーず代表。著書に『先生と親のためのLGBTガイド ~もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)、『オレは絶対にワタシじゃない トランスジェンダー 逆襲の記』(はるか書房)ほか。個人のウェブサイト「バラバラに、ともに。」。ツイッターアカウントは@mameta227