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「ステイホーム」「自助」への違和感。コロナ禍と原発事故、芥川賞作家が見つめる社会の“歪み”

東日本大震災後、福島に暮らす小説家の柳美里さん。コロナ禍において、この社会に存在した差別や格差などの「歪み」が浮かび上がっていると指摘する。広がる「自己責任」「自助」という言葉に覚える違和感とは、何なのか。

東京五輪、高度経済成長、天皇制、そして東日本大震災によるさまざまな不条理に翻弄されながら、ホームレスとなったひとりの男性の人生の軌跡を描いた『JR上野駅公園口』。

全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した作者の柳美里さんは、コロナ禍において、この社会に存在した差別や格差などの「歪み」が改めて浮かび上がっていると指摘する。

「自分と異なる他者を知ること」が必要だ、とも。いま、彼女が伝えたいこととは、何なのか。

Sumireko Tomita / BuzzFeed

上野公園のホームレスは、台風19号の際に避難所に入ることを拒まれた

「新型コロナウイルスの感染拡大で、自己責任や自助という言葉が広がっています。しかし、それと同時に、自分もいつ、その言葉を突きつけられる側になるか分からないと、それぞれが気づく契機にはなりうるのではないかなと思います」

社会に振り回され、ホームレスとなった『JR上野駅公園口』の主人公のように、常にどこかに追いやられている人たちがいる。そうした人々を無意識的になのか、意識的になのかにはかかわらず、排除しながら、多くの人たちが「普通の暮らし」を営んでいる。

「多くの人は、自分が排除される側にはならないというような過信がある」と、柳さんはいう。しかし、コロナ禍において前提が変わった。

「いま、誰しもが命の危機に直面しているのです。いつ自分がそうして排除される側、転落する側、あるいは国家から切り捨てられる側になるかわからない、という社会の構造、差別や貧困など社会の歪みが際立つようになった」

有事には、社会の歪みが顕在化しやすいと考えるのは、東日本大震災時の東京電力福島第一原子力発電所の事故において、まさに「国家」から切り捨てられてしまった人たちの声を直接聞いてきたから、でもある。

柳さんは原発事故により立ち入りが制限されていた福島県南相馬市小高区に、6年前から暮らし、書店「フルハウス」を営んでいる。

臨時災害放送局「南相馬ひばりFM」で、住民の話を収録する番組「ふたりとひとり」のMCをしていたこともある。

南相馬に縁がある、家族や恋人、友人などの親しい「ふたり」から、さまざまな話を聴き続けてきた。人数は、600人にのぼる。

「国家」が姿を見せるとき

時事通信

福島第一原発事故を受けて小学校の体育館に避難した住民たち(2011年3月13日)

「ふたりとひとりでは、『2011年3月11日どこで何をしていましたか?』という質問をずっとしていたのですが、避難をされた多くの方が、『あれは避難ではなく、難民だったんだよね』と語られていたんです。行き先も決められずに、何も持たずにバスに乗せられて、家族とは別のバスに乗らされてしまうこともあった、と。『棄民』という言葉を使われる方もいましたね。国家に捨てられた、ということです」

「通常、何も問題がないなかで生活するときには、国家という存在が浮き上がる、姿を見せることはなかなかありません。しかし、たとえば戦争であるとか災害であるとか、まさにいまのコロナ禍のような危機的な状態のときに、国家のかたちや、歪みが見えてくるようになるのではないでしょうか」

『JR上野駅公園口』ではまさに、「国家」と「個」の関係、歪みから生じる不条理をテーマとして取り扱った。

コロナ禍において、本は柳さんの予想を超えて「読まれ続けている」という。一方で、そこには理由があるとも感じている。

「いくら全米図書賞を受賞したといっても、この本がなぜこれほどまで読まれているのか、ということについて考えています。『国家とは何か』とか、それこそ『弱者とは何か』という問いを多くの人がいま、持っているということなのではないでしょうか」

問いかけに対する答えは簡単に見つかるものではない。しかし、「国家」やそれに準じる側が用いる言葉尻から、ふと浮かび上がることもある。たとえば「ステイホーム」という言葉だ。

「人々が一括されるような言葉がでるときには、必ずこぼれ落ちる人がでてきますよね。たとえば『ステイホーム』という言葉でいわれた時に、家がない人がいるだろうというふうに私は思ったわけです。ホームレスの方は家がない。あるいはDVや虐待、性的な虐待も含め、暴力が吹き荒れる家だということもあるわけです」

「言葉」からこぼれ落ちた人々

Sumireko Tomita / BuzzFeed

台風19号直後の多摩川。ホームレスの小屋の残骸が見える

コロナ禍より前、台風19号の際にも、同じような違和感を覚えた言葉があるという。それは、台風が迫るなかのニュースでアナウンサーが鬼気迫る声で連呼していた「命を守る行動をとってください」という言葉だった。

「あのときは、ホームレスの方が不忍池の近くの小学校の避難所に行ったら入るのを拒否されるということがありました。上野駅の公園口の改札の前の文化会館は、外国人旅行者のために開放されていたにもかかわらず。台東区の住民票を持っていないのが拒否の理由だったそうですが、彼は北海道に住民票があったのです」

「東京オリンピック・パラリンピックをめぐる再開発で上野公園もすごく綺麗になっている……綺麗になるというのは皮肉としての意味ですが、中心部から排除されたホームレスの方は、河川敷に小屋を移さざるをえません。台風などで川が増水すれば、小屋は流されてしまいますよね。実際、19号の時には木に引っかかったご遺体が発見されるということもありました」

一方で「ホームレスが避難所に入ること」に対しては、批判的な言説も多くみられた。個人的な快・不快や感染症を理由とするものから、「普段は家がないのだから」と、自己責任を強調するものまで。

柳さんは「アナウンサーの方が連呼された『命』という言葉から、こぼれ落ちた人々がいたわけです」という。

「そうした人たちに対して、自助という言葉が向けられることもありますが、そもそも『自助』は矛盾した言葉ですよね。人は他者とのつながりがなければ、自分を助けることはできません。お金もないし、まったく人との繋がりが切れている、孤絶している人は自助しようがないのですから」

「自分が編み物だとしたら」

Kota Hatachi / BuzzFeed

Zoomで取材に応じた柳さん

社会的な立場であれ、民族や国籍であれ、ジェンダーであれ。

他者を排除することによって、同質性が保たれ、多数の日常が担保されるような社会に、柳さんは違和感を覚える。

それは、「違うこと」と、「交わること」にこそ意味があると感じているからだ。

「世界というのは、同じこと、同じ人を増やすことが良いわけではなく、違うもの、違う人が交響する世界が素晴らしいと思っています。オーケストラでひとつひとつまったく違う音を奏でる楽器が交わり、ひとつの音楽を奏でるように。交流という字にあるように、人は交じり合って流れてできている。文化も、芸術も、日本という国も、そして自分自身も、そうしてできているのですから」

「自分というものは固定的に捉えられがちですけれども、実は塊ではなく、他者との交わりで影響を受け、流動的に変化していくものなのです。自分が編み物だとしたら、指をいれてほどいて、ほどけたところからいろいろな人の糸、引き出した糸で編みこんでいって広げて、いろいろな模様をつくることできる。どのように自分を編み広げていくのか、模様をつくるのかということが、いまのような世の中では、とても大事だと思っています」

柳さんが小説で物語をつづり、またSNSなどで「丁寧な言葉」を発信するのは、より豊かな模様があふれる世の中を目指していきたいからだ。

「他者、異なるもの、つまり、自分から遠い存在をどれだけ取り入れられるかで、人はより豊かになることができる。しかし、いまは実際に他者と交流できないようになってしまっている。ですから、言葉の役割、言葉を仕事にする人の重要性が増しているのではないかなと思っています」

「たとえばそれは、小説というかたちでも良いわけです。私はかつて、家庭や学校で孤絶していたとき、本の世界が魂の避難所になっていました。そこには登場人物がいて、それを書いた著者がいた。本を通じて、自分と他者とが、混ざり合うことができたのです」

「だからこそ、私が小説を書くうえでも、他者を想像できる、手がかりとなるような発信の仕方をしなければいけない。そのときに大切なのはひとりひとりの顔であり、名前なのです。その人がどんな感情を持って、どんな顔で語りかけるのか、どんな声で訴えかけるのか。個人の顔が見える、声が聞こえるというような伝え方をしていきたいと思っています」

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