「やってもやっても壁に当たっていた」赤ちゃんと一緒に議会に出た彼女の想い

    「世の中には多くの働く母親が直面している『厳しさ』があります」

    11月22日に開会した熊本市の定例市議会に、生後7カ月の長男を抱いて議場に入った緒方夕佳議員。

    結果として子どもを連れての出席は認められず、議会の開会は40分ほど遅れた。その行動には、賛否両方の意見が集まった。熊本市議会は、文書による厳重注意処分を決めた。

    緒方議員の狙いはどこにあったのか。海外で報じられるまでに騒動が拡大したことについて、どう感じているのか。BuzzFeed Newsは本人に直接取材した。

    ーーなぜ今回、お子さんを議場に連れてきたのでしょうか

    世の中には多くの働く母親が直面している「厳しさ」があります。

    仕事と子育てが両立できない、0歳児でも預けないといけない、預けられないから仕事を諦めたーー。議員活動をしているなかで、多くの子育て世代の人たちから、数限りない声を受けてきました。

    職場や社会では「個人の問題」「自己責任」というような形で扱われてしまう。負担がのしかかりながらも、なんとかしようと頑張っている方々がたくさんいます。

    私自身も今回、第二子の出産を機にそういった厳しさに直面しました。「みんなの悲痛な声をいい加減聞いてほしい」と感じ、議場に赤ちゃんと座ることで、多くの声を体現しようと考えたんです。

    ーーその行動に至る経緯は

    2016年11月、議会事務局に妊娠報告をした折に、「妊娠中や産後も、議員活動を続けていきますので、サポートお願いします」と伝え、たとえば議場に赤ちゃんを連れて行くことや、託児所の設置などを求めたんです。

    「自分のため」という風に言ったわけではありません。傍聴者や来訪者、ほかの議員、さらには控え室のスタッフなどが使えるような棟内託児所の要望でした。

    しかし、全部NOだった。そのため、ベビーシッター代の補助制度などはどうか、と求めていきましたが、無理でした。

    出産前に無理して議員活動をしていたこともあり、出産後は体を壊し、しばらく歩けないようになった。7ヶ月ほどお休みをいただいたのですが、12月議会から復帰したいと思い、議会事務局と再びやりとりをしました。

    その際、事務局側の対応は「議員さんは控え室もあるので、個人でベビーシッターを手配して見ていてもらいたい」というものだった。

    「個人的な問題」であるようにされたことに対し、私は疑問を感じたとともに、これこそまさに、「厳しさ」だと痛感したのです。そうして今回の行動に至りました。

    ーーこれまでも子育て支援の政策実現に力を入れていた?

    そもそも、2015年の選挙で市議会議員に立候補したのも、子育てしやすい世の中にしたいという目標があったからです。豊かな社会にするため、働きかけをしてきました。

    たとえば、政策決定の場に子育て世代が参加できるようにするため、子育て世代が傍聴しやすい議会づくりを目指し、「親子傍聴室」や「無料託児所」の設置を働きかけてきました。

    さらに、子を持つ議員のため、会議規則に産休をもりこむようにも求めてきましたが、いずれもなかなか実現されていません。

    私自身の話としては、泊まりがけの視察に長女を同伴することを認めていただいたり、長男の妊娠中に座ったまま質問をさせていただいたこともあります。

    ーー今回も、同様に働きかけや話し合いで解決できなかったのですか?

    私としては、十分話し合いをしたと感じています。

    しかし、議会事務局にはどんなに話してもNOでした。やってもやっても壁に当たっていた。

    一人会派のため、議会運営委員会や議会活性化委員会には入れません。議長にも「議場へ連れて行く」という希望は伝えていましたが、すぐに実現することではないということはわかっていました。

    開会前日にも議長と話し、「授乳をする必要もあり、子育てで議会を中座しないためにも議場へ連れて行きたい」と希望を伝えましたが、「まずは議会事務局と相談してみて」ということでした。

    事務局と話しても前に進まないということはお伝えしましたが、「連れて行きますという宣言」はしていません。おそらく止められるんじゃないかと感じていたので。

    ここまでの広がりは「想定外」だった

    ーー目的ではなく、手段に対する批判も大きいですが

    「ルール違反」というイメージが強く、誤解を生んだのかもしれません。会議規則や傍聴人規則は読み込んでいて、ルール違反ではないと認識しています。

    事務局側は、「傍聴人はいかなる事由があっても議場に入ることはできない」とした規則に反しているといます。赤ちゃんを傍聴人とみているからです。

    しかし、私は赤ちゃんのいる議員が活動するために、赤ちゃんがそこにいることが必要な場合があるという認識から「傍聴人」ではないと判断しています。

    うちの子は機嫌がいい赤ちゃんで、おとなしい。お腹を空かせば泣くこともありますが、授乳ができるのであれば安心できる。

    ーーここまで広がることを想定していたのですか?

    想定外でした、国際的なニュースになったことには驚きました。退去を求められ、ここまで大きくなるとは想定外でした。

    開会日は15分程度で終わると聞いていましたので、赤ちゃんと静かに議会に出て、その日は終わり、「一緒に出た」ということがニュースに取り上げられると思っていたんです。

    議会を遅らせたり、混乱させたりという狙いはまったくありませんでした。

    ついては、議長にも「議会内で話し合っていきたい」とおっしゃっていきたいので、ぜひその議論に入れていただき、具体的提案をしていきたい。

    ーー今後はどうされるのでしょうか

    議員だけではなく、日本には、子育てをしながら仕事をするのは難しい現状があります。仕事か、自分の体や子育てか、何かを犠牲にしないといけないからです。

    子育て中、できるだけ子どもと一緒にいたいと考える人もいます。それができないから、悩んでいる方、苦しんでいる方は多い。

    もちろん、それは子どもの年齢や病気の有無、本人が希望する子育てスタイルにもよりますが、保育所に預けたいという人は預けて、一緒にいたいと思える人は一緒にいられるといったように、もっと選択肢があっても良い。

    さまざまな選択肢を認め合って、支え合うような環境を整備していく必要があります。

    今回のアクションで終わらせず、さまざまな政策の実現のため、応援してくださる子育て世代の方々ともしっかりつながって、継続的に市への働きかけや提案を続けていきたいと考えています。


    BuzzFeed Newsでは【著名人らによる「#子連れ会議OK」の輪が広がる 熊本市議の子連れ出席をうけ】という記事も掲載しています。