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在日コリアン狙った22歳、裁判で次のヘイトクライムを“予告”「命を失うことになる」被害者を前に謝罪もせず、ウトロ放火事件

在日コリアンが集住する京都・ウトロ地区などを襲った連続放火事件。憎悪感情をもとにした「ヘイトクライム」に対して、司法はどのような判断を下すのか。

差別感情に基づき、在日コリアンの人々が集住する京都・ウトロ地区や、名古屋市の韓国学校などを狙い、22歳の男が起こした連続放火事件。

有本匠吾被告の第3回公判が6月21日、京都地裁(増田啓祐裁判長)であった。被害者側の意見陳述があったほか、検察側は懲役4年を求刑。弁護側は情状酌量を求め、被告人も最終意見陳述を行い、結審した。

検察が求刑に向けて意見を述べる論告では、「嫌悪感」や「偏見」という言葉はあったものの、「差別」そのものは用いられなかった。

また、被告人から反省や謝罪の言葉は一切なく、同種のヘイトクライムが今後も起きると予告する発言もあり、被害者からは不安や怒り、落胆の声があがった。

この日の裁判で検察側は、被告が在日コリアンに対する「嫌悪感」から犯行に及んだものであり、「身勝手、釈明の余地はない」と非難した。

自らの「偏見」や「思い込み」に基づき、職を失った「憂さ晴らし」や社会から注目を浴びたいという動機から、一方的に嫌悪感を持っていた、在日コリアンやその関連団体を加害対象とし、一切関係もなく、また何の落ち度もないにも関わらず犯行に及んだと指摘。

「一方的な思い込みに基づき、在日韓国人あるいはその関連施設を対象とした犯行が社会から容認されることなどなく、許される余地もない」と断じた。

また、計画的だった犯行は一歩間違えば住民の生命を奪いかねなかったものであり、悪質かつ危険極まりないものだったと強調。

その財産的被害も甚大だったことに加え、社会生活への不安をもたらすものであり、さらにウトロ事件では「遺産」とも言えるものが消失し、住民らに大きな喪失感や精神的苦痛をもたらすものだったとした。

被告からは弁償される目処もなく、犯行後も「意見を世に問いたい」などと語っていることから「反省の情に乏しい」と批判。再び職を失うなど過度のストレスを受けると自暴自棄になり、同様の犯行に及ぶ可能性もあるとした。

そのうえで、被告に反抗の重さを自覚させ、今後「同種事案の発生を抑止」するためにも懲役4年が相当だと求刑した。

被告が最後に語った「予告」とは

弁護側は被告の「犯行により人々が日韓関係に関する考えを変えるきっかけになると信じた」という動機に正当性はなく、非難は免れないともしながら、被告が家族や社会で孤立しがちであり、自暴自棄になったと指摘。

犯行後は反省を深めつつあり、考えを変えることを示唆し、さらに自らを見つめなおしている過程にあると強調し、若年であり社会復帰も可能で、父母の援助も期待できることなどから、情状酌量を求めた。

しかし、被告の最終意見陳述では、「ひと言申し上げたい」と、こうした弁護側の意見を自ら打ち消すかのように、前回の公判同様に、偏ったままの持論を展開した。

在日コリアンの人々を名指しはしなかったものの、「多くの困窮者が支援されない一方で、戦争被害者であるという一方的な理由で国民以上に支援を受けようとしている人がいる」と語った。

認識が誤ったままであることが、改めて分かる。

さらに「私のようにそうした方々への差別偏見、ヘイトクライムに関する感情を抱いている人はいたるところにいる」などと語り、「放火は個人的な感情に基づくものではない」などと、被害者側や社会に原因があるというような一方的な発言を繰り返した。

そのうえで、「仮に私を極刑で裁いても、事件を個人の身勝手な差別感情によるものと収束させようとすれば、今後同種の事件、さらに凶悪な事件が起きる」「何を背景として起きたのかを一人一人が考えないと、罪のない人が命を失うことになる」と主張。

被害者に対し謝罪をすることも、自らの犯行についての反省の弁も、一切述べることもないまま「ご清聴ありがとうございました」と、陳述を終えた。

BuzzFeed Newsは、この偏見と誤りに満ちた被告の主張を追認しない。しかし、その認識が逮捕と裁判という過程を経てもまだ改まっていないという問題点を示すため、発言内容を伝えた。

被害者が法廷で伝えたこと

この日は被害を受けた3人の意見陳述もあった。名古屋市で被害に遭った民団愛知の趙鐵男・事務局長は、自らの半生を振り返りながら、以下のように述べた。

「私は日本で生まれて52年間、地域住民として日本の学校で学び、社会で生き、子どもを育ててきましたが、被告にそれを否定された気持ちになりました。私たちは地域に根付き、市民レベルで友好を築いています。そもそも被告には私たちがなぜ戦前からこのように暮らしているのかという知識が欠如しています」

「私たちのことを何も知らないで、在日韓国人への差別と排除したいということから犯行に及んだ。あまりにも身勝手で異常な行動だと思いました。単なる放火ではなく、ヘイトクライムそのものであり、日本社会で許されることがないと明確に指摘し、厳しい処分を下していただきたい」

また、ウトロ地区の火災で借家が被害に遭い、財産や愛犬を失い、家族4人で焼け出されてしまった大西磯さん(47)は「どうして私たち家族があの家でつくってきた生活の全てを失い、子どもたちを危険にさらし、こんな目に遭わなくてはいけないのか」と語った。

「私たち家族やこの地域の人々に対しては、いまでも直接の謝罪はありません。それどころか法廷では、放火をしたことに後悔はない、とまで言い放ったと聞きました。私たちもきっぱりとした態度で、最大限の厳しさをもって向き合わなければ、彼の人生のためにもならないように感じました」

「やったことは必ず自分に返ってくる。いつか自分の犯した罪の大きさを理解して、この言葉を思い出し、ずっと苦しむが続く被害者に思いをめぐらせてほしい。そして、『差別なんかあかん。人と人は支えあって生きていくものや』ということを、きちんと被告人にわからせる判決にしてほしい」

一方、ウトロ平和祈念館副館長の金秀煥さんは「差別に基づく凶悪犯罪が起こり、許される社会で生きなければいけないのかと絶望的な気持ちになる」などと、時折声を詰まらせながら語り、最後は裁判官に対し、こう訴えた。

「事実ではなく悪意に基づくヘイトスピーチが、とりわけインターネット上で氾濫するいま、いつなんどき、身勝手な犯罪が起こるかわからないというのが今の社会の状況です。この犯罪が差別による凶悪犯罪ではなく、単なる放火として処罰されるならば、ヘイトクライムを助長させ、マイノリティは常に何かに怯えることになる」

「罪を厳正に裁くべき今回の裁判結果が、被告の主張を後押しする結果にならないか心配でなりません。厳正な裁きを受けることが被告人にとっても大切。インターネットのない世界で自分のしたことを見つめ直して、深く反省してほしい」

マジョリティに問われること

被害者側の意見陳述は、被告の最終陳述の前に行われた。

こうした声を直接聞いても、被告があのような持論を展開したことについて、大西さんは公判後、「何をいうても、伝わらへんのかな」と落胆の色を隠さなかった。

「意見陳述をしたときは、こっちの目を見てはい、はいと頷いて聞いていた。最後に何か言うのかなと思ったけれども、何もなかった。やるせない気持ちになりますね」

一方、ウトロ関係者が開いた会見では、意見陳述した金さんは、「彼に言葉は響かなかったが、社会の問題として考えなければいけないと再確認しました」と語った。

「差別や偏見が罪であり、許せないことであるということをこの社会が認定し、位置付けることが大事なポイント。マジョリティの人たちが変わることで、社会は初めて変わると思っています。ただ、検察の話を聞く限りにおいて、それが実現されるのかがとても不安です」

ウトロ地区側の弁護団長を務める豊福誠二弁護士は、検察側が論告で「差別」や「ヘイト」という言葉を用いらなかったことに対し、「マジョリティの目から見た論告であったように感じました」と疑問を呈した。

「なぜ被害側がこれほど求めているのに、差別という言葉が用いられなかったのか。これがヘイトクライムでなければ、何がヘイトクライムなのかという犯行。論告のなかに要素は組み込まれていたが、きちんと言っていただきたかった」

そのうえで、被告の一方的な意見については「在日特権という10年前から否定されていることに触れていて、裁判を通じても考えが変わっていないのだということがわかりました」とも述べた。

ヘイトクライムの連鎖を止めるために

冨増四季弁護士は検察側に対し、「差別は悪感情とか、嫌悪感とか、偏見とか思い込みとかそんな軽い感情ではありません。この部分をしっかりと見据えて、論告をしなければなかったのでは」と指摘。

また、上瀧浩子弁護士は、被告の発言について「被告は裁判で在日コリアンの方と出会っても、やっぱり変わらなかった。裁判が、被害者の方にとって、二次被害になってるのではないかと感じました」と言及。

「同じことが起こるかもしれない、人が死ぬかもしれないという発言もありました。自分の中のヘイトクライムも容認している、そして他者が起こすであろうヘイトクライムを容認している、こういう考え方をやはり絶対に許すわけにはいかない」

一方、ウトロ民間基金財団の郭辰雄・理事長は、「被告人の発言を聞いて、愕然した。背中がゾッと冷たくなりました」と語った。

「彼の語りに影響を受ける人間がどれだけ出てくるのか。ヘイトクライムはそういうものだからこそ、差別が人を殺してしまうという認識を日本社会が持つように問うていく必要があると、改めて感じました。判決がどうなるか一抹の不安は感じているが、意見陳述した人の思いが伝わることを願ってやみません」

郭さんが言及したように、類似事件が起きることに対しての不安は広がっている。実際、在日コリアンの関連施設をめぐっては、ウトロの事件後の昨年12月には、大阪府内の民団支部にハンマーを投げ込まれる事件が起きた。

また、同じく大阪では今年4月に「コリア国際学園」で放火事件が起き、立憲民主党・辻元清美氏の事務所に侵入したとして起訴されていた男が逮捕されている。なお、BuzzFeed Newsは6月20日に直接、接見取材を申し込んだが、男は受け付けなかった。

ヘイトクライムの連鎖を防ぐためにも、ウトロと名古屋をめぐる連続放火事件については、この社会における「マジョリティ側」である司法の慎重かつ厳重な判断が必要だ。判決公判は8月30日に予定されている。

事件の背景をまとめた動画はこちらから。

今日、京都地裁で第3回公判が開かれるウトロ地区などへの連続放火事件。 「ヤフコメ」を意識したという被告の差別的動機や、事件の背景をまとめた動画はこちらです。

Twitter: @BFJNews