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【判決要旨全文】「社会の不安をあおって…」在日コリアンねらったウトロ放火事件、23歳被告に懲役4年。差別動機の認定は?

在日コリアンが多く暮らす京都・ウトロ地区などで連続放火事件を起こしたとして罪に問われた被告に、裁判所は「民主主義社会では許されない犯行」と厳しく指摘し、求刑通りの実刑判決を言い渡した。

在日コリアンが集住する京都・ウトロ地区や、名古屋市の韓国学校などで連続放火事件を起こしたとして、非現住建造物等放火などの罪に問われている無職有本匠吾被告(23)。

判決公判が8月30日、京都地裁であり、増田啓祐裁判長は検察の求刑通り、懲役4年の実刑判決を言い渡した。

韓国人への「敵対感情」をもとに、ネット上でデマを信じ、さらに「ヤフコメ」を煽る目的で起こされたヘイトクライムに、司法はどのような判断を下すのかが注目されていたこの裁判。

増田裁判長は判決で「在日韓国・朝鮮人や日本人の不安を煽ることで、自らの望む排外的な世論を喚起すること」を犯行の目的と認定した。

そのうえで「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人への偏見と嫌悪に基づく身勝手な犯行で、民主主義社会では到底、許されない。相当に厳しい非難が向けられなければならない」と指摘。法廷で有本被告に対し「自らの行ったことをよく反省してください」と説諭した。

判決要旨は以下の通り。

判決要旨

非現住建造物等放火、建造物損壊、器物損壊被告事件

被告人 有本匠吾

被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中250日をその刑に算入する。

理由の要旨

罪となるべき事実

被告人は、

第1

1 令和3年7月24日午後7時9分頃、名古屋市中村区所在の在日本大韓民国民団愛知県地方本部敷地内において、愛知県韓国人消費生活協同組合(代表理事A)所有の同所建物に付属する硬質ポリ塩化ビニル管に、着火剤を紙に包んで麻縄で縛ったものを立てかけ、その紙にライターを使用して点火して火を放ち、同管(雨どい及び雨どい受け)を焼損させた上、同管付近の同建物壁面及び同組合所有の芝を焼損させ(損害見積額合計51万7000円)

2 同日午後7時11分頃、同区所在の学校法人愛知韓国学園名古屋韓国学校敷地内において、同学園(理事長B)所有の同所建物に付属する硬質ポリ塩化ビニル管に、着火剤を紙に包んで麻縄で縛ったものを立てかけ、その紙にライターを使用して点火して火を放ち、同管(雨どい及び雨どい受け)を焼損させた上、同管付近の 同建物壁面及び同学園所有の芝を焼損させ(損害見積額合計25万3000円)、

もってそれぞれ他人の建造物を損壊するとともに、他人の物を損壊し、

第2 令和3年8月30日午後4時10分頃、京都府宇治市伊勢田町ウトロ所在のCが所有する木造トタン葺平屋建家屋(延床面積約50m)において、同家屋にお持てば、同家屋を焼損した上、近接する別表記載の家屋等6棟に火が燃え移ることを認識しながら、別表番号1及び2の両家屋が現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない空き家であると誤信した上で、上記木造トタン葺平屋建家屋内にある木製床板の上にキッチンペーパーを差し込んだライター用オイル入りの缶を置き、その上からライター用オイルを撒いた上、上記キッチンペーパーにライターで点火して火を放ち、その火を同床板に燃え移らせるなどし、よって上記家屋を全焼させるとともに、別表記載の家屋等 6棟を全焼させるなどして焼損(焼損面積合計約389平方メートル)した。

量刑の理由

被告人は、かねて在日韓国・朝鮮人が不当に利益を得ているなどとして嫌悪感や敵対感情等を抱くとともに、日本人もこの問題を考えることなく放置しているなどとして不満を持っていたところ、離職を余儀なくされるなどして自暴自棄になる中、鬱憤を晴らすとともに、在日韓国・朝鮮人や日本人を不安にさせてこの問題に世間の注目を集め、自分が思うような排外的な世論を喚起したいなどと考え、判示第1の建造物損壊・器物損壊の各犯行(以下、併せて「名古屋事件」という)に及んだ。

しかし、この事件が期待したほど世間の注目を集めなかったことから、これに不満を覚え、より大きな事件を起こして強く世論を喚起したいなどと考えるととも に、折から在日韓国・朝鮮人が居住する京都のウトロ地区に平和祈念館の開設計画があることを知ると、そこで展示される予定になっていた立て看板等を焼損して、その展示や同館の開設を阻止しようなどとも考え、これらが収納されていた木造家屋に放火して、判示第2の非現住建造物等放火の犯行(以下「京都事件」という)にも及んだ。

京都事件についてみると、被告人は、当時住んでいた奈良からウトロ地区まで出向いて、上記家屋内に入り込み、あらかじめ用意したライター用オイルを入れた缶に、キッチンペーパーを導火線として差し込んだ手製の発火装置を木の床の上に置き、同種のオイルを同キッチンペーパーとその付近の床に撒いた上、同装置に点火して放火した。

強固な犯意に基づき、同家屋を全焼させるとともに周囲に密集する木造家屋等をも延焼させるおそれの大きい、誠に危険な態様で放火したものというべきであり、現に家屋等5棟が全焼し、2棟が半焼して焼損面積は合計約389m2に及ぶという重大な結果を生じさせている。

加えて、地域住民にとっての活動拠点が失われ、その象徴とされる立て看板等の史料が焼失するなどしており、被害者らが被った財産的損害のみならず精神的苦痛等も大きいものとうかがわれ、その処罰感情が極めて厳しいのも当然といえる。

名古屋事件も、事前の実験を踏まえて紙に包むなどした2組の着火剤を用意し、奈良から名古屋まで出向いて続けざまに行った、強い犯意に基づく陰湿な犯行であ る。

財産的な損害額自体も合計77万円と相応に大きい上、韓国学校に通う子どもらや保護者を含む関係者に与えた不安感等も軽視できず、被害者らの処罰感情は厳しい。

なお、名古屋事件から僅か1か月余り後に、よりエスカレートした京都事件を引き起こした点も軽視できない。

そして、京都・名古屋両事件に関する上記の動機は、主として、在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人々に対する偏見や嫌悪感等に基づく、誠に独善的かつ身勝手なものであって、およそ酌むべき点はない

のみならず、被害の発生を顧みることなく放火や損壊といった暴力的な手段に訴えることで、社会の不安をあおって世論を喚起するとか、自己の意に沿わない展示や施設の開設を阻止するなどといった目的を達しようとすることは、民主主義社会において到底許容されるものではない

本件各犯行の動機は甚だ悪質というべきであり、被告人に対しては、本件各犯行を行ったことについて、相当に厳しい非難が向けられなければならない。

これらの犯情等によると、被告人の刑事責任にはかなり重いものがある。その余の事情をみると、被告人は、これまで前科がないほか、当公判廷で事実を認め、排外的なものを含めて自らの考え方を変えていく必要があるなどと言及する部分もある。

もっとも、本件各犯行で意図した世論の喚起にこだわるような姿勢も最後まで見せるなど、反省が深まっているようにはうかがえない。これらの事情も 相応に踏まえつつ、被告人を主文の刑に処することとした。

(求刑・懲役4年)

令和4年8月30日

京都地方裁判所第1刑事部

裁判長裁判官 増田啓祐

裁判官 平手一男

裁判官 熊野結衣子