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「日本は良い国だと思っていた。でも…」彼らはなぜ、絶望したのか。ある難民申請者の訴え

難民認定の申請者が「犯罪者」になりうる入管法改正案の審議がいま、国会で進もうとしている。0.4%と諸外国に比べて極めて低い難民認定率や、入管の長期収容が問題視されるなかの改正に、当事者は何を思うのか。政府による弾圧から日本に逃れ、茨城県牛久市の施設に収容された難民申請中の男性に、話を聞きました。

政府による弾圧から逃れ、日本にやってきたある難民申請者は、いま自分が置かれている状況を、「地獄」と表現した。そして、「助けてください」ともーー。

Kota Hatachi / BuzzFeed

0.4%…… これは、日本の難民認定率(2019年)だ。認定されたのは、たったの44件。不認定は一次、二次をあわせると1万件以上にのぼる。

諸外国(カナダ55.7%、イギリス46.2%、アメリカ29.6%など)と比べても、認定率は、極めて低い。

母国に戻った場合の「命の危険」を訴えていたとしても、強制送還されてしまうケースもある。入国管理局の「収容施設」に長期間にわたって、収容されている人もいる。

こうした人々を「犯罪者」にしてしまうような、入管法改正案の審議がいま、国会で進もうとしている。いったい、何が起きているのか。彼らが訴えることとは、何なのか。

BuzzFeed Newsは4月6日、長期収容者に取材した。長期収容者の支援を続ける駒井知会弁護士が面会を申請し、お笑い芸人・YouTuberの「せやろがいおじさん」こと榎森耕助さんも同席した。

大仏の目線の先に

Kota Hatachi / BuzzFeed

「大仏さんが、守ってくれればいいのにね」

タクシーの車窓から見える巨大なブロンズ像を眺めながら、駒井弁護士はつぶやいた。

高さ120メートル、世界一大きな仏像の「牛久大仏」。その目線の先に、「東日本入国管理センター」(茨城県牛久市)はある。

難民申請中の人、オーバーステイをしてしまった人、なんらかの理由で不法入国してしまった人たちーー。

このセンターには、4月9日現在、84人が収容されている。出入国管理庁によると、2019年末時点では237人、うち半年以上収容されている「長期収容者」は195人にのぼっていたが、コロナ対応で減少しているという。

アクセスが良いとは、決して言えない。常磐線牛久駅から8キロ、車で20分ほど。バスの本数は1日5本と少なく、タクシーでも片道数千円はかかる。

面会のために訪れる家族には生活に余裕がないため、駅から2時間近くかけて歩く人もいるのだと、駒井弁護士は教えてくれた。

桜並木を抜けると、正門にたどり着く。4月6日、ピンク色の花びらはすでに、ほとんど散り落ちていた。

33歳、女性の死

Kota Hatachi / BuzzFeed

収容施設は東京や横浜、名古屋にもある。新型コロナ対策で人数は減少傾向にあり、2020年末現在、日本全国で346人が収容されている。長期収容者だけではなく、難民認定手続き中の人も多くいることがわかる。

収容生活に、自由はない。「刑務所よりもひどい」と語る人もいるほどだ。

外部との連絡手段は公衆電話と手紙だけ。運動時間も1日最大1時間ほどと、制限されている。十分な医療を受けられないこともある。

劣悪な環境下での先の見えない生活が、収容者を苦しめる。「強制退去に該当する」という判断でいったん収容されると、いつ出られるかはわからない。

刑務所のように裁判所に決められた刑期があるわけではなく、すべては入管の一存で決まる。2020年10月には、国連の作業部会がこうした長期収容の実態を「国際法違反」であると日本政府に指摘している。

日本で生まれ育っていたり、家族や生活基盤を持っていたりするという理由から、一時的に収容を停止される「仮放免」を申請している収容者も多い。許可を受ければ、移動の自由、就労などに制限はあるとはいえど、社会に出られるからだ。

しかし、許可がいつ出るかも、わからない。もしかしたら、不許可のまま、突然に強制送還されるかもしれない。収容者は毎日、祈るように「仮放免」や難民認定を待っている。

異国の地で、そのような環境におかれるストレスは想像に難くない。過去には、収容者が自殺に追い込まれたり、ハンガーストライキ中に餓死したりしたケースもあった。

今年3月には、名古屋の施設で33歳のスリランカ人女性が死亡した。死因は不明だが、嘔吐症状などを繰り返していたにもかかわらず、適切な治療を受けられなかった、と支援者は主張している。

もう疲れたよ」と彼は言った

Kota Hatachi / BuzzFeed

センターの正門前では、日の丸がはためいていた。

「なぜ、何も罪を犯していないのに、『刑務所』に入れられないといけないのでしょうか」

ナイジェリアからやってきた、33歳の男性の表情は終始曇りがちだった。弁護士は、一種の「拘禁反応ではないか」とみる。

面会は厳しく制限され、直接話すことができるのは1回30分間だけ。カメラやレコーダー、スマホなどの持ち込みは禁じられている。取材の場合、面会には必ず職員が立ち会う決まりになっており、私たちの会話も常に記録されていた。

この男性は、独立運動に関わったために地元で暮らすことができなくなり、出国を決意したという。

「ニュースで日本は難民を助けていると見たことがあったし、世界でもっとも安全な国だと思っていたので、日本を選んだんです。でも……」

ようやくたどり着いた成田空港から、そのまま施設に収容された。それから牛久に移送され、あわせて2年以上が経っている。男性は、収容施設のことを繰り返し「Prison」(刑務所)と呼んだ。

入管法の改正案についてはテレビのニュースで知り、「良い方向になるもの」だと思っていたという。

今回の改正案では難民の申請回数の上限が設けられ、3回目以降は強制送還の対象となる。いわゆる「送還忌避罪」(退去強制拒否罪)も新設され、国に帰れない理由があったとしても、強制送還を拒むと刑事罰の対象となりうる。

駒井弁護士は少しためらった後に、こう伝えた。「残念ながら、最悪の方向に改正されようとしている。あなたも強制送還の対象になるかもしれない」男性の顔に失望の色が浮かんだ。

「助けてください。地獄から、私を救ってください。命の危険があるのだから、帰ることはできない。ここから外に、出させてください。もう疲れたよ……疲れた……」

終始うつむきがちだった彼が、唯一笑顔を見せたのが「夢」について質問した時だった。はにかみながら、こんな風に話した。

「ここを出たらマスコミュニケーションを研究して、ジャーナリストになりたいんです。そして故郷のことを、伝えたい」

おもむろに、彼は服を脱いだ

Kota Hatachi / BuzzFeed

正門前で散っていた桜。

「なぜ、僕がまだ捕まっているのか、わからない。これは、虐待ではないのですか」

26歳のカメルーン人の男性は、面会室のアクリル板越しに窮状を訴えた。

「難民であるのに保護されずに、1年も閉じ込められ続けている。入管がやっていることは非人道的で、日本の栄光、イメージを汚しているとしか思えません。日本はいい国だと思っていたのに……」

男性もやはり、難民として日本にやってきた。行き先としてどこの国を選ぶか、「選択肢はなかった」と振り返る。

同じように成田空港でそのまま施設に収容され、「2ヶ月で出られる」と言われて牛久に移送された。もう日本にきて1年が経とうとしている。

日本に知人がいるわけでもなく、収容施設では、聖書を読んで過ごすだけの日々だという。

「日本人は良い人だと思っている。でも、入管の人たちはそうじゃない。本当のことをずっと話しているのに、彼らは信じてくれないんです」

「帰国できるのであれば、帰っていますよ。それができないから、僕は日本に来たんです。僕は、ひとつも嘘をついていない。何も隠していない」

おもむろに服を脱ぎ、彼が見せてくれた左腕には、銃撃による傷が残されていた。「これが、証拠ですよ」と、繰り返した。

母国ではタクシーの運転手や、自動車整備の仕事をしていたという男性。「日本で何をしたいと思っているのですか?」と聞くと、乾いた笑みを浮かべ、こう答えた。

「何をしたいかといっても答えられません。外を見たことが、ありませんから……」

駒井弁護士は「うまいご飯が食べられるようにするから。待っていてね」と声をかけた。

アクリル板越しに託されたもの

Kota Hatachi / BuzzFeed

駒井弁護士と話す榎森さん(左)

「自分が好きなときに、自分が好きなご飯を食べられる。会いたい人に、会いにいける。そんな自由がないのって、ほんまにしんどいですよね」

「せやろがいおじさん」こと榎森耕助さんは、かねてこの問題に関心を寄せ、TwitterやYouTubeなどで入管法改正案の問題点を発信してきた。動画は30万回以上再生されるなど、大きな話題を呼んだ。

この日はじめて収容施設に足を踏み入れたといい、「やるせなさと憤りを感じた」と振り返った。

「長期収容されている人がいるということは事実として知っていましたが、改めて目の前にして、ひとりの人間が無期限に拘束されているということの重みを感じました」

「ナイジェリアの方は、僕と同い年だったんですよね。自分の人生における数年に置き換えて考えてみれば、1年、2年という年月が理不尽に奪われているということは、人生にとってすごく大きな損失だなと。深刻な問題であることが、改めてわかったんです」

入管法改正案に反対する署名の呼びかけ人にも、名前を連ねる榎森さん。改正案で難民申請の回数が制限されることが、特に問題だと感じているという。

「まずすべきは、0.4%という難民認定率を改善することではないでしょうか。ここに止まるか、帰って死ぬかという二択を突きつけておいて、帰りたくないといったら刑事罰。身動きを取れなくするような、あまりにも残酷な改正です」

「絶望の表情にある人たちが笑顔を取り戻せるのかの岐路に、いま立っている。ナイジェリアの方との話が終わって、アクリル板越しに拳を突き合わせた時、僕は大きな意思を託された感じがした。この改悪を止める、うねりを起こすような発信をしたいと思っています」

榎森さんらが呼びかける署名【難民を「犯罪者」にする「入管法改定案」の廃案を求めます!】は4万筆を超えている。



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